大広間で爆発した「吠えメール」の残骸を、ドローレス・アンブリッジは、これまで誰も見たことがないほど顔を歪めて睨みつけていた。アンブリッジの弟はスクイブだ。マグルの母と弟を居ないものとして過ごしてきたアンブリッジにとって、あの魔女が残していった吠えメールは不快でしかなかった。
「よーう、お前ら! この俺様がいいこと教えてあげるぜ〜! 耳ん中かっぽじってよーく聞きやがれ!」
シャンデリアの近くから滑空するように降りてきたピーブズが拡声器をどこからともなく取り出した。趣味の悪い色とこれまた趣味の悪いキラメキを放つスパンコールで飾り付けられている。
「我らがダンブルドア校長先生様が、良からぬことをお考えのようだ! 気になるやつは校長室に行ってみろ!」
そう言うとピーブズはシュポンと音を立てて消えた。ハリーたちは必死に頭を巡らせた。校長先生が何かを企んでいるらしい。先程、あの先生は「私たち」と言った。もう一人、ホグワーツから逃げる人がいる。
「……まさか」
ほぼ同時に駆け出したハリーとアンブリッジは、ガーゴイル像に行く手を阻まれた。正しい合言葉を言わなければ、通ることはできない。
「合言葉は?」
「知りません、そんなもの! 私は魔法大臣上級次官です! 通しなさい!」
「合言葉は?」
「通しなさいと言っているでしょう!」
キーキー声で喚くアンブリッジに顔をしかめながら、ハリーは聞こえるか聞こえないかというほど小さく囁いた。
「……レモン・キャンデー」
直後、ガコンと重い鍵が外れたような音とともに、ガーゴイル像は階段を示した。アンブリッジは、自分の言葉が通じたのだと思いこんでいる。それに気づいたハリーは、どうか真実に気づきませんようにと祈りながら校長室へ駆け込んだ。
「アルバス・ダンブルドア!」
「ダンブルドア先生!」
「おや、アンブリッジ先生にハリー。何かあったかの」
「あの、防衛術の教師が校内を荒らし、私を侮辱したうえ! 失踪いたしました! しかるべきは、貴方の監督責任を問わせていただきます!!」
ハリーが口を開くより先に、アンブリッジは甲高い声で噛みつくように言い放った。それを黙って聞いていたダンブルドアは、くつくつと笑い始めた。真っ白な長いひげがふわふわ揺れている。
「何がおかしいのです? 貴方は、私が要請すればウィゼンガモットの大法廷に召喚されるのですよ? 裁判の準備をしたらどうなのです!」
アンブリッジは自分の権力に任せてこの事態に終止符を打とうとしている。しかし、ハリーは覚えていた。この校長室に来た理由は、ダンブルドアに裁判を突きつけるためではなく、ダンブルドアが何を企んでいるのかを明らかにするためである。
「わしは捕まらんよ。先輩のようにな」
きらりと半月メガネのむこうの瞳を光らせ、ダンブルドアは手を挙げる。
美しい声を響かせながら、1羽の不死鳥がダンブルドアが掲げた手をしかと掴む。瞬きの間に、今世紀最も偉大な魔法使いは炎の中に揺らめいて消えた。
「フォークス……!」
ハリーは心のなかで祈った。先生たちが、無事に逃げ切ることを。
只今戻りました。前回を書き終わったあたりから、色々続きまして、実に4ヶ月ぶりとなる更新です。
おまたせしてすみませんでした。