戦火の心臓 作:Navi
『ーー
『…ーー……ハインドレート…より
『スチードにいる全部隊を総動員ーー…繰り返す!全部隊を…ーー!』
絶え間なく通信機から流れ続けるスチードでの戦況を聞きながら陽の光を背に受けて走り続ける。
心臓の鼓動はスチードからコルディセスに向かっていた時に比べても痛みを伴うほど大きくなっており、軋むような足の鈍痛も少しずつこちらの意思とは反対に前に進ませる力を奪っていた。
思い返してみても、ここまで動き続けるのは初めてのものであり、人の身体の限界というものをまざまざと突きつけられているような感覚であった。
だが止まっていられない。
スチードには大佐、アトマ……そしてスティラがいる…
「『ーー…私ーー!…いますか、ハリ……ハリス!?現在あなたがいる地点について教えて下さい…!こちらでそれによる割り出しを…』」
「(…っ!大佐…!)」
その声を聞いた瞬間に意識が叩き起こされたようになる。
通信機から聞こえてきたのは、息苦しそうにしながらも背後にいる他の隊員に対して絶え間なく指示を出し続けている大佐の声。
すぐに走りながら割り出していた時間と、日の傾きを照らし合わせた経過時間を伝える。
「…はぁはぁ……ぐっ……こちら、猟犬…!コルディセスからそちらに向かい約1時間は経過している…!…現在の位置はレーヴルへ続く山道、もう少しでレーヴルへの入り口となる高原へ入る…!」
「『…!(コルディセスからそこまでの距離をこの速度で……スチードから向かうより遥かに早い…)…分かりました…!こちらもそのペースであなたが来ることを想定して
「っ…問題…ない……大佐!ポイントαの地点を抑えてもらえれば、こちらが背後から
「『…!なるほど…位置関係からあなたがコルディセスから戻る道は、ポイントαに繋がる……すぐにポイントαに増援を!ですが、ハインドレート上の軍艦の対処を行うスティラに接敵させないような配分で配置するよう…』」
コルディセスへ向かう道に直接繋がっているポイントαでの交戦が激しい状況、それならばこちらが向かっている地点に留めておくのが最善となる。
こちらの言葉を聞き取ってすぐに指示を飛ばした大佐に続けて他の詳細な情報を求める。
「大佐…!現在のハインドレートの状況は…スティラはどうなっている…!?レーヴルからの迂回は考えられないが……αの反対地点のδからの侵攻状況は!?」
「『…!ポイントδからの侵攻はまだαに比べて軽度…ですがスティラ……情報によれば砲撃を避けながら分散している
「…っ…了解した…!大佐に一つ頼みたいことがある…!こちらは少佐との直接的な連絡手段がない…こちらの現在地点を大佐から伝え、あわせて少佐の位置もこちらに伝えて…」
「『…っ!なっ、あれは……!!ー…ーーー…ーーーー…』」
「…!?大…佐…?状況の説明を……ッ…大佐…!!」
突如として何かが破裂するような音が一度鳴り響き、大佐の言葉の途中で途切れると通信機から流れてきたのは延々と同じ砂嵐の音。
何度呼びかけても金属を裂くような雑音が走る通信機の先から声が返ってくることはなかった。
…これはスチードにとって害となる、何かしらの大きな動きがあったのが火を見るより明らかであり、絶えず流れる砂嵐の音が躙り寄るような悪寒となって耳から全身にかけて流れた。
生い茂る木々の道を抜け、広々とした緑色の草原に足を踏み入れると、歯を鋭い痛みが生じるほどの力で噛み合わせ、流れた悪寒を振り払うように口の中に勝手に溜まる血を吐き出しながらさらに走る速度を上げる。
「(あの爆発音は…大佐の…スチード中心で…)…っ!…考えるな…進め…!オレ…は……猟犬…だ…スチードを……大佐や少佐との言葉を守れずして…これの何が…!!」
足から裂けるような痛みを感じながらも、遮るものがない広々とした草原をただ無我夢中で駆ける。
刻々と過ぎる1秒が恐ろしいほど短く感じるのと同時に、スチードへ到達する想定の時間の減りが狂うほど遅く感じてしまう。
ただ長く、そして短い時間は段々と身体から空気を奪いながら1秒、また1秒と過ぎ去っていく。
肺の痛みが増していくと同時に増長していくのは赤い火に包まれ、血の匂いが充満するような景色であり、段々とそれは頭の中で思い浮かべていた関わりのある人間にも広がっていく。
意識を切り離して何も考えないようにしようにも、意思とは無関係に溢れて零れてきたのはどうしようもない絶望と何もできない自身に対する失望。
自分は少佐に何を任されてスチードにいた?
自分は大佐に何を望まれて猟犬として生きてきた?
自分はアトマに何を託されて戦場に立っていた?
自分は……スティラに…何を……?
「(何を…間違えた……身勝手にコルディセスに向かったことか…?それなら何が正しかった…何が最善で……一体…何が……何が正しかったんだ…?…分からない……分からない分からない分からない分からない…!!)」
こうしてただ無知な自分を何度も怨み、最悪の想定を何度何度も何度も払いのけ、自身の無力さを何度も何度も何度も何度も何度も何度もスチードへ向かうための動力として身体に打ちつけ続けて草原を抜けて再び背の高い木々が生い茂る森へ入り込んだ。
木々のざわめきが、木漏れ日がこちらを嘲笑うように向けられて舌に乗った鉄の味が不快なものとなって口全体に広がり吐き気を催す。
「……っ…!」
日の傾きは段々と大きくなっていき、漏れ出ている光の強さも少しずつ増していたがこれは避けようのない時間の経過を表す事実となって銃弾のようにこちらに目を撃ち抜いた。
意識を逸らすために落としかけていた視線を前に向け続け、過ぎていく時間について意識を向けず、あらゆる考えを自身から切り離して進む。
靴の中が粘度のある液体で濡れ始め、流れる汗と混じり合って後ろへ流れていく赤い液体に対しても気に留めることはできない。
今はただ…絶えず流れる砂嵐の先から返ってくるはずの声を待ち続けて進むしかなかった。
*******
「はぁ…はぁっ…!!(あと…少しだ……スチードはもう…目の前に…!!)」
…どれくらいの時間が過ぎただろうか?
気付かず内に空からは青が消え去り、鈍色の雲が冷たい風を運んで目に映る範囲を暗く染めた。
血の味が混じって身体に入り込んでくる空気は損傷した肺の中を突き刺すように痛めつけてくる。
足の感覚はほとんど無くなりただ動き続けるように頭から命令を飛ばすだけであった。
だが、視界には見慣れた景色が段々と増えていき、止まない銃声の音が風を切る音に混じって自分の耳に届いてきた。
距離を測っても、ここから一番近いポイントαよりも先の地点での戦闘が続いているのが聞いて取れたため、背負っていた兵器を持ち直して近づいてくる銃撃音に備えて息を入れ直す。
「(…っ!!…まだ……まだスチードは…!!)」
『まだ戦況は傾いていない』と自分に言い聞かせるように何度もスチードの戦況を思い描いて目の前に広がっていた音の先に飛び込む。
そこには凄まじい数の
だが、こちらが想定していた最悪から遠い位置での銃撃戦となっていたため、つっかえ続けていた不安を血の塊と一緒に吐き出してまだ自分に気付いていない
指をかけた引き金はいつもよりも重く感じ、同時に火花のように小さな衝撃で爆発するような感情がこもっていた。
「邪魔……だぁァッ!!」
「「…!?」」
引き金を引くと同時に放たれた赤い火花を散らす銃弾は
すぐに兵器を背負い直すと、それに続いて後方にいた
しかし崩れた
そして、吠えるように崩れかけた自分自身に対して命令を飛ばす。
「(…っ!!ま…だぁ…!)……動…けっ…!!」
「っ!ヤツは…猟犬…!?どういうことだ…!報告だとスチードへの到着はまだのはずだぞ…!?」
「前衛はそのままスチードの動きを警戒…!!後方部隊はこのまま奴を…」
自分に気がついた
そして、空中で射線がこちらに向く前にその場にいた
着地点にいた
「…っ…!?ぐっ…ッ…」
…だが、数としては圧倒的に
焼かれるような痛みが足先から響き、いつ完全に意思とは関係なく動かせなくなるか分からない今の自分にはこの数を正面から対処しきれる保証がない。
身を隠す場所は多少はあれど、ここはこれまでの戦場で最も多くの
ここで使えるのは、転がる
「…………」
生存本能が働いているせいか、頭の中では妙に冷静に動きの中でこの状況をこちらに有利に突破できる方法を模索していた。
他のスチードとの合流を行うのが優先であると考え、それを実現するためには目の前に壁のように広がる
銃撃を避け、防ぎ、その隙間から狙い撃ちしながら突破口を見つけ出すために思考を巡らせ続ける。
「(……やるしかないか…)」
そしてこれを突破するための糸口が浮かび上がってきたが…それには、自身にも大きなリスクを伴う明確な代償があった。
…だが、今までの自分にとっての戦場での動きはいつも直感によって浮かび上がってきたものである。
だから今度こそ、自身の選択を間違えにしないように全てを遂行させないければいけない。
「(猟犬……これより…
今からの行動の指針を定めると同時に、いつものように自らに与えられた命令の根底を成す言葉を頭の中で呟き、行動へと移す。
前方と少し距離が空いている地点に、動きながら引き抜いた多量の爆弾を身体中に取り付けた
一度の爆発によって不規則に広がったこの爆発は、こちらの姿を隠すだけでなく、これから引き起こる別の衝撃を紛らわせてくれるものになる。
そして一瞬背後に視線を移して視界に映る
自分がまだ近くにいる状況でこの兵器の引き金を引く想定はできていなかったらしく、放たれた朱色の火花を見て
「(コイツッ…!まさかここで自爆を…!?)」
「……っ!」
引き金を引いた瞬間に自分の位置と遠方から銃撃を続けるスチード側との距離見て次の判断を行う。
そして、すぐに転がっていた別の死体を爆発の瞬間に持ち上げて自分の向かってくる衝撃の間に潜り込ませ、自分が受ける被害を最小限に抑える。
目を焼くような閃光が走り、反射的に地面を蹴って跳び上がった身体の角度を調整し、それを閃光に対して覆い被せる。
「…ぐっ…?!……つ…ぎぃ…!!」
そして巻き起こった至近距離での爆発はこちらを直接でなくても灼熱で包んだが、狙い通り爆風によって身体が宙に打ち上げられた。
その進行方向は先の爆発によって停止している
まだ状況の判断が出来ていない
「…っぁ…!!」
鈍い反動による痛みを肩で受けつつ、兵器を身を守るために顔の前に差し出したと同時に3度目の朱に染まる閃撃が目の前を覆った。
至近距離での二度目の爆発が引き起こったことで生じた衝撃は再びこちらの身体を大きく仰け反るほどの熱風となって襲いかかる。
この衝撃に対しては直接身体で受けるしかなく、呼吸せずとも無理矢理喉から身体へ入り込んでくる熱は出血が見られるほど痛んだ肺を焼いてきた。
だが、直前の進行方向の変更によって自分の身体はまだ残っている
「ガッ…!…っ…ッアァ…!!」
こうして
しかし、ここで息を整えてる暇はない。
身体中を打ちつけて鈍い痛みが至る所から走ったが片腕を地面に伸ばして反動を使って立ち上がり、息を吐く暇をほとんど作らずに熱を喉の奥へ閉じ込める。
「ハァッ、ハァッ……ッ……アァッ…!!」
そして爆発の影響かぼやける視界と聴覚を正常なものに戻す前に
今度は、混乱に飲まれた中心部へ。
前線を維持していた
そして狙い通り、放たれた銃弾は前衛に広がり残っていた
ぼやけた視界と甲高い不快な音が鳴り続けていた聴力が戻る頃に目の前に広がっていたのは、地形が大きく抉れて変わり、燃え盛る木々の下で
今の動きで受けることになった負傷はまだ少ない。
だが、水に沈められたような息苦しさが続いたためか、肺は空気を求めて身体は小刻みに震え続けていた。
「ハァ…ハァ……ガハッ…!!っぁ……グッ…(……大方だが、殲滅………完了…か…?)」
「…っ…おい、大丈夫か…!?って…お前は猟犬…!?まさかこの爆発は、お前1人で!?」
「あんまりそこに長居するな…!早く、引いて猟犬をこっちに連れてこい…!!」
「…!ああ!悪い……ちょっと雑になるけどこのまま後ろに引くぞ…!」
「……!?」
目の前に落下してきた自分を見て走り寄ってきたスチードの隊員に身体を持ち上げられ、引きずられるように背後に広がる木々の影に連れて行かれる。
そして、すぐに前線に集まる他の隊員の顔を見て、ここで初めて
だが、自分はここで立ち止まるわけにはいけない。
あくまで通過途中の身であり…まだ行かなければ行かない場所がある。
「…くっ……すま…ない…増援が予想されるが…こちらは……このまますぐに……スチード…へ…っ……」
「…!?ま、待て…!流石にそんな身体でこれ以上は…!」
ロクに息継ぎも行わずに動き続けた代償か、取り込まれる空気の量が少ないためかうまく言葉が発せられない。
だが、この地点に点在していた大部分の
最初の爆発から逃れた人間やまだ上陸した軍艦付近で待機している人間がいると思うが、それでも今ここにいた
「(…ッ…この…まま……)……ぁ…?」
「…!りょ、猟犬……ッ!?」
すぐに状況の整理を行なってこの地点の防衛を残っているスチードの人間に任せようとするがある言葉が脳裏によぎる。
「(『
この命令を思い出し、意思とは無関係に一瞬足から力がなくなりよろけそうになる。
しかし止まれない…止まっている場合じゃない。
この言葉を振り払うために踏みとどまってこのまま進もうとしたが、自分を見たスチードの人間が動こうとする自分を引き止めるために身体を抑えてくる。
「……っ!」
「…ぐぁっ…!?…っ…何して…」
「待て…!一度落ち着くんだ、猟犬…!」
そんな引き止めてきた人間の目を見た瞬間、反射的にその身体を突き飛ばそうになった。
そこへ別のスチードの人間が自分の腕を押さえにかかると、何故かその瞬間、いつも
「…っ!離…せ…!すぐに残っているはずの
「うぉっ…!?……お…い!…そんなボロボロの状態で動こうとするな、猟犬!まだこっちも大佐たちから連絡はつかない…!このまま動き続けたらお前が…」
「関係……ない…!…っ…邪魔をするなら…このまま…!!」
「おい、待て…!ハリス…!」
「ちょっ…なんでそんな君が敵意マシマシで俺たちを見てる…!?確かにすぐスチードに向かいたいのは分かるけどさぁ!?」
「……!」
動きを阻止しようとするスチードの人間の身体ごと持ち上げて静止を振り切ろうとしていると、自分に向けて前に聞いたことの声が聞こえてきた。
振り返ると、以前ポイントαでの戦闘で生き残っていたあの2人が至る所に包帯を巻き付けて歩いて走り近づいてきていた。
こちらに一歩ずつ近づいてくるたびにすぐこの場から逃げるように離れたいという感情が溢れ出てきたが、2人がこちらに向けてきた目を見た瞬間にその感情が小さくなる。
自分を見るその目は、何か恐ろしいものを睨むような感情を含んでおらず、ただこちらを「人」として見る静かな眼差しだった。
その視線に思わず動きを止め、2人から目を離せずにいると、いつの間にか自分を押さえていた者たちも手を離していた。
そして自分が言葉を発せないまま動けずにいると、目の前にやってきた腕を固定させている1人が自分の肩に手を置いて笑顔をしてきた。
「…2人は……あの時の…」
「…よ、久しぶり。その様子だと俺たちのこと覚えててくれたみたいだな?あの時は、マジで助かった……あと、そう言ってるけど本当はこのままスチードへ向かいたいんだろ?」
「……っ!」
「…猟犬。後ろで爆発が引き起こってから大佐を含めた指揮系統の人間と未だに連絡が取れていない状況だ。大佐たちを含めたスチード中心やハインドレート、ポイントδの状況は俺たちもよく分かっていない…すまないな…」
「……いや…(やはり、あの爆発のときに何かが――)」
こちらと連絡が取れなくなってから数十分が経過していたが、この地点にいる隊員たちにも情報が届いていないようだった。
そした、一度引いて状況の確認を行おうにも激しい
「…こうして大部分は退けたけど、さっき言われた通りまだ増援が考えられな…?…まあ、俺たちはまだこのまま前線を維持する事しかできなさそうだけど…?」
「レーヴルに続くこの山道の先の状況を見る事なくここに張り付けられていた…だから俺たちも、今のスチードの状況が全く分からないんだ…また、お前だけに任せていいのか?」
「……問題…ない……だが…何故なんだ…?」
「……ん?」
「なぜ……2人はこちらを…あの目で見ない…?…こちらが、悍ましいはずだ…不気味なものとして……なぜこちらを見ないんだ…?」
こちらも手短にだが、2人を見てから湧いていた疑問を向ける。
あの時見た時とは違い、2人が自分のことを見る目には得体の知れないものを見るような感情はなくなっていた。
だが、自分にはこれが理解できていない…何故あの目を向けてこない?
向けられる視線に対して何故か今は恐怖を覚えていることを自覚しつつも、自分には2人が同じような視線を向けてこない理由がわからなかった。
するとこちらの言葉を聞いた1人は、不思議そうな表情を作って当然かのような口調で言葉を口にし始めた。
「…?そりゃあ…俺に関しては目の前で一度命を救われたのもあるけど、それ以上に少佐と一緒にスチードを含めて何度も救われているからな?それなのに逆に悍ましい目で見るなんてことしたら〜…人間として終わりみたいな感じになるだろ?」
「…!……そう…か…」
「…もちろん全員ってわけじゃないが、ここにいるほとんどの人間はお前のことをそんな人外みたいに見てはいない。…だがこのことで悩ませていたのなら……悪かったな…でもまあ?少なくとも俺とコイツは、お前のことを同じ国を守る『仲間』だと思っているぞ?」
「「…はぁ?!」」
「おいおい…なにしれっと俺たちのことを省いて、我が物顔でんなこと言ってんだよ……今の聞いたか?!こいつ、全部自分の手柄みたいに言ってやがるぞ!?」
「ったく…いいこと言ってんなと思ったのにすぐそれかよ……まあ、らしいっちゃらしいか?」
「……!」
自分を見ながら口々に2人から語られた言葉やその周りから聞こえてくる声を聞き、身体の強張りやざわつきが少しだけ収まったように感じた。
これもまた、感じたことのない今までとは違う感覚。
向けられる言葉の節々に込められていたのは自分に対しての感謝が含まれていた。
「……オレ…は……ッ!!」
この様子をただ眺めていることしかできなかったが、流れていた楽観的な雰囲気を切り裂くような銃声と足音が燃え広がる反対側の森の奥から聞こえてくる。
それを聞いた瞬間に周りにいたスチードの人間たちは、銃火器を構えて音の先に視線を向けた。
「…っと…話はここまでだな?…まあ、こんなところだ、ハリス…俺たちはお前のことを少佐と同じくらい尊敬し、誇りに思っているんだ…これはまじで。」
「…そうだな?戦場でもスチードでも出会うこと自体はあまり無かったけど、何度も君の話で盛り上がっていたからな!本当…君がスチードにいてくれて良かったって思ってるぞ?…大佐や他地点で戦う他の人たちのこと……またこんな重い荷を背負わせることになるけど、頼むな?」
「あっ……っ…」
…自分は今まで本能的に目を背けて見ないふりをしていただけだったのかもしれない。
すぐにでも
だがそれは、自分が背後の傾斜を越えて最短でスチードへ行くために必要なことであった。
命令として与えられてきた『
「(…だが……これは…)」
今までは自らが正面に立って
命令として与えられた『
思い返してみても、こうして戦場を離れて別の場所に向かうのはこちらも初めてであり、さらには本来自分が相手取るべきものすら残している。
それでもすぐ背後まで迫っているスチードの状況確認と他の戦況へ向かうのが、他のスチードの隊員の語るように……それが、自分にとっての最適解なのだろう。
「…っ!了解した…!こちらはすぐにレーヴルへ続く山道を越えてスチードへ向かう…!この場所を…頼む…!!」
この場を任せるスチードの隊員たちに向けて頭を下げる。
すると一気に視線が自分に対して一点に集まったように感じた。
「「…!!?」」
「……マジか…?」
「…まっさか猟犬から頭を下げられるとはな…はは、俺はまだ動けますよ?…なあ!お前らもまだ立てるよな!?戦う意志は死んでないよな!?…俺たちが守るべきこの国を!
大声で叫んだ声に反応して周りのスチードの隊員たちもそれに反応して地面が揺れるほどの声が上がる。
見たことのない圧巻のこの光景に頭を上げて目を奪われていると、背後のレーヴルの先、ハインドレート上から凄まじい爆発音と太陽のような光が発せられた。
「…!?アレ…は…!」
「(…ハインドレートの……戦闘再開の合図が来たか…?!)…さあ行け、猟犬…!!」
「……ああ!!」
響き渡る銃声を背にして高くそびえるスチードへ向かって再び走り出す。
鈍色の空を染める赤い色が広がっている光景を目にし、心臓の鼓動が感じたことのないほど早くなっていた。