戦火の心臓 作:Navi
扉の先、1人の隊員が入ってきた2人を目視で確認するとその隊員と少佐は互いに言葉を交わさず会釈を行い、その横を通り抜けて奥へと進んで行く。
廊下の突き当たりを曲がったその先、複数ある扉の一つの前に2人の隊員がじっと立っていた。
そしてやって来た猟犬と少佐を目に入れると同じように互いに会釈のみを行って扉から離れて別の場所へ歩いていった。
「(…他の人間が自然と離れた?まさか…)…失礼します。」
「はい、入ってきて下さい。」
少佐は数回扉をノックしたのち小さく返ってきた返答に合わせて扉を押し開けてその中へと足を踏み入れた。
部屋の中にいたのは前日の夜と変わらない様子で細めた目をじっと2人に向けている大佐であった。
「時間通りに来ましたね?久しぶりのスチードの空気はどうでしたか?猟犬、少佐。…では少し『3人だけ』で色々と語らいましょうか?」
「…!そうですね…」
周りに3人以外の他の人間が存在しないこの状況を意味を理解している少佐は、その空気を悟らせないような雰囲気を纏っている目の前の人物を見てこれから話される内容の重要性を察した。
すぐに少佐は周りに対して目を向けると、それに反応して猟犬もピクリと表情を動かした。
テーブルの上で手を組みながらそのような問いかけを行ってきた大佐はじっと答えが返ってくるのを待っておりいたが、2人はそれぞれ淡々と言葉を返した。
「周辺には変化がないようだ。他の人間の気配もない。」
「だな…事前に人払いを済ませていた時点で薄々感じていましたが、今から行うのは昨日の話の続きでしょうか?…それも重要な内容みたいですね?」
「…ええ。その通りです。」
猟犬の言葉と目の前に座る大佐の言葉を受けて少佐は空気がピリつくような雰囲気を纏った。
それに合わせて猟犬もじっと視線を目の前で座る大佐に対して向け続けて次の言葉を待っていた。
しかし逆に、今までゆったりと椅子に座っていた大佐は表情を薄くだが緩めて緊張感を漂わせる2人に対して声をかけた。
「…しかし気を張るのはもうここまでにしましょうか。貴方や猟犬の気配を感じ取る嗅覚は、よっぽどの探知機でない限りその類のものに劣るものではないですからね?それに則れば、ある程度の人払いは済ませていると思っていますが、この話に聞き耳を立てている人物はいないということになるでしょうし。」
「…大佐はいつも近くに他の隊員を付けていることがほとんどですが、この建物からその気配すら感じられません…それで、一体どんな内容で?」
「ええ。貴方の直感通り、これは秘密にしなければならないもの。そして…これは特に猟犬にとって重要な内容となります。」
猟犬の名前が出てきたことで少佐は視線を隣に姿勢良く立つ猟犬に対して送ったが、本人は特に変化を見せることなく変わらない様子であった。
その様子を見ていた大佐はテーブルの上で組んでいた手の上に顔を乗せ、下から見上げるような形で猟犬と目を合わせた。
「そもそもこの国では、『猟犬』というものの存在自体を聞いたことがある人間はかなりいます。しかし通っている認識としては『存在しているのかすら分からない、得体の知れない人物』というものになっていますね?」
「ああ。それはこちらも理解している。」
「…ですね?コルディセスに向かう前は、基本猟犬は1人で動いてましたからね?」
「認識としてはある種の『天災』というのが正しいかも知れないですね?あの
「…だが、それはこちらだけの戦果ではないぞ?」
猟犬が戦地に降り立ったその時から人間とは思えないほど鮮烈なその戦いぶりは、まさに歪曲して伝わる伝承に近しいものである。
技術の発展や戦術の変化、地形を利用した奇襲、人質を利用した攻め手にも猟犬は今まで軽々と対応してスチードの守護や支配からの解放といった大きな戦果を挙げてきた。
しかしその裏には、当然と言っていいほどに大量に積み重ねられた屍や恐怖といったものも生じているのである。
「…そうですね。
少佐の発言は大きく的を外れたものだったのか、今の言葉を聞いた大佐は柔らかい笑みを作った。
「いえいえ。見た事すらない、ましてや存在としているのかすら分からない噂話のような猟犬に対して明確な負の感情を向ける人間はいませんよ。それにその姿を知っていても、
「…そうか。」
「…では、どういった意味で猟犬にとって重要な話になると?」
話の本筋に踏み込んだ言葉を受けて今度は座り込んでいた大佐の目つきが心なしか鋭くなる。
少佐は今から出てくる話の内容について予測がついていない様子であり、ただ正面からじっと発せられる言葉を待っていた。
「では本題に入りましょうか。これは私から下すのは拒否不可の命令です……猟犬。貴方には『新たな戦力の増強』を命じます。それに伴って私から貴方と戦地を共にする人材を受け渡します。これは人材の育成と捉えてみてもいいかも知れませんね?」
「……!」
それは争いが続く世界ではよくある命令。
変わり続ける戦況や情勢に対応するために課されるありきたりなものであった。
戦果を上げた人間に対して与えられる自身の手足となるような人間を与えるといったもの。
しかし、猟犬の隣に立ってそれを聞いていた少佐は瞳孔を開いて想像していない意外なことを聞いてしまった表情をしていた。
「コイツに…ですか?」
「猟犬への呼び方が崩れていますよ、少佐?…個の力としては申し分のない猟犬ですが、現在
「ああ、理解している。」
「失礼…ですが何故猟犬に対して?出過ぎているのは理解していますが、その人間は猟犬の時と同じように自分に割り当てるべきでは?そもそも猟犬は…」
「『戦うために作られた』。そしてそれ以外のことは『自身とは無関係な不用物、無駄なものとして扱え』と確かに私たちは今までそのような命令を与えてきました。」
大佐の言葉に少佐も認識の違いがないという確認を取ることが出来たためか一度頷いた。
しかしそれを理解しているはずなのにも関わらず出てきた今回の命令には、眉をひそめて何か思うことがあるような表情を作っていた。
「はい、そのはずです。…しかし何故、こうして猟犬に対してその目的以外の命令を?」
「先も言った通り、突出した力を持つ猟犬でも人間という替の効かない身体を持った私たちと同じ存在です。それ故に手が届かない場所も出てくる…それは今回の
「…確かにコルディセスの奪還によって強制的にスチードの戦力は分割されることになりました。そしてそれによって生まれた不安要素も…今回はそれが訪れることはありませんでしたが、明確化はされました。」
「そうですよね?残した軍隊と連絡を取る手段は持っているとは思っていますが、貴方と猟犬がここにいる間にもコルディセスに再び
スチードという防衛すべきものが今までは一つであったことによって、少佐も猟犬もそれを護るという限定的かつ単純な目的を持ってその対応を行えていた。
コルディセス奪還の際もスチード周辺から完全撤退をしたことを見届けた上で全力を持って攻めに転じることができ、その結果が
しかし防衛すべきものが複数になったことによって、考えるべき事象や
「…つまり、自分と猟犬をスチードとコルディセスの2つに分散するように切り分け、互いに戦力の増強を図るというわけですね?」
「おお、そこまで考えが通っているのなら助かりますね?確かにコルディセスには周りに与える影響の大きさを考えて少佐を。そしてスチードにはこの国のあらゆることを熟知している猟犬といった具合に分けようと考えていましたか…どうですか?何か不満点などはありますかね?」
「ない。こちらは命令に従うだけだ。」
「(…ったく…コイツは相変わらず)……少し、気にはなりますね?」
大佐の提案に対して、猟犬は相も変わらず肯定の言葉を口にしたが、それとは対照的に少佐は重くなった口を開けていない様子であった。
そして短いの熟考の後、少佐は自身の考えを伝え始めた。
「…正直、猟犬のもとに誰かを置くということについてはまだ考える余地があると思っています。…決して低く見積もっているわけではありませんが、特に『足枷』となるものが与えられると猟犬としての本来の力が発揮できなくなることが予想されます。」
猟犬のことを誰よりも知る少佐のその言葉は、かなり厳格な評価を周りに下していることが浮き彫りになるものであった。
想像よりも強い言葉が返ってきたことで、これには大佐も苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
「…手厳しいですね?しかし、その点についてはご安心を。猟犬に受け渡そうとしている人材は銃弾が飛び交うレーヴルやポイントβ他といった地に足が着く戦地にではなく、広々としたこちら側に対策の余地が多くあるハインドレートに適した個の力を持つ人物です。」
「…海上からの脅威に強く出ることが出来る人間ということですか?しかし自分が把握している限りだと、スチードにそのような人間は…」
少佐の言葉を受けてもかなりの自信があるのか、大佐は引き下がる事なく猟犬に与えようとしている人間の能力を淡々と口から連ねた。
しかしそれを含めても、猟犬とその周りの人間を比較する事は難しいと言わんばかりに口をつぐんでいたが、大佐はさらに追加の言葉を加えていく。
「…ええ、確かに猟犬に特定の条件下でもついて行くことができる人間はいないのは重々承知です。しかしそれはスチードに視点を限った時の場合で…私たちにはもう一つあるではありませんか?支配からの解放と同時に手に入れた『新たな戦力』というものが。」
「…!」
自身の想定していなかった内容が飛んできたためか、難しい顔を崩してハッと大佐に視線を向けた。
大佐が語った『新たな戦力』というワードには少佐も万が一の一手として考えを巡らせていたものでもあった。
「つまり『コルディセス』の……いや、まさか…」
「…戦争とはこういうものですよ。これは突き詰めてしまえば『駒の取り合い』という認識がしっくりときてしまうものです。コルディセスはまだ
「……」
目を閉じて静かにそう呟く大佐を見て、少佐もそれ以上の言葉を口にすることは出来なかった。
実際に自身もその考えを持っていたという事実があるため、ここで真っ向から否定を行う選択肢はなかった。
「…了解しました。しかし自分もコルディセスの人間について把握は追いついていませんでしたが、いつから大佐は目を向けていたのですか?」
「これは2人に初めて話すことですが、私はコルディセス奪還戦の後に送られてきた人々の中から見込みのある人物を個人的に探していました。流石に猟犬のような外れ値のような存在感のある人物はいませんでしたが、それでも確かな力を持つ人物は見つけ出しました。」
ーーー大佐自ら?
「…なるほど。」
「…つまりそれが大佐の仰っていた人間でしょうか?」
自分たちの知らぬ間に独自で大佐が動いていたことに2人は意外そうな感情が込められた返答を返した。
大佐はその返答に込められた感情について深入りはせずに、テーブルの引き出しから1枚の地図を引っ張り出してある地点を○を付けた。
「…はい、そうです。しかし私の口からいくら話してもその想像は付きにくいことでしょう。実際に見た方が早いとも思いますし…前日に猟犬が破壊したとされる軍艦があるこの場所に行ってみてください。きっと、そこにその人物がいるはずです。」
「…?ここにはいないのか?」
「…私も最初はこの場所で紹介だけでも済ませようと思っていたのですが、この人物は与えられた命令をこなす使命感がかなり強い人でしてね?試しに昨夜からハインドレートの防衛を任せてからもう半日以上は帰ってきていないのです…」
猟犬の疑問の声に大佐は困ったような表情でそう言葉を返したが、少佐もそれに似たような不安が生じている顔を作り出した。
我関せずといった猟犬を除いて2人の間に一瞬だけ気まずい空気が流れた後、心配をまとった声が少佐の重い口から発せられた。
「……それは、本当に問題ないのでしょうか?…むしろ今、新たな懸念が生まれたような気がしますが…」
「…まあ、大丈夫ですよ。連絡をした際にはあちらからもしっかり返答は返ってきました。あちらは猟犬と少佐の2人との挨拶及び、ハインドレートの地形の把握が終了次第帰還すると言っていたため、このまま向かってくれませんかね?猟犬がいれば必要はないと思っていますが、これも一応。」
椅子から立ち上がった大佐は先程○が書き加えられた地図を折り畳みながら少佐に近づいていき、そのままそれを手渡した。
少佐はそれを受け取りながら何か引っ掛かる部分があるように被っている軍事帽のつばを数回直したが、すぐに態度を切り替えて隣に変わらない姿勢で立っている猟犬の方を見た。
「……戦火に呑まれた土地で、なお戦場に残った者は強い。まして自ら志願してきたとなれば、尚更ですよ?」
「…そうですね…ここまで大佐が仰るのなら…猟犬。この地図に書かれた地点とこれから向かうが位置の把握は出来ているな?」
「問題ない。」
「少し手間ですがお願いします。少佐はまだ思うところはあると思いますが、ぜひその人物のことを一度目をかけてみて下さい。」
「…了解しました。では、自分たちはこれで。」
話し合いが終了したことで猟犬も少佐の2人は振り返って後ろの扉に向かっていき、退出のためにドアノブに手をかけた丁度そのタイミング。
同じく2人に背を向けて改めて椅子へ向かっていた大佐は思い出したように振り返って声をかけた。
「ああ、少し待って下さい。最後に大切なことを伝え忘れるところでしたね?」
「…?というと?」
「…その人物の名前は『スティラ』。目印は少佐や私が被っているものとは違う『水平帽』です。外見的特徴はスチードの人間とかなり違っているためすぐに見つけることはできるでしょう。」
「了解した。こちらはこれで失礼する。」
「失礼します。」
最後の言葉を聞き終えた少佐は一度会釈したのち扉の先へ歩いていき、それについて行く形で猟犬も部屋を後にした。
残った大佐は再び椅子に腰掛けて座り、テーブルに置かれていた手記を開いて1枚の写真を手に取った。
太陽の光が部屋の空気を温める中、手に取った写真を見ながら内ポケットから取り出した小さな通信機に向かって言葉を口にした。
「私です。そちらに猟犬も少佐の2人が向かったのでこうして連絡をしました。」
「『…了解。』」
途切れ途切れの砂嵐の音の中から声が聞こえてきたことを確認すると、大佐は再び通信機を内ポケットに戻した。
部屋に訪れた静寂の中、窓の外から聞こえる風や鳥の鳴き声を聞きながら大佐はポツリと小さく呟いた。
「…この先が、スチードがどうなるのか…期待させてもらうよ?猟犬…」
窓にぶつかってきた突風は鳥や大佐のその声をかき消すほど大きさになった。
そんな窓から差し込む太陽の光によって反射した光を放ったのは、水平帽をかぶった人物が写った人物の写真であった。
*******
建物から出た2人は外の一目につかない影の下で待機していた他の隊員に対して周りにバレないように視線を送ってから歩き出した。
しかし進むべき場所はスチードの中心部ではなく、等間隔に並んでいる建物の外側、先日猟犬が崩壊させた
大佐から受け取った印のついた地図を開き、それを見ながら進む少佐。
対照的に、猟犬は地図に目もくれずまっすぐ前だけを見据えて迷いなく歩いている。
しばらくは黒を含んだ色に変色した道を静かに進んでいた2人であったが、ふと少佐から隣で歩く猟犬に対して言葉が向けられた。
「お前と行動を共にする…か。大佐もここまで方針を変えるような動きをしてくるなんてな…この命令については、お前自身はどう思っているんだ?」
「…何も変わらない。こちらは与えられた命令としてこれを遂行するだけだ。」
変わらず飛んできた返答に、少佐は呆れと少しの面倒くささが混じったため息をはいた。
そして頭に被っていた軍事帽を外してその形を整えながら状況の整理を始める。
「…お前ならそう言うと思った…しかしコルディセスの人間をこちらの戦力として迎え入れることになるとはな?ああ、コルディセス奪還戦の時は、確か
その時、ぼんやりと少佐が思い出していたのは記憶に新しいコルディセスの奪還戦であった。
スチードが生み出した『猟犬』の真価を存分に発揮させたこの戦いは、そのほとんどをこの2人によって作り出された展開の中で進んでいた。
遠距離からの狙撃による
しかしその誰もが誇張した妄想だと思ってしまうような奪還劇の中で、動いていたのは猟犬だけではなかった。
「あの時はこちらも目の前の
「…そうか。自分もあの時は久々に戦場に立った。…あまり周りに目を向けられなかったけどな…それで、命令として拒否は出来ないのは分かっているが、お前1人で
今回の話に繋がるような内容は出てこなかったためか、少佐は話の内容をコルディセスの人間から猟犬を中心としたものに切り替えた。
今までは少佐の指揮の元、自身に与えられた命令をこなすために動いていた猟犬であるため、ある程度の心配が浮かび上がってくるのは自然のことである。
だが、それにもこれといった言動や表情に変化を見せずに淡々と自身の考えとその結論を述べた。
「…問題ない。地形に関する知識やそれを利用した動きに関してはこちらの方が有利だ。そしてこれは他の人間が周りに増えたとしても変わらない事実。何があっても変わらずにこちらは
「はあ…お前はそう軽く言ってるが、環境や周辺の変化が与える影響は想像以上に大きいものだぞ?特に誰かと一緒に行動するってだけでも、自分の動きにはそれなりの影響を与えてくるからな?」
「…こちらは、少佐といてもそんな違和感は感じたことはなかったが…その経験があるのか?」
猟犬の返答を聞いた少佐はその考えに補足するような形で感じ取るべき注意点を挙げてきた。
それを聞いた猟犬は純粋な疑問の声を少佐に対してぶつけたが、虚を突かれたように少佐は表情を固め、閉じて重くなった口を開いて言葉を紡いだ。
「…ああ。これは嫌なほど…思い知らされたことだ。特に隣に立つ人間がいることによって与える影響は良くも悪くもかなり大きいものだな。」
「なるほど。ならばこちらと少佐の関係性はそれに該当するんじゃないか?」
猟犬と少佐の関係性は互いに踏み込めない距離がありつつも、師弟のようなかなり深い繋がりがあるようなものである。
そして、その関係性を今の少佐の言葉に当てはめることは出来るのではないかということであったが、これに対して少佐は小さくだが口元を緩めてこう言った。
「……例外だよ、お前は。戦況を一人で変えちまうような奴なんて、後にも先にもお前だけだ。それも何もかもをいい方向へと持っていけるようなそんな…お前にはその力が…」
「少佐?」
「…!…悪い。取り敢えず現段階でお前に変化がないことを確認できただけいい。そしてこれからも猟犬として、スチードに仇なすものを殲滅する…この命令を遂行すればいい。周りに他の人間がいたとしてもこの事だけは忘れるな。」
「了解した。」
改めて猟犬に対して戻られていることの認識の擦り合わせを終えると、再び2人の間には静寂が訪れてそのまま目的地へと進んでいった。
その道中、ところどころ地面に落ちている薬莢や金属片といったものの残骸は、過去に周辺で引き起こった戦いを連想させるものになっていた。
「(そろそろ森を出るか…)沈めた軍艦までの詳しい道筋は、お前が行ってくれ。」
「了解。」
そんなものが広がる道中を歩き続けて森を抜けると、そこには見渡す限りの青色の海が広がっていた。
緩やかな波の音は一定の間隔で岸に向かって押し寄せてきては戻るを繰り返しており、日の光を浴びることで全く違う色の光を反射させて輝いていた。
2人は言葉を発することなく白い砂浜に足を踏み入れ、ぼんやりと延々と広がる水平線の先に目を向けていたが、すぐに意識を戻し海に沿って再び歩き始めた。
「…久しぶりに海を見たな?相変わらず…ただ見ているだけで1日くらいは時間が潰せそうだな?」
「…ああ、やはり良いものだ。夜の中だと見渡せず、先まで見えないからな?」
「…!おっ、あれか…」
歩き始めても海の先から目を離せずにいた2人の視界に巨大な物体が入り込んできた。
それは猟犬が沈めた軍艦の残骸であり、状態を見ると一隻は全体が炎に包まれて黒焦げになった跡がある。
そして残り二つは船体の中心に外側から抉られたような巨大な穴が空き、その影響で海底に船の底を付けて沈んでいるようであった。
「…まだ遠くて正確な大きさは分からないが…よく1人でアレを3隻沈めたな?」
「持ち出した兵器の力がそれほどまで強力だっただけだ。では、これより命令を実行する。」
そうして足跡が波によって消える海岸沿いを、その景色と不釣り合いな沈んだ3隻の軍艦に向けて猟犬と少佐の2人は歩き出した。