「これはまた、どういうことですかな」
「いやははは、それがね!この子、早くフォークスに会いたかったみたいでね!久しぶり、アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア!そんなに髭伸ばしてどうするの?私に三つ編みにさせてくれるの?」
「そうさせたいのは山々ですが、なぜ」
「老いてないんだ、って?」
「ええ」
校長室の空中が突如として火を吹き、放り出され、かつての首席がひっくり返って床に転がる。その様子に懐かしさを感じていたダンブルドアは、途轍もない違和感から、問わずにはいられなかった。
「呪いだよ、きっとね」
100年以上前の姿のまま、かつての首席はあっけからんと「呪い」という言葉を口にした。自分の運命とその行末や原因、そしてこれまで。その人物は自分に見せてくれたものだけでなく、それ以上の苦労と苦悩を苛まれてきたのだろう。忘れたいことや忘れたくないものも抱えきれないほど。その重みは、自分には計り知れない。
「耐えられるのですか」
「なんの。耐えるも何もないさ」
こればっかりはね、と言うとその少年の見た目をした黒髪の120歳の魔法使いは2羽の不死鳥を構い始めた。
ダンブルドアはおよそ100年前のあの日、そっと教えてもらったことを思い出した。
自分には力があること、その力のせいで大好きな人を亡くしたこと、これからどうしてもその力と付き合い続けなくてはならないことと、その覚悟。
「そうだ、アルバス。あとでシビルにも占ってもらおうと思ってるんだけど、あくまで憶測だからね」
「ええ、承知しました」
「たぶん、私のこの状態は古代魔法を持つ子が現れるまで続くと思う。或いは、その子が現れた後もなお、ね」
____________。
その魔法使いは、変わらぬ声でそう呟いた。ダンブルドアは、その先輩をただ見つめていた。神出鬼没な風来坊で、闇の魔法使いや未だ存在し続ける密猟者たちを片っ端から片付けている、「名前を残してはいけないあの人」とまで言われるようになったらしい、その寂しがり屋は、残される辛さを知っている。
「先輩は誰もを置いていってしまうのに、誰かに置いていかれるのは嫌いなんですな」
「うん。大嫌いだ」
どこまでも飄々としていて掴みどころがない性格と言動でいつものように躱すのかと思っていたダンブルドアはその返答に面食らった。素直に答えるとは毛頭思っていなかったからだ。
「たった一人でロンドンにいたあの時よりも人の暖かさを知ったからね」
「それは、何より。ところで、そのマフラーはどなたのものですかな」
「僕に一番最初に愛を注いでくれた人」
深い青に銀色の細かい模様をあしらった古いマフラーを大事そうに握りしめながら、自慢げに答える。
その魔法使いは6歳年下の今世紀最も偉大な魔法使いをまっすぐ見つめた。
「一人、死んだ子がいたね」
「……ええ。セドリック・ディゴリーです」
「実にハッフルパフらしい、公正で思いやりに満ちた子だったらしいね。そして、杖にもそれが現れていた」
「見ていたのですか」
「ううん、聞いただけ。……居られたら良かった。違う、違うよ、君のせいじゃない。君のせいじゃないよ、アルバス。悪いのはトムとその手下の死喰い人だ」
だから泣かないで、とは言わなかった。そんなことを言ったら、余計に悲しませてしまうことを知っていたから。魔女は黙ってローブの袖で頬の涙を拭い、抱きしめて背中をさすった。自暴自棄になっていたあの時、友人たちにこうやって落ち着かせてもらっていたことを思い出していた。
「すまない、取り乱してしもうた」
落ち着いた頃を見計らって、魔女はダンブルドアをそっと離した。
「ううん、気にしないで。それで、本当なんだね?」
「……ええ、本当ですぞ。トムは復活にハリーの、他ならぬハリー・ポッターの血を使ったのじゃ」
魔女はニヤリと笑った。
「じゃあ、前に聞いた通り私は何もしなくていいんだね?」
「ええ、先輩や儂の出番はありません」
「明日から新学期だねぇ。ね、アルバス。私は今年、ホグワーツにいようと思うんだけど。会いている席はあるかい?」
「いつものように防衛術の席が空いておりますが……先輩をお雇いすることはできません」
「うえええ⁉︎何で?ピッタリだと思ってたんだけど!」
「だからこそです。先輩の闘い方は生徒たちにとって難しすぎるのじゃよ」
「やだよぉ、僕だって先生やってみたいもん。アルバスだけずるーい。『アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドアはドケチだ』って『予言者』に言ってこなきゃあーいたたたたたた!ごめん、ごめん冗談なのフォークス!ねーえオミャーも見ちぇないで助ちぇちぇよ!」
悪い顔で出口に向かうフリをした青年は、右の頬をフォークスに思いっきり啄まれていた。ぐにぃとブサイクに曲がった口のまま、青年は連れてきてもらった相棒の不死鳥に助けを求めたが、当の不死鳥もフォークスの手助けをし始めた。
「ふぎゃあ!ひゃめて、ひたひひいひひぃー!」
不死鳥2羽から両の頬を啄まれて悲鳴さえまともに上げられない状態だが、無理やり引き剥がそうとはしない。寧ろ楽しそうに笑っていた。
「痛がりながら笑えるとは、先輩は器用じゃのう」
「うぃて!ひぇー、ごめんねフォークス」
オマエももうやめてね、と頬をさすりながら、いつの間にかウィーズリー家にも負けないくらいの真っ赤で豊かな髪の魔女に変身していた青年は、指を二、三度回して大量の豆の入ったボウルを呼び出すと2羽の不死鳥に与えた。
「いつもは耳を引っ張ってくるんだ、千切るんじゃないかってくらい。いや違うんだ、フリじゃなくてぇいたたたたた!黙って豆を食ってろ豆を!」
「先輩は、本当に好かれているのですね」
「そうだよ、だから尊敬してもいいんだよ、痛いってば、もー!」
ダンブルドアがボウルから豆をいくつかつまんで耳に噛みついている不死鳥に差し出すと、やっと不死鳥は魔女の耳を離した。耳介の噛みつかれていた部分は真っ赤に腫れており、血まで滲んでいた。
「お前なー、私と一緒で力加減下手くそなんだからさ?分かるだろう、物理的に優しくしてくれよ」
豆を一生懸命に啄んでいる自分の不死鳥をそっと撫でながら、短くお叱りの言葉を掛けると、改めてダンブルドアに向き直った。
「で、本当に雇ってくれないのかい」
「ええ。先輩には任せませぬ」
そうかい、と返すとその魔女はまた2羽の不死鳥に構い始めた。
レガ主の不死鳥はフォークスと豆とベリーが大好き。賢い。
次回、1994/9/1 新学期開始!デュエルスタンバイッ