戦火の心臓 作:Navi
スチードへ帰還した2人は服装を整え、大佐の下へ足を運ばせていた。
数日前に少佐と共に訪れた部屋の扉を開けると、部屋の中には壁に沿って並んで立つ屈強な身体つきの隊員といつものように椅子に座って2人を待っていた大佐の姿があった。
「(…す、すごい圧迫感があります…)」
「…2人とも問題なく戻ってきてくれましたね?無事で何よりです…」
「そう言ってもらい、感謝する。早速今回の
スティラは相も変わらず周りから向けられている視線に気まずさを覚えていたが、隣に立つ猟犬は姿勢を伸ばしたまま大佐の正面に立って口を開いた。
淡々とした口調の猟犬から今回の戦闘の詳細な報告、
「…以上が
「そうなりますね…少佐には早めに、引き続き警戒を続けるよう伝えておきましょうか。しかし、レーヴルからハインドレートまですぐに駆けつけるとは…以前よりも戦況の読みが良くなりましたね?」
「『より多くの戦場に降り立ち、敵を殺す事が
「…ええ。良くできていましたよ?ですがその後に通信機から返答が返って来なかったのにはこちらも焦りました…貴方もよっぽど急いでハインドレートへ向かっていたんですね?」
「連絡を返さなかったことについては謝罪する…そうだな?こちらも報告を聞いて周りの音が聞き取れないほどの状態で、何故ハインドレートに向かっていた理由についてはよく分かっていないのが正直なところだ。だが、次からは意識を1つに向けすぎないようにしよう。」
「……すみません…私のせいで…」
「これはこちらの不手際だ。スティラが謝罪する必要はない。」
「……なるほど、分かりました。…特にスティラには本当に迷惑をかけてしまいました。
「い、いえいえ!ハリ…猟犬がすぐに援護に来てくれたため大きな影響はありませんでした!あ、頭を下げてもらわなくても大丈夫です…!…むしろ…猟犬はたった1人であの数を相手取ったのに私は…」
首を折っての謝罪を行った大佐を見て、スティラは慌てて自身の無事について早口で話をした。
本来の目的であった
実際は大佐の言う通り、生死の境を渡り続けるような戦いに1人で放り込まれていたことになっていたため、こうしてスティラが感じるよりも大佐は事態を重く受け止めていた。
しかしスティラはそこに対して特に深く思うところはない様子であり、むしろ自身の力不足を嘆いていた。
「本来私が言うべきじゃないですが…そこまで気を落とさないで下さいね?慰めにならないかもしれないですが、猟犬は他者とは比べることができないほどの根本的に違う力を持っていますからね?」
「うう…はい…それをありありと見せつけられて身に染みて感じています……でも、やはり想定外の事態に対応しきれなかった自分が不甲斐なく…」
気を落としたスティラを見た大佐は指を二本立てながら緩めた笑みを向けた。
続けて諭すような口調でスティラの抱えているものに触れるように口を開いた。
「…スティラ。己の力不足を痛感し、他者と比べて自身が優っている部分を探し出してそれを磨き上げるのは確かに大事なことです。ですが…それよりも重要なのは、まずは自身に与えられた使命を全うする事ですよ?」
「……はい…」
「私たちは人間ですから、誰もが必ず欠点や美点というものを持っています。それこそやることなす事の全てが完璧な人間は存在しないと断言できますしね?だからこそ私たちは互いに欠点を補うようにするために他者に目を向け、歯を食いしばって生き、経験を積み重ねることで自分を見つめる事ができます。」
「欠点の補い…ですか?」
「ええ。猟犬1人では補いきれないことは山ほど存在しますからね?」
大佐が語ったのは、スティラという存在がどれほどまで
特に強調して語られたのは、スティラがスチードに来たことによる影響の大きさについてであった。
「猟犬という力のみでは今回のような広い侵攻を食い止めるための被害が広まっていた可能性が大いにあります。この国は過去の影響で
「………」
「だからこそ、貴方には貴方が思っている以上の影響があることを心に留めて置いてください。貴方ほどの力は、スチードにとってなくてはならないものですからね?猟犬もそう思いますよね?」
ゆったりとした口調から話の方向を急転換させてきた大佐は猟犬に対して返答を求めた。
質問を向けられた猟犬はピクリと眉を動かしたが、その場にいた人間全員から視線を向けられていたこともあり、一度開こうとしていた口を閉じて間隔を空けた後に自身の思っていた事を言葉にした。
「…ああ。今回のようなレーヴルとハインドレートからの侵攻は片方を切って被害を広げるという可能性の選択肢を常に持たないといけない状況だ…そういった部分から考えても、スティラの存在は有難いと思えるものだ。」
「…!は、はい…そう仰っていただけて光栄です!猟犬もありがとうございます…!」
「元気が戻ったようで何よりです。ふぅ…そろそろ話し合いも終わりましょうか?…改めて今回も
「はい!感謝申し上げます、大佐!」
「では、こちらはこれで失礼する。
「わかりました。そのつもりでこちらも警戒をしていますね?」
2人は軽く大佐や周りにいた隊員に対して目線を向けた後、錆びた音の鳴る扉を押し開けて部屋を後にした。
扉の閉まる音が鳴り響くと同時、部屋に充満していた張り詰めた空気が少しだけ柔らかいものとなって大佐に敬礼した後に部屋を出ていく者や通信機に向かって何かを話すといってそれぞれの行動が見られた。
その内の1人が指に髪を巻き付けながらどこか上の空になっていた大佐に対して声をかけた。
「…本当に2人のみで
「…そんなに褒めたって僕からあげられるものは何もないよ?でも、確かに2人は想像以上の働きをしてくれたね?…それでも途中の
「偵察隊の目にすらかからない場所からの侵攻だったようですし、無理はありません。…しかし、猟犬がレーヴルの軍隊を退けたと報告を入れるまでの時間、席を外しておられましたが何処にいたのですか?外に出ていたのを目にしたのですが…」
それを聞いた大佐は懐から通信機を取り出してぷらぷらと目の前で揺らしながらいたずらに再び頬を緩ませて笑ってみせた。
「ああ、直接
「…!だから少し慌てた様子で…すみません!こちらの機器の準備に不備が生じておりました…!こちらに指示さえ渡してもらえればすぐに向かっておりましたが…何故直接?」
「いやぁ…感覚の問題になるけど嫌じゃない?こっちの不備なのに君たちを向かわせるなんてさ?」
「い、いえ…!そんなことは…」
以前猟犬と少佐がスティラについての説明を受けるために訪れた場所であるλと呼ばれた建物。
そこに自身の不備で手に持っている通信機を忘れていたという説明をした大佐の顔は少し気まずそうなものになっていた。
「まあ、結果的には猟犬が直接向かってくれたし、後の処理も遅れて到着したβの部隊が済ませたみたいだから問題なかったから良かったよ。過程がどれだけ悪くても終わり良ければ全てよし…やっぱり結果論だけどそうなったでしょ?」
「はい…しかし今回の場合とは全くの逆の結末になる可能性も大いにありました。過程が良くても最後が悪くなれば全ては崩れ去る…少佐が常に我々にかけていた言葉のようになったことも…」
「あぁ…そうだね?さすがに今のは楽観的に見過ぎた発言だったね?」
「…っ!すみません、出過ぎたことを…!」
「ははは…いや、大丈夫だよ…でも本当に僕と彼の考え方って逆だよね?『あの時』からよく今までそれなりに噛み合って関係性が続いていると思うよ。本当に少佐は相変わらず…」
「……大佐…」
目を瞑り、つらつらと少佐と自身の考えの違いを引き合いに出しながら語る大佐であったが、横から悼むような感情がこもった隊員の言葉聞こえたことによって話すのを中断した。
声をかけられた大佐はスッと目を開けて申し訳なさそうに再度口を開いた。
「…おっと?流石にこの話は本人がいないとしてもするべきものではなかったね?取り敢えずは、僕から君たちを咎める気はない…むしろここでしたら僕の人としての尊厳がないからね?今回は自分の管理不足が原因だったし、別に気に止む必要は全くないよ。」
「…しかし…」
気にする必要はないと言ってみせた大佐であったが、隊員はまだ突っかかりがあるように言葉を言い淀んでいる様子であった。
それを見た大佐は頬杖をつきながらじっと悩んでいる様子の隊員を見ながら言葉を口にした。
「…そうは言っても、まだ気が重いようだね?それなら…そうだね?これから全うすべきことがあるのなら、僕たちは自分が持てる全部を使っていこう。それが戦場に立つ人間に対する敬意であり、僕たちの…国を思う者に課せられる使命であるからね?」
「…!大佐…はい!そのお言葉…刻んで精進していきます!スチードや我々に対してその想いを抱えてくれているのは嬉しい限りです…!」
「…そっか。戦場に立たない僕が出来るのは扇動くらいだからね?そう言ってもらえるだけで有難いよ。」
表情に力強さが戻ったのを見届けた大佐は、その背を見送った後にふと天井を仰ぎ、ひとつ息を吐いた。
立場ある者にのしかかる様々な苦悩が滲んだそのため息の重さは、部屋に残っていた隊員たち全員に静かに伝わっていた。
「(…本当、立場ってのは厄介だね…こんな失態を自分がどのように受けてくれる部下は有難いけど、やっぱりこれからのことを思うと気が重いね…)…ああ、そういえばレーヴルから回収した
「…!?
「猟犬が派手に動いた影響でしょうね…確認された位置を猟犬から簡潔に伝えられましたがそれでも難航しているようです…」
「…しかし猟犬…淡々としていて不気味だったな…?まるで人を人と見ていないような悍ましさがあったっていうか…」
「(…!バカが…思ってても口に出すもんじゃないだろうが…)」
まだ部屋に残っていた部隊員に対して質問を投げ掛けると口を抑えながら話すその部隊員から返答が返ってきた。
それを聞き終えた大佐は気怠そうにしながら身体を伸ばして立ち上がり、軍事帽を被り直して部屋の扉に向かって歩いていっていたが小さく猟犬に対しての感情が漏れ出た言葉を聞き取った。
その言葉を聞いた大佐はピタリと動かしていた足を止めてポツリと小さく言葉を発した。
「…そっか。やっぱり君たちもそう思っちゃうか…」
「「「……!?」」」
先ほどの大きく変わった空気を締め付けるような声色が聞こえてきたことによって残っていた隊員たちの目の色が一気に変わった。
しかし大佐は振り返るようなことをせずに再び上に身体を伸ばし、纏った雰囲気を言葉を発する前のもの戻して扉のノブに手をかけながら面倒くさそうに口を開いた。
「(…今回は……そうか…後で向かうか…)…はぁー、それにしても『上官たち』に会うのは憂鬱だなぁ…」
「お、お疲れ様です、大佐……ーー!?」
「報告書等の作成はこちらで済ましますので本日は……ぁっ…!!」
「…分かった。そこまでしてもらえて感謝するよ…本当に。」
背中越しからでも『忘れてくれ』と言わんばかりの明らかな温度差の激しい雰囲気の変化に他の隊員たちは息を呑んだ。
そして大佐から漏れ出た言葉を聞いて残っていた隊員たちは思わず労いの言葉をかけてその背中を見送ろうとしたが、言葉をその途中で詰まらせる。
何故なら部屋を出る際に横から見ることができた大佐の目つきは、様々な感情が込められた鋭さとなっていたからであり、隊員たちはそれに圧倒されていた。
大佐の姿が扉が閉まりきって見えなくなってしまうその直前に、隊員たちは反射的に焦りながらその後ろ姿に敬礼を送った。
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「…今回は本当にありがとうございました…ハリスさん。しっかりとした礼を言えていませんでした…」
「問題ない。むしろ不測の事態に直面したのにも関わらず後手に回らず対処してくれたことをこちらが感謝しなければならない。ハインドレートの防衛、改めて感謝するぞ、スティラ。」
「いえ、そんな…!…あの…気になっていたのですがこの道を辿っているということはもしかして…」
大佐からの報告を終えた2人は並んでスチードの道を歩いており、スティラからの礼に対して猟犬は大佐の言葉を受けてか感謝を述べた。
照れたような表情で猟犬の顔を覗き込んでいたスティラだったが、ふと周囲の建物が減り、森の方へと進んでいることに気づき、何かを察したように声をかける。
猟犬は背負っていた兵器の一本を両手で抱えるように持ち、薄く笑みを浮かべながら目線をその兵器に落としながら口を開いた。
「ああ。
「あっ…!い、いえ…実際にその兵器の一撃を受けて恐ろしいものというか、トラウマになっているというか…そういったものを感じてしまっているので、なんだか複雑な気分になってしまって…ハリスさんがそれを持っているのがこちらとしては…」
兵器に対して興味を示していることを把握できたスティラであったが、それでも自身を追い詰める原因となったものが目の前にあることに引きつったような苦笑を浮かべながらそう述べた。
猟犬はじっと自身が持っている兵器とスティラが背負っている兵器を何度か視線を移して見比べながら疑問の声を投げた。
「…?スティラはこれよりも強力な兵器を使っていたじゃないか?様々な面から見ても劣っていることの方が多いこの兵器がそれでも恐ろしいと感じるのか?」
「うっ…そ、そう言われたら言い返す言葉が出てきませんね…?…そうですよね…私の扱うこれはそれよりも恐ろしいもので…」
中々痛いところを突かれたためかスティラは背を小さく丸めて自身の背負う兵器に触れながら表情を暗くした。
かける言葉をまた間違えてしまったと察した猟犬は手に持つ兵器をスティラの視線から外し、少しの間考えを巡らせた後にピンときたように目線を上げて言葉をかけた。
理由は違えど、猟犬にとっての紙筒と同じように、スティラにとって兵器をただただ『嫌なもの』として捉えているのである。
「(…なるほど、そういうことか…)…スティラにとってこれは、こちらにとっての少佐の吸う紙筒のようなものなの…それなら済まない。こちらも配慮というものが足りていなかった。これからはあまりこの兵器をスティラの目に映らせないようにする。」
「(……紙筒…?)い、いえ…!そこまでしてもらわなくても大丈夫ですよ…!?ハリスさんが武器類に対して強い興味を持っているのはこちらも把握しています…!こちらの都合でその気持ちを奪うわけには…」
納得したように頷きながら言葉を口にした猟犬であったが、スティラは途中に出てきた言葉に疑問を向けながら必死に手を横に振っていた。
しかし猟犬はそんなスティラに視線を向けながら記憶の中から引っ張り出して来た言葉を語った。
「問題ない。少佐曰く、肯定ばかりの言葉を口にして否定の感情を自身に溜め続けるのは作り笑顔で毒を飲み続けるのと同義だということらしい。こちらとしてはスティラが嫌と言ってくれたことに対してむしろ良かったと思っている。」
「へ、へぇ…少佐はハリスさんに様々なことを教えてくれているんですね…?ちなみにですが…その言葉の…えっと…本質と言いますか…意味については…?」
少佐から聞いた言葉ということを聞いたスティラは首を縦に振りながらも、猟犬に対してさらに明確な解釈はあるのかと尋ねてきた。
だが、猟犬から返ってきたのは首を横に振る動作と否定の言葉であった。
「…よく分からないな?こちらにとっては少佐や大佐の命令が全てだ。確かに本来は毒を飲んだら命を落とすが、否定をしないことがそれと同じ害になるという実感は沸かない……これを聞いて、スティラはこの言葉に意味を正しく捉えられているのか?」
「えっ!?い、いやぁ…私も本質的な部分については分からないかもです…うん、分からないです…!で、ですが…ありがとうございます。私を気遣ってくれているという思いは伝わりましたよ!」
「そうか。それならこちらもこの言葉をかけて良かったと思える。しかし凄いな…やはり少佐の言葉にはちゃんと大きな説得力があるんだな?」
スティラの顔に作ったわけではない笑顔が戻ってきたことで、改めて猟犬は少佐の言葉に言い表せない感銘の感情を浮かべていた。
今までは少佐と共に行動することがほとんどであり、日頃から向けられる言葉を理解はできていないというのがほとんどであった。
だがこうしてスティラに向けたことによって表情から暗い感情が消えたという事実があり、これに対して純粋な敬意を抱いていた。
ところがスティラは緊張したような表情を作りながら少佐の言葉を頭の中で反芻していた猟犬を見ていた。
「あの…ハリスさん。私は、少佐の言葉というよりも…ハリスさんがこうして気を遣ってくれたことが嬉しかったんです。」
「…ん?それはどういう意味なんだ?」
「えーっと…コルディセスでの
「…!…そうだったのか?」
少し申し訳なさそうにしながら話すスティラにかけられた言葉を受けて猟犬は足を止めて首を傾げながら聞き返した。
スティラは困ったような表情を作り、かけるべき言葉について思考しながらまた少しずつ言葉を紡ぎ始めた。
「最初は…そう、あの時です。…初めてハリスさんの姿を見た時、正直『恐ろしい』と思っていたんです。
「…確かにコルディセス奪還戦では、全てが終わった後に少佐にも苦言を言われたな?特に目と雰囲気が『いつにも増して悍ましかった』とさえ言われた。」
「……はい…私は
表情を固くしながらも、しかし今度は紡ぐ言葉に影を落とすことなくただ真っ直ぐに猟犬に視線を向けていた。
しかし、それでも自身の意思で下した命の取り合いを思い出すことになっているためか、少し震えていた指をもう片方の手で隠して後ろで組むように移動させた。
猟犬はその揺れ動きを見逃さずにスティラの意思を汲み取るようにしながら、ゆっくりと言葉を口にした。
「そうか…その感触がまだ残っているからこそ、人を殺すことに対しての抵抗感があるんだな?」
「不甲斐ないですが…そうです……残弾も抵抗の気力も無くなり、もう降伏するしかなくなった状況の私の前に…貴方が現れてくれたんです…!その…ハインドレートで初めて会った時の様子を見て覚えてないかもしれないですが…」
「……済まない。スティラ言われた通り、こちらは記憶にないかもしれない…」
表情や態度に極力出さないように意識していたが、それでも猟犬の目からは逃れられなかったことを申し訳なさそうにしながらコルディセスでの自身の状況や猟犬について話を続けた。
だが、これを聞いていた猟犬は頭を捻って少し考えるような所作をしていたが、スティラと同じように申し訳なさそうな顔をしながら謝罪の言葉を口にした。
「い、いえいえ!ハリスさんも
「…問題ない。こちらが向けられる視線のほとんどにはスティラが感じたものと同じものが含まれている。だからそれが当然のものだとこちらが受け取りさえすればそれでいいだけで…」
「っ…確かに!初めて見た時は怖かったです!命を2度も救ってくれた人に向ける言葉じゃないのは承知ですがそれでも…!今は全く違うんです!何を言っているんだと思うかもしれませんが、このまま聞いてください!お願いします!」
「…!あ、ああ…その通りにする…」
猟犬に対してただ悪いイメージとして刷り込まれる『恐ろしい』という言葉の代わりを必死に頭を働かせて探すスティラであったが、猟犬は困惑しつつも表情に色を持たせないまま変わらず問題ないと伝えてきた。
だが、逆にスティラはその言葉を受けたことによってどこか吹っ切れた様子のまま目を回し、次々と出てくる言葉を困惑した猟犬へとぶつけた。
「数日前にハインドレートで実質の初対面といった形になりましたが…今はあの時言ったように貴方を恐ろしい人だとは全く思っていません…!話して感じた優しさを感じる気遣いも!あの
「……そうなのか…?」
「はい!今日のハインドレートでの
「逆…?それはどう意味での逆だと…」
「はい!今だけは『感謝している』という意味で捉えて下さい!うん…こう言う意味のものだと見てもらえればこちらも助かります…!」
スティラ本人も自身の言葉の脈略が正しいのかどうか分からないほど焦りと言葉が止まらずにいるといった状況であった。
これには猟犬は表情を崩して心配するような顔になり、一度呼吸をおくように促すことしかできなかった。
言われたように深く呼吸を整えると、スティラは改めて焦点のあった目を猟犬に向けて陽の光を浴びて暖かさを感じる目を細めた笑顔を作って見せた。
「はぁ〜…色々と言葉にしましたが、結局私が言いたかったのは…この『嬉しい』って気持ちは、誰かの言葉を通してじゃなくて、貴方自身に向けた心からの感謝なんです…」
「…?こちら自身に?」
スティラに対して話した少佐の言葉ではなく自分自身に感謝しているという言葉を聞いて再び疑問の言葉を投げかけた。
これまでのスティラの言葉を聞いてみても、こうして誰かから感謝の言葉を向けられるということを実感したことがないのが
「(分からない…誰かにこうした言葉を受け取るのも…今まで感じたことのないものだ……これは一体…)」
「…ハリスさん。」
名前を呼ばれた方を見ると、猟犬の目の前にある陽の光を取り込んだ瞳はさらに優しくも明るい光を向けていた。
モヤモヤと増幅する取っ掛かりに奇妙な感情を覚えていた猟犬であったがスティラはそれに気付かず、むしろたった今生じたそれを覆うような意思のこもった目と言葉を向けた。
「私の知る貴方の…自分の中の意思に従って突き進み続ける貴方のままでいて下さい。私はそんな貴方を…誰かの前に立ち続ける貴方のことを心から尊敬しているんです!」
「………正直…分からないな…その言葉をどう受け取り、どういう言葉で表現して返せばいいのか……こちらには全く…」
「あっ…そ、そうですね…!?…この言葉を受けてくれるだけで大丈夫ですよ?ただずっと私から伝えたかったんです…貴方の隣に立つ強い人間として見てもらえるようにこの言葉を送りますね?」
猟犬の頭の中や心臓付近に広がる違和感は止まることなく肥大化していくが、未だに視線を自身を見つめてくる瞳から離せずにいた。
何でもいいから何かしらの言葉を出そうにも、小さく開いた口からは…
「(…まただ……やはり理解できない…スティラは、本当に何者なんだ…?)…………」
意思とは無関係に、何の言葉も出てこなかった。