戦火の心臓 作:Navi
「いいか…!!このまま前線は保つようにしていろ!
「…っ…しっかしこの数はあっち側も本気だな…!まっじで……前回の撤退からここまで一気に攻め直してくるか、普通!?」
「口を動かして愚痴を吐いても
「わーかってるよ!!」
「りょ、了解…!!」
コルディセスから少し離れた荒野には無数の銃声や叫び声がこだましており、大量の人間が手に持つ武器の引き金を引いて火薬の匂いが漂う火花を散らしていた。
コルディセスを背に構える兵士たちの前には、多種多様な兵器を携えた
突如として再び大規模に始まった
「(まだ…地形の理はこちらにある…!狭い峡谷と自然の遮蔽物…だが、それでも相手の兵器の火力には抗えない…それでもここまで俺たちが抑え込められるとはな…!?)」
「っ…堂々と夜に奇襲をなんて思ってたのか、
「あんまり気を抜くなよ!こっちは分散している末端の足止めをしてるに過ぎない!まだまだ後方から増援が来ると思え!」
「だーから、分かってるって…!」
コルディセスは今回の大規模な侵攻の前に数回、規模としては小さいものであるが
しかし、数としては不利な状況であるにも関わらず全ての侵攻を防ぎ切ることができたその大きな要因の一つとして、ある人物の存在があった。
「はっ、はは!アイツら、また攻め手を変えられて慌てていたみたいですよ…!しかしスチードだけでなく、この国でも『英雄』と呼ばれている理由…あの人の言葉を聞いているだけでもそれが分かります…ね!」
「…ああ!本人はあまりいい顔はしないが、戦場での把握能力は大佐を除いたスチードの総力をあげても勝てないレベルだ…!それに加えて本人が戦場に立てば…」
「『ポイントA、Bに告ぐ!特に侵攻が激しいポイントC地点に『スチードの少佐』が向かった!繰り返す、ポイントCに…」
木々の間から足を進めようとしている
そして
「…!!(噂をすれば…!)」
「…よっし!アンタらの少佐が動いたなら指揮系統はそれぞれのポイントの人間に分割されたことになる…そんじゃあ、こっからは頼むぞ!」
「…ああ…!これより俺がこの地点の指揮を取る!防衛開始前の動きを取るよう注力しつつも、前線の維持と少佐のところへ1人として向かわせないようにするぞ!!(こちらは出来るだけ抑えます…少佐、どうかご無事で…!)」
報告を受けた隊員たちは動きを高めて散り散りになって
その場に残っていたスチードの軍服を身に付けていた隊員の1人は
*******
深紅に燃え広がる炎は木々を焼き尽くし、その下には息絶えたコルディセスの人間の多くの死体が転がっていた。
コルディセスを正面に捉えた
巨大な砲台から放たれる一撃は地面を深くまで抉り取り、何度も爆発音を響かせては延々と炎を広げている。
「…!前方にスチードの敵影!だが…たった1人だと?」
「…関係ない!こうして他の地点の動きが弱まっているのならすぐに焼き払ってでも……っ!?後方部隊!砲撃開始しろ…!」
突如として現れたスチードの軍服を身にまとう人物が現れたことで
しかしその煙の先から響いた銃声の音と同時に数人の隊員が倒れ、さらに続けて正面から煙を割って砲撃を食らわせたはずの人物が姿を現した。
その人物は、固まりかけた
「…!?(早…)」
「来るぞ…!!」
手の中に握られている銃口が火を噴くたび、
一気に表情に焦りが見え始めた
「(この隙間を縫うような今の動き…!)まさか…コイツが猟犬か…!?」
「いや…!猟犬はスチードのレーヴル山岳帯で姿が確認されているはずだ!今のは猟犬ではない別の人間なのは確実…!」
「なっ…!?それなら今のは一体…ぐっ!!」
向かってくる銃弾の発射地点に向かって一斉に攻撃が向けられるが、その隙間を掻い潜るように正確な銃撃が行われて次々と
さらに銃撃の間に投げ込まれた爆弾が砲台を持つ車輪の兵器を爆破させ、粉々に砕かれた周りにいた
陣形が崩れたタイミングを見計らってか、再び木々の隙間から飛び出した人影は地面に落ちていた
そうしてその人物が、直線上に進みながら進行方向にいる
動き回るその人影から目線を切らないようにしていた隊員たちは人影が飛び込んでいった方向に向けて銃撃を行ったが、その場にいた全員が消え隠れする人影に目を向けていたことによって足元の死体に隠れるように置かれていた爆弾に気づかないでいた。
「(奴は一体何者だ!?猟犬でもないのに何でこんな…っ!?)しまっ…」
意識を木々の影の先に向けていた
これには
そして最後の1人が心臓の動きを止めて地面に倒れ伏すと、焦げつく空気の中で立っているのは今まで
軍事帽を被り直した少佐はポケットから取り出した紙筒を咥え、先端に火をつけてそれを吸い込んで深く息と共に煙を吐き出した。
「はぁーー…無傷は流石に無理だったか…(…錆びた身体にしては、多少は削られたがぼちぼち動けたな…)」
今の戦闘で攻撃が掠って出血した腕の部位をなぞりながら小さく顔をしかめる。
そして、口の中に溜まった煙と共に再びため息をついたが、目つきを細めて睨みを効かせた表情となった。
「…!っと……
「…なっ!?こ、これは一体…いや、それよりも奴は……スチードの『英雄の片割れ』か…!?」
新たな足音と地面を削るような音が聞こえてきた事で、少佐は紙筒を燃え残る地面へ弾き飛ばし、転がる銃火器を拾って援軍の方向へ向き直った。
そして
だが、その中に一人、ニヤついた笑みを浮かべたまま歩み寄る人物がいた。
「…へえ?それならお前が無様に死んだあの人間の片割れ生き残りってことなのか?キヒヒ…とっくに恐怖で足を震わせて戦場に立つのを逃げてたか、気付かれずにどっか野垂れ死んでいたかと思っていたが…まさかここで会う事になるとはな?」
「……!(マルク中佐…!?)」
「…………ああ?」
この光景を目にしても歩みを止めずに向かってきた
しかしその言葉を聞いた少佐は目を細めながら心底不快そうな低い声を口から絞り出し、一切の表情を消したまま反射的に手に持っていた銃火器を歩み寄ってきた人物に突きつけた。
たった1人であっても、その押し潰すような威圧感だけでも後ろに控えていた
「…おっと、聞こえなかったか?…ああ、それともアレがトラウマにでもなって忘れたくて仕方ないからか?…それともこう呼ばれたいのか?虚像の英雄の皮を被った『黒狼』?」
「(…!この呼び名…まだいたのか?オレとアイツのことを知る
「…お前と同じ時間を生きた人間ってことだけ言っておこうか?しかし年増の人間の扱いが酷いのはどこも一緒みたいだ……だが、俺としてはまだ4年前の怨念がまだこうして戦場に縛り付けられていることに驚いたな?…殺した数に比べてお前は長生きしすぎだぞ…いい加減死んでくれよ……黒狼?」
飄々とした様子のその人物はじっと軍事帽の影の下から霞んだ橙色の目を向けて言葉を口にしたが、それを聞いた瞬間に少佐がまとう雰囲気がさらに大きく、威圧的なものに変化した。
少佐は敵意が感じ取れない目の前の人物に警戒心を高めており、特に自身の過去について把握している人間がまだ生きている事に表情から驚きを隠せていなかった。
しかし、すぐに漏れ出るように溢れていた驚きと殺意をスッと身体の奥に隠すようにし、最初の動き出しが読まれないように淡々とした様子で口を開いた。
「…お前の言う通りこっちはもう戦場という場所に立つことを避けて死んだ身だ。…だからオレとしてはこうして過去の火種を持ち込ませるのは勘弁させてほしいと思ってるんだが?それに長生きもなにも、今も昔も変わらない……オレたちがやっているのは命の取り合いだろ?」
「…おいおい、萎えるようなこと言うなよな?お前は、まだ
ピクリと眉を動かした少佐は持っていた銃火器をミシミシと音を立てて握り込んで、小さく息を整えた。
しかし、それでも煮え立つ感情を押し殺し、表情を変えぬまま
「……勘弁…してほしいな?オレは戦場に立つべき人間じゃなくなったんだ。人を殺すことの意味については…今はもう何も感じていないんだよ。」
「んん〜?なんだなんだ?聞いてた話から大人しくなったなぁ、黒狼?にしてもよくここまで…自分の国と片割れを何も守れなかった無価値な人間に堕ちたもんだ!ははははは!随分と…過去から逃げ続け、自分の代わりとして猟犬に血を浴びせ続けるのがお気に召しているらしいな?」
最初に対峙した時と比べても漏れ出ていた殺気が引き、明確に戦う気が無くなっている少佐の様子を見て、
それを受けた少佐は足元に転がっていた銃火器を足先に引っ掛けて立たせ、空いていたもう片方の手でそれを取って残弾が残り少なくなっていた方を背後に投げ捨てた。
ピリついた空気の変化は
「…いい加減その口を閉じろ…そして言葉の限度には気をつけろよ?お前が今回のコルディセスの侵攻で、中心のような立ち位置付けになっている人間のはずだ。故にまだ殺しはしない……これ以上足を進めるな。今すぐ全隊を連れて引き返せ。」
先程までは一切の戦う気を見せていない少佐であったが怒りの感情をぶつけられたためか、はたまた自身の過去や猟犬について触れられたためか、小さく息を吐いた。
だが、それでも視線の鋭さは隠しきれず、それが次の一手の予兆であることを
「……何言ってんだか…
「…………」
少佐の最終宣告に対し、
だがその時、少佐は一瞬の間も置かず、持っていた真紅に反射する銃火器をその男に向けて銃口を正確に定めた。
その瞳に揺れはなかった。
ただ、何度も何度も積み重ねられた殺意がまるで光のようにその眼に滲んでいるのがわかる。
「…はぁ〜……もういい…お前はその気色悪い顔と違って、脳みそのシワが足りてないみたいだな?」
「…!うおっと!(…挨拶にしちゃ、随分と殺意が剥き出しだな?)」
言葉が終わるや否や、少佐はその場から一瞬にして動き出した。
銃を一度下ろし、ほぼ無抵抗な立ち位置から、目にも止まらぬ速さで銃口を男に向けて引き金を引く。
その瞬間、
しかし、その銃弾はそれを計算していたかのように、さらに先に転がっていた手榴弾を撃ち抜く。
「…なっ!?」
「(狙いは…こっち…!?)」
それによって巻き起こった爆風は背後に待機していた他の
そして爆発と上がった砂煙に乗じて少佐は周りの死体から引き抜いた大量の手榴弾を、こちらの様子が見えていない後ろの
煙越しから響き渡る爆発音と衝撃によってどのようになっているのか様子が見えないでいたが、しばらくして煙が晴れる頃にはその場所に息のある
「いやぁ〜…やっぱり、そんな目がまだ出来るんだな、黒狼……死んだ奴も、きっと地獄から手を叩いて喜んで見てるんじゃないか?」
爆発に余波を受けながらも木々の間からカタカタと歩いてきたその人物は額からの出血を拭いながら再び笑みを浮かべた。
しかしその表情を向けられても少佐の瞳は変わらない。
殺意を押し殺し、猟犬と同じようなどこまでも暗い光を宿していた。
「…本当によく喋る奴だな?その空っぽの頭に穴を開けて血で満たしてやるよ……きっと今よりもマシな頭になるだろうな?」
「……キヒヒ!仮に血で満たしたとしても、お前の言うような頭にはならないだろうな!?繰り返し叩き込まれてきたはずだ……俺たちは命令を受けるだけの『駒』だろ?」
「……たしかに、そうだな?」
互いに相手に向ける感情の中から敵意以外のものが消え去り、その言葉が引き金となって激しい攻防が始まった。
最初に動きを見せたのは一度姿勢を低くとった少佐であり、荒い動き出しから真っ直ぐ
「……!」
だが、少佐はその銃弾の隙間を縫うように回避せず、最短距離で一気に詰めていく。
そして身体に銃弾を掠らせながらある程度の距離まで近づくと、向かってくる鉛の雨の隙間から銃撃を行った。
緊張の隙間を縫うような正確な銃撃であり、
それを逃さずに銃口を向けている少佐であったが、
「……っ!?」
「……へえ?今の避けれるのかよ?」
不意をついた攻撃ではあったが、少佐は向けられたこの凶弾に反応してみせた。
流れるような
それに気づいた
だが、その隙を逃さずに銃撃を避けることに注力していた少佐は地面を蹴り上げてその進行方向を大きく変え、爆発によって上がった煙を裂いて回避不可の距離まで迫っていた。
「(…!いない…)」
だが、その先にあったのは使い物にならなくなった兵器のみでありすぐに目を辺り一体に移して動きの警戒を行う。
すると、巻き上がった煙の横から他の銃火器を向けて
これには少佐も反応が遅れ、距離にして背の高さほどまで縮まっていたが、向けられた銃口に対して身体を無理矢理引いた少佐はギリギリでその銃撃を回避した。
「(…!これにも反応するか…)…ハハッ、ヒリつくな、黒狼!それにいきなりこっちの手を潰されるとは…な…!?」
「っ!本当によく口が回る奴だな…!このまま自分のペースで攻め続けられると思ってんのか?!(強い…
身体を逆方向に捻って体勢を立て直した少佐に対して、
そして少佐も受けるだけの動きをここで止め、今度は喉元に噛み付くような荒々しい攻めに転じて同じように
2人の距離感は本来なら剣や拳を使った攻防が適す程のものまで小さいものとなっていたが、互いに銃火器を使った激しい至近距離での撃ち合いを続けた。
どちらかが隙をついて距離を取ろうとしてもそれを潰すためにさらなる踏み込みを見せ合う攻防は、他の人間が近づいてしまえば気付かない内に撃ち抜かれてしまうであろうほどのものになっていた。
撃ち合う時間が長引くにつれて段々と互いに表情が消えていき、相手の動きの綻びを狙い続けるだけのようなものになっており、両者から流れる血が自身の軍服を赤く濡らしていった。
「…流石は英雄の片割れ…戦場を駆けつづけた狼とまで言われた人間だ…!錆びついて動けなくなっていると思っていたが…」
「……っ!?」
「ここまで…とはな…!?」
「ぐっ…!」
先に銃弾が尽きたことで
だが少佐はそれを間に銃火器を挟み込むことで直撃は避けており、この攻撃を利用して吹き飛ばされながらも手に持っていた銃火器を離して先にあった別のものを手に取りつつ、体勢を立て直そうとする。
「…っ!…いってぇ…な…」
「…!(動きを緩めた…それにコイツ…)」
銃弾が寸分の狂いなく少佐の頭部を狙っていたが、直撃は回避され頬を抉るに留まる。
だが、追撃を避ける際に銃火器を手放していたため、今の少佐は何も持っていない丸腰の状態だった。
身体中から血の流れる感覚とじりじりと焼けるような痛みによって少佐の表情に陰りが見え始めると、
「……っ!?」
だが、一瞬だけ目を切った
伏せるような低い姿勢から跳ねるように飛び出し、いつの間にか手の中に握られていた小銃を構えると、同時に転がっていた銃火器に向けて一発を撃ち込む。
すると、金属音を立ててそれは弾かれ
「(っ…バ…カな…!?いつの間に隠し持って…いや、それはない…!だが、それならどのタイミングで…!?)」
何もない空間から突如として現れたとしか言いようのない目の前の光景に、
何もない空間から銃火器が現れたようにしか見えなかったそれは、少佐が戦場で練り上げた読みと即興の判断力によるものだった。
「…!(まさかっ…!)」
これは、少佐が距離を取る瞬間に仕掛けられていた一手だった。
この時の少佐は退くそぶりを見せながら、気づかれぬよう小銃を空中に投げていた。
直後にその落下地点へ向かうと見せかけて接近し、小銃を手に収めていたのだ。
「…ゴフッ…!?」
「…どうした?動きが鈍ってきてるが…まさか、もうバテたのか?」
そうして混乱で生まれた僅かな隙を見逃さず、少佐は
これまでで最も深く食い込んだ一撃であり、それは帝国兵にとって致命的な痛手となる。
そして、少佐は火花に似た鮮烈な赤を流した
「これには食いつくよなぁ…特に、お前みたいなやつは?」
「(クソッ…っ…深いの…貰っちまったな…)なに…むしろ、これでイーブンってとこだろ…!」
撃ち抜かれたことによって
だが、
しかし少佐は向かってくる短剣を足元に転がっていた破壊された
その動き一つひとつが『戦場に刻み込まれた癖』として染みついているようだった。
「…っ!チィッ…!」
「………」
少佐はそれを回避のために地面から足を飛び離してから空中で身体を前方に一回転させ、頭を地面に向けて
そして、反転した世界から
「……誰が好きで…生き残った…」
「…っ!!?」
そして放たれた銃弾は
これを受けた
血煙の中、ようやく動揺から回復した
こうして自身の結末を察したのか、口から流れ落ちる鮮血は黒い炭が広がっている地面を赤色に染め、虚ろになりかけている瞳を閉じてこれ以上の抵抗の意思を見せずに苦笑を浮かべた。
「(……ダメ…だ…動かないか…)っ……ハッ…正しく…俺の完敗だ…な……本当に噂通り…だな……お前は…?」
「……そうか…」
その嘲笑も虚しく響いた。
これが決定打になったことで
地面に着地した少佐はすぐに追撃のための銃口を向けたが、
「…お前が言っていたな?俺たちは、国という得体の知れないもののために動く『駒』だって……ああ、それが正しい。それが分かっていたはずなのに…オレは余計な意思を持ちすぎて色々と失った……今でも、後悔はある。」
「………」
「だが、お前は違った…お前は駒のままでいられた。自分を殺して、命令をこなすだけの……理想的な人間だ。……そんなふうに割り切れたなら、オレももっとマシな生き方ができていたかもしれないな。」
「…死にゆく人間への…慰めの言葉か…それ…は…?」
「……これは純粋な賞賛の言葉と思ってほしいな……だがな。」
もはや抵抗の意志が見えないせいか、少佐の口からは途切れなく言葉がこぼれた。
その目に宿していたのは目の前の人間のことをどこか羨むような感情であり、考えになかった事を聞いた
だが、それを見た少佐は一度目を閉じ、少し長い間の後に再びその瞳に敵意と影を宿した。
「…そうだな。お前は強い……だが、そんな人間が何人いようと、スチードとコルディセスを…そう易々と落とせると思うなよ。」
「……あーあ、そうかよ…ここまでとはなぁ…(…これでいい……あとは任せるぞ、グリット…?)」
目の色が再び変化した少佐は最後に賞賛の声と押さえつけるような威圧を込めた声をかけると、手に持つ銃火器の引き金を引いた。
乾いた破裂音がよく響き、そうしてあたりには再び静寂が訪れた。
力が無くなった目の前の人物に対して一度小さく敬礼を行った少佐は、手に持っていた銃火器を地面に置いてすぐに背を向ける。
戦闘の余韻が残る中、身体についた傷に目を向けることなく重くなった足を動かして燃え広がる赤い火の間を抜けて歩き出す。
すると、自身が持っていた通信機から小さく音が鳴り、疲れ切った表情のままその通信機に向けて口を開いた。
「…っ…ポイントCの制圧は完了…他の地点の様子は…」
「『…!こちら猟犬…他の地点の
「…!?ハリス…!?なんでお前がここに…!?」
通信機の先から想定外の人物の声が聞こえてきたことでハッとした少佐は改めて周りの音に耳を傾けた。
戦闘の最中には気づけなかったが、遠方からは一切の銃声が聞こえない。
まるで先ほどまでの喧騒が嘘だったかのように、夜の黒はただ静かに、果てしなく続いていた。
それはまさに戦闘の終わりを告げる静寂であった。
「『…心配になったからこうしてコルディセスの防衛のためにやって来た。そちらは無事…なのか?』」
「いや、心配したから来たって……はは、本当…お前はオレと違ってめちゃくちゃな事ばかりするな…?…だが本当に助かった、ハリス。」
「『………ああ…現在のそちらの状況はどうなっている?』」
「こっちの状況か……っ!」
猟犬の言葉を聞いて張り詰めた糸が切れたのか、自身の身体の状況を自覚した少佐は焼けるような痛みに顔を歪めて暗い空に目を向けた。
そうして目を線にして苦笑いを作り、通信機の先にいる猟犬に対して口を開いた。
「いっつぅ……それなら…とりあえず、そっから灰の匂いが漂ってきて、橙色に明るくなっている場所に来てくれないか?はぁ…少し無理し過ぎたな…こっちに手を貸してもらえれば助かるな…?」
「『…!それならば現在かなりの痛手を負っているのか?!…そうか、分かった。すぐにそちらへ向かう…!』」
「(…?…なんだか随分と焦ってるな…)…おー、そうしてもらえればありがたい…それじゃあ、待ってるぞ?」
「…ああ、了解した…………少佐。」
「…ん?どうした、ハリス?」
これはスチードの少佐と猟犬の活躍によって脅威を退ける形となって終わることになった。
……だが…
「『……少佐が…こうして無事でいてくれて、生きていてくれてこちらも心から安心した。』」
「……はぁ?いや…急に改まって本当にどうした?」
「『…ああ、何と言えばいいか…そうだな?…少佐はこちらにとって家族のような人だ…だからここで失わずにいれて……本当に良かった。』」
「…………は?」
「『…ふむ。これはこれで、また妙なざわめきが生まれてしまうな?……では、すぐにそちらへ向かう。』」
「…!!ま、待て、ハリ……っ!!…お前が……何で、お前までそれを…!クソッ…!!」
音の途切れた通信機に呟くような怒声のような声が響いた。
乾いた炎の音が響く情景の中で少佐は1人、強張り息苦しそうな表情を浮かべて呆然と立ち尽くす。
焼け焦げた空気に、言葉にならない感情だけが残っていた。