お前は何処にもいやしなくて俺もここに居なかった。 作:黑米田んぼ
「――――――という訳でだ。今日俺はこの子にMS戦を教えるつもりだ。皆にも手伝ってもらうからよろしく頼む」
「・・・よろしくお願いします」
警備会社ドミトリーにやってきたマチュとアムロはドミトリーのMS隊の面々と会合する。よく足を運び親しいアムロとは違い部外者で前回のクランバトルでシュウジが相手側のパイロットであるシイコを殺したこともあり本当に大丈夫なのか若干心配だった。
「へぇ、この子がねぇ」
そう良い一人また一人とマチュを見る。警備会社なだけあって誰も彼も柄が悪そうに見える。
「へぇ、ふうん…なるほどねぇ。…あははは!!相変わらず随分と酔狂ですねアムロさん!?」
「全くだぜ、随分と小ちぇなぁおい。もしかしてそう言うのが好みなんですかアムロさん」
「え、…ぇぇ…」
何だか想像よりも違う方向で男達は笑っていた。
「ふふ、マチュは確かにチャーミングだが、流石に十代の子と遊ぶ気はないさ。付き合うならもっと大人になってからかな」
「ちょっ!?何言っているで…すか」
アムロの言葉に思わずマチュは赤面し、恥ずかしさから段々声が小さくなっていった。
「揶揄うのはそのぐらいにしてやりな、アムロさんも女の子を揶揄うのは程々にしてくださいよ」
そう言って一人のパイロットがマチュの近くにやってくる。ハスキーな声色も含めて一瞬男性かと思ったがよくよく見ると女性のようだ。
「直接会うのは初めてだから初めましてかな。私はボカタ、エントリーネームはHALよろしく」
彼女はそう言い握手を望んでくる。
「…もしかして、この間私たちとやった」
「ああ、やっぱりそうだったんだ。私が魔女さんのマブだよ。あ、でも恨んだりして無いよ。こっちも魔女さんが勝手に突っかかって暴走してそっちに迷惑をかけちゃったからね。・・・それに、死ぬかもしれない危険な賭け試合に自分から乗り込んだんだ。あの人も覚悟はしていたはずさ」
残念そうだが何処かあっけらかんとしたボカタの表情にマチュはどこか自分とは違う気配を感じとった。
「あ、あの、あの人シイコさんって、待っている家族がいたんですよ?」
思わず口にしてしまった。日常をつまらなく感じていた。造られた人工の世界の中で生きていて生まれたこの感情の中で湧き上がったこの疑問を口にした。
「ああ、そうだね。・・・哀れな人だよ。戦争から出られたのに過去に拘って死んでさ」
ボカタの言葉に周りも頷く。
「まぁな。子供もいたんだろ?欠けたものを子供で埋めちまえば死なずに済んだと思うぜ。全く勿体無い」
「だなぁ、噂には聞いてはいたが実物を見て驚いよ。パッと見みちょっと背が小さい童顔の女が百キルオーバーの撃墜王なんてな」
「全くだぜあれ捕まえた旦那さん幸せだろうなって思ったぜ」
そんな言葉が次々と聞こえて来る。
「マチュ、こっちに更衣室があるからパイロットスーツに着替えてくれ」
そんな中アムロさんだけはマチュの体格に合うパイロットスーツを渡して着替えるように促してきた。
「私は」
別にそんなの要らないですよと、マチュは言おうと口を開くよりも早く。
「君が良くても宇宙で操縦が分からなかったり俺が直接やって見せたりすることがあったらその場で乗り換えたりしないと行けないんだ。何より俺は君を預かっている立場なんだ。何かあったらポメラニアンズの面々に迷惑をかけるからパイロットスーツは着てくれ。無理であるならこのまま帰ってくれ」
まるで自分の考えを読んだかのようにアムロはマチュへパイロットスーツを着るように促した。
「…(やっぱり私の考えを読んでいる。普通に見えるのに不思議な人だなぁ、シュウジみたい)分かりました」
「…皆さん怒ったり恨んだらして居なかったですね」
更衣室の外からアムロに話しかける。少し前まで戦いましてや対戦相手を殺した奴のマブがここに来たのだ正直何かキツイことを言われるかとも思った程だ。
「彼女は外様だからな。そこまで親しくも無かったんだろう。…それに」
「それに?」
「…これは賭け試合だからな戦争じゃない。思うことがあっても自己責任で飲み込めるものなのかもな。俺から見てもクランバトルは軽く感じる」
「軽い?」
「ああ、何処までもお遊び、実戦じゃあない。だから軽く感じるんだろうな、一年戦争から5年経ったらしいが随分と平和なもんだ」
「うん?…ジオン独立戦争のことを言っています?」
「…ああ、そう言えばそうも言うんだったな。あとどれくらいこれが続いてくれるんだろうな」
そう言うアムロの声は何処か複雑そうで同時に何処か諦めと諦観の感情をマチュは感じ取った。
「平和が続かないって、アムロさんは思っているんですか?」
「続いて欲しい。そしてそのまま自分達の意思で地球への重力から抜け出して欲しいところだな」
「・・・」
「終わったか問題は無いか?」
オレンジの連邦軍のパイロットスーツを着たマチュを見てサイズが合っているか聞いてきた。
「問題ないです。早く始めましょう」
「よし、着いてきてくれ保管庫はこっちだ」
二人はMS保管庫へと足を運んだ。保管庫にはジオン独立戦争時代に連邦軍が量産した軽キャノンが何機もの保管されていた。
「マチュ、コッチの軽キャノンが空いているからこっちに乗ってくれ」
「あっ、はい!」
空いている軽キャノンにマチュを案内させアムロはどう動かせば良いか操作書を片手にレクチャーさせた。
「筋が良いな。マチュは良いパイロットになれるよ」
「そうかなぁ、別にそこまで興味はないかな」
「そうか、俺も軽キャノンに乗るから着いてきてくれ」
そう言い近くにあった肩が白く塗装されている軽キャノンにアムロは乗り込んだ。
「他のと違うんだ」
思わずマチュがそう言うと隣からボカタが乗った軽キャノンが声をかけて来る。
『ハハッ、あれはアムロさん専用と言うかウチのバスの新技術のデータ取り用の機体なんだ』
「新技術?」
『ああ、正直専門用語ばかりで皆ちんぷんかんぷん何だけど、ウチのボスは元々連邦の技術士官とかでさ、戦後のあれこれで予算削られたとか何とかで連邦に愛想がついちゃったらしくてさ、ここは実戦のデータを取るには丁度いいって言ってたよ』
「へー、それとアムロさんとはどう言う関係があるの?」
『簡単な話だよ。扱いにくくてシャレにならない。アムロさんや魔女さんぐらいだよあの技術を機体全身に施されたMSを乗り回すのは、実験のための訓練ならいざ知らず、実戦や死ぬかもしれないクランバトルに持ち出す機体じゃないから間違って乗ってしまわないようにああして塗装しているのさ』
「ふーん」
どんな技術かは知らないがただのジャンク屋に過ぎない人が他の企業にここまで信用されているのかぁ、とマチュが思っていると二人の話に興味を持ったのかアムロが声をかけて来る。
『この機体に使われている技術が気になったかマチュ?』
「うーん、そんなに凄いんですか?」
『ああ、細かく言っても分からないだろうから簡単に言えば駆動系の技術だ。昔の友人の言葉を借りれば機械に油を刺して動きを良くする技術だ。これから恐らくこの時代において必要な技術になるはずだ』
「そうなんですか?別に戦争なんて起きてないし凄いMSとか必要なんですか?」
「恨みを晴らしてもされた側が恨みを溜め込むだけだ」
一年戦争がジオンの勝利で終わりジオン残党による反乱などが起きてない。スペースノイドによるアースノイドへの長き憎しみはこれで終わりでは無いが一つの区切りが着いたのだろう。・・・だが、逆にジオンが残した憎しみは時間程度で無くなるとはアムロは思ってない。
ジオン残党のような自分勝手な一方的な大義を掲げるような連中はグッと減っただろうがコロニー落としを始めとする大義のための犠牲になったような人間は山のようにいるだろうし、戦争に勝ったとはいえ旧式となり戦闘デバイスを外したザクだけでは無く。民間警備会社とは言え今でも使っているゲルググでさえ売るほどにジオンは疲弊している。
ここ、サイド6を始め多くのコロニーでは自立するべきだと考える人間は多い。ジオンが勝ったせいでコロニーの多くは連邦が管理する事もできず軍警察のような独立した軍が生まれている以上いずれ力を付けたコロニーが他のコロニーを襲うような事もあるだろう。
…そして何より、連邦は地球で今も戦力を蓄えている真っ最中だろう。長くてもあと数年もすれば自分の世界にいたティターンズのような過激なタカ派がジオンに対して宣戦布告を仕掛けるだろう。
ジオンが勝ってもNTが平和に生きれる世界が生まれるのは難しいだろうなと残念がるアムロの事など目の前の軽キャノンに乗るマチュは分からぬだろうが。
『間も無くサイド6の領域から離れる。そしたら出るぞ良いなマチュ?』
「…えっと、分かりました。取り敢えず外出たらどうすれば良いんですか?」
マチュが了承すると同時に宇宙船のハッチが開き黒と石の世界が広がる。
『先ずはソイツに慣れるところからだな。―――アムロ、軽キャノン出る!!』
そう言いアムロが乗る軽キャノンがカタパルトから飛び出す。
「えっと、…マチュ、軽キャノン・・・出ます!…ッッッ〜!!?」
アムロに倣って言ったのを問題なしと判断したのかカタパルトが動きマチュが乗る軽キャノンが射出され強いGがマチュを襲いマチュが乗る軽キャノンは宇宙へと飛び出していく。
修行編長くなったなぁ・・・オイさっさと進めてサイコガンダム辺りまで行きたいものです。
次回も頑張って書きますので感想評価コメントよろしくお願いいたします。