戦火の心臓 作:Navi
「『ー…ーー……レーヴル山岳帯から
「…!ついに来たか…強欲に力で全てをむしり取ろうとする蛆虫共め…!おい!待機させている部隊にもこのことを伝えろ!」
「前回のハインドレートからの侵攻よりこちらの防衛体制は整っています…あとは大佐の命令があればいつでも動かすことが出来ます!」
「…ええ、では今すぐにでもお願いします。」
「承知しました!すぐにポイントαとβに兵を配置!
テーブルに置かれた一つの通信機から声が届いたことによって薄い日の光が差し込む部屋の中にいた兵隊たちは各々が慌ただしく動き始めた。
そこはスチードの中心にある一際存在感を放つ建物の一室の中での出来事。
多くの人間が動き、出入りしている状況であったが広々としたテーブルに広げられた地図をじっと見て、軍事帽の下の黄色が織り込まれた髪を指に巻き付けているその人物は落ち着いた様子で椅子に深く座っていた。
「…大佐。すでに猟犬とコルディセスの兵士はそれぞれ報告の場所に到達しているようです。」
「…分かりました。」
近づいて報告を行った人物の言葉を聞き、大佐は椅子から立ち上がって目の前の通信機に手を伸ばしてそれを掴んだ。
その動作を行っただけで、その一室の空気はピリつくように静かに冷たさを持ったものになったが、大佐は逆に静かになるその瞬間を待っていたかのようにゆったりと口を開いた。
「聞こえていますか?これから言う伝令を早急に伝えて下さい。」
「『…!は、はい…!』」
「…そのまま
「「「…!!」」」
「『しょ、承知しました…!他の偵察隊にもすぐに連絡を行います…!では失礼します…!』」
通信機から声が聞こえなくなったタイミングで、その場からは慌ただしさのなくなった別のざわつきが生じ始めていた。
大佐がたった今口にしたことの意味…まだ誰もその目で正確に把握できていない猟犬とコルディセスからやってきた人物の個としての力を感じ取ることが出来るという重要な場面の目撃者になることが出来るということを表していた。
そんな期待のこもった静寂を受け、大佐はテーブルに別々に置かれていた通信機を新たに2つ手に取り、同時にその通信機の先の人物に言葉が伝わるように口を開いた。
「(スティラの砲撃を受けて数日は様子見するだろうと踏んでいましたが、やはりここで来ましたね?)では早速…2人には暴れてもらいましょうか。…猟犬、スティラ。このまま行けますかね?」
「『はい…いつでも可能です…!』」
「『こちらは問題ない。』」
「…ええ。それではこれより…
「『了解』」
「『承知しました!』」
通信機の先からそれぞれ返答が返ってくるとそれ以上の言葉が聞こえてくることはなかった。
まだ部屋の中には点々とした静寂が残っており、誰もその場から動くようなことや言葉を発したりせずにいたが、大佐は長い数秒を過ごした後に部屋から出るために扉に向かって歩き始めた。
それと同時、この建物を挟むように存在している山々と海の両方向から爆発音が鳴り響き、地面が大きく揺れた。
「…うおぉっ…!?」
「『報告!猟犬とコルディセス兵がそれぞれ戦闘を開始しました…!影響はかなりのもので……』」
「…!これ以上ここで足を止めるな!こっちも今から常に
「(さて…始まったね…)……頼むよ…」
その爆発音を皮切りに、再び部屋に存在していた兵は動き始め、大佐はポツリと言葉を口にして部屋から出ていった。
こうして
*******
スチードを見下ろすことのできる高々と佇む山岳地帯『レーヴル』。
山頂付近は白い岩肌が露出し、そこから標高が下がっていくにつれて深い緑の生い茂る木々が広がっていく巨大な山々である。
スチード全体を見下ろせる高さを持ち、気候変動が激しいこの地はスチードを守る天然の要塞となっている。
そしてそのレーヴルに広がる木々の下、木漏れ日の光に当たらないように身を隠しながら進んでいたのはスチードの軍服とは違うものを身に纏った50人ほどの小隊であった。
爆発音によって鳥の鳴き声や木々のざわめきが響き渡るこの中で、先頭を進んでいる人物は後ろについてくる他の部隊員に対して声を大にして叫んだ。
「(…っ!?今の爆発は一体…!?)…おい!別動部隊から連絡は!?」
「はい…!コード1からの連絡は届きましたが、3及び4からはまだ届いていません…!爆発地点から推測しておそらくあれに巻き込まれて………」
「それなら全隊長は無事ってことか…指揮系統のある部隊が残っているだけでもこうして………」
「チッ…!(こうして身を隠しているのに、何でこっちの動きが手に取るように分かるんだ…!?)…それなら残る部隊と連絡を取り合ってまずはハインドレートから来るはずの部隊と合流を…」
そう言いかけたところで先頭に立っていた人物はある違和感に気づいて足を止めた。
鳴り響き続ける鳥の声にかき消されてしまっている影響なのか、背後にいるはずの別隊員の足音や声が不自然なほど聞こえてこない。
そして、まだ騒がしい音が鳴り響いている状況ではあるが、それに紛れて山に潜む肉を食らう猛獣とは違う背中を突き刺すような視線が向けられていた。
「(何か…いる…!?)」
この違和感を感じてコンマ数秒、顔を歪めながら後ろを振り返るとそこには連鎖的に倒れ伏した同じ軍服を着た大量の人間を踏みつけて立っている人物が先頭を進んでいた人物に対して銃口を突きつけていた。
木漏れ日によってチカチカと光を反射している髪とは打って変わってその目は澱んで濁り切っており、一眼見ただけで普通の人間ではないと瞬時に判断できた。
「…音に頼りすぎだ、
「…!!?お前は…ぐっ!?」
顔全体に冷や汗を出しながらすぐさま手に持っていた銃の引き金を引こうとしたが、猟犬は迷いなくその動きに入らせる前に両腕を素早く撃ち抜いた。
一瞬にして両腕を使い物に出来なくされたその人物は痛みに悶えながら地面の上に転がり、這いずるようにその場から離れようとする。
しかし猟犬はそれを逃さないよう一瞬にして目の前に立ち塞がり、ゆっくりとその目と銃口を倒れ伏した兵隊の額に密着させた。
「……ッ!!その目……お前が猟犬…か…!?」
「…なるほど。やはりこちらのことは
「なっ…!?ま、待て…!!」
目の前に迫っていた猟犬という死の恐怖に対し、苦悶の表情を浮かべる
大佐や少佐が前に話していたことの中に、自身の名前が
しかしそれは今の憎悪と恐怖に満ちた
だが、どうせそうなるのならと猟犬はすぐに考えを改めて自身を警戒して動きが乱れる今の状況を突くことを最適解と判断して動いていた。
「(『ハインドレートからの合流』…それを考えるのならポイントα、ζに続く道を目指し、迂回してスチードを挟むように進行している部隊がいることになる…)…あそこならハインドレートと直接繋がる場所になっているか。」
鳥の鳴き声に足音を隠して近づいていた猟犬は先ほどの隊員の言葉を耳にしており、それによって
戦場に立つことで身体に刻まれ、少佐に戦況の移り変わりについて頭に叩き込まれた知識によって猟犬の野生的な感覚は常人を大きく超えるものになっていた。
それに従い、迷いなくかける猟犬であったが他の場所より開けた場所に出て、猟犬は慎重に足を止め周囲を見渡した。
「(…地面踏みつけて進んだ跡、やはりこの先か。)」
想定した地点に到着した猟犬は地面に目を向けると、そこに残されていた踏みつけられて潰れた草を目に捉えた。
湿った土が付着していたことからこれは真新しいものであるということはすぐに理解できたため、手に持っていた銃火器に装填を素早く行いながら進行方向であると考えられる場所に突っ込んでいった。
「(……捕捉。だが数は十数程度…)」
「…背後から敵襲……つぁ!?」
「…!?な…ぐぅっ…!?」
そしてその予想の通り、進行方向の先には数分前に殲滅した別部隊と同じ格好をした人間の姿があった。
草木をかき分ける音に気が付いた最後尾の人間が鬼気迫る表情で振り返ってきたのと同時、その人物に対して激しく身体に飛び蹴りを加える。
さらに流れるように数発の弾丸を打ち込んで猟犬は、その
一瞬の出来事に動けずにいた他の隊員に向けて引き金を引いた後にさらに前の方へ視線を移したが、猟犬が次の動きに移るよりも
「『猟犬』か…!?全員散れ!!」
ーーーーー
「……!」
不意打ちによって数人を撃ち殺すことは出来たが、すぐにこちらに気づいた別の人間は散り散りになって森の中へ姿を消した。
すぐにそれを追いかけようと撃ち殺した
だが、それよりも先に木々の隙間を縫うように弾丸が襲いかかった。
「(…やはりかなりの手練れだな?人数が少なかった理由もこれか。)」
銃声と同時に身体をふわりと浮き上がらせてその弾丸を回避した猟犬はすぐに返しの銃撃を行ったが、手応えはなかった。
開けた場所にいるのは分が悪いと判断した猟犬はすぐに次の行動を取り始める。
前左右から猟犬の姿を捉えた
「…!そちら側に飛び込んで行ったぞ!周囲を警戒して……っ!?」
猟犬が飛び込んでいった方向とは逆方向にいた隊員が声を上げて警戒するように呼びかけたが、その瞬間に屍となっていた隊員の下から凄まじい爆発が起こり、辺り一帯を激しい光と熱が襲った。
その衝撃によってその場に隠れていた
巻き上がる土埃と倒木によって銃声が鳴り止んだが、それに乗じて声を出した隊員のすぐ後ろに瞳に影を落とした人物がいつの間にか迫っていた。
「(猟犬…いつの間に爆弾を忍ばせて…)……っ!?」
「…不用意に声は出すものじゃないぞ?」
その隊員は自身とは逆方向に飛び込んだはずの猟犬の迫る気配に気づかず口を手で覆われ、そのまま煙が立ちこめる森の奥にもがく間もなく引き摺られて消えていった。
爆発の余波が収まり始めたタイミングで他の
しかし、その先にいるのが本当に猟犬かどうか分からない状況での銃撃が仇となった。
「(…それぞれが散って行った場所は把握した。そしてあちらも不用意には動かない状況…残り6人で射手は3人…残り3人は…)…どちらにせよ、この煙に紛れてだな?」
背を太い木の幹に預けて猟犬は向かってくる銃弾の雨から身を隠しながら次の動きを取るために立ち上がった。
タイミングを見計らって銃声のした場所から離れた比較的開けた場所へ撃ち殺した死体を低く、そして素早く投げ込み、射線をそちら側へ誘導させる。
まだ完全に土埃が晴れていなかったこともあり、飛び込んできたそれを猟犬と見た残りの3人も銃撃を行った。
「(1,2……6……把握した。)」
左手の倒木を蹴り越え、木漏れ日の隙間から再び飛び出すと、目線の先には3メートル先、踵を返そうとした敵兵が一人硬直していた。
こうして森に潜む残りの隊員の方向、距離感を把握した猟犬は別の場所から木々の間を素早く通り抜けていき、目の前に捉えた
突如として全く想定していなかった横や背後から気配なく現れる猟犬の動きに対応できる人間は1人もおらず、1つまた1つと鳴り響く銃声が消えていった。
「(…!?待てよ…アレは猟犬じゃな…)」
「…クリア。」
「…!?うおっ…!?」
引き金を引いて数秒後、
しかしそれに気づいた時には、もうすでに自身の隣に銃口をこめかみへ突きつけている猟犬がいるという状態になっていた。
それでも死に直面したことによって感覚が一気に研ぎ澄まされたためか、
そのまま持っていた銃火器から瞬時に手を離して猟犬の再度向けられそうになっていた銃口を手の甲で弾いて射線を逸らした。
「……!」
「なめんな…よ…!!」
そのまま猟犬の手に持っていた銃を力づくで殴り飛ばして短剣を腰から抜いて近距離戦に持ち込む。
額から流れ出る血に視界が歪められながらも瞬きを全く取らないその瞳には、目の前にいる猟犬の姿しか映っていない。
突きを回避され足払いにために姿勢を低くした猟犬の動きもギリギリで読み切って回避し、その隙をついて追撃を行うが掠ることなく猟犬もそれを回避する。
続けざまに横に薙ぐように短剣を振り切っても猟犬はゆらりといなし、背負っているアトマから受け取っていた兵器に手を伸ばすタイミングを何度も伺っていた。
「(アレさえ抑えれば…!)させる…かよ…!」
「………」
しかし
猟犬が木々の隙間を縫うように動き、距離を取ろうにも執念で距離を離さず戦いの場が足場の悪い濡れた枯れ葉が敷き詰められた場所になっても動きに鈍りは見られない。
互いに蹴りや掴みに警戒しながら激しい攻防を繰り広げ、再び戦いの場は倒木と他の
しかし、猟犬の視線は命の取り合いをしているこの距離感であるにも関わらずどこか散漫としており、それが
「(…っ…コイ…ツ…!まだ余裕があるのか…!?)」
「……いや、戦場に立つ上で気を抜き、余裕がある瞬間などないことは自覚している。」
「……!?」
ジロリと向けられた瞳の奥で自身の考えていたことを見透かされ、口で読まれたことに動揺して一瞬動きが鈍くなる。
そしてその動揺によって生まれた一瞬の時間は、
ほぼゼロ距離の交戦の中で思考は目の前の相手の対処に手一杯になる状況となるが、それでも反射的に次の一手を組み立て予想するために脳は動き続けている。
「…っ…!(しまっ…!)」
その一瞬一瞬で変わり続ける思考と意識の中に、猟犬は『思考が読まれている』というブレを引き起こす意識をねじ込ませることによって、動きに綻びを生じさせた。
猟犬はこうして出来たその隙を逃さずにその手首を掴んで締め上げ、足払いをして勢いよく
「ぐっ…!?(コイツ……!全く…動かない…!?)」
すぐに体勢を立て直そうにも、両腕を見た目からは想像出来ないほどの力で締め上げられていることによって歯軋りをしていることしか出来ない。
戦場に立ち続けたことでできた腕の傷や浮き上がる血管は全力の抵抗の意思を示しているが、積み重なってきたそのような経験と力をまるで嘲笑うかのように目の前の少年は無情にも見た目からは想像できない純粋な力で圧倒していた。
そして猟犬は小さな抵抗を行うことしか出来ていないその様子を見ると、さらに手に力を込めて短剣を離さないように掴んでいる方の腕を歪な音を出しながら迷いなく握り潰した。
「…!!?ぐっ……がぁっ!?」
握る力がなくなったことで短剣が
この一連の動作を行っている間でも猟犬の表情はピクリとも変化させることはなく、ただ淡々と機械的に動かすことのできる部分を確実に壊していく。
これを受けた
こうして両腕を使用不可の状態させられたその人物はこれ以上の抵抗をすることは出来なくなり、諦めたように視線をのっそりと表情の変わらないまま立ち上がった猟犬に向けた。
「はっ…このバケモノが…こんな終わりになるなんて後味悪いなぁ……クソ…」
「お前が今回の侵攻の指揮権を持っているはずだ。…
乾いた笑みを浮かべる
これに対してその人物は舌を出して小馬鹿にしたような表情を猟犬に向けながら嘲り笑う。
「ククク、ばーーか…話すと思ってるのか?命令しか聞かないスチードの単細胞飼い犬がよぉ…?」
「…?猟犬だ。こちらは
猟犬からの言葉が無垢で馬鹿馬鹿しいものとして返ってきたことで、
「はぁぁぁー…終わりがお前みたいなトンチキな奴に殺されることになるってのは…納得がいかないなぁ…!」
「…やはりこのまま話す気はないということか?こちらは
「…ああ…そうかよ…!!」
猟犬の最終宣告とも取れる言葉を受けて、苦悶と狂ったような笑顔の混じった表情を浮かべながら
それは立ち上がり、横から顔を覗き込むようにしてじっと光の灯っていない目を向けている猟犬はこちらを超える素早い行動を取ることはできないと踏んでの動きであった。
「(死ぬとしてもこのまま逝くわけ…ねぇだろ!?)」
しかしそんな予測とは裏腹に、これすら読んでいたかのように猟犬は足元の地面に転がっていた銃火器を足を使ってふわりと宙に浮かせるとそれを手に取っていた。
そして銃口を倒れ込んでいる
明らかに自分の方が初動が早く、間に合うと踏んで行動を起こそうとした
「…!?なっ…に…!?」
「起爆剤を忍ばせていることは把握していた…これで最後だ。
「(…!…これが…アイツの言っていた『猟犬』か…!)っ…ハッ……こっちの…目を見れば分かるだろ…?!」
血の流れる額に向かって銃口を向ける猟犬の目は再び撃ち殺すことを厭わないものになっており、人によってはその姿は死神と見えてもおかしくない。
しかし
「何度脅されても変わらない…これがこっちの答えだ…!!」
「…ああ。こちらも今のお前の目を見て何も口を割ることはないと確信を持てた……スチードをそう易々と落とせると思うな。」
「…はぁ〜〜…クッソが…ほんと…この世は理不尽だなぁ……クソ神様よ?(……悪いな…グリット…)」
その言葉にどれだけの恨みが込められたのかは誰にも理解することはできない。
猟犬は力なくしなだれた腕を地面に落として目を閉じたその人物の頭に向けて引き金を引き、数発の銃弾を放った。
残響が森の中に溶け込んで消えるのを待ってから猟犬は手に持っていた銃火器を放り投げる。
顔についた血を拭いながら歩き始めた猟犬はレーヴルを下るのではなく逆に登っていき、点々と岩肌が露出し視界が木々に覆われていないスチードを見渡すことができる場所に移動していた。
「(青く広い空だな…そしてやはり凄い威力だ。ここからでもアレが見えるのか。)」
そこから目を細めて見えたのは森に囲まれるように点在しているスチードと空の青を反射して日の光を反射させているハインドレートであった。
そしてその海の一角、遠方の海上で以前見たように燃え広がる軍艦らしきものをその目に捉えていた。
海から向かってくる風に軍服を揺らし、しばらくの間じっとその光景を見ていた猟犬であったが立っている山々の岩肌に座り込んで戦況の報告を始めた。
「こちら猟犬…オールクリア。レーヴルからスチードへ侵攻を試みていた
「『本当か…!?よし…よくやってくれたぞ、猟犬…!』」
「(…?大佐じゃない?)ではこれより帰還する。大佐が戻り、こちらに命令があればそれに従う…」
懐から取り出した通信機に向かってそのように声をかけると、その先から聞き慣れない声と共に歓声やまだ慌ただしく人が動く音が聞こえてきた。
大佐がいないことには動くことはできないとなっているため、猟犬はすぐに通信を遮断してスチードへ向けて進むために立ちあがろうとしたが、ふともう一つの戦況について気になっていった。
「…そちらに聞きたいことがある。現在ハインドレートの戦況はどうなっている?」
「『…?ハインドレートの方か…悪いが軍艦を一隻沈めたという情報しかまだ入ってきていない。こちらも詳しい戦況は分からない状況だが…』」
「『報告です!現在…ハインドレートとレーヴルを繋ぐ森から侵攻してきた部隊と交戦しているという情報が…!』」
「……!」
「『なに…!?それなら把握していない部隊の侵攻ってことに…』」
それはもう一つの戦場…ハインドレートの戦況を伝えるための報告。
しかしそれは猟犬にとって不可解な部分が多くあるものであった。
「新たな部隊?……それならスティラは…(…?なんで今、スティラの名前が出た?)」
浮かんできた疑問を自分の中で掻き消し、通信機越しから聞こえてきた報告を聞いて猟犬はすぐに通信を切って再び報告に挙がってきた場所に視線を向けた。
レーヴルで交戦した部隊は全部で四部隊。
その中には指揮権を握っていた部隊も存在していたが、先ほどの戦闘でその部隊は壊滅させたはずであった。
さらに3つめの部隊との会話から今回侵攻してきている部隊数とも一致している。
このことから、常に警戒を行っているスチードの偵察隊すらも把握していない、機密性のある
「……………」
「『ーー…聞こえてい…ま…ーー?…猟ーー…?』」
こうして様々な思考を頭の中で巡らせている間にも、猟犬はすぐに地面へと降り立ってその足をスチードではなくハインドレートに向かわせていた。
普段なら聞き逃さないはずの通信機の先から聞こえる声の主の存在にすら気付かないというこの状況。
その表情には焦りといったものは見られないが、中身には言い表し難いざわつきが生じておりただ真っ直ぐ、視界に捉えた空と同じ青く広がる海を目指していた。