「ねえ、パメラ。この星座の西に見えるのって、何座だっけ?」
羊皮紙と羽ペンを携えたアストリア・グリーングラスが、一つ上のスリザリン寮生であるパメラ・カークパトリックに尋ねた。
「カシオペア座。その頃に生まれるムーンカーフは陽気な子がたくさんいるよ。踊りも元気いっぱい」
「そうなの? 見てみたい!」
「もう少ししたら、その季節だよ」
天文学の課題に向かっていたはずのアストリアは、いつのまにかパメラが語る魔法生物の面白さに夢中になっていた。神秘的なセストラル、賢いニーズル、勇壮なヒッポグリフ、優雅なケルピー。どの魔法動物も魅力的に聞こえた。
「すごいのね、魔法動物って!」
「そうだよ。魔法動物は私たちよりもすごいよ。私は悪い人が誰なのかすぐには分からないし、ずっと泳いでいられない。もちろん空だって飛べない。言葉が通じないからと言って見下したら、痛い目を見るよ」
「そうよね、気をつけないといけないわね!」
近くでその小さな講義を聞いていた5年生のスリザリン寮生、特にドラコ・マルフォイは、その言葉を聞いてぎくりとしていた。そして実際、2年前に痛い目を見ていた。
その後、図書館でもっと魔法動物を調べようと廊下を歩いて二人に、男子生徒が呼びかけた。
「カークパトリック!」
「……ヘイブリディアン・ブラック?」
「ブラックはあってるよ。アルゴ・ブライアン=ブラック」
「あるご、ぶらいあん、ブラック」
少し悩んだあげく、ドラゴンの名前が飛び出してきた唯一のスリザリンに所属する友人に苦笑しながらアルゴは訂正した。
「そう。で、えっと……君は」
「アストリア・グリーングラス! 3年生よ! 私はスリザリンだけど、あなたはグリフィンドールね?」
「まあ、はい、そうです」
「グリフィンドールは傍若無人で失敬な人間ばかりだから関わるなってみんなが言うけれど、あなたみたいな人もいるわよね!」
人畜無害と言えるほど、優しい____といえば聞こえはいいが実際は気が弱いアルゴは、たじたじになりながら切れ味抜群のアストリアの言葉に頷く。
「アルゴは、どうして私に話しかけたの?」
「ああ、そうだった。実はね、先生が僕たちに手伝って欲しいことがあるんだって。もう二人いるらしいよ。着いてきて」
「分かった」
「私も行っていいかな、パメラ?」
「うん」
「やったー!」
てくてくと小柄な三人が並んで歩いているのを見て、ほとんどの生徒が振り向いた。グリフィンドールとスリザリンが、しかもうち二人がスリザリンである三人組は、ホグワーツでは100年以上みることの無かった風景だった。
「アルゴ! ……とカークパトリック」
「ジニー、と誰?」
ジニーの隣に立っている金髪の少女は答えた。
「ルーナ・ラブグッド。レイブンクローだよ」
「そうなんだ。よろしく、ルーナ。こっちはパメラ・カークパトリックと、3年生アストリア・グリーングラスだよ」
「3年生? なんで?」
「楽しそうだから付いてきちゃった!」
「連れてきちゃった……ダメかな?」
どう接したらいいかわからない後輩にジニーとアルゴがおろおろしている間に、例の新任教授がやってきた。
「あれ、なんか多いな。でもまぁいいか! よし、始めようね」
「「「先生!」」」
「はぁい、先生ダヨ〜。皆にちょっと手伝ってほしいことがあるから、この中に入ってね」
「なんですか、その旅行カバン?」
「これね、私の2つ目の宝物。さ、覚悟はできた?」
皆が頷くのを確認すると、カバンの口を大きく広げた。
「うわあ、うわあああああああ! マンティコア! ヒッポグリフ! ユニコーン! ウクライナ・アイアンベリーもいるー! すごいすごいすごーーーーい!」
「わあすごく楽しそう」
「パメラに取っちゃ、ここは楽園だろうね」
着地と同時に灰色の目をまんまるにして、パメラは眼前に広がる草原と、そこで暮らしている魔法動物に歓声を上げた。その様子を、ジニーとアルゴはただ見守っている。
「私、ここで死んでもいい!」
草原に四肢を放り出して寝転がったパメラは幸せを爆発させていた。顔をニーズルやパフスケインにべろべろと舐められている。それにもかかわらず嬉しそうな表情をしていた。
「チャーリーといい勝負しそう……」
「今はどこに?」
「リュウを探しにニホンに行ったよ。『雷雨を呼ぶとかすごすぎる!』とか言ってた」
ルーナとアストリアは近寄ってきたディリコールを撫でていた。
「あんなパメラ、初めて見たわ。寮ではいつも隅っこにいるから」
「そうなンだ」
「あー! アンティポディアン・オパールアイ!」
パメラは飛び起きると頭上を優雅に飛んでいった真っ白なドラゴンを追って駆け出した。どこまでも広がる青空と草原は、ここがカバンの中であるという事を忘れさせるほどだった。
「あれ、ミス・カークパトリック? なんかすごい疲れてない?」
少々遅れてやってきた魔女は、他4人と比べてパメラの息が上がっていることに気づいた。
「大丈夫……私、今……すごく幸せなので……!」
「あ、そお? じゃ、説明するね。今日みんなにやってもらいたいのは、セストラルの出産を手伝うこと。セストラルは死を目撃して、それを受け入れた人にだけ姿が見える魔法動物だ。見た目はほぼ骨と皮みたいな馬だけど、コウモリのような立派な羽が生えている。ホグワーツ特急から降りた後に皆をホグワーツまで乗せていく馬車を引いているのはセストラルたちだよ。魔法省の役人たちもセストラルが引く馬車で移動するんだすごい食いつきだねパメラちゃん」
皆に説明していると、先程アンティポディアン・オパールアイを見つけた直後のように飛び起き、ムーンカーフにも負けないほどのきらきらした瞳でパメラが尋ねた。
「セストラル?」
「うん」
「セストラルなんですね、ほんとのほんとにセストラルなんですね」
「そうだよ」
ふらふらとよろめくとその場で即座に五体投地を始めた。
「私ここで死にたい……!」
「今死んだらセストラルの出産、見れなくなっちゃうヨ」
「そうだね、ルーナ……私生きる……」
普段見ることのない同寮生の様子を見て、アストリアはけらけら笑った。
なんかしょっちゅう鞄の中にいるなぁ……
次回、ほんとの二寮! デュエルスタンバイ!!