ホグワーツに大量の吸魂鬼が襲来してから7日後。ホグワーツから校長と防衛術の教師が失踪してから5日後。北の海、アズカバンにはまた吸魂鬼があふれるようになった。件の人物の身柄を確保するために動員されたものの、アルバス・ダンブルドアはその指すら動かさず、確保対象のたった一人の力で無力化された。
その最悪の牢獄とそう変わらないもう一つの牢獄・ヌルメンガード城。その入口の手前で、何の前触れもなく空中が二度、火を吹いた。その中から現れたのは背の高い白髪の魔法使いと、紫色のローブを肩からかけた魔女の二人。
「フォークスは賢いね。私とこの子が何も言わなくても、ここまでやってきた」
「先輩……なぜここなのです」
「ここ綺麗じゃん、色々と。向こうにも既に伝わってるだろうから」
学生時代によく見せたすっとぼけた顔をする魔女は、何のためらいもなく城へ向かっていく。ダンブルドアの足取りはそれに反してあまりに重い。
「
入口に掲げられたかつて何度も耳にした言葉を、かつて何度か口にした言葉を、魔女は改めて見上げる。「傲慢」というには足りず、「我儘」というには過ぎる。魔法族の怒りを代弁したとは言い難いほどに独善的な主張。
「私は優しいから、若気の至り、ってことにしておいてあげるよ」
「そんなもので済ませられるものではありませんがの」
「君はようやく眠ったドラゴンに喧嘩を売りたいようだね? せっかくだから優しい私が買ってあげようか」
眠りにつくはずのないドラゴンは有無を言わさぬ勢いで、ヌルメンガードの扉を開けた。
「ここがそうなの? 本当にここにぴったりの部屋があるの?」
「間違いありません、ハリー・ポッター! ドビーはここに部屋を見つけました! ドビーはディークからもここに部屋があることを聞きました。ですからここに部屋があることは間違いありません!」
ホグワーツ城の8階、なんの変哲もないただの壁を前に、ハリーとドビーは並んでいた。ホグワーツ城には、誰も知らない部屋や扉がいくつもある。壁のふりをしている扉も、扉のふりをしている壁も、強く念じながらその前を三往復しないと姿を表さない部屋も。
「えっ? 本当にあったの?」
ドビーに言われた通り、「誰にも見つからない、戦闘訓練に適した場所が欲しい」と考え続けながらあたりをうろうろしたハリーは、染み渡るように壁に現れた扉に目を丸くした。部屋の中には、訓練人形や休憩用のソファー、「決闘指南書」シリーズと書かれた本までが広々とした空間の中にきちんと収まっていた。
「ここなら、防衛術の実技の練習ができる! ありがとうドビー! ディークにもよろしく伝えてくれる?」
「もちろんです、ハリー・ポッター!」
ドビーはひとしきり飛び跳ねて喜ぶと、バチンと「姿くらまし」した。きっとディークに会いに行ったのだろう。と思いきやすぐに戻ってきた。ロンとハーマイオニーも一緒に「姿現し」してきた。
「急にドビーが談話室に来てさ。一体どうしたんだ?」
「ハリー、ねえハリーここって……もしかして、必要の部屋じゃない?」
「必要の部屋?」
「そのとおりです! ハーマイオニー・グレンジャー!」すぐ隣にバチンと音を立てて現れたディークは、ハキハキと答えた。「ここにはこれまでたくさんの生徒がやってきては、思い思いに過ごしていたのをディークは知っています!」
少し戻って、先生たちの失踪からそう時間も経たない土曜日。ホッグズ・ヘッドには30人を超えるホグワーツの生徒が集まっていた。生徒から生徒へ、どんどん広まっていった噂が、これほどの人数を薄汚いパブに集めたのだ。
「ハリー・ポッターには防衛術について何か考えがあるらしい」、と。
「その……これで全員?」
戸惑いを隠せないハリーは、動揺したままあたりを見回した。すかさず、ハーマイオニーが咳払いをして宣言した。
「もし、ハリーからヴォルデモート卿について聞きたいから集まった人がいるなら、すぐに出ていってちょうだい。本当に防衛術の訓練に興味があるなら、そのままでいて!」
それを受けて、半分近くが足早にホッグズ・ヘッドを出ていった。残ったのは、十数名。
「それで、あなた達は?」
「パメラ・カークパトリック。スリザリンの4年生よ」
「アストリア・グリーングラス! 私もスリザリン」
じろり、とハーマイオニーや周りに睨めつけられたにも関わらず、けろりとした顔で二人は答えた。
「ほ、本当だよ、ハーマイオニー。パメラもアストリアも、僕が誘ったんだ。冷やかしとか、嫌がらせじゃ、ないよ。嘘だと思うなら、ジニーとか、ルーナにも聞いてみてよ」
一歩進み出たのは、アルゴ・ブライアン=ブラックだった。
久しぶりのパメラちゃんとアルゴくん。