連邦軍上層部から見捨てられ、ジオン勢力圏内に取り残された部隊……。その中隊指揮官であるわたしは、もはや何の気力もなく空き家から窃盗した酒に逃避し、溺れる日々を送っていた。

だがそこへ、青い連邦軍制服の赤みがかった天然パーマの少年が現れる。

それは、復活への狼煙となるのか。

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そういやあ、こんなモブもいたなあ。
あの連邦軍人たちの中では、多少は言葉通じたっけなあ。


わたしは連邦軍士官A

 台所から勝手に持ってきた酒瓶をまた1本空にして、わたしは深く溜息をついた。ここは小さな、村と見まごうほどの町だ。そして……事実上、ジオンの支配下である。

 形の上では、わたし率いる中隊は未だジオン軍に抵抗を続けている事になっている。書類上では、だ。しかし実情は連邦軍上層部から見捨てられ、ジオン勢力圏内に取り残された敗残の部隊に過ぎない。

 今もこうやって部下たちと共に、空き家に勝手に入り込んでは残されていた物資、特にこの家の主が大事にしていたであろうそこそこ値段の張るだろう酒瓶を盗み飲んでいる。自分でも情けないとは思うが。

 

 

「……ん?」

 

 

 その瞬間、わたしは強烈な既視感(デジャヴ)に襲われる。この家のこの応接間、その造りにどうにも見覚えがある様な気がしてならないのだ。そして酒瓶をらっぱ飲みする部下たちにも。

 そしてわたしは、青い特殊な連邦軍軍服を着た、赤みがかった天然パーマの少年兵が、この部屋に飛び込んで来るのを幻視する。いかんな、飲み過ぎたか?

 

 次の瞬間、その幻視は現実になる。

 

 

「あっ……」

 

 

 その青い軍服の少年兵は、愕然とした表情になる。わたしは一瞬目を(しばたた)かせた。部下たちは、それにも気付かず騒いている。

 

 

「……うぉーい、酒もってこーい」

 

「おっと……」

 

「へへへへ……」

 

「う?」

 

「な、なんだ、お前は?」

 

 

 部下のうち数名が、少年兵に気付く。少年兵の名は、アムロ、アムロ・レイだったか? いや、なんでわたしはそんな事を知っている?

 

 

「ここは僕の家なんです!」

 

「なにぃ?」

 

 

 アムロ・レイに凄む部下……。だがわたしはそれを制止した。

 

 

「やめろ」

 

「し、しかしこの野郎」

 

「やめろと言った。……無断で君の家に入ったことは謝る。すまなかった。しかし、誰もいなかったものでね。我々にも、雨風を凌ぐ場所が必要だったので、誰かが既にいる家を使うわけにもいかなくてな。それで、空き家ならまだましだろうと」

 

「あ、空き家……? 誰もいない?」

 

 

 部下がアムロ君に、絡むように言葉を発する。

 

 

「へっ、ずっと空き家になってるんだ」

 

「か、母さん! 母さん!」

 

「母さん? へ、母さん、か」

 

「母さんっ!」

 

「なんだ? (うたぐ)ってやがんのか?」

 

「逃げ出して死んだんじゃねえの? なあ?」

 

「どうしたんだい? 坊や、おままごと? それともママが恋しくなったのかい? ひひひひ」

 

 

 アムロ君をなぶるように言葉を発する部下。だがわたしはその部下を怒声をもって制止する。

 

 

「やめんか!」

 

「な、た、大尉?」

 

「隊長!?」

 

「……お前たちも、彼ぐらいの年頃の頃合いに、からかわれるのがどれだけ嫌だったか、覚えているだろう。それに、彼の身になってみろ。今このご時世で、この歳で連邦軍の制服を着ているって事が、どんな苦労の上に成り立っているのか。

 そんな中、やっと母親に会いに来たら、そこに見知らぬオッサンどもが酒盛りしているところに出くわしたんだ。驚き怒るのも無理はないだろう」

 

「……へい」

 

「わかりやしたよ」

 

 

 むくれた顔をした部下から顔をそらし、わたしはアムロ君に小さく頭を下げる。

 

 

「すまなかった、君。だが、我々としても行くところが無いものでね。申し訳ないが、いましばらくの滞在を許してほしい」

 

「……わ、わかりました」

 

「わたしはアーチボルド・アルバーン大尉、地球連邦軍極東方面軍第1128-63-C中隊中隊長だ。もっとも、もはや隊の体裁も成してはいないし、生き残りの規模は30人弱、小隊レベルだが、な」

 

「僕は……。アムロ、アムロ・レイです」

 

「アムロ君、君のお母さんは、ここには居ない。行方を捜すなら、町で聞き込むべきだろうな」

 

「はい……」

 

 

 アムロ君は悄然として、家を出て行く。そこへ部下たちが口々に文句を言って来た。

 

 

「隊長!」

 

「大尉! なんであんなガキにへいこら……」

 

「気付かなかったか?」

 

 

 わたしの凄みを効かせた声音での問いかけに、部下たちは酔ってはいても一瞬、ぎょっとした顔をする。

 

 

「彼の制服が、特殊部隊……というか、エリート部隊用のものだった事、そしてその制服が妙に小ぎれいだった事に。もしかしたら近くに部隊が来ている可能性がある。……気付かなかったのか? わたしたちが助かるかもしれない瀬戸際だって事に」

 

「「「!!」」」

 

 

 わたしは声を張り上げた。

 

 

「傾聴! 貴様らは、急ぎ水を大量に飲んで、スクワット500回! 腕立て伏せ500回! 腹筋500回だ! 汗を大量に流して、酔いをわずかにでも抜いておけ!」

 

「「「は、はいっ! 了解!!」」」

 

「わたしは洗面所で顔を洗い、水を飲んだあとに彼を追う! もう少し、彼と話さねばならない!」

 

「「「ご、ご武運を!」」」

 

 

 

 

 

 

 わたしは急ぎ顔を洗い、水を大量に飲んでトイレを済ませて、即興で可能な限り酔いを醒ました。そして急ぎ、アムロ君を追う。彼がどちらに居るかは、なんとはなしに勘が働いた。

 はたしてアムロ君は、わたしの向かう先に居た。そしてわたしの別の部下と悶着(もんちゃく)を起こしている。

 

 

「やめろ、おばさん! 拾っちゃだめだ! 兵隊に拾ってもらうんだ!」

 

「な、なんだこいつ? 小僧、もう一度言ってみろ! 生意気な!」

 

「拾えと言ったんだ! 拾え! 拾え、拾えっ!」

 

 

 ばきっ!

 

 部下がアムロ君を殴る。

 

 

「うっ!」

 

「やろう、こいつっ! てめえみたいなヒヨッコに何がわかるんだ。この町に俺達がいなかったらな、とっくの昔にジオンのものになってたんだぞ、偉ぶりやがって」

 

「やめろ!」

 

 

 わたしの怒声が響く。部下は一瞬目を丸くした。

 

 

「た、大尉」

 

「その少年、アムロ君の言う事の方が正しい。……この町に我々がいなかったら、なんだ? 現実を見ろ。我々はこの町を守れてなんかいない。ここはとっくにジオンの勢力圏だ。そして民間人を守るのは、軍人の使命だ。あたりまえの事すぎて、その事を恩着せがましく言うのは違う」

 

「……だからなんだよ!」

 

「ああ?」

 

「俺たちがこんな町にいるのは、上層部から見捨てられてジオンのまっただ中に居るのは! アンタが不甲斐ないせいじゃないかよ! それなのに偉そうに俺に説教か!? ああ!?」

 

 

 そして部下は、手持ちの突撃銃をこちらに向けて来る。いや、向けて来ようとした。残念だ。いろんな意味で。わたしが連邦軍制式拳銃を抜打ちする方が早い。

 

 バン!

 

 銃声が響き、(くずお)れるわたしの元部下。そしてその銃声に驚き、数人の町人や、そしてそれに混じり数人、わたしの部下が駆けつけて来る。

 

 

「た、大尉! リチャード!? な、何が!?」

 

「命令不服従と、そしてこちらに銃を向けてこようとした反乱罪で、銃殺した。……今、わたしたちはここから脱出できるかどうかの瀬戸際にいる」

 

「「「!?」」」

 

「リチャード上等兵は、その脱出の機会を、知らなかったとは言え浅慮で潰そうとした。こいつの死体、片付けておけ」

 

「は、はっ!」

 

「アーチボルド大尉……」

 

 

 アムロ君と、果物売りのおばさんが小さく頭を下げて来る。

 

 

「……わたしの部下が、済まない事をした。謝罪する」

 

「貴方が、どうして?」

 

「アムロ君、君の部隊がこの近くにいるのではないか? 我々の部隊は、このままここに居てもまず間違いなく全滅するだけだ。我々も君の部隊に随伴させてもらい、この地より脱出したい。君の隊の指揮官と、話がしたいんだ。

 ご婦人。町の顔役に、お伝え願いたい。この交渉の成否に関わらず、我が部隊はこの地より脱出する。内心忸怩(じくじ)たるものはあるが、我々がここにいる事でこの町を守るどころか、ジオンの敵意を買っている状況だからな。我々が脱出したあとは、ジオンに服従を誓いなさい。そして連邦軍がこの地を取り戻した暁には、しれっとした顔で連邦軍に万歳を叫ぶんだ。……なんとしてでも、生き残ってくれ」

 

「……わかりました。お伝えしておきます。それより……。あんた、アムロじゃないのかい? コミリーの友達だった」

 

「おばさん……。うん、アムロだよ。だけど、まずは大尉の方を。大尉、よければ僕の通信機をお貸ししましょうか」

 

 

 だがわたしは、その申し出を手を挙げて制する。

 

 

「いや、隊が違う以上はそれは悪手だ。規則に違反する可能性がある。まずは君から上官に連絡して欲しい。そして通信コードをわたしに伝える許可を貰ってほしいんだ。そうすれば、こちらの通信機でそちらの上官に交渉ができる」

 

「規則、ですか」

 

「軍人は、規則に従わなければならないんだ。軍人は、銃や戦車や戦闘機といった武器を持っている。それが無軌道に暴れ回ったら、どうなる? だからこそ、何よりも厳格な規則の元、動かないといけない。そうでないと、君とそのご婦人を酷い目にあわせたリチャード上等兵のような事になる」

 

「あ……」

 

「ふ、君の家におしかけて酒盛りをしていた、わたしの言っていい事では無いけれどね」

 

 

 そしてわたしは、アムロ君がホワイトベースに連絡してくれたおかげで、彼の指揮官であるブライト・ノア艦長と交渉する事ができた。いろいろ紆余曲折はあったが、最終的に我々はホワイトベースに乗艦し、この地を脱出する事が叶ったのである。なお近くにあったジオン軍の基地は、アムロ君が新兵器ガンダムで焼き払った模様。

 

 ちなみにその後アムロ君は、あの果物売りのご婦人から得た情報で母親に会いに行けたらしいのだが……。ホワイトベースの船窓から見遣ると、彼は母親に敬礼をして、頽れる母親に背を向けて、ブライト艦長と共にホワイトベースへと戻って来た。

 

 

「……やはり決別、したか。しかし何故わたしにそんな事がわかる?」

 

「大尉、何か?」

 

「いや、なんでもない。それよりも、このホワイトベースという艦、ひどいものだ。正規の乗員が戦死して、候補生や難民上がりの現地徴用兵、それも少年少女ばかりで運用されている。

 ……乗せてもらえるタクシー代がわりだ。どこかの基地に着くまでは、我々が陸戦隊員がわりになって艦を守るぞ。それと、手すきの者は銃座の訓練をしておくんだ」

 

「「「はっ!」」」

 

 

 まあ、どっかの基地に着いたら着いたで、勝手に戦線を離れたって事で懲罰くらう可能性も高いんだがな。念のため、わたしの独断での命令だという事をはっきりさせるため、命令書を書面にして発行したが。こうなれば、いざという時でも部下たちに責は負わせられずに、処罰はわたしだけで済むだろうさ。

 

 そしてホワイトベースは離陸、アムロ君の故郷の地を離れた。




 自覚のない転生者シリーズ? 二作目です。

 この話の連邦軍士官Aは転生者です。憑依じゃないです。転生です。ただし、本人にはまだ転生者としての自覚はまだほとんど出てません。

 というか、元のTVシリーズでは、やさぐれててはいても流石士官というところを見せて少しだけ理性的なふるまいを、アムロに対してしていたのが印象に残っていたんですよね。

 でもって、上の命令なしに自分で勝手に部隊を戦線離脱させた(書類上はきっちり現地で戦ってることになっていた)ので、上はお役所仕事的に問題にします。たぶん。ただ部下たちは、撃たれて死んだ彼以外は、責任を全部彼がおっ被るために無事です。たぶん。

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