戦火の心臓 作:Navi
スチードの中央に一際目立つように立っている建物のさらに一室。
この国の建物の中でどこよりも広いその一室の中には夕刻の陽がほとんど届かず、天井に灯された照明も意図的に絞られている。
重厚な椅子に深く腰掛ける2人の人物の姿は、薄暗がりの中でほとんど輪郭しか見えず、顔の表情までは正確には窺い知れなかった。
「あの猟犬とコルディセスの雑兵が上手くやってくれたみたいだな?ハハハッ、色々あったみたいだが、今回も
「…そうですね?2人の話を聞く限り、ギリギリであったのは事実です。危うくスティラを失うところまで
「ハッ、その過程などどうでもいい。そこで死ぬような奴ならその程度だったってだけだ。それにあのクソ共に殺意のあるコルディセスの駒なんて代わりはいくらでもいるだろうからなぁ?」
「………」
この国の建物の中でどこよりも広いその一室の中で、のけぞるように構えて座る人物は目の前に立つ大佐に対し、生々しい肉の色を見せる肌を露わにしながら不快な笑みを浮かべて笑う。
それに対して物静かな雰囲気のまま、それでいて感情の抜け落ちたかのように淡々とした態度でそれに接する大佐の目は、沈みかけた日の光が届かずに暗い影を落としていた。
「それにしても
「………そうですね…ひとつ聞いてもよろしいでしょうか?多くの人間が死に怯えるこの戦い…いつ終わりが来ると思いますか?」
「…あぁ?」
その口調に感情はなかったが、問いかけの中には確かな意志がある。
大佐は静かに、だが決して曖昧にせずに言葉を選んで問いかけを行った、
そんな大佐に大佐に対し、目の前の人物は深く足を組みあくびを噛み殺しながらまるで他人事のようにこう言う。
「…まっ、絶対に来ることは確定しているが、ここまで来たら終わりは片方が死に絶えるまでだろうな?前に言ったみたいに戦争は駒の取り合い、そしてその駒を奪い切り全てが手に入るまで支配と解放を繰り返すだけのものだしな?…んで、こっちはその様子を存分に愉しむものだろ?」
「………」
大佐はそのように言われた目の前の人物には視線を向けず、目も口も動かさずにじっとその場に立ち尽くしていた。
自身と同じ戦場に立つ事がない人間の言葉であっても、ここまで煮えるような不快感を生じさせることがあるのかと顔に出さないように意識しつつも、内心では愚痴をこぼしそうになる。
「…報告ご苦労、大佐。猟犬や他の状況についてはこちらも把握した…… それにしてもお前は相変わらず言葉の棘だけはご立派だな?」
「……!」
その時、さらに離れた位置に座っていた男が、大佐に向かって重みのある声を発した。
声の主に視線を向けた大佐は、その暗い先から向けられた鋭く澄んだ眼差しと威容にわずかに姿勢を正す。
声のした方に視線を向けた大佐はすぐに一言返答を行うが、目の前に足を組みながら深く座っていた人物は不快そうに眉をひそめながら自分に向けられた言葉に噛みついた。
「……あぁ?俺は事実を言っただけだろうが、ジジイ…」
「なら、以前のように戦場に立場を捨てて再度立つことになれば、お前の言う感情はもっと湧き出てくるんじゃないか?いつになるかは分からないが、またお前は求められることになるぞ?」
その返答に大佐の前にいた人物の口元がピクリと引きつり、冗談めかした態度がわずかに崩れる。
それは『忌避すべき何か』から逃れるために人が見せる様子の変化であった。
「…チッ、んな理由で戦場に立つことになるのは御免だな?こっちはまだ命が惜しいんでなぁ?」
大佐の目の前にいた人物はケラケラと吊り上げたような笑みを浮かべる。
その返しにもう1人の人物は特に言葉を返さずに、視線を再び口を閉じていた大佐へと向けた。
「…しかしお前は『英雄の片割れの代役』としてこの国へやって来て、今日までその読みの力を存分に振るってきた。
「お褒め頂き光栄です…しかし自分がいなくともその方……そして少佐の与える影響の大きさは想像以上ですよ。人望や純粋な戦場での戦いぶりはとても自分にはとても及びません。」
「それはもう過去の、摘まれた虚像だ。もうかつて英雄と呼ばれた男は廃れて死んだのはお前でも分かっているだろう?だからお前の提案を受けてその代わりとなる猟犬を作らせた…結果としては上々で、こちらも嬉しいものになっているな?」
「…はい。」
「ククク…なぁ?こうは言っているがお前だって死ぬほど憎んでいるんだろー?
「……!」
「おっと、お前にとってはまだ触れてほしく無い内容だったか?だが、この事実が薄れる事は決してないはずだぞ…なぁ?」
窓から差し込んでくる日の光はその暖かを感じなくなるほど深くまで沈み始めていた。
凍てついた空気が部屋を満たし、呼吸音すら吸い込まれるように沈黙へと溶けていく。
2人の人間から向けられた言葉を受けた大佐はしばらくその場で視線を落としていたが、顔を上げると同時にその表情を狂気を感じるほど歪んだ笑みとして向けた。
「…ええ?今すぐにでも殺したくてウズウズしていますよ?終わりませんよ…いや絶対に終わらせない…!まだこの程度じゃ全然足りない…この恨みは死肉を戦火に焚べるまで決して収まるものではないでしょう!!」
その言葉を吐き捨てるように残し、大佐は背を向けて部屋を後にした。
凍えた廊下を踏みしめる足音だけが、冷たい空気に微かに響いていく。
押し殺すように、苦悶の笑みを無理に消した顔はもはや他者を映さない。
「………クソッ…」
その目の奥に滲んでいる光は不安定に、消えかけた蝋燭の火のようにゆらゆらと揺れ動いていた。
*******
「…失礼するぞアトマ。今日も来させてもらった。」
「…!はいはーい…いらっしゃい、ハリス…あっ、スティラも来たんだね?」
日が沈みかけ、藍色の空が広がり出したことでスチードに夜が訪れようとしていた。
目的地に到着した猟犬は橙色の空を背に、森の中に佇んでいた小屋の扉に声をかけると空と同じような色の髪をボサボサにしながらアトマが顔を出してきた。
嬉しそうに笑みを浮かべながら猟犬に視線を送っているとその後ろにいたスティラの気配にも気づき、手を振ってみせた。
「こんにちは…いや、時間帯的には別の挨拶をするべきですか…というわけでこんばんは、アトマさん!」
「こ、こんばんは〜…変わらず元気がいいね、スティラは…?それにしてもレーヴルとハインドレートから同時の侵攻を受けたって聞いていたから流石に不安になったよ…2人とも無事そうで良かったよ…」
「……ん、ああ…そうだな?」
アトマは安心したように笑みを浮かべると、顔を引っ込めた。
猟犬とスティラはそれに続いて、異質な内装の小屋の中へと足を踏み入れる。
心配の声を受けた猟犬は気が抜けたようにぼうっとした表情のまま言葉を口にした。
2人を中に招いたアトマは髪を手で解かしながら振り返ると、何かに気づいたようにキョロキョロと顔を動かし続けているスティラへ視線を向けた。
「…今日の戦闘はあまり激しくなかったの……あっ。いや、スティラの服装が変わっているってことは…」
「…!あはは…ちょっと海に飛び込むことになってしまって…やっぱりコルディセスに属している私がスチードの軍服を着ているのは変ですよね…?」
「い、いや!そんなことないよ!?…ねぇ、ハリス。もしかして…少佐が言っていたことを?」
「…?ああ…そうだな?以前少佐に戦闘後は服装だけでも整えろと言われたからな?それにアトマにもあそこまで驚かれた…そうならないためにもスティラにも少佐からの命令を実行してもらった訳だ。」
「あぁ…ははは……そ、そっか〜…」
困ったような顔をしながら猟犬の言葉に納得の色を示したアトマ。
そんな2人の会話を聞きながらもその具体的な内容が浮かび上がってきていないスティラはそろりとアトマの隣へ移動してきた。
「(あ、あの…ハリスさんが言っているアトマさんが驚いたことっていうのは一体何なのでしょうか?)」
「…!?え、えーっと…それは…ね…」
スティラがこっそりと問いかけると、アトマは一瞬口を開きかけた。
しかし、あの時の光景が脳裏に蘇り、顔を青ざめさせて身震いする。
この原因となったのは数日前のことだった。
単独で
「(…やっぱり……あれはさすがに…)」
久々の再会に内心、心を踊らせながら声の聞こえた扉を開けたのだが、その先から自身の目の前に血だらけの猟犬が現れたことによって、森の静寂を切り裂くほどの絶叫を上げたということをありありと思い出していた。
ついに自分の目の前に、猟犬に撃ち殺されて戦場で散った幽霊が化けて出てきたのかと錯覚するほどのその風貌は、未だにアトマの中にトラウマになるようなものとして深く刻まれていた。
「(ア、アトマ…さん?)」
「(…!?…ごめんね…話そうと思ったけどやっぱりあんまり知らない方がいいかも…)」
「(……えっ…?)」
「(これ以上…僕みたいな犠牲者を増やすのは流石にマズイからさ…ごめん…!)」
重くなった口からたどたどしい口調で小さくスティラにそう返したアトマは、考え事をしながらぼうっとしている猟犬に対して改めて視線を向けて呼吸を整えた。
想定外の反応が返ってきたためかスティラはアトマの言葉を受けてしばらく固まっていたが、ハッと意識を戻すと頭の中を急速に整理し始めた。
「(そ…そこまで口をつぐんでしまうほどのことなんですか…!?あ、あれ…?てっきりもう少し軽い内容の話が来ると思っていたのに…いつの間にかここまで重く感じる内容になって…)」
突如として冷えて固まった空気が巻き起こる。
その気まずさに耐えかねたスティラはわざとらしく声を張り上げ、無理やり話題を転換しにかかった。
「(…いや、そうですよ…!こんな空気だからこそすぐに内容を変えないと…!)あー、あー!アトマさんはどうですかね、この軍服を来た私の姿は!?これでしっかりとスチードの隊員として見られますかね…!?」
これ以上は踏み込んではいけないと直感で感じ取ったスティラは、話の内容を戻してその場で背を伸ばしながらぎこちなく一回転した。
その様子の移り変わりからスティラの考えを読み取ったアトマは、焦りつつも首を縦に振りながら手を叩いて口を開いた。
「ああ!スチードの軍服ね!?いやぁ、やっぱり似合っていると思うよ!?……うん…ハリスや少佐もそうだけど、やっぱり戦場に立つ人が着ると絵になるね!」
「…!そう言ってもらえて良かったです!コルディセスのものよりも体感になりますが、何だか動きやすいように感じますし…」
最初こそ空気を変えようと口にしていたアトマだったが、話すうちにその言葉には自然と本心が混じり始める。
スティラや、同じように軍服を着る猟犬への純粋な賞賛は、場の空気を少しずつ和らげていった。
その言葉を受けたスティラは、少し照れながらも嬉しそうに笑顔を見せ、素直にアトマへ感謝を伝えた。
「(スティラ、スチードの軍服が結構気に入ってるみたいだね…?)んんっ…ああ、それでハリス、今日はどうしたここまで?あの兵器の軽量化については…こっちでも色々試しているけどまだ進展はあまりなくてさ…」
一度咳払いを行いながらアトマは話の内容を変えて猟犬へ視線を移した。
未だにどこか上の空の猟犬はその声に反応してここで初めてアトマの元へ訪れた理由を話すために口を開いた。
「…ん、ああ…今回の
「…!…へえ?中々興味深いものを持ってきたんだね?なるほどー…ちょっと僕の方でも見たいから少しの間預けてくれないかな?」
「ああ、こちらもそのつもりでいたからな?構造や改良をいつも通りしてくれるとこちらも嬉しい。」
「ふふふ、まっかせてよ!当分は
笑みを浮かべながら話をする2人の様子を近くで見ていたスティラは穏やかな顔つきになる。
まだ初めて出会ってから数日しか経っていないが、それでもこうしてイエラは自分の目で見た2人の関係性について理解が及んできていた。
「やはり、二人は本当に兵器といいますか…武器について強い興味を持っているんですね?私のこれを見ていた時も目の輝きが増していたのを感じました。」
「そ、そうだね…!…僕は、ちょっと戦場に立つには不向きな身体でこんなことくらいしか出来ないけど、それでも少しでも貢献ができればいいなって思ってね…?」
「…!……そう…なんですね…」
「そういえば、ハリスがここまで興味を持つようになったのは…うーん、やっぱり僕が原因なのかな…?」
「…そうだな?初めてアトマの所に連れてこられた時はこちらもワクワクさせてもらった。戦場に立つからにはあらゆる手を尽くし、競り勝つ必要がある…だが、アトマの作る兵器はそんな未知の技術者などを多く持つ
「…!!へへ…やっぱり僕なんかよりも力を持っている君がそう言ってくれるだけで僕もすごく嬉しいよ…!うん…それだけでも、スチードを守るための力になれているのが実感できるからね?」
「…?そんな事はないはずだ。アトマこそこちらよりもこの国に貢献しているはずだからな?」
互いに譲り合うように言葉を交わす猟犬とアトマ。
それを見ているスティラの目にはどこか羨望の色を含んでいた。
「…あはは…2人は親友のような仲なんですね?…やはりこうして互いに讃えあうのはとても良いことだと思いますよ!」
「い、いやいやぁ…う、嬉しいけど…そう言われるとやっぱり照れるね…?」
「(……親友…アトマと?)………良いな。」
「…!あ、あのアトマさん…1つお聞きしたい事が…」
「…?えっと…何かな…?」
スティラの言葉を受けて再び慌てるような態度になったアトマであったが、その隣で猟犬は再びぼうっと何か考え込むような表情になって固まりながらも、小さく口元を緩ませながら言葉を口にした。
その様子を見たスティラはこっそりとアトマに近づいて会話を行っていたが、猟犬はそれに気付かないほど意識が逸れていた。
「…!!いや……ぇ…」
「…突然こんなこと言うのは迷惑なのは、私も承知しています…で、ですが私は…」
「えーっと…うん、分かった……それじゃあ、ハリス!君の理想となるようなものに仕上げるから楽しみにしててね!」
「…!…ああ、楽しみにしているぞ、アトマ。」
「スティラも…ハリスのこと、よろしくね?」
「……はい!それでは、私たちはこれで失礼します。」
意識を戻し、アトマの言葉に嬉しそうな反応を見せた猟犬は、スティラと共にアトマのいる小屋を後にする。
結局、自身の中で生じたそのざわつきに対して明確な答えを出せないまま日が落ち切るまで時間を過ごし、その日はそれぞれ解散する流れとなったのだった。
その後、この出来事が原因で猟犬は少佐に対しての報告を怠り、後日釘を刺されることになる。
*******
眠っていた猟犬の耳に、小さなノックの音が届いた。
まだぼんやりとした瞼を開いた猟犬がまず感じたのは、必要以上に眠ってしまったことへの焦りだった。
「(…しまった…)…ん……誰だ?」
快晴の空に朝日が暖かな光を放っている。
猟犬はその陽光を浴びながら、くたびれた服を引きずるようにして目を覚ました。
こんな時間まで眠ってしまったことへの嫌な圧迫感を抱きつつ、起き上がって扉を開けると、そこにはスチードの軍服に身を包んだスティラが立っていた。
「……スティラ?」
「…あっ、おはようございます、ハリスさん。こうして急に押しかけてきてすみません…しかし、思い立った時こそ行動すべきと直感が働いたためこうして尋ねさせてもらいました!」
「…また突然だな?しかし、この場所については伝えてなかったはずだがどうやってここまで来たんだ?」
「じ、実は昨日アトマさんからお聞きして〜…し、しかしやっぱり迷惑でしたかね…?こうしてハリスさんの眠りを妨げてしまったようですし…そうですね…はい!本日は出直します!」
まだ目を閉じながら寝ぼけたような姿の猟犬を見てスティラ背を向けて戻ろうとしていたが、その背中に向けて呼び止めるように声をかける。
「…いや、問題ない。
「(うっ…気を遣わせてしまいました…)で、ですが…それなら尚更…」
「…来た理由はこちらも分かっている。話の続きは中で行おう…今後の
「…あれ?あっ…ああっ!し、失礼します…!?(その話をしに来たわけじゃないのですが…!?しかしこう言われたからにはとりあえず…)…お邪魔します…」
周りに人の気配が無いことを確認した猟犬は部屋の中には再び戻っていきながら入ってくるようにスティラに告げた。
おずおずと申し訳なさそうに入ってきたスティラから話される内容について考えていた猟犬であったが、その予想とは裏腹にスティラからここへやって来た目的について聞かされるとポカンとした表情を浮かべた。
「……『こちらのことをさらによく知りたい』だと?」
「は、はいっ!昨日のアトマさんとハリスさんのやり取りを見て、私も思ったんです!信頼関係の構築は共に戦場に立つ上で重要なこと…これはその進展のための思いつきです!…というわけで、ハリスさんの1日密着させてもらえませんか…?」
「…あぁ、別に構わないが…」
猟犬の思っていた内容と違うことを考えてやって来たことを謝罪した後に話されたのは、拍子抜けするような軽く済ませる事ができそうなものであった。
その内容に内心戸惑いを隠せていなかったが、断る理由もなかったため、猟犬は足元にあった軍服を無造作に脇へ放るとその場へ腰を下ろした。
「す、すみません…ハリスさんの思っていた内容にならなくて…」
「いや、勝手に予測をしたことになるため謝罪すべきはこちらだ…それにスティラの言うことも理にかなっている。だが、こちらは命令のない限りは基本この場所から動く事はない。行動を起こすと言っても少佐に言われた兵器の点検を行うくらいだぞ?」
スティラを部屋の中に招き入れて唯一置かれていたテーブルを挟んで会話する猟犬は、開口一番に謝罪とそう言葉を口にした。
部屋の壁に丁寧にかけられた兵器や散乱している生活感の溢れる部屋の中をキョロキョロと視線を移して見ていたスティラであったが、猟犬から告げられたその言葉を聞いて納得しつつも悩んだ表情を作った。
「そ、そうですか…(どうしましょう…私は武器に対する知識があまりないんですが…)…あっ、そうです!ではっ!ハリスさんの強さの原動力となるはずの食べ物について聞きたいです…!えっと…普段は一体何を?」
「ああ、それならそこの箱に詰められている軍用食だ。常に
猟犬が向けた視線の先にあったのは箱詰めになった軍から支給された携帯食であった。
味についてはお世辞にも美味しいとは言えないものであったのを思い出したスティラは、猟犬がそれを主食としていることに苦笑いを浮かべた。
「な、なるほどぉ…それでは…えーっと…そうです!趣味などは何か…」
「…無いな?強いて言うなら武器類の点検がそれに該当するだろう。」
「ほ、ほう…で、では戦場に赴かないこんな日は何を…」
「それこそ、
「それは…こんな雲一つない快晴でもどこにも動かずにここにいるだけですか…?」
「ああ。先ほども言った通り、命令があれば随時それに従っているが、基本ここから動く事はないな?」
「じゃ、じゃあ……あっ!あの無駄のない動きは一体どのようにしたら…?!」
「やはり実際に戦場に立つ事だと考える。こちらはそれで動きが磨かれた自覚を持っているが、これはスティラも共感できるはずだ。」
「た、確かに出来ます…けど…!……そうです!では最近嬉しかったことは…!?」
「
「感動した事は……」
「…無いな。嬉しいと感動の互いがよく分からないが、同じと捉えるなら答えとして出ているな?」
「うっ…うぅ……つ、次は…」
猟犬から返ってくる答えは、すべてが機械のように冷静で簡潔だった。
会話を広げようにもその内容は戦争という枠を越えず、どうにも壁を感じさせるものであり、ついにスティラは目を線にして頭をテーブルの上に付けて唸り声をあげた。
向けられた質問に対して思ったことを淡々と答えていただけの猟犬であったが、スティラの様子の変化を見て申し訳なさそうに口を開いた。
「…済まない…スティラの想定した受け答えをする事が出来ていないようだ…落胆させてしまったな?」
「…!いえ、そんなことは…!それにこうして押しかけておいて勝手に失望するようなことはしませんよ!?心配しないでください…!」
慌てて首と手を左右に振り、自分のせいだと懸命に弁明する。
しかし会話の広がりがあまり望めないこの状況。
2人の間には気まずい空気が流れていたが、猟犬はふと何かを思いついたように唸り続けるスティラへと目を向けた。
「…逆にスティラはどういった風に答えるんだ?こちらは今話したようにスティラにとってはあまり興味が惹かれない内容の話しか出来ない。だが、互いを知ると言うことが目的ならば、スティラから話しをすることによってそれを進展させることはできるんじゃないかと考える。」
「…え!?わ、私の話ですか…!?そう…ですね…」
猟犬からの想定外の質問に困り顔を作りながら返答を導くために頭を働かせた。
前に視線を移すとそこには口から出てくる言葉を無言でじっと待っている猟犬がおり、それを見たことによってスティラは加えて焦りの感情を顔に馴染ませた。
しばらくの間は互いに無言の時間が続いたが、スティラはふと窓から差し込んできた陽の光に目を細めながら見ると、顔から強張りをなくして自然と言葉を口に出す。
「…趣味…というほどのものじゃありませんが、私はこの青空の下を歩くのが好きです。銃弾が飛び交うこんな今だからこそなんだか…この空の色が戦場にいることを忘れさせてくれるほどより綺麗に見えて…」
「空の色…あまりそんなこと考えたことはなかったな?…だが、景観に目を向けて気分が良くなるのは、理解できるかもしれない。」
「…!…そうなんですか?」
「ああ。前に少佐に連れられてレーヴルから見下ろした景色は心地良いと感じたな?あの場所から見る空とハインドレートの景色は本当に良いものだ。」
「(レーヴル…スチードの背後に佇む山々でしたね…)そ、そうなんですか〜…あの高さから見る景色……私も気になるかもですね?」
陽の光を受けているためか、瞳に映る輝きが増したのを見た猟犬は図らずもあることが頭の中に浮かんできた。
自身が少佐に対して向けていた感情の変化を感じたあの場所なら、モヤモヤと浮かんでいた言葉にできない違和感を解消出来るのではないかと思い立った。
「レーヴルから見下ろすスチードの景色に興味はあるのか…ならばスティラ。それならこちらがその場所へ案内するというのはどうだ。」
「…?……!も、もしかして今話していた場所に…!?」
「ああ。こうして話を聞くだけではスティラの言うことを真に理解できたとは言えないからな?それに…あの景色を誰かにも見せたいからな?」
「た、確かに興味はありますが…でも…」
自分に合わせるために無理を言わせているのではないかと思うスティラはそれ以上の言葉を詰まらせた。
しかし猟犬はそれを読み取り、スティラの思っていることがあってこの提案をしたわけではないと告げて自身の考えを口にした。
「…それにこちらも気になっている事があり、それが解消できるかも知れない…だから、これは義務感によるものなどではなく、ただ自分の意志でそうしたいと思ったものだ。」
「…?気になっていること…ですか?」
「…だがこれは、うまく言葉で言い表す事ができないことだ。だからこそこちらも改めてレーヴルのその場所へ向かいたい…おそらく
「は、はい!私も、ハリスさんが興味を向けた場所にぜひ向かってみたいです!ふふ、本当に楽しみです〜!」
「(…!…まただ…)…そうか。それなら早急に向かおう。」
心を躍らせながら満遍の笑みを浮かべるスティラを見て、猟犬に再びざわつき浮かび上がってくる。
この違和感の解決に向けて静かにレーヴルへ向かう決意をしたのだった。