「急げ、お前だって軍人になったんだろうが」

その台詞を放った時、彼の中にわずかに残っていた、かつての彼の壊れ崩れた残滓が悲鳴を上げる。

……彼は間に合うのか。

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もう少し、救いがあってもいいと思いませんか。
だってガンダム親連中の中では、めずらしいくらいの優良父親ですよね。ヤバい状態になってたのは酸素欠乏症での重度痴呆のせいですし。


復活のテム・レイ

 わたしは買い物を終え、住み込みさせてもらって根城にしているジャンク屋へと帰って行くところだった。そこへ声がかかる。

 

 

「父さん」

 

「……」

 

「父さん」

 

 

「……」

 

 

「父さん!」

 

 

 最初わたしはその声が、わたしを呼ぶものだと認識できなかった。しかしながら、わたしの中ではるかに遠ざかった薄れてしまった記憶が、瞬時に喚起される。この声は、アムロ、だ。わたしの息子だ。

 

 次の瞬間、脳裏にザクやリックドムを次々に撃墜する、わたしの最高傑作であるRX-78-2ガンダム、それを操縦する我が息子アムロの姿が映し出される。わたしの心の中に、歓喜の感情が沸き上がった。

 

 

「おう、アムロか」

 

「……父さん」

 

「ガンダムの戦果はどうだ? 順調なのかな?」

 

 

 わたしは、本来であればアムロがガンダムの操縦者(パイロット)である事を知るはずも無い。なのにわたしは、その事を確信していた。そしてその事を疑問にも思わない。

 わたしはアムロを誘って、ジャンク屋へと帰った。

 

 

 

*

 

 

 

 わたしはジャンク屋に帰ると、アムロに新開発の回路を手渡す。

 

 

「ジャンク屋という所は情報を集めるのに便利なのでな。ここに住み込みをさせてもらっている。こいつをガンダムの記録回路に取り付けろ。ジオンのモビルスーツの回路を参考に開発した。

 すごいぞ、ガンダムの戦闘力は数倍に跳ね上がる。持って行け、そしてすぐ取り付けて試すんだ」

 

(こ、こんな古い物を。父さん、酸素欠乏症にかかって)

 

 

 息子であるアムロの声が聞こえた気がする。そして軽い失望の感じも受けた。だがわたしは気にしない。気にもならない。気にも留めない。大事なのはガンダムだ。この『新開発』の回路をガンダムに取りつけ、その威力を試すのだ。

 

 

「はい。でも父さんは?」

 

「研究中の物がいっぱいある。また連絡はとる。ささ、行くんだ」

 

「うん」

 

 

 アムロは少し躊躇(ためら)う。そして再度口を開いた。

 

 

「父さん、僕、地球(くに)で母さんに会ったよ。父さん、母さんのこと気にならないの?」

 

「ん? んん。戦争はもうじき終わる。そしたら地球へ一度行こう」

 

「父さん…」

 

「急げ、お前だって軍人になったんだろうが」

 

 

 アムロは、踵(きびす)を返す。そのアムロに感じたのは、先ほど回路を手渡したときとは比較にならない失望と絶望だ。……わたしは、何をした? 心の奥底で、『かつての』わたし(テム・レイ)が叫んでいる。

 そのとき、わたしはビジョンを見た。『わたし』は快適な部屋の中で、旧式のブラウン管TV(テレビ)に映る、『機動戦士ガンダム』第一話を視聴していたのだ。

 

 

『ブライト君といったね? 何ヶ月になるね?軍に入って』

 

『六ヶ月であります』

 

『19歳だったか? ガンダムが量産されるようになれば、君のような若者が実戦に出なくとも戦争は終わろう』

 

『お子様でらっしゃいますか?』

 

『ああ。こんな歳の子がゲリラ戦に出ているとの噂も聞くが、本当かね?』

 

『はい、事実だそうであります』

 

『嫌だねえ』

 

 

 そうだ。わたしはアムロと同い年ぐらいの子供が、戦争に出ているのを止めたかった。いや、『アムロを』戦争に行かせたくなかったのだ。それなのに、わたしは何をした? わたしは何を言った!?

 アムロは失望し、絶望した! 母であるカマリアが、地球で会った時にアムロにさして興味を持っていなかった事を察してしまったときと、同じ失望を! 絶望を! わたしがガンダムにだけこだわっていたことで、わたしもアムロに興味がない、と思い知らされて!

 違う! 違うんだ!

 

 

「まて……。まて、待つんだアムロ!」

 

「……?」

 

 

 冷たいまなざしで振り返ったアムロ、その手に持たれた『テム・レイの回路』……。わたしは右手を振るって、その回路を床に、足元に叩き落とした。

 

 

「な……」

 

「違うんだアムロ! わたしは! わたし、は……」

 

 

 そしてわたしは、床に頽(くずお)れた。わたしの口からは、次々に言い訳がましい言葉が流れ出る。

 

 

「こんな、こんな古臭い時代遅れの代物、ガンダムに取りつけちゃいかん! 何故だ、何故わたしは! わたしがガンダムを作ったのは、お前の様な子供が! 何よりもお前が! 戦争に行かずに済むためだったというのに! なのにわたしは! お前を戦場に送り出そうと!

 なんで、こんな時代遅れの機材を! 回路を! わたしはどうしてしまったんだ! ああ、だめだ! 頭が働(はたら)かない! どうして、どうしてだ! なんでわたしが作ったガンダムに、なんで戦争に一番行かせたくなかったアムロが乗って!」

 

「父さん!」

 

 

 アムロの手が、頽(くずお)れたわたしを抱きかかえる。その瞳には、もはや先ほどまでの失望も絶望も無い。暖かいアムロの体温が、伝わって来る。

 

 

「父さん! ホワイトベースに行こう! そしてルナ2に送ってもらおう! 連邦軍の軍病院に入院するんだ! 父さんは、父さんは酸素欠乏症なんだ! だけど連邦軍の最新の医療技術なら! 回復の目途はある! あるんだ!」

 

「アムロ……。アムロぉ……。すまない、わたしはカマリアが間男を作っていた事も知っていた。知っていて、放置することしかできなかった……。下手に騒ぎ立てると、アムロの成長に悪影響を、と屁理屈で自己防衛して……。ちゃんと、ちゃんと話し合って離婚するべきだった。

 すまない、すまないアムロ……」

 

 

 そしてその瞬間、わたしとアムロは宇宙空間に居た。青い、青い宇宙だ。そしてその宇宙には、眩い輝き、煌きが満ち溢れている。

 

 

『『!?』』

 

 

 先ほどまで、まったく上手く働(はたら)いていなかった頭が、今はすっきりして明瞭に働(はたら)いている。

 

 

『父さん、これは……』

 

『これ、は……。まさか、アムロはそうだろうが、わたし、も? ニュータイプ、なの、か?』

 

 

 傷ついた脳神経の回路が、生き残っている脳神経をバイパスにして、急速に復旧、回復していく。そうか、そうなのか? そういえば、アムロに会った瞬間、わたしはアムロがガンダムの操縦者(パイロット)だと確信、して、いた?

 だが、あのとき見えた、TV(テレビ)で『機動戦士ガンダム』第一話を視聴していたビジョンは、イメージはなんだ?

 

 次の瞬間、さまざまなアニメーション映像がわたしたち2人の周囲に溢れた。ジオンの超兵器ソーラ・レイで、デギン公王と和平会談を行おうとしていたレビル将軍が連邦軍多数とともに焼き殺されるシーン。ジオンのニュータイプ、ララァ・スンとシャア・アズナブルとのアムロの悲劇。戦後ニュータイプの在り方を端的に示しすぎたために、連邦軍から危険視されて軟禁され、人間的に腐っていくアムロ。最終的に立ち上がり、シャア・アズナブルを倒してアクシズを押し返すサイコフレームの虹の向こうへ消えるアムロ。

 

 

『だめ、だ。アムロを、わたしのアムロをこんな悲しい道を進ませてはならない!』

 

『父さん……。ありがとう。……大丈夫、僕はこの道にはたぶん進まない。気はあんまり進まないけど、地球連邦に、連邦軍に従順すぎるぐらいの演技をしてれば、向こうもそうそう悪い扱いをしてこないだろうし。

 それに、これからは父さんも居てくれる、だろう?』

 

『アムロ……。うん、うん……』

 

 

 輝く青い宇宙の中で、わたしとアムロは涙ぐみつつ語り合った。

 

 

 

*

 

 

 

 その後、わたしはジャンク屋の親父に、自分がMIA扱いになっていた、酸素欠乏症で自身を失っていた地球連邦軍の技術士官だと言う事を話し、退職させてもらった。連邦軍に入隊していた息子と再会したことで、自分を幾ばくかなりと取り戻したため、連邦軍に復帰願いを出すつもりだと言う事を話すと、ジャンク屋の親父は喜んでくれて、けっこうな退職金を、いいと言うのに押し付けて来る。アムロと話し合い、ありがたくその金は受け取った。

 そしてホワイトベースに戻ると、ブライト士官候補生、いや中尉にして艦長は、文句を言って来る。

 

 

「アムロ、個人的に街をぶらぶらする時間を与えたおぼえはないぞ。貴様のおかげで出港が遅れ……。

 テム・レイ技術大尉!?」

 

「すいませんブライトさん。行方不明になっていた親父を、街で見つけたんです。親父によると、サイド7でコロニーに空いた穴から宇宙服で吸い出されて漂流、その後幸いにもサイド6船籍の船に拾われたらしいんですが……。

 酸素欠乏症で重度の痴呆状態に。ただ、僕と再会した事がきっかけになって、急激な回復を見せたんです」

 

「ひさしぶりだね、ブライト君。いや、ブライト艦長。わたしのせいで、予定に後れを生じさせてしまって申し訳ない」

 

「い、いえ。そういう理由であれば……。アムロ、そういう事情なら仕方ないが、ならば艦に連絡ぐらいは欲しかったな」

 

「す、すみません」

 

 

 そしてわたしは、ブライト艦長に連邦軍への復帰と、そして軍病院への入院手続きを申請した。あのニュータイプ同士の感応空間で、わたしとアムロはおおまかな未来を見てしまっている。あの未来は、絶対に来させるわけにはいかない。アムロは、アムロには、ちゃんと幸せになる権利があるんだ。

 

 

(絶対に、世界のための犠牲になって使い捨てさせたりはしないぞ)

 

 

 そのために、一刻も早く完全な復活を遂げなければ。感覚的には、痛めつけられた脳細胞、脳神経、その回路網は、無傷の脳細胞がその代替をすることで十全に復調している様にも感じられる。だがきちんとした検査を受けて、瑕疵があるならばきちんとした治療を受けて、しっかりと復帰しなければならない。

 そして一度地球に戻って、カマリアとの決着もつけなくてはならんな。……生きるためにジオン兵を撃ったアムロを否定し、罵倒したのは許せない。赦せない。なんて情けない母親だ。きっちり離婚して、二度とアムロに会わないことを約束させないといけない。

 

 そしてホワイトベースは、サイド6を出港して行った。




 このあとコンスコン隊は、ホワイトベース隊の皆さんが美味しくたいらげました(笑)。ただしアムロの撃墜機数が2機増えて、その分他の面々の撃墜数が減ってます。

 この話のテム・レイは転生者です。憑依じゃないです。転生です。ただし、本人にはまだ転生者としての自覚はまだほとんど出てません。

 カマリア・レイは離婚されます。でもって連邦軍技官の妻という肩書で得ていた地球在住の権利は失われます。宇宙に行かされることになって、間男との関係性はどうなるかは不明。

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