グリフィンドールの子どもたちと共に自分もカバンから出ていった老婆を見送ると、ホーンド・サーペントのアーシュレーシャーは日光浴をしようととぐろを巻き始めたが、突如視界の端が燃え上がったのを見た。鎌首をもたげてそちらを見ると、上品な格好の老人が不死鳥の足を離すところであった。
『ワーチュレンチャー、へじゃうぃうひ』
『なんだ、オマエか。アヤツと同じだけワタシにかまってきてその言葉の出来はなんだ』
「ごめん、ヒトの言葉で話してもいいかな?」
「構わん、好きにしろ」
「アーシュレーシャー、簡潔にまとめると、今のあいつは本当に危険な状態なんだ」
「というと?」
「誰が死んでもおかしくない」
ホーンド・サーペントの目がぎらりと光った。これがバジリスクだったなら、その好々爺はひとたまりもなかっただろう。
「ならば、ワタシたちが闘うべきだろうが」
「そう、そうなんだけどね。ほら、あいつは僕らと違うだろう」
「ワタシならばすぐに片付けられる」
「アーシュレーシャー、ごめん。君には闘わせられない」
白い大蛇と老人との睨み合いが続く。沈黙を破ったのは、マルフォイ家の誰かかと思うほどに見事なシルバーブロンドを風になびかせた青年だった。
「あっれれれれえ、セバスチャン! どうしたんだい、君まだ仕事残ってるんじゃなかった?」
「ちょっと伝言があってね。久しぶり」
「久しぶりだねぇ。『アーシュレーシャー、何の話をしてたんだい?』」
『他愛もないことだ』
そうかい、と頷くとセバスチャン・サロウにどこからともなく取り出してきた木彫りの人形を手渡した。
「これね、コケシっていってね、ニホンの友達からたくさんもらったんだけど、ファスティディオがこれを爆弾にしちゃおうとか言うから知り合いにあげて回ってるの。こんなに可愛いのに爆散させられるとか、コケシっちにしてみればたまったもんじゃないよね!」
ねー?と物言わぬこけしに同意を求める友人の姿を見て、セバスチャンはつい笑みがこぼれる。
「君は本当に変わらないね」
「そおりゃそうでしょう、人はそう簡単に変われないよ」
こけしを戦闘機に見立てて遊ぶ姿は先程までの優雅な青年とは打って変わって、当時この魔女がさんざん連れ回していた今世紀最も偉大な魔法使いの在りし日の姿となっていた。
「ダンブルドアくんはそんな事して遊ばないだろう」
「うん、私がアルバスを飛行機にしてた。懐かしいなぁ、ほら、あれ覚えてる? 私がアルバスを箒の前に乗せてさ。アルバスちっちゃかったからすっぽり収まってて可愛かったなぁ。それで、今で言えばウィリーかな? あれやったらもう、アルバスが可愛くって可愛くって!」
「ああ……あれか……」
(ダンブルドアくん、大泣きだったなあ。しばらくは顔見た途端に逃げてたな。まあ、追いつかれてたけど)
当時の二人を思い出してしみじみとしていたセバスチャンだったが、ここに連れてきてもらった理由を思い出した。
「あのさ、君に言っておかないといけないと思ってここにきたんだ」
「なあに?」
「君、誰かさんを揶揄っただろう」
「揶揄ってなんかいないやい! 本当のことを言ったまでさ」
ぷりぷりと頬を膨らませている赤毛の少女は、いつの間にやら老人のポケットに大量のこけしを詰めていた。
「君にとっては本当のことだろうけど、側から聞いたらそんなの嘘だと思ってしまうんだよ。まあちょっと羨ましいけれどね。あんなに自由奔放な野生児だったのに、一応首席だったし。授業に全然参加しないのに魔法はすぐに覚えているし。よく覚えているよ、5年生の最初の防衛術で君にこてんぱんにされたこと」
ぺちゃりと座り込んだ魔女の頭をぐりぐりと撫で回す。嘗てそうしていたように。
「今でも感謝しているよ。あの時僕を止めてくれたこと」
素直に頬をこねくり回されているコイツは、地獄の入り口にいた自分を強引に、確かに、引き留めて、連れ戻してくれた。
「絶対に忘れないよ。あの後悔と、あの時の君は」
「んー…………」
長い間、目を閉じてじっとしていた魔女は、その姿を三度変えた頃に目を開いた。
「忘れてもいいよ。何度でも教えてあげるからね」
「そうかい」
「うん。さてと、ドビーとアルタイルにお留守番を任せすぎたかな」
またね、とあの頃と同じように手を振って、魔女はカバンの中から飛び出していった。
ちょっぴりしんみり回のつもりでした。しんみりとは……?
読んで字の如く、この世界線のレガ主はあの時、間に合いました。間に合ったことにします。
次回! こちらスリザリン! デュエルスタンバイ!!