戦火の心臓 作:Navi
「少佐、コルディセスの奪還と防衛…本当にお疲れ様です…!それに今回の防衛戦も問題なく終わったようで安心しています…ハリスも何もないようで安心したよ…」
「ああ。コルディセスでもここで作ってくれた兵器などが大いに役立って………!」
少佐は部屋に入った瞬間に表情筋を微かに動かして目線を部屋全体へと行き渡らせた。
部屋の中はケーブルで繋がれた様々な機械が植物の根のように張り巡らされており、それに繋がる形で妙な光を放つ電飾などが光を放っていた。
さらに床には埋め尽くすような文字や図などが書かれた紙が散乱しており、一目見るだけでも実生活に支障が出るような生活を送っているのが分かるような状況であった。
これを見て、かろうじて見える木目調の床に向かってジャンプして向かっていく白衣のようなものに袖を通した人物に対して少佐は労いの言葉をかける。
「…相変わらず『こっち』は忙しそうだな、アトマ。この部屋の状況を見る限りは…な?」
「…!は、ははは…さ、最近は帝国(アーチス)の動きがあまり激しくなくなってたのでつい夢中に…あ、後でしっかりと片付けだけでもしますね…?…あっ!ね、ねぇ、ハリス!君が持ってきてくれたアレ!色々と解析とかが済んだからちょっと来て…!」
「…!了解した。」
猟犬は地面に散らかる紙を片付けながら笑顔を向けるオレンジ色の髪のその人物にそう言われると、表情に出さずともワクワクしているのが分かるくらいに足取りを早めて後ろをついていく。
そしてアトマと呼ばれたその人物は部屋の一角の床についている扉の取っ手に手をかけてそれを引くと、暗い地下へと続く階段が現れてさらにその先へと進んで行く。
「(…こっちは相変わらず綺麗なままか…上の方もどうにかならねえのか…)」
すぐにその先に降りて行った2人を追いかける形で少佐も腰を曲げながら階段の先に踏み入れると、地上とは違う青白い光に包まれた場所に辿り着く。
地下は以前と変わらず整っており、上の階も少しは片付けてほしいものだと少佐はため息を吐きながら思った。
そしてその部屋の中央、様々な形状の兵器が丁寧に保管されている中で一際異彩を放つ巨大な兵器が置かれているのを目にした。
「…へえ?これがハリスが奪い取って来たものか…デカいな?アトマやハリスの身長よりも大きさがあるんじゃないか?」
「は、はい。持ってきてもらった時…ほ、本当にびっくりしました…それに加えてこれ、重いなんてレベルのものじゃなかったんです…!計ってみたら軽く100キロ越えていて…ハリスもこの兵器を担いでよくここまで来たね…?えっと…どこか痛むところはない?無理しすぎてない?」
「(大佐の所に来た時も特に息を切らしてなかったよな?…やっぱり兵器以上の人間のバグだな…)」
具体的な大きさと重量を見聞きし、改めて少佐は水浸しの猟犬に対してじっと視線を向けたが、猟犬のその目からは自身の身体のことなど全く考えていない色が滲み出ていた。
「問題ない。これは確かに武器として扱うと考えると欠点の方が多いが、それに見合った威力はある。戦地に投入するだけでも戦況を大きく変えるものになるだろう。具体的には…」
猟犬が指を指した先にあった兵器は、普段猟犬が扱っている銃火器と比べても比較できないほどの大きさを持つまさに『戦況を変える一手』と言っても差し支えないものであった。
外面の重々しいボディからはその兵器の重量や持つ破壊力などを想像することができる。
そして手のひら大ほどの大きさがある銃口から沿って見ていくと、この部屋の明かりの発生源であると思われるまるで生きているかのように、内部から脈動する光が溢れている部分があった。
猟犬はその兵器に触れながら淡々と武器の持つ破壊力や戦地で今後どのように扱うかについて話していたが、それを聞いていたか2人は互いに顔を見合わせて同じように思っていたことを口から出した。
「(…なあ?ハリスはこう色々言ってるが、明らかにこれは人間用としては作られてはいないよな?)」
「(は、はい…これは、多分ハリスが攻め込んだ軍艦などの砲台みたいな形で本来使う兵器じゃないかなと思っています…使うエネルギー効率も結構悪そうで、常に電力の補給をしていないと2、3発で出力が無くなるようなものでしたし…)」
「(だよな…まあ、一通り話させた後に話を切り替えるか。武器に対する知識や理解を深める事自体には、ハリスに与える影響に悪いものはないからな。)」
「(……そうですね…)」
少佐の言葉に対してアトマは表情は少し表情を暗くしながら静かに返答を返した。
猟犬はコソコソと話をしている2人を目視すると、一度話すことを止めて視線を2人の方へ向けた。
「…ん、失礼した。近頃兵器類を目にすると口が止まらなくなってしまう…聞いておきたいんだが、これを戦地で不意打ち以外で運用できるようにすることは出来るか?この兵器は一撃の重さが魅力だが、それだけだと戦況が動き続ける長期戦には向かない。」
「んえ?!え、えーと……流石にもう少し分析とかが必要になるかな…?…でもこの兵器の全体の要領は大方把握はできたから…うーん……分かった!とりあえずはやるだけやってみるよ…!」
猟犬の提案に対してアトマは何度か頭を捻らせた後に「最善は尽くす」と言い切ってみせた。
それを聞き届けた猟犬は心なしかソワソワしたように目線を数回、青白い光を放って鎮座している兵器に向けながら口を開く。
ーーー良い。
「了解。この兵器については『楽しみ』にしている。…それで。ここに呼んだのは、渡したいものがあったからじゃなかったのか?」
「(『楽しみ』に…か。)」
「あっ!そ、そうだったね…!こ、こっちに最近完成させた自信作があるから待っててくれないかな…?」
部屋の奥に小走りで向かって行き、腕の中に何の変哲もない黒光の銃と小さな機械を持ってきて帰ってきた。
自身ありげな笑顔を向けるアトマと興味深そうにその腕の中にあるじっと見ている猟犬。
2人の様子を横で見ていた少佐は察したように小さくため息を吐きながらアトマへ視線を向けた。
「…念の為言うが、ハリスは基本的に武器をあるだけ使い捨てて敵を殲滅するように動く。前もあったがその自信作をすぐ壊されても落ち込むなよ?」
「!あー…あはは……あれは流石に少し凹んじゃいましたね…で、でも!今回はハリスでも壊すのが惜しくなるくらいって自信ありますよ…!?」
「了解した。ではすぐに試験運用をするために外へ行く。こちらも破壊しないように最善を尽くそう。」
アトマの言葉を聞いた猟犬はすぐに振り返って再び地下から地上へ戻るために歩き始め、それについていく形で慌ててアトマも小走りでその背中について行った。
1人残っていた少佐もそれを追うために歩き出そうとしたが、ふと背後に鎮座していた巨大な兵器に再び目を向けた。
「(『あの時』から少しずつだが…やっぱりアイツも変わっているのか…)」
ふと、昔の戦場での会話が頭をよぎった。
ーー
ーーー
ーーーー
『…猟犬。お前は何か興味のあるものはないのか?』
『ない。こちらは帝国(アーチス)殲滅の命令をこなすだけの人間だ。『
『……確かにそうだな?』
『…だが、今ここに転がる銃火器のような『兵器』に対する知識は得ておきたいと考えている。帝国(アーチス)は兵器に対する技術力が高いと聞いている…
『…!そうか…それならちょうど顔馴染みの人間がいる。これから始まる『レーヴル山岳帯』の防衛が終了次第、またここに来い。』
『了解した。』
少佐は初めて猟犬を戦地へ投入し、それによって築かれた死体の山と戦火を背にして立っていた猟犬に向けて行ったありきたりな会話を思い出していた。
まだ互いに目に見えない距離感があり、向ける視線に常に少しの関心と無関心をそれぞれ向けていた頃。
自身が帝国(アーチス)だけでなく、自国の人間からも無慈悲な殺戮機械として捉えられていた猟犬に歩み寄ったキッカケは、自身の気まぐれにも近い好奇心からであった。
ーー『オールクリア。帝国(アーチス)側の沈黙も確認済み。死体の処理も山岳に潜む動物たちが行うと見ている。少佐、次の命令を。』
『…また、ふんだんに武器を使い捨てたみたいだな?』
『少佐がそれが1番効率がいいと言っていたからな?』
『…あー…だったな?それで…兵器について知識を付けたいんだってな?これから今回の防衛戦前に言っていた人間に会いにいくが、何か思うことはあるか?』
『ない。少佐の命令なら猟犬として何処へでも行こう。』
『これは命令ってほどでもないが…まあいい。会わせたい人間はお前と年齢的な部分は変わらないが、その技術力を買われて戦地には殆ど赴いてはいない人間だ。価値観を含めて色々と違うところはあるが、そこを深く考えるようなことをしなくていい。』
『了解した。』
少佐として、自身の直下として受け持つことになった人間は国のために生きる『猟犬』と呼ばれ、ソレはとても同じ人とは思えない生きる意思を持たない抜け殻のような目を持つ人間であった。
しかし、かつて『英雄』などという虚像を強要されていた自身にとって、目の前に現れた猟犬は酷く荒んで痛々しい『同じ人間』に見えていた。
そんな奇妙な共通点を感じたためか、その日から師弟のような関係性となった少佐と猟犬の2人は風の吹いていない空の雲のように、他の人間の目では明確にその変化には気付けないまでも少しずつ変わっていった。
『そういえば、同じくらいの歳の人間と会うのは久しぶりか?』
『そうなるな?……いや…『この国では初めて』と訂正した方がいいのかもしれないな?』
『…!あーー…確かにそうかもしれないな?』
猟犬は手をすり抜けて意志を失い、燃え尽きたように戦地へ赴くことはなくなっていた人間へ手渡された。
そして少佐はどんな兵器よりも暴発の危険性がある存在を手懐け、それが帝国(アーチス)にとっての脅威となったのはスチードにとって最も喜ばしいことであった。
敵を撃ち殺せば手をあげて賞賛され、戦果を上げれば万来の拍手が送られるという戦うことに生きる意味を与えられた存在にとって、戦場に立つ人間にとっては何よりも意味のある日々。
『は、初めまして…!少佐から話はよく君の聞いているよ…!え、えと…名前…は…』
『名前ではなく猟犬で構わな…』
『コイツの名前は『ハリス』。それでこっちが『アトマ』だ。主に帝国(アーチス)の武器の解析、改修、修理を1人で行っている人間で、自分とも付き合いはそれなりにある。関係性を気にせず、互いに名前呼びでいい。』
『了解した。よろしく頼む、アトマ………!』
『…ハ、ハリス…?も、もしかして何か僕の部屋に何か変なところでもあったかな…?』
『…どうしたんだ、ハリス。』
『ーーーすごい…』
『『…!?』』
しかしそんな存在を作り上げた少佐が猟犬に向ける視線には、周りの人間と同じようなそういった喜びを感じられないものが含まれていた。
それはかつて戦地へ身を投じていた戦場の匂いを身に纏う自分を思い出すからか、はたまたその場所で自身が失ったものを思い出してしまうからか、正確な理由は自身でも分かっていなかった。
故に屍の前に立つ猟犬に向ける少佐の視線は鋭いものであったがその時初めて、アトマと出合わせから猟犬の瞳の中に一瞬だけ見えた綻びを目にして、普通の人間なら違和感として感じとることすら出来ない猟犬の中身をほんの少しだが知った。
ーーーー
ーーー
ーー
「(……アトマと引き合わせてそれなりに時間経つが…まだ分かりにくいが『人らしさ』を出すまでになるとはな…だがオレは…)はぁーーー……あっ、やば…」
「しょ、少佐…?どうして上に来ないんですか……えっ、まさか!?」
「いっ!?……あー、悪い悪い…すぐにこれは…」
耽るように過去のことを考え、気付かぬうちに火をつけて咥えていた煙草から、吸い込んだ煙を吐き出したタイミングで聞こえた声に少佐の表情は大きく崩れた。
すぐに焦りながら咥えていたものについていた火を握りつぶして消したが、すでに横には射抜くような目を向けるアトマが立っていた。
気まずいそうに見下ろす視線を外して逆方向へと向けたが、それに対してアトマは今までと大きく態度を変えて少佐に詰め寄っていった。
「…僕の作業場所でそれを吸うのは止めてくださいって言いましたよね…!?特に地下で管理している兵器は燃えやすいものもあって引火の可能性も多くあるとあれ程言ったのに…!」
「…これに関しては本当に悪かった…いやな?意識が向いてなかったって言えばそれまでだが、本当に自分の意思で吸ったわけじゃ…」
「そんな言い訳は聞きたくありません!貴方の立場を考えればそれを吸うこと自体に文句を言うつもりもありません…でも!時と場合をしっかり考えて頂きたいんですが…!?」
「……すまん…」
猟犬よりも付き合いためか、踏み込んでくるアトマに気圧されて少佐は露骨に表情を萎ませたものにした。
それを見たアトマも少し怒りのこもった態度を軟化させて地面に落ちた灰を手で払いながら口を開く。
「…全く…ハリスもこんな貴方の姿を見たら嫌だと思いますよ?人として唯一と言って良いほど、貴方のことを尊敬しているでしょうし…」
「…いや、オレはアイツにそんな目で見られるような人間じゃない。結局は、オレもアイツのことをここにある兵器のようにしか見ていないからな?…オレはそんな人間なんだよ。」
「…!そ、そんなことは…!」
少佐の自嘲が含まれた言葉を聞いて再び表情が怒気を含んだものになったアトマであったが、少佐は今度はすぐに被っていた軍事帽の位置を直しながらポツポツと言葉を紡いだ。
「アイツは利用価値のなくなったオレの代わりとして作られた人間兵器だ。オレはアイツを自分代わりに育て上げ、そして最後に求められているのはせいぜいなぁ…」
「少佐!!」
ため息を吐きながらも不意に軍事帽の原型が無くなるほど強く握りつぶす腕を、下から伸びてきた別の手ががっしりと掴んだ。
そして真面目な顔つきになったアトマの一声を受けたことによって少佐は目を開いてハッと意識を戻した。
「…!はぁ…今のは本当に悪かったな?…ハリスはもう外に出たのか?オレも…お前が久々に自信作って豪語したものを見ておきたいからな…迷惑をかけたな…?」
「あ……は、はい…僕も叫んですみませんでした…」
2人は互いの間に言葉が発しにくい空気が流れたまま階段の登って地上へ出ると外で1発の乾いた銃声の音が鳴り響き、それを聞いた2人は駆け足で外へ向かっていった。
小屋の扉の先では猟犬が片手には銃口から煙が立ち昇っている拳銃を持ち、もう片手で空へあの小さな機械を取り付けた銃をじっと向けて立っていた。
一見何をしているか分からない状況であり、異様な光景に眉をひそめながら、少佐はアトマに目をやり、猟犬が向けている銃についての説明を促した。
「…なあ、アトマ。先に聞いておくが、ハリスが今銃口を空に向けているアレはどういったものなんだ?」
「は、はい…!あれは先程の帝国(アーチス)の電気兵器と同様に電力を使用するものです…!で、でも違う点は『発射物』で帝国(アーチス)の兵器が電力をエネルギー弾に変えて発射するのに対してこっちは…」
「対象確認。」
アトマの説明の途中で猟犬は小さくそう呟くと空に向けていた銃の引き金を力強く引いた。
すると取り付けられた機械からバチバチと帯電する音が鳴り響き、辺り一面を明るく照らしながら空に向かって一直線に空から降る雷のような光が発せられた。
そしてそれは暗闇に飲まれて普通なら見えないはずの降ってきた一つの銃弾に直撃し、破裂音と地面を揺らすほどの音が響いたのと同時に一際ギラギラとした光が地上を照らした。
光と音の余韻が残る中、猟犬の目の前に黒焦げとなった銃弾が空から落ち、地面に衝突した瞬間にボロボロと崩れた。
「……(ーーーやはり良い。)」
じっと手に持つ兵器を見つめる猟犬の表情は変わらなかったが、一部始終を見ていた他の2人は目を細めながら自然と言葉を口に出した。
「…また凄いものを作ったな?まさか電撃をあんな風に打ち出すことが出来るとはな…」
「で、ですよね…!これは今みたいに蓄電されている電気を雷のように放つものです!進行方向は金属に反応するようになっているので少し融通は効きにくいですが…それでも銃火器や短剣を主に使う戦場ではかなりの有効打になると思っています…!」
「…銃口の先にある電導性のあるものに向かっていく仕様か?…確かにそれだけでも戦闘の幅がかなり広がるだろうな?流石はスチードの戦術兵器をほぼ一手にかけているだけのことはあるな。」
「へ、へへへ…自信作と言いましたが…こうして褒められるとやっぱり照れますね…?」
自信作と言っていた兵器の想像以上の威力と完成度の高さに、少佐は本心からの賞賛の言葉を送るとアトマは頬を緩ませて小さく笑ってみせた。
兵器の試し撃ちを終えた猟犬も2人の方へ歩み寄っていき、アトマに対して感謝の言葉を述べた。
「試射完了…感謝する、アトマ。これは戦闘に貢献できる強力なものになるだろう。こちらも存分にこの兵器の力が発揮できるようにしよう。」
「う、うん…!そう言ってもらえて嬉しいよ!」
「因みにこれに設計図はあるのか?こちらも情報としてこの兵器に使われているものなどについて知っておきたい。他にも電撃の分散や発射回数、対象が防御壁の後ろに身を隠している場合に起こるこの兵器の効果についても把握したい。」
「…!も、もちろん!実際に使う君から色々と聞けるのは僕としても本当に有難いよ!よ、よし…じゃあ前みたいに改善案みたいなものを出してほしいかな?…ちょっと地下の作業場所から必要なものを取ってくるから上で待ってて…!」
猟犬の言葉に対してアトマの表情は明るいものとなり、探し物をすると言い残してすぐ小屋の中に飛び込んで行った。
そのすぐ後に言われた通り小屋の中で待機するために歩き始めた猟犬であったが、ふと後ろでその場から動かないでいる少佐の存在に気づいた。
「少佐はやはり来ないのか?アトマと兵器の話をするのはかなり有意義なものになるぞ?」
「…ああ。今回も自分は遠慮させてもらう。…まあ、コルディセスからお前に並走してスチードまで来たからな?流石にこっちも疲労が溜まっている…ひとまず明日はまた大佐の所に行くことになっているのは忘れるな。明日の正午までに
夜風に吹かれて生じた2人の間の空気はいつもと変わらず淡々としたものである。
しかし、そんな『いつもの』平静とした明日が当たり前のように訪れるわけがないということは互いに理解し合っている。
「了解した。しかし何か問題が生じたらすぐに動けるようにはしている。その時はまた命令を。」
「ああ。こっちもいつでも連絡を取れるようにはしておく…じゃあ、今日はここで解散だ。」
「了解、ではまた明日。」
「…ああ。」
猟犬は背筋を伸ばして言葉を少佐に一言添えたのち、窓から光が漏れる小屋の中に入っていった。
それを見届けた少佐も小屋に背を向け、乾いた地面の上を1人歩きながら夜の闇に閉ざされたスチードの街中へ消えていった。
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太陽はこれでもかと言うほど燦々とした自己主張を空から行っており、影に座り込む軍服姿の人々から、ため息を引き出すほどの光と熱を放っていた
夜が明けたスチードの様子は外側へ歩んでいく軍服を着た人々と、さらに街の中心へ進んでいくラフな格好をした人々といった2つにハッキリと別れていた。
しかし、そんな行く宛も目的も違う人々がそれぞれ異なる尊敬と畏怖の念を抱きながら足を止める人々が見つめる人物がスチードの道をゆったりとした足取りで進んでいた。
「…!あれってもしかして…少佐じゃ…?」
「あ、本当だ!確か前に帝国(アーチス)の侵攻を食い止めたすごい方なんでしょ!?へぇ〜、あんな人だったんだ?なんだか少し怖……むぐっ!?」
「(スチードの『英雄』って呼ばれている人に何言おうとしてんの!?あんたって口が本当に軽い人間だね…!?…私たちは確かに戦場のことは知らないけど、この呼ばれ方をされている時点で凄い人だってことは分かるでしょ!?)」
「(わ、悪かったって…!確かにそうだね…実際に見たわけでもないけど、この国のために尽力してくれる人に言う言葉じゃなかったね…?ごめん…)」
戦争というものを想像の中でしか知らない人間からは、偶像に近い尊敬と佇まいや雰囲気から感じ取った畏怖の感情を。
「…!しょ、少佐…先日のポイントβの防衛では猟犬の支援、感謝いたします!一時はどうなるかと思っていましたが…何とか全滅と帝国(アーチス)のさらなる侵攻は防げました…!」
「昨日は本当に感謝いたします!…まあ、自分はこうして片腕がほぼ使えなくなっちゃいましたが、立派な勲章だと思わせていただきます!」
「あんな目にあったのに元気だけは本当…ああ、すみません…!こうして目的地に向かっている途中で話しかけてしまい…ほら、行くぞ!」
「分っかりましたよ!…では自分たちはこれで失礼させていただきます!」
逆に戦地に赴く人間にとっては、心から向けられる尊敬とその過去の戦果から来る畏怖の感情を向けられる。
そして…
「…今回はしっかり間に合ったんだな?」
「…来たか。今日も世話になるぞ、少佐?やはり少佐はこうして時間にピッタリに合わせてくるか。」
同じ形をした石造りの建物が並ぶスチードの一角、その中の一つの建物の前に辿り着いた少佐の目に昨夜アトマから自信作だと銘打っていた兵器を背に担いで立っている猟犬が目に入った。
猟犬の前日と変わっていない様子を見て、影を落としていた鋭い表情を日の光に当てて少しだけ変えた。
「そう言うってことはそれなりに待たせたのか?それなら悪い…それで、あの後アトマとは結局はどれくらい話し込んでいたんだ?」
「待ったのは半時程度で全く問題ない。そしてアトマとは日が昇るまでこの兵器やコルディセスについて話をしていた。こちらは問題なかったが、アトマは気絶したように眠っているだろう。」
「それでもお前は変わらずといった感じか?相変わらずだな…コルディセスから止まることなく移動し、β、δの防衛が終わるまで動き続けてよく疲れが出ていないな?」
「
「それで、結局どれくらい休息は取れた?」
「そうだな…1時間程だ。ここまで目を閉じていられたのはかなり久しく、十分過ぎるほどの休息だった。」
「…影響しないならいいが、やっぱり眠る時はできるだけ寝溜め出来るようにした方がいいかもな?今後への影響を考えるなら、加えて単純に眠る時間は多く確保した方がいい。」
「了解した。次回より実行に移す。」
そして帝国(アーチス)の兵器すら越え、警戒されている存在である猟犬から向けられる視線に含まれているのは空っぽの色をした感情のみ。
過去の姿を投影され、高く積み上げられた過去を背負った今の姿を求められる少佐にとって、猟犬が向ける可否しかないこの感情と視線はどのように見えているだろうか?
「さて…それじゃあ、そろそろ行くぞ?」
「了解。」
2人はこうして再び大佐が待つ部屋を目指して建物の扉を開け、その中へと足を進めていった。