客人から教師へ、そして恩師へ。   作:品江四重

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相棒

 「いない……!」

「うそ、誰かエバネスコを使ったの?」

「そんなはず無い!」

 攻撃を防ぐ素振りも見せず、真っ向から呪文を大量に浴びたであろう魔女は、最後に立っていた場所から跡形もなく消えていた。あの青いマフラーも見当たらない。

 「あら? 何かしら、これ?」

「ラベンダー、何か見つけたの?」

「ええ。赤い、紙のかけらみたいなの」

「こっちにもあるよ。なんか見たことある気がするんだけど」

 ネビルも件のかけらを見つけ、みんなで首を捻っている時だった。

 

 『随分と酷なことを』

『いやははは、視野が狭くてやんなっちゃうね』

「え?」

 ハリーは、周りを見渡した。ハーマイオニーが不思議そうな顔でハリーを見た。

「ハリー、どうしたの?」

「さっき、誰か笑った?」

「こんな時に誰が笑うもんか!」

  ロンに言われ、確かにそうだと思い直したハリーは、先ほどの誠に愉快そうな声を思い出し、ある一つのことに思い当たった。

 「蛇語だったのか!」

「蛇ですって? ここで蛇は1匹も見ていないわよ」

「いや、あれは蛇語だったんだ。それで、ええと、視野が狭いって言っていた」

「どういうことだ、よおおおおおああああ⁉︎」

「ロン⁉︎」

「うあ、え、上っ、上!」

「「「上?」」」

 

 ロンの絶叫に釣られて全員が上を見た。

 

 「ええええええええ⁉︎」

「おや、やっとかい」

 のんびりした口調でそう言ったのは、間違いなく「宙ぶらりん」となった魔女だった。ローブの一端が何かにつままれたように持ち上がっており、足をぶらぶらしながらこちらを見下ろしていた。女の子たちは見上げながら、先生がスカートを履いていなくて良かった、とほっとしていた。

 「種明かしをしようか。アーシュレーシャー、出ておいで」

 空中が煌めいたように見えた次の瞬間、生徒たちの何人かが悲鳴をあげた。

 「ほ、ホーンド・サーペント……!」

「そう、角水蛇。またの名をホーンド・サーペント。この子はアーシュレーシャーだよ」

「あの、先生……ホーンド・サーペントも飼育は不可能なんです。20分ほど前にも、言いました」

「そうだね。でも、できるんだもん。ルールとか知ったこっちゃないね!」

 宙ぶらりんのままケタケタと笑う魔女は釣られたまま、足首まである豊かな白髪の、スタイル抜群の美女に姿を変えた。ハーマイオニーは、アーシュレーシャーなるホーンド・サーペントに先生がぱくりと飲み込まれやしないかとヒヤヒヤしていたが、真っ白な大蛇はゆっくりと魔女を地面におろした。

 

 「先程のオマエたちは、この老婆に遊ばれていた」

「「「喋った!!」」」

「そりゃ喋るよー。アーシュレーシャーは賢いからね」

『ヒトの言葉で話せるのですか』

「ワタシは長く生きている。やろうと思えば、ヒトの言葉を話すこともできる」

 無意識のうちに蛇語を使っていたハリーは、それを聞いてやっと気がついた。蛇語では、みんなに伝わらないのだ。

 

 「オマエたちを相手していた時、コヤツはちっとも力を使っていなかった。コヤツが本気を出せば、オマエたちは塵となっていただろう」

 皆がどきりとして、その白い大蛇と魔女を交互に見ていた。

 「私はね、決闘に勝る訓練はないと思っている。だが、皆と戦ってみてちっとも決闘だとは思わなかった。今度は杖を奪われた人は一人も居なかったけれど、それでも自分の杖で他人に魔法を使われた。運が悪ければ、杖の忠誠心はきっと私に移っていただろうね。それは、自分の相棒を目の前で殺されることと同じことだ」

 

 「君たちは、簡単に相棒を見捨てるのかい? 違うだろう。ギャリック・オリバンダーの店で出会った、自分だけの相棒を見捨てるわけがないだろう。なら、全力で守りなさい。死んでからじゃ、遅いのだから」

 全員が4年前、11歳のあの日を思い出していた。他でもない、自分を待っていた杖と出会ったあの日を。

 「……ごめんね」

 パーバディが杖に謝ったのを見て、他の生徒たちも口々に杖を労り始めた。

 『オマエが言えたことではないだろう。密猟者が闇の魔法使いを屠り去り、戦利品とばかりに杖を集めていたオマエが』

『あれらは教材として使わせて貰ってるんだよ、いいだろう。アーシュレーシャーも欲しいかい?』

『必要ない』

 ハリーには今、ものすごく恐ろしい事が聞こえた気がするのだが、他の生徒の声に混じってすぐに忘れてしまった。

 

 「さて、種明かしその2だ。私は最初だけはミス・グレンジャーに杖を向けていた。パンプキン令嬢に代わっていただいたのは、吠えメールが爆発した後だよ」

 そう言われてロンとネビルは初めて気がついた。あの赤い紙片は吠えメールの封筒が破れてできたものだったのだ。

「『こういう訓練しよう』って思って事前に書いておいたやつ。あと三通あるよ。事前になにか策を準備しておくのは良い戦法だと思っている。その点ではあのウィーズリーの双子に満点をあげたいね。あの二人、ネクタイの裏とシャツの襟に一つずつ、ローブの袖の中には左右それぞれ5つくらいかな? あと靴の中にカード型の何かが入ってるだろうね」

 ロンはママよりも双子の兄たちのことをお見通しな先生の言葉にあんぐりと口を開けた。

「戦う上で、不必要なものなんて無いんだ。是非とも自分と相棒を信じてね。さあ、今日の授業はこれでおしまいだ」

「ありがとうございました、先生」

「お疲れ様。出るにはこっち、着いてきて!」

 

 

 

 

 

 「すごかったなぁ、ってあれ? ドビー?」

「こんにちはハリー・ポッター! そうですドビーです」

「ドビー、どうしているの?」

「ドビーはあの先生にこの鞄をアルタイルと預かっているように頼まれました。ドビーはこの鞄をアンブリッジに見つからないようにアルタイルと守っているように言われました」

「そうだったんだね。ありがとう、ドビー」

 ドビーはハリーに感謝されたのが嬉しくて、辺りをぴょんぴょんと飛び回っていた。ハリーは、アルタイルって誰だろうと思いながら、しばらくドビーと話していた。

 

 

 

 『アーシュレーシャー、楽しかったかい?』

『ただオマエを持ち上げただけだ。楽しいも何もあるか』

『今度はいっぱい遊ぼうね』

 鎌首をすり寄せてきたアーシュレーシャーの白く硬い、美しい鱗を、魔女は撫でた。





アーシュレーシャー
うみへび座の星から名付けられたホーンド・サーペント。
作中での役割…レガ主を持ち上げる。

アルタイル
ご存知、わし座の星から名付けられた○○○○○。
作中での役割…鞄をドビーと守る。

今後ちゃんとシャウラもアーシュレーシャーもアルタイルも出てきますので。
お楽しみに!
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