戦火の心臓 作:Navi
「(〜〜〜!なんでなんで…!?なんで他の
「すばしっこい奴だ…!銃撃には警戒しろ!迂回を考えずにまずはこれ以上逃がさないようにしろ…!」
「報告によれば猟犬はレーヴルで交戦中だ!あの人間を撃ち殺して増援が来るまでにさらに先へ進めるぞ!」
「「了解!」」
「…!(やっぱりここまで戻ってきて正解でした…まずは少しでも時間を稼ぐ事を考えないと…!)」
身を隠すために身体を小さく畳み、むき出た大岩に隠れながらスティラは苦悶の表情を浮かべていた。
ハインドレートの防衛の際に命じられたことは『迫る軍艦の対処』というものであり、それを終えたスティラは海に黙祷を捧げた後、スチードへ戻るために足を進めようとしていた。
しかしその途中、バッタリ
「(…とりあえずスチードから距離は離せました…数は30ほどですか……偵察隊の方々に連絡をしましたが増援には流石にまだまだ時間がかかりますかね…)いたっ…!…この状況ですと使えるのはこれだけですか…」
多少の傷を負いながらもスティラは
現在スティラが手に持っているのは規格外の威力を持つあの兵器と近距離戦になった際に使用する銃火器のみであり、与える影響を考えて自動的に兵器を除いたもう一つの銃一本で部隊の相手をしなくてはならない状況であった。
反応が遅れたことで受けた深い腕の傷の止血をしかめた顔で行いながら、キョロキョロと周りに視線を送る。
「(…っ…どうしましょう…身を乗り出して戦うにしても遮蔽物は後ろのこれくらいしかありませんし、この銃弾の雨の中に飛び込んだとしても無事は保証されません………あれ?今の私…本当にどうにもならない状況では…?)」
改めて頭の中で整理を行って自身の置かれているこの状況がかなりマズイことを知ると、頭を抱えてその場で項垂れた。
しかしこうしている間にも
じっとしているだけでは嫌なことが次々と湧いて出てくるため、そんな気持ちを切り替えるために頭を横に振った。
「(っ…考えてる暇はなし…なし…!距離を詰めてくるタイミングは必ず訪れるはず……それなら、その瞬間に…!)」
自身の身体以上の大きさのある武器を岩に立てかけてその上に砂を乗せて固定を行い、目をスッと閉じた。
そして気持ちを沈めるために水平帽を被り直しながら再びゆっくりとその太陽の色を閉じ込めたような目を開いた。
弾丸の装填や他の不備がないかの確認を短くテキパキと行い、視線を細かい砂が纏わりついている足元に移していたスティラ。
覚悟を決めたように一度深く息を吸い込むと目の色を変えて手に持っていた銃身を力強く握る。
さらに着ている軍服のポケットに手を入れて姿勢を取り直し、岩陰から外へ出ていくための時をじっと待ち続けていた。
「(……遅い…まだ詰める気配は無い。…まるで私をこの場所から動かさないように留めて……ん……あれ?『留めて』…?)……あっ…」
ふと身体が震えるような嫌な予感を感じ、スティラはおそるおそる一瞬だけ岩肌から顔を出すと
見慣れた形状をしたそれは紛う事なき人体を粉々に吹き飛ばす威力を持つ爆弾であった。
それを見たスティラは覚悟を決めたような表情をどこへ消してしまったのか、一瞬で顔を青くして再び小さく身を屈めて岩肌に隠れ、目をグルグルと回しながらじんわりと潤めていた。
「(ですよね…!やっぱり持ってますよね、
下手に動くことが出来ずにいたが、戦況を変える一手を見出したスティラは再度姿勢を低くして岩陰から飛び出す体勢をとる。
その瞬間に
だが、スティラの目線は進行方向にある森ではなくたった今投げ込まれた爆弾に向いていた。
「…!全員構えろ!奴が出てきて…」
「(ミスは…出来ない…!)…ここ…!」
これには
「っ…今の一瞬で数人撃ち抜いた…!?」
「…チィ…また森に逃げ込まれたか…!まだ遠くに行くことは出来ないはずだ!こっちもすぐに後を…」
「…!?隊長!スチードが逃げ込んだ先から何か向かって飛んで来ます…!」
「(…っ、間に合わないか…!)この場から早急に離れて衝撃に備え、低く姿勢取れ…!」
爆風によってできた隙を与えたことによって追い込んでいた状況を打破された
しかし、スティラが逃げ込んだ木々の隙間から黒い物体が
その黒い物体が地面に落下する瞬間、衝撃に備えて身を屈めたりその場からすぐ離れようとしたりなどといった様々な行動が取られた。
だが…
「…?」
「…何も起きない…?」
「あ…あれ…?」
「…!!マズイ…!全員その場から動い…」
想定していたこととは大きくかけ離れた目の前の事象に誰もがただ茫然としていたが、そのうちの1人がスティラの行動の真意を反射的に理解して後方にいた別の部隊員たちに叫びかけを行おうとする。
しかしその行動を取るのにはあまりにも遅く、部隊員は頭を逆方向の森から鳴り響いた銃声と同時に撃ち抜かれ、その場に力無く倒れ伏した。
さらに連鎖的にその近くにいて動くことが出来ていなかった他の部隊員たちもその身体を撃ち抜かれて次々と鮮血を地面に広げながら倒れていった。
それを見てすぐにこの銃撃に巻き込まれなかった
「(…何とか上手く行きましたね…?しかしまさか…綺麗だと思って海岸で拾っていた石がこんな風に役立つとは………やっぱりあのままだとなんだか勿体無いのであとで回収しましょうか…)」
空気がなくなったと勘違いするほど張り詰めていた緊張が解けたためか、木の上から銃身を構えていたスティラは森の奥へ
スティラが
だが
そしてスティラは爆破に備えてその場から動かなくなった
森の奥に引いていった
「(っ…クソッ…!!やられた…あの投げ込まれた物体はブラフか…!)」
「どうしますか…!?隊長も今の銃撃でやられたました…こ、このまま向かっていってもこちらが…」
「おい、そんなに狼狽えるな…!だがこの状況…もう『アレ』を使うしかないか…」
「…!まだ調整が済んでいないアレを使う気か…!?正確な影響範囲すらまだ把握できて…」
「だが状況を打破するにはスチードの逃げ込んだあの森ごとどうにかするしかないだろ!?猟犬でないのは確かだが…あの人間も射撃の正確性は異常だ…!このまま出ていっても不利なのはこっちに変わりはないだろうが…!」
森の奥、まだ数としてはかなりの人数が残っているがそれでも指揮を取る人間が撃ち殺された事実とスティラの正確無比な射撃に恐怖していた。
1人が意見を出そうにも掴み合いに発展しそうになったりと数の有利を覆すような力によって逆に追い詰められているこの状況は
しかしこの1人がこの戦況の打破の方法はもうこの一つしか残されていないと口にするとその場の空気は段々と変化を見せた。
「アーチスの目的…そしてそれを実行するためなら俺たちは命をかける思いでここにいるはずだ…」
「……!」
「それ…は…」
「…そんな俺たちがここで引いて何が残る!?自分を奮い立たせる何度も口にした言葉は嘘だったのか!?戦場で散っていった人間の意思をつぎ、奴らへ報いるためといった想いはそんなに軽かったのか!?持っていた意志をなくしてどうする…俺たちは!ここへ何をしに来たんだ!?」
「(…!草木を掻き分ける音…動き出しましたか…!)」
その言葉を受け、
声を上げたその人物が目を閉じ、身体を小さく震わせながら地面の上に置かれていた他の武器よりも一回り大きいものを手に取って一歩、また一歩と森の奥から日の光が差し込む方へ少しずつ近づいていく。
他の部隊員は表情を苦しいものにしながらその背中を見送ることしかできていない。
スティラはその動きを木漏れ日によって反射して見えた光によって大体の位置を捉えたが、
「(うっ…!?まさか…アレは…!?)」
「(奴はまだ森の中…こちらの動きに探りを入れているはず…!それなら狙うのならこのまま…!)…ここまで来たならこっちも玉砕覚悟だ…くたばれ…!!」
「(マズイッ…!)…ッ…本当にここでそれを…!?」
引き金を引いて放たれたそれはスティラが持つ兵器と同じ巨大な爆発を引き起こすものであった。
その威力を深く理解していたスティラは引き金を引かれる前にすぐに木の上から飛び降りて木々の隙間を駆け抜け、波の音すら聞き取れない状態で海に向かって飛び込んで行った。
その刹那、巻き起こったのは木々を燃やし尽くす熱波でありそれは地上を焦土とさせるほどの威力となった。
「(っ……っぁ…)ぷはぁっ…!?ゴホッ…ゲホッ!…っ…マズ…イ…早く……!」
しばらくして海から上がったスティラはすぐに周りの状況確認を行ったが、放たれた兵器の威力はスティラの扱うものよりも小さなものであった。
それでもじりじりと身体を突き刺すような熱風はまだ絶えず流れており、呼吸をするだけでも入り込む空気によってクラクラとするような気分の悪さとひどい頭痛が生じていた。
それはその兵器を扱った
「(っ…呼吸をするのすら…苦しい…)…はぁはぁ…はっ…早く……身を隠さないと…」
「ゴブッ…ゴボッ!っ…今度こそ…捉えたぞ、スチード…!!」
「…ッ!」
海からフラフラとなった状態で出てきたスティラに対して執念のみでまだ立っていたその部隊は再び狙いの定まっていない銃口を向けた。
重い身体を引きずって先ほどまで隠れていた大岩に向かっていこうとするスティラであったが、次の攻撃を避け切ることができないと悟ってそのままギュッと瞳を閉じた。
だがその瞬間、銃口を向けていた
「済まない、遅れてしまった…あとはこちらが対処する。」
「あ……れ…?」
聞き覚えのある声が目の前から聞こえてきたことによってスティラは再び目を開ける。
視界の先には硝煙が流れ出る銃口を
たった今放たれた銃弾によって膝をついて崩れた
こうして突如としてこの戦場に猟犬が現れたことによって
「アイツ、一体どこから現れて…!」
「…!あの目と風貌は…まさか…!」
「(嘘だろ…!?もうここまで来たのか…!)構えろ!!奴が猟け…」
他の
電気をまとった兵器から放たれた電撃は拡散するように銃を持つ部隊員に向かって伝って広がっていき、枝分かれした電撃を受けたことよって悲鳴すら上げさせることなく全員をその場で屍に変えた。
「………は…?」
たった1発のその銃撃によって数の利は覆された。
次々と目から光を失って倒れていく他の
「…ぐっ……猟…犬…お前ぇぇ…!!」
倒れ伏したことと電導性のあるものを所持していなかったことが影響してか、電撃による攻撃を避けた
だが、一瞬にして距離を詰めていた猟犬はその兵器を掴ませる前にその手を激しく蹴り上げ、さらに銃身を使って空いた顔面を力を込めて横に殴りつけた。
高々と打ち上がり、激しく地面の上に転がった
猟犬はそんな状態の
「カッ……アッ…」
「…………」
奮い立たせる言葉など意思など全く意味を成さないということを突きつけるような猟犬の姿は、意識を失いかけている
何か言いかけていた
銃弾を打ち込んだ人物の動きが完全に止まったことを確認すると手に持っていた銃火器を投げ捨ててアトマからの受け取った兵器は再び背負った。
兵器によって燃え広がる木々を前にして立ち尽くす猟犬の姿はまさに悍ましさを覚えるようなものである。
「オールクリア…今度こそ、これで終わった。…こちら猟犬、ハインドレートに現れた
ポケットから取り出した通信機に向かって一言、言葉を発した後に猟犬は振り返ってまだ呆然として動かずにいたスティラに歩いて近づいていく。
あまりの反応の無さに対して猟犬は首を傾げながら膝を折って視線を同じ高さに合わせてその顔を覗き込んだ。
広がる惨状が映るその目にはやはり恐怖の色が滲んでおり、それを見た猟犬は反射的にスッと目を逸らしながらスティラ近くから背を向けて離れた。
「(…少佐の言う通り、やはりこちらとは…)…スティラ、これよりスチードへ帰還する。おそらくポイントαに配置されている部隊がすぐにこちらに…」
「あっ……ハ…ハリスさん…!」
「…?どうし……っ!」
ポツリと聞こえてきた言葉に反応して意識を戻したスティラは離れていく猟犬をすぐに追いかけて慌てて引き止めるようにその手を掴んだ。
突然のことに表情を大きく崩して驚いた猟犬は動きをピタリと止めて振り返り、手を伸ばしてきたスティラの顔を困惑しながら見返した。
もう一度その目を覗き込むように見ると、そこには恐怖するような感情はこもっておらず、今にも泣き出しそうなほど潤んでいた。
「ご、ごめんなさい!気が動転していて…!こうして私を助けて下さり本当に…本当にありがとうございます…!私の前に立ってくれて……死を覚悟してましたが…来てくれて嬉しく……う、うう…」
「(……この場合どうすれば…)…!」
不安や恐怖の感情がごちゃ混ぜになっていたためか紡がれる言葉が段々と掠れていき、言い切る前には涙が溢れていた。
そんな顔を見せないようにするためかスティラは水平帽を深く被り、軍服の袖を掴んでその頭を寄りかかるように猟犬の胸付近に押し当てて啜り泣き始めた。
こんな状態になってしまったスティラに対してどのような受け答えをすれば頭を悩ませていた猟犬であったが、何かを思い出したかのように手を伸ばし、水平帽の上からスティラの頭を撫で始めた。
「…!?ハ、ハリスさん…?!」
「驚かせたのなら謝罪する。しかし以前スティラにこれをされた時、こちらは自然と安心感が湧いていたからな?これは本当に不思議なものだ…きっとスティラもこれをすることでこちらと同じように感じるはずだ。」
「(た、確かにこういったことをしましたがまさかされる側に回ることになるのは想定外ですよ…!……ですが…)は、はい…」
自身が出来そうなことを模索し、このような行動をとった猟犬はこれが自分が今取るべき正しい行動だと確信を持っていた。
それを補強するかのように、スティラの啜り泣くような声が段々と聞こえなくなっていく。
様子が変わったことで猟犬も離れようとしたが、スティラはまだ潤んだ目のまま少しぐてりと残念そうにしながら口を開いた。
「あ、あの……もう少……あっ!?や、やっぱり何でもないです!大丈夫…はい!もう大丈夫ですよ!あ、あはは…私もまだ気が動転してるんですかね!?も、もう一度海に飛び込んできましょうか……っ!…いったい…!?」
自身の言いかけたことを自覚して凄まじいスピードで顔を上げて後退りを行った。
しかし、後ろ向きで進んでいたこともあり、スティラは地面の窪みに足を取られてそのまま盛大に転んでしまった。
この一連の光景を見ていた猟犬は困惑しながら離れて行ったスティラに近づいて手を差し出し、顔を赤くしたスティラを立たせた。
「(〜〜〜!なんでなんで…!?本当に私は何して…いや、まずは弁明を…!)いったた…ご、ごめんなさい、ハリスさん…!変な事を口走ってしまいましたぁ…!」
「い、いや…こちらは問題ない。(何をこんなに焦って…いや、それよりも触れて分かったが海風と太陽が隠れているせいかかなり冷えていたな?…少佐は自然の脅威については人間以上に特に警戒を向けた方がいいと言っていた…)…それなら……やはりこれだな?」
「ううぅ……?どうかしま……んん!?」
スティラの手を取ったことで自分の手の中にひんやりとした感触を覚えた猟犬は両手を小さく広げてじっとその場に立っていた。
今度はこれを見たスティラが猟犬に対してポカンと困惑した表情を浮かべ、この行動をした真意を聞くためにゆっくり口を開いた。
「ハ、ハリスさん?何故手を広げて…?」
「ああ。今までのスティラの言葉やこちらの傾向を考えて、接触によって落ち着きが生まれるという結論になった。さらにスティラは軍服を濡らして体温が奪われ続けるような状況だ。」
「ええっと…つ、つまり…?」
「つまりだ。スティラがこちらに抱きつく事で体温と落ち着きの確保を同時にすることができるはずだ。だからこうして…」
「…!!?流石にそれは出来ませんよ…!?な、何だか接触段階が!行動が飛躍していませんかね?!」
「…?そうなのか?」
「そうですよ!?確かに少し、すこーし寒いとは思っていましたが、そこまでしてもらうほどではありませんよ…!?スチードに戻るまで動いていればすぐに温まりますので心配無用です…!」
自信ありげな目つきでありありと自身の考えを口にした猟犬であったが、返ってきたスティラの返答は思っていたようなものでなかった。
しかし、思っていたよりも元気な様子なスティラの姿を目にしてすぐに挙げていた腕を下ろして次の行動について話を始めた。
「なるほど、それならこちらも安心だ。では改めて、与えられた命令は全て完了した。こちらもすぐスチードへ帰還するべきだ。」
「あ、はい……分かりました…」
スティラから離れて死体になった
しかし、少し待っても返答が返って来なかったため疑問を感じて再び後ろを振り返ると、スティラは下を向いたままその場から動かずにいた。
それを見てどこか身体に不調があるのではないかと察した猟犬は再度スティラに近づいて下から顔を覗いた。
見ると頭を下げていたスティラの目をグルグルと回しており、猟犬はその様子を確認すると心配のこもった声をかけた。
「…やはりスティラは不調を隠していないか?そういう目をするのは、何か自分にとって不備なことや困惑するようなことが起きた時にするものだとこちらは把握している。」
「…!?いえいえ、問題ないですよ…!?これからスチードへ戻るのですね…よし、それなら早く戻りましょう…!ねっ…!」
「…ああ。了解した。…ああ。そうだったな。隠していたあの兵器は回収しないといけないんじゃないか?」
「え…ああっ!?忘れるところでしたぁ…!何度も迷惑をかけてすみません…!」
顔を逸らして歩き出したスティラについて行くために猟犬もすぐにその後ろを首を傾げながら歩き出したが、すぐにスティラは踵を返して砂浜の方へ走っていった。
陽の光が海に反射してチカチカと猟犬の目の中へ刺すように向かってくるが、猟犬はそんな海の方へ向かって行くスティラの姿をじっと見ていた。
そして、自身の背丈を超える兵器を背負って気まずそうにしながら戻ってきたスティラと共に猟犬は再びスチードを目指して歩きだした。