ロストメモリーズ ~ 幻想郷に舞う剣の影 ~   作:姉川京

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第7話「博麗神社で弾幕修行・その1」

 ある日、八雲邸の静かな一室で紫は突然何の前触れもなく剣獅に話を切り出した。外から差し込む柔らかな陽光が、彼女の白い肌を淡く照らしている。

 

「……と、いうわけで剣獅!あなたには弾幕修行をしてもらうわ!」

 

「へ?」

 

唐突な宣告に剣獅は思考が追いつかず、間の抜けた声を発した。彼の瞳は丸く見開かれ、言葉の意味を咀嚼しようと懸命に動いている。

 

「紫様、ちゃんと説明しましょう?剣獅が置いていかれてます」

 

隣に控えていた藍はいつものように冷静な表情を崩さないが、その瞳の奥には微かな呆れの色が宿っている。紫は仕方なさそうに肩をすくめ、改めて剣獅に向き直った。

 

「そうね、まず剣獅。あなたは身を守る手段は持ってるの?」

 

畳に座る剣獅は顎に手を当てて少し考えた。庭の木々のざわめきが、遠くに聞こえる。

 

「まぁ、剣術ですかね?暇なときに庭で素振りしてたんですけど、不思議と手に馴染むんです」

 

幻想入りした時から彼の腰に差しているのは、神々しいオーラを静かに放つ正体不明の神器のみ。紫も藍も彼がその剣を抜いて戦う姿はまだ目にしていない。しかしその剣から溢れ出る途轍もない力と、鍛え抜かれた剣獅の身体に刻まれた目には見えない無数の強さの証は、彼がこの幻想郷においても上位の実力者であることを静かに物語っていた。

 

「そうね。でも身を守るためでも、妖怪が相手でも殺しはご法度よ」

 

紫の言葉に剣獅は真剣な眼差しで頷いた。

 

「はい」

 

「そんなときに役立つのが弾幕勝負なのよ」

 

幻想郷では常識だが、外の世界から来たばかりの剣獅からすれば聞き覚えのない単語だった。

 

「それがよく分からないんですが」

 

剣獅の率直な問いに紫は扇子を優雅に開き、こともなげに説明した。

 

「誰しもが身体に不思議な力を持ってるものなのよ。魔力や妖力、霊力の類ね。私や藍、橙は妖力なんだけど……あなたの場合は神力ね。それの塊みたいなものが弾幕よ。それを相手に当てたりして戦うの。人や妖怪によって個性が表れるわ」

 

「それが弾幕勝負ですか?」

 

「そうよ」

 

「なるほど……じゃあ今日はその基礎を教えてもらえるんですか?」

 

剣獅の瞳に僅かな期待の色が灯った。

 

「ええ、でも教えるのは私たちじゃないわ。ついてきて」

 

そう言って紫は空間に一筋の亀裂を生み出した。吸い込まれるように現れたスキマに、剣獅は慣れた足取りで藍と共に三人で入っていく。

 

 

ーー博麗神社

 

 スキマを抜けた先は、見慣れた博麗神社の境内だった。賽銭箱の前では、煤けた緋色の巫女服を身につけた霊夢が古びた箒を持ったまま、どこか所在なさげに佇んでいた。彼女の周囲には微かに埃っぽい空気が漂っている。そんな霊夢に対して紫はスキマから現れるなり、先程剣獅に投げかけたのと同じ言葉を有無を言わさぬ調子で言い放った。

 

「と、いうわけで剣獅に弾幕を教えてあげなさい」

 

「は?」

 

またしても状況が理解できず、霊夢は間の抜けた声を上げて硬直した。まるで先程の剣獅の反応を繰り返しているかのようだ。風が吹き抜け、境内の木々の葉がサワサワと音を立てた。

 

「紫様……ですからちゃんと説明してください」

 

またしても冷静沈着な藍が、微かに溜息混じりの声で紫に促した。彼女の視線は、どこか遠い空を見つめている。

 

「はいはい……」

 

紫は軽く手を上げ、先程剣獅に説明した彼に弾幕を習得させる必要性などを霊夢にも掻い摘んで説明した。

 

「ふーん……とりあえず事情は分かったわ」

 

霊夢は話を聞き終えると、どこか投げやりな調子でそう言った。しかしその瞳の奥には、僅かながらも興味の色が覗いている。紫はその言葉を聞くと、まるで用済みになったかのように再び背後にスキマを開け、帰っていこうとする。

 

「あとはよろしくね。剣獅、頑張るのよ」

 

ひらひらと手を振る紫に剣獅は小さく頷いた。

 

「はい」

 

紫と藍の姿が見えなくなると剣獅は霊夢に向き直り、改めてと軽く頭を下げた。

 

「じゃあ霊夢、よろしく頼むよ」

 

「ええ。まず、剣獅は弾幕についてどれくらい聞いてるのかしら?」

 

霊夢は剣獅の顔をじっと見つめながら尋ねた。

 

「う~ん誰しもが身体に持ってる魔力や妖力のエネルギーの塊?」

 

剣獅は紫から聞いた言葉を反芻するように答えた。彼の言葉にはまだ確信が持てない響きがある。

 

「まぁ、そうね。出し方は聞いてる?」

 

「それも含めて霊夢に教えてもらえって」

 

その言葉に霊夢は盛大にため息をついた。

 

「はぁ……とりあえず、自分の身体に流れる力を感じれるかしら?」

 

促されるまま剣獅は再び目を閉じた。境内の静けさの中で、彼は意識を内へと深く沈めていく。まるで静かな水面を覗き込むように、自身の身体に流れる力の流れに集中した。

 

「……あぁ、血流みたいに全身を巡ってるな」

 

しばらくして剣獅はゆっくりと目を開き、そう答えた。彼の言葉には確かな感触が宿っている。春風が彼の赤髪を優しく撫でた。

 

「そうね。剣獅の場合は霊力かしら?」

 

霊夢がそう問いかけると、剣獅は少し考えて首を横に振った。

 

「いや、俺が持ってるのは神力みたいだ」

 

その言葉に霊夢が目を丸くする。驚愕の色がその瞳にありありと浮かび上がる。

 

「!?……あなた人間なのよね?現人神とかじゃなくて?」

 

「人間だよ……多分な」

 

「多分て」

 

「紫さんにも聞いただろ?幻想入りする前の記憶がないんだ」

 

「……そうね、ごめんなさい。でもあなた多分人間じゃないわよ」

 

霊夢は剣獅の言葉を否定するように、きっぱりと言い切った。彼女の言葉には強い確信が込められている。

 

「そうなのか?」

 

「普通人間は霊力よ」

 

霊夢の言葉に剣獅は軽く肩を竦めた。

 

「そうか、でもそれは今考えても仕方ないよ。この神力をどうやって弾幕にするんだ?」

 

今は自分の正体よりも、目の前の課題に集中するべきだと判断したのだ。

 

「大事なのはイメージよ。私がやってみるから真似してみなさい」

 

霊夢はそう言うと掌をゆっくりと空に向けた。彼女の周囲の空気が微かに震え、彼女の身体から淡い光が滲み出し始めた。それはまるで夜空に瞬く星屑のように彼女の手のひらに集まり、やがて赤や青、黄色といった色とりどりの、小さな光弾へと形を変えていく。

 

「……こんな感じよ。出来そう?」

 

霊夢は作り出した光弾を空に向かって放った。光の粒が霧散するように消えていく。

 

「やってみるよ」

 

剣獅は霊夢の動きを注意深く見つめ、同じように神力を体外に放出しようと試みた。彼の身体から溢れ出した神力は、霊夢の霊力とは全く異なる荘厳で神々しい光を帯びたものだった。それはまるで神仏の後光のように神聖で、金色に輝き、見る者の目を奪うほどの美しさを持っていた。その強い光が集まり、ゆっくりと確実に光弾の形を成していく。そして剣獅はそれを意を決したように空目掛けて放った。

 

「どうだ?出来てるか?」

 

放たれた光弾は空を一直線に昇っていった。その神々しい輝きは、まるで天に届く光の柱のようだった。

 

「……一発で成功しちゃうのね。もっと手取り足取り教えなきゃいけないと思ってたけどセンスがいいのね」

 

霊夢は剣獅の驚くべき才能に、半ば呆れながらも素直に感心したように小さく呟いた。彼女の表情には僅かながらも驚嘆の色が滲んでいる。

 

「お褒めに預かり光栄だよ」

 

剣獅は素直に霊夢の言葉を受け止め、どこか照れたように控えめな笑みを浮かべた。

 

「弾幕以外だとその剣で戦うのかしら?」

 

霊夢は剣獅が腰に差している、異様なオーラを放つ剣に改めて視線を移した。その剣は静かに周囲の空気とは異なる特別な存在感を主張している。

 

「……かな?」

 

剣獅自身、その剣について詳しいことは何も覚えていない。ただそれが常に自分の傍らにあることが、ごく自然なことのように感じているだけだった。

 

「……それを使ってた記憶もないのね。でもあなたの身体凄い鍛えられてるし、きっと剣術使いだったのね。その感覚を取り戻す修行もしてみたら?」

 

霊夢の言葉に剣獅は納得したように深く頷いた。それは失われた過去の自分を取り戻すための、一つの手がかりになるかもしれない。

 

「そうだな。やっておく」

 

「それにしても……その剣なんなの?絶対普通の剣じゃないわよ」

 

霊夢も紫たちと同様に、その剣が纏う尋常ではない圧倒的な力を感じ取っていた。それは触れることすら躊躇うような、畏怖の念すら覚えるほどだった。

 

「触ってみるか?」

 

「……そうね」

 

霊夢が意を決してその剣の柄に触れた瞬間、彼女の顔色が変わった。まるで氷のように血の気が引いていく。

 

「……!!剣獅、あなたこれっ!」

 

その時、彼女の言葉を遮るように神社の後方の空からけたたましいほど大きな声が響き渡ってきた。

 

「おーい!!霊夢ーーっ!!」

 

突然の騒がしい声に、霊夢と剣獅は反射的に声のした方角に目を向けた。澄んだ空の下、一筋の黒い影が 素早く近づいてくる。それは箒に跨がった、霊夢にとっては見慣れた金髪の魔法使いの少女だった。風で飛んでいきそうなウィザードハットを片手で押さえている。

 

「なんて間が悪いのかしら……」

 

霊夢は露骨に嫌そうな顔で、片手で額を押さえた。金髪の少女は神社の境内の地面すれすれで急ブレーキをかけるようにふわりと降り立ち、興味津々といった表情で剣獅の顔を覗き込んだ。

 

「そいつか?霊夢が言ってた紫の隠し子ってのは」

 

「隠し子じゃないですよ。居候してるだけです」

 

剣獅の言葉に金髪の少女は目を丸くした。

 

「あの紫が人間を家に住まわせるのか!?……まぁいいや、私は霧雨魔理沙!普通の魔法使いだ!魔理沙でいいぜ!あと敬語も要らないからな!」

 

「そうか、俺は稲羽剣獅。よろしくな」

 

剣獅は飾らない笑顔で自己紹介をした。彼の瞳には、警戒の色はない。

 

「おう、よろしくな!」

 

魔理沙も満面の笑みで応じた。彼女の白い歯が陽光を受けてきらりと光った。お互いに挨拶を交わすと、突然霊夢がまるで何か恐ろしい事態が起こるとでも言うように、必死な表情で剣獅に訴えてきた。

 

「剣獅、帰りなさい。今すぐ!」

 

「え、なんで?まだ弾幕について……」

 

剣獅は唐突な帰宅命令に戸惑いを隠せない。

 

「あれで十分よ、早く!」

 

霊夢は剣獅の背中を両手でぐいぐいと押し出し、まるで危険なものから遠ざけるように帰宅を促した。そして剣獅の口から出た『弾幕』という言葉に、一人の少女が過敏に反応した。

 

「弾幕……?」ピクッ

 

魔法使いの少女、霧雨魔理沙の肩が微かに跳ねた。彼女の金色の瞳が剣獅に鋭く向けられる。霊夢は嫌な予感が脳裏をよぎるのを感じていた。春の風が神社の境内の静けさを掻き乱すように、強く吹き抜けた。

 

(この流れはヤバいわ……)

 

その予感は的中する。魔理沙はきらきらと眩しい笑顔で、自信に満ちた声で自分の胸を誇らしげに叩いた。

 

「弾幕のことならこの私に任せろ!」

 

霊夢はこの後の面倒な未来をありありと予知して、頭痛を覚えそうになるのだった。彼女の瞳は諦めにも似た深い色を湛えている。

 

「はぁ~っ、やっぱり……」




魔理沙ってポ〇モンの世界にいたら絶対目を合わせたら勝負挑んでくるタイプだよね……パルデア地方でも同様に
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