新人です。エースパイロットやってます。   作:今井亜美(ハーメルンのすがた)

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二十九話 新人、仕事が辛すぎて泣く

 

 日が陰り、森に夕闇の匂いが溢れ出す頃。

 ベルの身体を散々に虐めていたコニーはようやくその手を止め、深く肩から息を吐いた。

 

「……アンタ、流石にしつこいね。そろそろ話したらどう?」

「機体については……守秘、義務が……あるからっ……」

 

 息も絶え絶えなベルが、身体の奥から絞り出す様に言った。全身に生傷を負いながらもコニーを見る目は、まだ曇っていなかった。

 

「あの連合の新型は、隊長が解析を進めてる。黙ってたって無駄だよ」

「私は、連合軍じゃない……」

 

「バカにしてんの? コックピット・シートを見れば帝国製じゃない事くらいアタシにだって分かる……地球近海で新型のテスト中に、ウチらの仲間に襲われて落ちてきたんでしょ? いい加減、認めなって」

 

「帝国軍に襲われたのはその通りだけど……でも私達は連合軍じゃなくて、アーク技術研究所の職員だよっ……!」

「ありがちな嘘を言えば、誤魔化せるとでも思ってる?」

 

「嘘じゃないっ! っ……信じて下さい!」

「…………」

 

 コニーは面倒そうに眉間に皺を寄せて舌打ちをする。そうしてから地面に転がるベルに近寄って、その身体をグイッと正面に抱え上げた。俗に言う、お姫様抱っこの体勢である。

 

「な、何するんですかっ……!?」

「黙ってな。キャンプに戻るだけだよ。そろそろ夜になるからね」

 

 コニーはそれだけ口にすると、もう何も言わず黙々とベルを運んだ。ベルは羞恥から少しだけ顔を赤くしたが、何も言わなかった。

 

 そのまま五分程運ばれると、すっかり暗くなった森の中に火の灯りが見えてきた。

 

 火の前には先程見た男二人組とは違う、また別の男が座っていた。

 

 短めの黒い髪に切れ長のブラウンの瞳をした細身の男だが、肩幅は軍人らしくがっしりとしていて、服の下の筋肉質な身体つきを匂わせている。

 

「隊長」

 

 とコニーが声をかけると、男は火に焚べていた魚を見るのを止めて、ベル達の方を向いた。

 

 鋭い、とベルは感じた。男の目はナイフの様に鋭く、只人には近寄りがたい熱い闘争心を内に秘めている。

 

「……お前がそんな優しく運ぶなんて、随分仲良くなったんだな」

「笑えない冗談だね」

 

 コニーは荒くベルを適当な地面に放り投げると、火の傍に座った。投げられたベルは、地面の硬さを背中とお尻で再確認しなくてはいけなかった。

 

「部下が手荒で悪いな。俺はトルド。この部隊……【フロッグ隊】の隊長をやってる。君の名前は、部下から聞いた」

 

 トルドと名乗る男は微笑んでベルに挨拶した。

 一見優しげな雰囲気だがその態度は、

 

(見せかけのものだ)

 

 と、直感が告げている。

 なのでベルは警戒心を隠さずに、トルドの事を見た。

 

 それは駆け引きとして……などと立派な理由ではない。そもそも純真なベルに駆け引きのイロハなんてものは存在しなかった。

 

 ただ怪しいから、警戒している。そんなベルの小動物的態度にトルドは苦笑した。

 

「君からしたら言いたい事が沢山あるかもしれないが、俺達にも事情がある。もう暫く拘束させて貰うけど我慢してくれ」

 

「……私、何も喋らないですよ」

「そうか? こっちはせめて君の所属ぐらい、聞かせて欲しいけどな。君だって早く帰りたいだろう?」

 

「何度も言いましたが、私はアーク技術研究所の職員です! 連合軍じゃありません!」

「本当か? 別に連合軍だったからって、じゃあすぐに殺そう、とは言わないぞ」

 

「……それって、必要なくなったら殺す、って意味ですよね」

 

 …………にわかに、物騒な空気が流れ出した。

 トルドは少し言葉に詰まって、

 

「別に、そういう意味で言ったんじゃない」

 

 そう返したが、ベルの目は険しかった。

 

「なんで、そんなに連合軍が嫌いなんですか?」

「……何?」

 

 ピクリ、とトルドの眉間に皺が寄る。

 

「戦争は、帝国が始めた事だって聞きました。だから地球の人が貴方達を憎む気持ちは分かるけど……貴方達はどうして連合軍が嫌いなんですか? なんで帝国軍の兵士はっ……戦争なんてやってるんですか!?」

 

 ベルは頭の中で、淡い金色の髪をした女の子……地球に落ちてくるまで命懸けで争っていた友人の事を思い浮かべながら、トルドとコニーに聞いた。

 

【生きている限り、兵士に自由なんて無い】

 

 ライアはベルにそう告げて、戦いを止めなかった。どうしてライアと戦う必要があったのか……ベルはその意味を知りたかったのだ。

 

 二人はベルの言葉に互いの顔を見合わせる。

 複雑に顔を歪めたコニーが面倒そうに視線を外した。トルドは重たく息を吐き、口を開く。

 

「確かに歴史だけ見れば、最初に戦いを始めた悪者は俺達なんだろう……でも、大多数の帝国人にそれが関係あるのか?」

「え?」

 

「帝国は民主主義を掲げちゃいない。政治は上の奴等……皇帝だの宰相だの貴族だのが執り行って、一般人が介入する余地なんてない。それなのに世間様は、帝国人を見れば一括りに極悪非道で危険な奴だと連想する」

 

「そ、そんな事は────!」

「────無いとは言わせねえよ」

 

 そう答えたのはトルドではなかった。

 焚き火の向こう、闇の中から顔を出したのは見覚えのある二人組の男達。

 

 短い金髪に尖った鼻の男と、黒い肌に深い青色の長髪男。ニールとレイフである。

 

「お前ら……寝ろと言った筈だぞ」

 

 トルドの言葉を無視して、ニールがベルを睨み叫んだ。

 

「俺等の出身はコロニー・フォースだっ!!」

「っ!」

 

 その名前は、世情に疎いベルにも聞き覚えがあった。

 

(コロニー・フォース……って、確か随分前に潰れちゃったコロニー……だよね)

 

 ベルの記憶を裏付ける様に、ニールが怒りのまま話を続ける。

 

 コロニー・フォース。

 連合の支配領域と、帝国の領土……その境目に程近い大型コロニーの一つ……だった。

 

 戦争初期に帝国軍が軍港として使用。

 暫く戦いが続いた後……連合軍の攻撃によって崩壊した最初のコロニーとなる。

 

「親父も……お袋も、姉貴もダチもっ! みんなお前らに殺されたのさっ!! 戦争おっ始めた帝国人なんざぁ野蛮だと蔑んで、民間区域ごと攻撃してきたお前ら連合軍になぁっ!!!」

 

 ニールの中にある怒り……その感情をストレートにぶつけられたベルは、クラクラと目眩がする様なショックを味わっていた。

 

 天然のエクシードとしての直感が告げているのだ。

 恐ろしい事に怒りを抱いているのはニールだけではない。

 

 ニールの横でこちらを睨みつけているレイフも、状況を静観しているトルドも、先ほどから目を逸らしているコニーだって、彼に似た、鬱屈とした怒りを抱いているのだ。

 

 ベルにはそれが分かってしまった。

 分かってしまって、だからこそ、許せなかった。

 

 何故ならその怒りの根底に隠されているのが、世界に対する大いなる諦観だったからに他ならない。

 

 結局の所、ベルは単純だった。

 まだまだ子供、とも言えるだろう。

 

 その抱え込んだどうしようも無いやるせなさを、己の中だけに秘めておける程器用な人間では無かったのだ。

 

「それは……悲しいのは分かるけどっ……責める相手を間違えてますよっ! 結局攻撃されたのは、平和を破った帝国の人のせいで……貴方が責めるべきなのは、そっちじゃないですかっ!!」

 

 気付いた時には、言葉になっていた。

 自分でも分からぬまま、衝動に任せて口を開く。

 

「何だと……!?」

「ただ、諦めたんですよね……!? 帝国軍には逆らえないからって、諦めたから! 代わりに軍に入ったりなんてしてみせて、仇を取った気になってるんだ!!」

 

 どんなナイフより鋭い一撃が、ニールの心に突き刺さった。

 

「テメエっ!!!」

 

 激昂したニールがベルに飛び掛かった。

 馬乗りでマウントポジションを取り、容赦なく顔面を殴打する。ベルの端正な顔が歪み、血が飛び散った。

 

「グッ……貴方は連合が嫌いなんじゃない……連合軍しか、嫌いになれる相手がいなかったんだっ!!」

「黙れっ連合は仇だっ!! お前をぶっ殺して証明してやろうか連合女ァ!!」

 

 慌ててトルドが止めに入る。

 ニールを羽交い締めにして無理矢理押さえつけるとコニーへ「そいつテントに連れてけっ!」と怒鳴った。

 

 コニーは仕方なく立ち上がって、ベルの身体を持ち上げ運ぶのであった。

 

 

 

「アンタ、バカだろ」

「…………」

 

 女用……つまり自分用のテントの中にベルを連れ込んだコニーは、手足が縛られ動けない哀れな捕虜の代わりに傷の応急手当をしてやっていた。

 

「捕虜が煽ってどうすんのさ、全く」

「………………いだい」

 

 そりゃそうだろ、とコニーは閉口する。

 

「…………殴られ、るのっで、いだいん、でずね」

「もういいから黙ってな」

 

 水で濡らした比較的綺麗な布で口元の血を拭うと、ベルは痛そうに身を捩った。彼女の顔は赤を通り越して、青く腫れ上がっている。

 

 見た目からして痛々しい。

 目覚める前までの可愛らしさが、見る影も無かった。

 

「……アンタは、もっと真面目な大人しいタイプだと思ってたよ。こんな直情的な奴だったとはね」

「へへ……よぐ、言われまず」

 

 何がおかしいのか……へらへらとベルは笑った。

 

「コニーざんは、優しいでずよね」

「はぁ!?」

 

 思わずコニーは声を上げてしまった。

 この女、殴られ過ぎて頭がおかしくなったんじゃないか?

 

「アタシは昼間、アンタのこと散々に殴ったんだよ? どこが優しいってのさ」

「今まさに優しいじゃないでずが。捕虜の私の手当なんて、する必要無いのに……へへ」

 

 優しいコニーさん、好きです。

 何の打算も悪意もなく、ベルは純粋にそう言い放つ。

 

(っ……調子が狂う……!)

 

 暗い森の中にあって、輝く様な笑顔を向けるベルの存在は、コニーには酷く眩しく映った。

 

「……捕虜って言っても、アンタ連合軍じゃないんだろ? だったら別に……」

「信じてくれるんですか!?」

 

「……だってアンタ、軍の人間にしちゃ子供過ぎるし」

「え、そんなに幼く見えます?」

 

「外見じゃない、心が幼稚だって言ってんの」

「こ、心? えーそーかなー……信じてくれたのはいいけど……何かフクザツ」

 

 ベルは不服そうに口を尖らせたが、傷に沁みたのかすぐに痛そうに顔を歪める。

 

 余りにも間抜けなその行動に、思わずコニーは噴き出しそうになって、必死にこらえた。

 

 ダメだペースが乱されている……コニーは頭に拳を当てて、一度深呼吸をした。このままだと、ここまで懸命に研ぎ澄ましてきた刃が鈍る。戦場でナマクラに命を預けたくはない。

 

(【計画】の日も近いしね……)

「? コニー、さん?」

 

「ん……あー、手当は終わったよ。もう楽にしていい」

「いえ……あの、外に行った方が」

 

「は? 外?」

「あ、はい。外から誰か来てるので、行った方がいいかな、と。たぶん、隊長さんかな? そんな感じしますし」

 

「……はぁ?」

 

 何を言ってるんだコイツ……。

 変な事を口にしだしたベルをコニーが訝しんだ目で見ると、ベルは可愛らしい上目遣いで、こてんと小首を傾げた。どうやら本気でコニーが外に行った方がいい……と思っているらしい。

 

 わけが分からなかったが、仕方なくコニーは立ち上がってテントの外に出た。

 すると、すぐにテントに近寄ってくる影があった。

 

 驚くべき事に、それはさっきベルが口にした相手と同じだった。つまり、隊長のトルドである。

 

「コニー、丁度良かった」

「隊長……何でここに?」

 

「お前達にメシを持ってきたんだよ」

 

 ほら、とトルドは魚の串焼きと水筒を差し出した。

 コニーは礼を言って受け取る。

 

「バカの様子は?」

「冷静にはなったさ……だが腹に溜まる物はあるだろうな。あの子の言った言葉は────俺達に効き過ぎる」

 

 やれやれ、とトルドは肩をすくめる。

 

「そっちのバカはどうだ? 昼の尋問結果は?」

「自分は連合軍じゃなく、技研の所属だってさ」

 

「だろうな」

 

 その反応はコニーには少し意外なものだった。

 どうやらトルドは、既に予想していたらしい。

 

 話を聞いてみると、ベルの乗っていた新型のアーク……それを解析中に「ひょっとすると連合軍じゃ無いのでは?」と疑いを持ったらしい。

 

「あのマシン……解析してたが、今まで鹵獲してきた連合の機体と全く違う。新型だからかとも思ったが……そういうレベルじゃない。そもそものセキュリティが強固過ぎるんだ。一日かかって解除して手に入ったのは無駄に整ったダミーデータだけ。信じられるか? あれを作った奴は天才だろうな……参るぜ全く」

 

「ふーん」

 

 コニーは適当に相槌を打った。

 参るぜ、などと口にしつつトルドは心底嬉しそうに目を輝かせていた。

 

 彼は元々マシンオタクで、軍に入隊する前から裏ルートから仕入れたアークのパーツを触ったり、シミュレーターを弄ったりしていた筋金入りだ。

 

 コロニー・フォースが潰れていなければ、間違いなく将来メカニックになっていただろう。

 

 そんな彼だから、アークの話をしだすととにかく長くなる。適当に流すのが一番良いと、ここまで付き合ってきてコニーは学んだ。

 

「お前はどう思ってる、コニー?」

「アタシは……信じてもいいのかなって、思ってる」

 

「分かった。お前がそう思うなら間違いないだろ」

「適当過ぎない?」

 

「お前は俺達の中でも、そういう感性に優れてる。だからお前に任せたんだ」

「……またバカ共が文句言うよ」

 

「気にすんな。それを抑えるのが俺の仕事だ」

「……ならいいけど」

 

「とにかく明日は尋問無しでいい。代わりに提案したい事がある……技研の職員だって言うなら交渉出来るかもしれない」

「交渉ね……別にいいけど、計画の事は忘れてないよね?」

 

「……ああ。分かってる。だから、計画の日までは、拘束はそのままだ」

「────了解。それじゃ」

 

「ああ。おやすみ、コニー」

「……おやすみ」

 

 トルドと別れ、コニーはベルの待つテントに戻った。その右手には、魚の串焼きを。左手には水筒を握り締めている。

 

 串焼きから昇る湯気。美味しそうな焼けた魚の香りがテント中に広がりベルの鼻をくすぐった。

 

「アンタの言う通り隊長だったよ。メシ持ってきてくれたんだって。よく分かったね」

「えへへ、なんとなくそんな気がしたんです」

 

「一緒に食べよ。腹減ってるだろ、アンタずっと何も食ってないし」

「あ……ありがとうございます」

 

 正直に言ってしまうと、ベルは別にお腹なんて減っていなかった。

 

 あのコスモスの暴走により未来を見てしまった日からベルは人間離れしてしまった。

 お腹が空くという人として当たり前の事も起きなくなってしまったのである。

 

 それでも食事が出来ないとか、食事が嫌いな訳では無い。むしろ食べる事は好きだし、食欲だって人並みにはある。

 

 先程からテントに漂う魚の香りが、どうしても食欲を刺激してくる……。今日は色々あった。体力的にも精神的にも疲れている。

 

 最早ベルの中に、断るという選択肢はなかった。

 ベルはありがたく魚を受け取ろうと手を伸ばそうとして────。

 

「あ」

 

 ────自分が縛られている事を再認識した。

 

「…………えっとぉ」

「ん……なに、その目?」

 

「私、縛られててぇ……」

「指は動くでしょ。持たせてやるから何とかしなよ」

 

「いや、流石に可動域が狭すぎません……?」

「だからってアンタね……」

 

 二人は暫く見つめ合っていたが、やがてコニーが根負けし、目を逸らす。そして深くため息を吐いた。

 

「ったく……食べさせればいいんだろ?」

「やったぁ! ありがとう、コニーさん!」

 

「アンタ、なんかすっかり元気になったね……まぁイイけど」

「えへへ……ほら早く! あーんして下さいよコニーさんっ!」

 

 やれやれ……とコニーは内心呆れながら、隣に座って右手の串をベルの口元へと運んだ。

 

「はい、あーんしなバブちゃん」

「あーん♪ ってあっつぁ!!?」

 

「あ、ごめん」

 

 言われた通り口を開いて待っていたベルの下唇に、火元から取り上げたばっかりで熱々になっている魚の皮が、ちょん、と触れた。

 

 ベルは飛び上がって叫び、火傷した下唇を咥えて唾液で濡らさねばならなくなった。

 

「あっつぅ……酷いでずよぅ……」

「悪かったね、手が揺れちまった」

 

「ぅぅ……も、もしかして、拷問の続きだったり……!?」

「悪かったって。ほら冷ませばいいんだろ?」

 

 そう言ってコニーは、串に優しく息を吹きかけた。

 何度か息をかけている内に魚の湯気は段々と収まり見えなくなった。

 

「そろそろいいか。ほら、あーん?」

 

「も、もう痛くしません……?」

「しないってば……黙って口開けな」

 

「あ、あーん……んっ……おいしぃ〜♡」

「そりゃ良かったね」

 

 コニーは呆れた様に目を細めながら、自分もまた、同じ魚を一口齧った。

 

(そんなに美味しいかなこれ……)

 

 首を傾げつつ、ニコニコと嬉しそうに笑うベルと交互に魚を食べ合うのだった。

 

 

 

☆☆☆ ☆☆☆

 

 

 

 宇宙のどこかにいるデカパイへ。

 

 暇なので頭の中から勝手に手紙を出します。

 今どこにいて何をしていますか? 元気にポテチ食べてますか? ロリコンを拗らせてはいませんか? 私は心配です。

 

 え? 私は何をしてるのかって? 

 私は今────。

 

「石、芋、石、石、芋、芋────」

 

 じゃがいもの仕分け作業中です。かれこれ五時間くらい。

 

(ポ、ポテチのためぇっ……!!)

 

 にしたって限度ってものがあるだろッ!!

 

 

 

 それは今から大体五時間前の事。

 

 ワンコロをしばき倒して自らのじゃがいもをようやく取り戻した私は、アイリスから「じゃがいもは生で食えない」という情報を聞いて折角取り戻した芋をすぐに投げ捨てる羽目になった。

 

 アイリス曰く『これくらい常識ですよ』との事。

 

 そんな常識知らねえよ。

 自分の持ってる知識が全てだと思うなよ? 

 

 お前の世界では常識でも、世間的には誰も知らない事なんて山程あるんだからな。

 

『ははあ。まあ確かにサメ映画をよく見ているマスターならサメの骨が実はエイ等と同じやわらかい軟骨で出来ている事を知っていても、世間的には知らない人も多いでしょうし、まあ一理ありますかね』

 

 何言ってんだ、それは常識だろおバカ?

 

『………………』

 

 とにかく、今回は全部ワンコロのせいだな。ワンコロが悪い。私は悪くない。

 

「ワンッ!?」

 

 常識も知らずにコイツがじゃがいもを盗んだせいで不毛な時間を過ごす羽目になった。

 

 このバカワンコロめ。これはどう考えてもコイツのせいであって、私は悪くない。

 

『犬に人の常識を求めないで下さい』

 

 いいかワンコロ。じゃがいもは生じゃ食えねえんだ。よく覚えとけ。

 

『何でたった今知った知識でドヤ顔が出来るんですか?』

「ワン……」

 

「じゃがいもには毒があるんだってよ。食べたい気持ちは分かるけどそのまま食ったらダメだ。私は平気だけどお前は死ぬぞ。私は平気だけど」

 

「くぅ〜ん」

「どうしても食いたければ死んでからにしろ。いいな?」

 

「へっへっへっ……」

 

 舌出してバカ面晒してら。

 ほんとに分かってんのかなぁ?

 

『それ今私が一番言いたいです、マスター』

 

 そうして情けないワンコロに常識を教えてやった私は、じっちゃんの待つ畑に戻ったのだった。

 

 じっちゃんは大きなカゴを背負った小型のトラック? いや、大型のバギー? とにかく車みたいな形状のマシンに乗って私を待っていた。

 

 マシンはかなりオンボロで、外装が一部錆びついてしまっている。

 

『これは……ポテトハーベスター(※じゃがいも収穫機)でしょうか。しかし、随分と旧式に見えますね……まさか宇宙開拓期以前の品では……?』

 

 開拓期以前って何百年前だよ。

 流石にそんな骨董品もう動かないだろー?

 

「ハハハッ! 見た目はかなりオンボロになっちまったがぁ、まだまだイケるぞ! エナジー式の機械は長持ちするっちゅーてな。爺さんの爺さんのそのまた爺さんの世代から騙し騙し使われてんだぁ」

 

『ふむ……確かにエナジー動力は、内部部品の摩耗が殆どありませんからね』

 

 へー……じゃあホントに開拓期以前から使ってる物かもしんないのか。

 

『それだけでなくエナジーは空間の何処からでも半無限に取れるのでコストも非常に安価です。自然界のまま使えるのでクリーンですし、電気やガスなど色々な動力が主要エネルギーの座を奪い合っていた時代もあった様ですが……エナジーの発見後は、そんな話もなく全てのエネルギー源が置き換わったと聞きます』

 

 ふーん。エナジーって凄いんだね〜。

 超どうでもいいよ。

 

 それよりそのマシンでじゃがいも掘るんだろ?

 なら私に操縦桿を貸してくれじっちゃん。

 

 どうせアークより運転簡単だろ。

 私が根こそぎ掘り尽くしてやる! 芋っ!

 

「ハハッ! 動かしてみてえか! でもそれはまた今度にしような。今日はナナちゃんは後ろに乗ってな、掘った芋の選別をしてもらいてぇんだ」

 

「芋の選別?」

「おう! ポテトハーベスターがありゃあ芋は勝手に収穫出来るんだが、畑には土だの石だのが色々混じってるからな。それを分けてやんなきゃいけねえんだ」

 

 石と芋の仕分けか……面倒くせえな。

 それくらい自動化出来ないのか?

 

「新しいマシンなら出来るだろうが、ウチのマシンには無いなぁ」

『買い替えないのですか? 作業効率が大きく向上すると思いますが』

 

「いやぁどうせこの農場も儂らの代で終わりだしな。息子も孫も継ぎゃせんとくりゃ、マシンを使うのも儂らだけ。儂も婆さんも後何年仕事が出来るか分からんし、買うだけ損だろうなぁ」

 

 そういうもんなのか。

 まあずっと仕事して生きてるなんて最悪だしなー。

 

 人間には適度な休息……即ちポテチが必要なんだ。

 とっとと引退して、いっぱいポテチを食えばいいんじゃないかなぁ。

 

「ははは、そうだなァ……じゃあ後でポテチ食う為にもまずは仕事を頑張るかぁナナちゃん!」

「おう!」

 

 じっちゃんの指示に従い、ポテトハーベスターに乗り込む。運転席の後ろ……背負った大きい籠の傍に人が乗れるスペースがあった。

 

 スペースの前面にはベルトコンベアがあって、出口の先が籠に繋がっている。

 

 じっちゃん、曰く。

 ポテトハーベスターが畑を前に進むと、タイヤの間に付いてる機械が作動して自動的にじゃがいもが収穫される。

 

 収穫された芋はベルトコンベアを流れて、細かい石や砂を落としつつ最終的に籠へ入るという仕組みだ。

 

 だけど、芋くらい大きい石ころはふるいきれず流れてしまうらしい。それを見張ってどけるのが私の仕事である。

 

 芋と石を見分けてどけるだけ。

 こんなん楽勝だな! そう思っていた時期が私にもありました。

 

 そうして五時間が経ち、冒頭に戻るって訳。

 

 作業が楽って言ってもこんなに拘束時間が長いなんて聞いてないよじっちゃん……人間には適度な休憩が必要だってあれ程言ったのにっ!

 

 ひたすらに立って芋と石を見分け続けるだけ。

 頭がおかしくなりそうだ……誰か私を助けてくれ……。

 

「芋、芋、芋、石、芋────」

 

「お爺さん、ナナちゃん」

「ん? おお、婆さん! どうした?」

 

「お仕事お疲れ様ぁ。そろそろお昼にしませんか?」

「おお、もうそんな時間か早いなぁ……ナナちゃん!」

 

「芋、芋、芋────ん?」

「休憩だぁ。婆さんがご飯作ってくれたから、みんなで一緒に食べよう!」

 

「ごはん……休憩!?」

 

 お……おぉっ……うぉぉおおおおッッッ!!

 き、休憩だっ! 遂にッ! ようやくッ!

 

 私の苦労が報われる時が来たぁッ!!

 

「ぅう……うおおぉぉん……!」

『(泣いてる……)頑張りましたね、マスター』

 

「う、うん……辛かった……ほんとに辛かったっ……!」

「そうかぁ……手伝ってくれてありがとなぁナナちゃん。立派だったぞ!」

 

「本当にお疲れ様ぁナナちゃん。いっぱいご飯作ったからねぇ」

「ワンワンッ!」

 

 ありがとう……みんな、ありがとう……!

 これでやっと終われるよ……待ちに待った休憩……!

 ポテチ、コーク、クソ映画ぁ……!

 

『ポテチもコークも今は無いですし、午後からまた仕事がありますけどね』

「……………………………………………………へ?」

 

『休憩ですから。食事が終わったら、当然またお仕事がありますよ?』

「そうだなぁ……午後からはもう少し収穫して、それから芋の仕分けをするかなぁ」

 

「あ……あぁ…………」

 

 ああああああああああああッッッ!!!!

 

 

 

「石、芋、芋、芋、芋、石、芋ォッ!」

『フレーフレー、マスター』

 

 

 

「ナナちゃん、おっきい芋はこっちの籠に。ちっちゃい芋はこっちの籠に入れてくれ」

「デカ、チビ、デカ、デカ、チビ、デカ、チビぃっ!」

『がんばれがんばれ、マスター』

 

 

 

「ワンッ! ワン、ワン。くぅ〜ん。バウッ!」

「まじそうっすね先輩」

 

「へっへっへっへっ……」

「まじリスペクトっす先輩」

 

『マスター……ファイ、オー』

 

 

 

 あれから……どれ程の時間が経ったのだろう。

 

「じっちゃん。コンテナ、向こうに運び終わったぞ」

「おお! ナナちゃんは力持ちだなぁ。芋一杯で重いのに、ありがとなぁ」

 

「力仕事なら任せとけ。私はじっちゃんの一億倍は強えからな」

「そうか! そりゃあ頼もしいなぁ」

 

「で、次は何をやるんだ!? 芋掘りか? 仕分けか? ワンコロの世話か?」

「いんや、もう夕方だぁ。仕事はここで終わりにしよう」

 

「終わりかー。じゃあ────おわり?」

「ああ。お疲れ様」

 

「終わり……お、終わった?」

『お疲れ様です、マスター』

 

 う、うぉぉおおおっっ!!

 やっと終わったぁぁぁ!!

 

 ゴロンと手足を投げ出して地面に倒れ込む。

 疲れた……今日はもう一歩も動きたくない……。

 

「ワンコロぉーおぶって連れてけぇー……」

「……くぅ〜ん」

 

 命令するとワンコロが首元の服を噛んで、私を引きずり出した。私、おぶれって言ったよな? 小石がゴツゴツと鬱陶しいからもっと丁寧に運べ。

 

「シロ、儂が代わろう」

 

 そう言ってじっちゃんが私の身体を持ち上げる。

 首を足で挟み込む様な体勢……これは、肩車ってやつだよな。

 

 おー……一気に視点が高くなった。

 歩かなくてもいいから楽ちんで実によきだ。

 

 一つだけ不満があるとすればじっちゃんの首周りが汗でベタついてるって事だ。太ももにしっとりと濡れた感触がしてかなりキモい。どうにかなんねえのか。

 

「そいつはスマンなぁナナちゃん。家まで我慢してくれ」

「むむむ……ならもっと速く走れ! ダッシュだじっちゃん! いけーっ!」

 

「ハハハ……よーし! しっかり掴まっとけよぉ!」

 

 おおっ! ハハハッいいぞじっちゃん!

 まるでミニアークだぞ! やれば出来るじゃん!

 

 ワンコロ、お前も来い!

 家まで競争だーっ! 走れ走れーっ!!

 

『すっかりはしゃいじゃってまあ……疲れたんじゃなかったんですか……もう』

 

 

 

☆☆☆ ☆☆☆

 

 

 

「母なる大地よ……今日も恵みに感謝いたします」

 

 家に帰って、泥だらけのワンコロとシャワーを浴びたら夜だった。

 

 夕飯を食うために食卓につくと、じっちゃんとばっちゃんが両手を合わせて何やら呟く。確か、昼飯の時も同じ様な事を言ってた気がするな。

 

 これは……まさか魔法の呪文か!?

 やっぱり実在したんだな、魔法っ!

 

『お祈りですね。データが無いので詳細は分かりませんが……何らかの宗教でしょう。大抵の文化は開拓期以前の混乱で消えてしまいましたが、一部の地域にはまだ、古い伝承が残っていると聞きます』

 

 宗教……知ってるぞ。

 たまに、昔の映画で出て来るやつだ。

 

 あれだろ? 良い人そうに見えて、裏で悪い事してる悪の秘密組織だろ?

 

『確かに物語ではありがちですけどね。ですが宗教とは本来、人間の規律や道徳を戒める為の教義です。宗教を信じる事で安心感を得たり、精神の成熟に繋がるケースもあります。物語にあるからと言って安易に宗教=悪しきものと捉えてはいけませんよ』

 

 ふーん、てっきり私はじっちゃんとばっちゃんも実は悪い奴等でした! デデーン! みたいな展開になるのかと思った。

 

『それはあまりにも悲しすぎません?』

 

 そうかなぁ……だって、大人ってそんな奴等ばっかだろ? みんな裏で、イヤなことばっかり考えてやがる。

 

 今の私じゃあ、じっちゃんとばっちゃんが何考えてるかよく分かんないけど、裏切られた時の事は考えておかないといけない。

 

『……マスターはもう少し、人を信じてみても良いのでは?』 

 

 ……そうかな…………うーん。

 それより、まだ食っちゃダメなのか?

 メシが冷めちゃうぞ?

 

 じゃがいもと玉ねぎ、ベーコンの入ったスープに、表面に焦げ目の入った輪切りトマトのグラタン。ハーブで炒めたチキンに大量のパンまである。

 

 どいつもかなり旨そうなのに……冷めたらマズくなっちゃうよ〜。

 

『もう少しですから……ね? 我慢ですよーマスター。がーまーん』

 

 言い方がムカつくなコイツ……ウザい時のデカパイかよ。

 

「…………よし。じゃあ、食べようか二人とも」

 

 ようやくじっちゃんの許可がでた。

 ので、すぐにチキンに齧りつく。んまんま。

 

 前に地上にいた時食わされた、パッサパサのビスケットに栄養満点の謎ペーストを乗せて食うゴミみたいな味のレーションとは比べ物にならないくらいに旨い。

 

 チキンだけじゃない。

 スープもグラタンも実に良き味だ。

 

 ばっちゃんは料理上手だな。いい奥さんになるぞ。

 

「ありがとねぇナナちゃん。張り切って沢山作っちゃったから、いっぱい食べてねぇ」

「スープ、おかわり」

 

 ばっちゃんに皿を渡すとすぐにおかわりがやってきた。芋はスープにしても中々旨いな。まあ、ポテチには敵わないがな!

 

「もぐもぐ……じっちゃん、約束は覚えてるよな」

「ああ、勿論覚えてるよぉ。じゃがいもだな」

 

 そうだ。このメシも旨いが、私が本当に食いたいのはポテチだ。今日一日、畑仕事を手伝ったのだって、ポテチを食う為なんだ。ポテチ イズ マイ ラブ。

 

「約束通りでっかいじゃがいも、沢山分けてやる。でも、今日はもう遅い。明日でもいいか?」

「そうねぇ……それにナナちゃん、包丁の使い方、分かる?」

 

 知らん。でもナイフみたいなもんだろ。

 格闘術はクソ映画で学んだからナイフ捌きには自信があるぞ!

 

「うふふ。それなら安心だけど、でもじゃがいもには毒があるから、皮の剥き方を知らないと危険よぉ。教えてあげるから、明日、一緒に作らない?」

 

 毒……そういやそんな話、あったな。

 私なら大丈夫だと思うけど……そのせいで味が落ちたりするのはやだな……。

 

「分かった。明日な」

 

 仕方ないので、明日まで我慢してやる。

 ニコニコと微笑むばっちゃんの顔を横目におかわりしたスープを胃に流し込んだ。

 

 

 

 夕食の後の事。

 慣れない畑仕事に疲労が溜まった私は、パジャマに着替えてすぐにベッドに入った。

 

『おやすみなさい、マスター』

「うん」

 

 ウトウトしているとワンコロが勝手に侵入してきた。ワンコロ……お前、毛がモフモフしてるのはいいんだけど、もうちょっと小さくなれないの? 狭いんだが。

 

 仕方ないので、抱き締めて毛を押し潰しつつ寝る。

 自慢じゃないが私は寝つきがいい。

 

 目を閉じれば、あっという間に夢の世界を微睡む。

 だが一時間程して、私の安眠を妨げる出来事が起きた。

 

 ────キィ。

 

 と、微かな音を立てて部屋の扉が軋む。

 誰かが部屋に侵入してきたのだ。

 

 この足音の重量感は……じっちゃんだな。

 直感が使えなくても分かるぞ。

 

(ああ────)

 

 ────なんてことはない。

 いつも通りだ。結局じっちゃんも、私を襲いに来たんだろ? 

 

 だって大人が寝ている所を訪れるって、そういう事でしょ。私は知ってるんだ。今まで何回経験したと思ってる。

 

 アイリスめ……もっと人を信じろだって?

 あいつ、見る目が無さすぎるぞ!

 

 言っとくけど、私は最初から気付いてたからな。

 それを今更……裏切られたって、別にノーダメだもん。

 

 そっちが裏切るなら、いいよ。私だって全部ぶっ飛ばして、勝手にじゃがいも貰っていくから。

 

 忍び寄るじっちゃんを引きつける様に寝たフリをする。今の私には細かい敵意の流れは分からない。だからこそ、実際に手を出すその瞬間。

 

 敵意が最も膨張し、外に出る瞬間に合わせて飛び起きて、カウンターを決めてやる。

 

 一歩、二歩、三歩。

 じっちゃんは忍び足で距離を詰めてくる。

 

 四歩、五歩……ときて、遂にベッドの前までじっちゃんがやってきた。

 

 じっちゃんは両手を伸ばして私の布団を掴み────ゆっくりと、寝ている間にずれていた布団を整える。

 

「おやすみ、ナナちゃん」

「…………」

 

 ゴツゴツした手が頭を撫でる感触がした。

 それ以外、じっちゃんは何もしなかった。

 

 じっちゃんの気配はどんどん遠ざかり、やがて部屋から出ていった。 

 

(………………)

 

 私は何を、どう感じたらいいかも、よく分からなかった。ぼんやりとよく分からない感覚に包まれたまま目を瞑っていると、また微睡みがやってきた。

 

 私は今度こそ本当に意識を手放した。

 胸の奥がモヤモヤするから寝れないかと思ったけど、全くそんなことはなかった。よかった。

 

 

 

●宇宙のどこか

 

ライア「!……地球でベルが浮気してる気がする」

 

リサ「……なんか今誰かに変な心配をされた様な……?」

 

ライア「ベル? なんで? 私を置いて地球に行った癖に、どうして他の女の事見てるの……? 私の事が大事なんじゃなかったの? あの日私を呼び止めたのはベルの方でしょ? だから責任取ってよ。他の女なんか見ちゃダメ、私だけを見るの! ベルベルベルベルベル────」

 

リサ「待ってナナシちゃん……ロリコンを拗らせるって何!? そんな事心配されてたの私!? そこは風邪とかじゃないの!? っていうかそもそも私はロリコンじゃないよ!? そりゃあ小さな女の子は可愛いし尊いし護りたいって思うけど、でもそれは悪しき欲求がある訳じゃなくて、あくまでオトナが抱える保護欲としてのね? 家族とか、そういう大切な物に向ける情念であって決して鬱屈としたリビドーをロリで晴らそうとか考えてる訳じゃないんだよ。ね、分かって欲しいな〜、ナナシちゃんには。誤解があるみたいだし、もう一度会えたらいっぱい色んなお話したいねー……また一緒にお風呂とか入りながらね……うへへ……」

 

 

 

 

 

 

ルエリ(ナナシ様……私には手紙は無いのですか……ナナシ様……)

 

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