客人から教師へ、そして恩師へ。   作:品江四重

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たられば

 

 「今のスリザリンとグリフィンドールを見て、先輩はどう思われましたかな」

 校長室ではダンブルドア校長と、新任の防衛術の教授である赤毛の魔女が向かい合ってティータイムを満喫していた。

「ちょっぴり、残念だな。でも、歩み寄れている子だっていたから、待つっていうのも一つの手だろうけど……やっぱり少しだけ教えようかな。ほんとのスリザリンと、ほんとのグリフィンドールを」

 

 先日の魔法生物飼育学で、スリザリンのパメラ・カークパトリックとグリフィンドールのアルゴ・ブライアン=ブラックが見せた、ほんの少しの友情は、それだけで十分に、魔女に明るい光を灯していた。あんなふうに、適度な協力ができる程度には、双方の関係が良好になってほしい。そう願っていた。

 

 

 

 「こんにちは、グリフィンドール5年生の皆!」

「こんにちは、先生」

 今日もまた、闇の魔術に対する防衛術の授業が始まった。魔女は今は豊かな黒髪を後ろで一つに括った、品のいい男性の姿をしている。

 魔女はハリーたち5年生に古ぼけた旅行鞄を見せた。

 「今日の授業はこの中でやるよ。一人ずつ入っておいでね、まとめて入ると、着地で痛い目を見るからね!」

 鞄の口を開くと、次々と生徒たちを飲み込んでいき、最後に自分一人だけが残ると、何もいない空中に向かって言った。

 「じゃあ、隠しておいてくれるかな」

 一瞬だけ煌めいた空中の何かを認めると、魔女も鞄に吸い込まれていった。

 

 

 「どういうことだ? 鞄の中って、こんなに自然が豊かになってるわけ無いよな?」

「これ……検知不可能拡大呪文かしら。先生、ちゃんと許可取ってるとは思うけど……」

 鞄の中に広がる広大な草原を見て、ロンはあんぐりと口を開けた。ハーマイオニーがその仕組みに見当をつけるが、心配なのは法律違反をしていないのかどうかというところだった。

 

 「良かった、みんな逸れてないね!」

 今度は、何も言葉が出てこなかった。ライオンの体にサソリの尾、そして人間の顔をした「怪物」の背に乗って、魔女がやってきたのだ。

「ついでに聞いてみようか。この子はだーれだ? 早いね、ミス・グレンジャー。どうぞ」

「先生が乗っているその魔法生物はマンティコアです。マンティコアはヒトの頭とライオンの胴体、そしてサソリの尾びれを持った生物であり、皮膚はほとんどの魔法に耐性があります。また、ヒト語での会話が可能で高い知性を持っています。そのため、魔法使い殺しとされ、魔法省が設定した危険レベルは最大のxxxxxで飼育は不可能です。先生、あの、本当は不可能なんです」

「素晴らしい! グリフィンドールに3点だ! 知識がしっかり自分のものになってるね。その通りだ、飼育は基本的に不可能。でもね、やろうと思えばできるだろうよ。現に私、マンティコアもホーンド・サーペントもドラゴンも、ちょっと前からレシフォールドも飼ってるからね。好奇心に見合う実力があるなら、なんだっていいんだ」

「すごいわ……全部xxxxxに分類される魔法生物たちよ! なんで先生は無事なの⁉︎」

 ハーマイオニーは信じられない、といった顔を隠しきれていなかった。他の生徒たちもそれを聞いて、なぜ目の前の魔女はそんなことをしようと思ったのか、なぜ目の前の魔女は無事なのかと困惑していた。

 

「我々には、我々以上の存在がいるからだ」

「「「喋った!」」」

「そりゃ喋るよー、だってシャウラはマンティコアだもの」

 シャウラと呼ばれた、魔女を乗せたマンティコアはグリフィンドールの生徒たちをゆっくりと見回した。

 「この老婆に飼われている我々には、我々以上の存在がいる。我々が老婆に危害を加えれば、王が黙っちゃいない」

「王って誰って聞きたそうな顔してるけど、まだ教えてあーげない。それに、私が受け持っているのは闇の魔術に対する防衛術だ。ルビウスくんの仕事を私が奪うわけにはいかないよ。さあ、授業を始めようか」

 背からするりと魔女が降りると、シャウラはのしのしと歩いて遠くに見える湖の方向へ歩いていった。

 

 「はっきり言って、たぶん今の君たちが束になっても、ヴォルデモート卿どころか、死喰い人を一人倒すのにも苦労しそうだ。ショックを受けたかもしれないけれど、君たちはまだ子供なのさ。魔法力も、魔法を扱う技術も、到底及ばない。この中にはきっと、闇払いや呪い破りになりたい子もいるだろう。自分の実力はよく知っておいた方がいい」

 魔女の言葉は正直であり、厳しい。だが、事実である。皆が真剣に教授の話を聞いていた。

 「だから私の先生の教えを君たちにも授けよう。『決闘に勝る訓練は無い』。多対一で、実践してみよう。さあ、皆杖を構えて!」

 

 グリフィンドールの5年生たちは杖を抜いた。

 「はーいそのままねー、ちょっと手直し。杖の構え方からもう勝負は始まってるんだ。お、ミスター・ポッターは今こっちに杖を向け直したね、いいことだよ」

 魔女はその姿を大きく変え、桃色の髪の小さな女の子となりながら5年生たちの間を縫って歩いた。

 「あ、ミス・ブラウン。いやいやいや怒らないから! 大丈夫だから、ちょっと気をつければいいだけだから、泣かないで、ね?」

 ごめんねびっくりしたね、と小さなチョコレートを渡して、ラベンダーの構え方を直し始めた。

 

 「まずは、肩にグッと力を入れて……ストンと落とす。そう、力が抜けたでしょう? そのくらいフラットでいいんだ。で、杖は片手で持った方がいい。皆も覚えていてね。杖は、マグルのピストルみたいに、動かなければ確実に仕留められるわけじゃ無い。少なからず振らなくちゃいけない。だから、こうやってガッチリ両手で構えちゃうと、素早く触れなくて、ウィンガーディアム・レヴィオーサでも手こずってしまう。……そう上手に持ててるよ」

 ラベンダーに一点をあげると、魔女は両手を大きく広げて皆に向き直った。

「さあ、私は今丸腰かな?」

「何言ってるんだ、丸腰だよ!」

「果たしてどうかな、ミスター・フィネガン? そりゃっ」

 

 魔女が気軽に指をふると、シェーマス・フィネガンの前に躍り出てきたのは、太いまだらの蛇だった。

「え……うわ! ヴィペラ・イヴァネスカ!!!」

 バシュッ、と音を立てて蛇は消えたが、シェーマスはまだ青い顔をしていた。

「びっくりした……」

「ね? 丸腰とは限らないでしょう? 今、私が使ったのは杖なしの無言呪文。無言呪文自体は6年生で勉強するからほっとくけど、杖なし呪文については説明だけするよ。みんながお世話になってる屋敷しもべ妖精たちやグリンゴッツで働いている子鬼たちは杖なし呪文をいとも簡単に使用することができる。ヒトの魔法族でも、アルバスとかヴォルちゃんみたいなすごいヤツは使えるし、練習すれば私みたいなのも使えるようになる。カリキュラムには入っていないけど、やってみたければやってみればいい。さっきも言っただろう? 好奇心に見合う実力があれば、なんだっていいんだ」

 

 誰もが、先生の「次」を警戒していた。相変わらず杖は持たず、両手を広げて穏やかに笑っている。それさえもどこか恐ろしかった。満足そうにその魔女は笑うと、やっと杖を抜いた。

 「オーケー、みんな準備は万端だね。……さあ、始めようか」

「エクスペリアームス!」

 合図とほぼ同時に早く武装解除を放ったのはハリーだった。魔女は真っ赤な火花をよけようとせず、杖をぽーんと投げ上げて一瞬だけ丸腰になると、火花に射抜かれた。しかし、まったく痛がる様子もなく、空中の杖を飛び上がってキャッチした。

 「さあいくよ! アクシオ、フリペンド、ディセンド、デパルソ、レヴィオーソ」

 ハリーは盾の呪文でなんとか耐えたが、隣りにいたロンやパーバティ、ディーンなど反応が遅れた何人もの生徒が先生に散々振り回された挙げ句、空中に固定されてしまった。

「スリザリンの生徒は、この状況から反撃してきたよ! ほら次だ!」

 

 スリザリンと聞いてなんとかもがくロンだが、焦りから頭がうまく働かない。

「フィニート! インセンディオ!」

「ステューピファイ!」

「にゃはははは! 遅い遅い!」

 宙ぶらりんだった仲間たちを雑に降ろすと、ハーマイオニーは炎の呪文を、ハリーは失神呪文を飛ばす。しかし、素早く回転して一瞬、白い霧のような状態になって回避された。

 

 「エイビス!」

 魔女が放った多種多様のフクロウに、5年生はあっという間に視界を奪われた。

「あっ! 返して!」

「わああ僕の杖が!」

「ちくしょう、取られた……!」

 あちこちで悲鳴が上がり、何名かがフクロウに杖をさらわれたらしい。ハリーも、自分杖が取られないようにしっかりと握りながら、先生のあの青いマフラーの端でも隠れていやしないかと目を凝らした。

 

 そんな中、ハーマイオニーはブツブツと何やら呟きながら集中していた。

「スペシアリス レベリオ? 違うわ、それは化けの皮剥がれよ、だわ……あ、思い出した!」

「ハーマイオニー、なんでもいいから早く!」

「分かってる! ホメナム レベリオ!」

 ハーマイオニーの視界には呪文の波が染み渡っていくように見えたが、反応の中に先生と思わしきものはなかった。

 「うそ、消えちゃったの?」

「ハーマイオニー後ろ!」

「え?」

 振り返っても遅かった。まっすぐハーマイオニーの方へ飛んできた白いメンフクロウが、ハーマイオニーの杖を爪で掻っ攫っていった。目で追うも、すぐに他のフクロウたちに紛れてしまい、軽いパニックを起こしそうになった。だが、冷静さを取り戻したのはロンの言葉だった。

 

 「ハーマイオニー! こいつら、どうしたら先生に向けられる⁉︎」

「オパグノよ!」

 皆の悲鳴の中、はっきり聞こえた互いの声は、現状を打破するいいきっかけとなった。

 「オパグノ!!」

「オパグノ! あれっ?」

「どこでもいい! オパグノだ!」

 まだ杖を持っている生徒たちが四方八方に呪詛を打ち始めた。

 

 違和感に気づいたのは、ネビルだった。一羽だけ、やけに羽音のうるさいフクロウがいる。先ほど、ハーマイオニーの杖を奪ったあの白いメンフクロウだ。

 「……オパグノ!!!」

 ネビルが鋭く放った呪詛は直撃し、体制を崩したそのフクロウはたちまち大量のフクロウたちに囲まれて見えなくなった。

 

 「ひゃーすごいなネビル! 第一ラウンドは終了だ!」

 忽然とフクロウたちが姿を消し、現れた先生は皆が奪われた杖を持っていた。

 

 「今、杖を取られた子たち。残念ながら、戦場だったら死んでたよ」

 軽くも重いその言葉に、全員が気を引き締めた。





 今回はちゃんと書きました。

「ホメナムレベリオ使ったのに……」な展開はあのss作者様をオマージュさせて頂きました。
でもやっぱり動物もどきエピソードは入れたかった

次回! レガ主vsグリフィンドール第二ラウンド! デュエルスタンバイッ
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