二人だけの音 〜重ならない旋律が響くとき〜   作:Tmouris_

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好きが起こすちょっとした奇跡


第28話:何度でも

「ずっと、離さないでいてー」

 

歌声がスタジオに響いて、曲が終わる。

 

「すごいよ、めっちゃ上手になってる」

 

おどおどする燈と目が合って、私もこくりと頷く。

 

「あ、ありがとう」

 

今日は、兄さんと燈と私の三人でスタジオで練習してる。

 

「二人とも疲れてるだろうし、少し休憩しよっか。飲み物買ってくるよ」

 

燈は壁に寄りかかって体育座りで座り込んだ。

私もギターを立て掛けて、燈の隣に腰を下ろした。

 

「燈はなんで兄さんの隣にいるの」

 

ずっとぽっかりと空いた穴。記憶にだけある好きって気持ち。

兄さんと一緒にいる燈なら知ってるかもしれない。

 

「おあ……えっと、結月君は温かくて、いつも、私を照らしてくれて。だから、頑張って隣に……いたい、から」

 

少しずつ顔を下げて、俯く。

 

「でも、最近は隣に近づけた気がして……嬉しい」

 

顔を上げて、微笑む表情には見覚えがあった。私が昔兄さんを見ていた時の表情。

 

――今はもう思い出せない。

 

「兄さんが好きだから?」

 

そう言うと、燈は一瞬顔を下げてから、視線を泳がせた。

 

「クラスの子にも言われたけど、好きってよく、分からない……でも、結月君といると安心して、頑張ろうって思える」

 

また、その表情。

 

どうしてだろう、燈が嬉しそうに兄さんの話をすると胸の奥がぎゅってするのは。

 

「睦ちゃんが結月君を兄妹だって思ってないって言ってたの、ずっと考えてて。でも、私には分からなくて」

 

燈が私の目をじっと見つめる。

 

「二人はとっても仲良しで、少し前までは一緒にいるのを見ると、胸の奥がぎゅっとしてたのに。最近はそんなことなくて」

 

……きっと昔の私と、紬のこと。

 

「今は分からない」

 

好きだったのは覚えてる。でも、なんで好きだったのか分からない。

 

そこで、ガチャっとスタジオの扉が開く音が聞こえて、二人でそっちを振り向いた。

 

「お待たせ〜って……なにか話してた?」

 

燈の視線が私に向かってきて、私はふるふる首を横に振った。

 

ずっとぽっかり空いてて、理解できないこと。答えは知ってるのに理由は分からない。

どうして、私は兄さんのことが好きなの?

 

―――

 

晩御飯の片付けも終わって、ベッドに体を投げ出し、天井を見上げる。

 

兄妹として、兄さんのことは好き。

一緒にいると安心する。それに、大事な家族だから。

 

――認められないだけなのかもしれない。

 

穴の空いた記憶を辿るように、あの時のことを思い出す。

 

―――

 

目の前にいるのは私と全く同じ見た目をした私自身。

 

「睦ちゃんはお兄ちゃんのことが好きなんだね」

 

一歩また一歩私に歩み寄ってくる。

 

「私は兄さん……結月君のことが好き」

 

その子は笑顔で頷きながら、くるりと回って、私に背を向けて立ち止まった。

 

「うんうん。私もお兄ちゃんのこと大好きだよ。いや、みんなお兄ちゃんが大好き」

 

少しだけ空を仰ぐと、ぐっと首を傾けて私の顔を覗き込む。

 

「だけど、ダメだよ睦ちゃん。私たちは兄妹なんだから」

 

それを言われた時に思わず俯いて手に力が入る。

 

「血は繋がって――」

 

「そういうこと言ってるんじゃないってわかってるよね?」

 

ぐいっと顔を近づけられて、少しだけ後ずさる。

 

「それは睦ちゃんの役じゃないんだよ?」

 

胸を握りつぶされるように苦しい。

 

「ギターに出会って、お兄ちゃんに会って色々なものを手に入れて……ううん、手に入れすぎちゃった」

 

地面に広がる水たまりに自分の顔が映り込む。

 

「私の役は睦ちゃんを守ること。だからね、そんな危ないもの睦ちゃんが持ってちゃいけないんだよ」

 

晴天が一瞬で雲に包まれる。

 

「ありのままを見せられるほど睦ちゃんは強くないから」

 

暗闇に包まれて何も見えない。

 

「待って、や、だ……やだ!私から取らないで!」

 

消えゆく意識の中で、ぼんやりと声が聞こえる。

 

「この子はお兄ちゃんと付き合いたい役。上手くいくといいね睦ちゃん」

 

それは、私が自分で……伝えたか――

 

「知りたい?」

 

記憶が途切れたところで、声が響いた。

 

「気持ちを受け止めて貰えないって辛いよ」

 

空いた穴が少しづつ埋まっていく。

それと同時に、胸が苦しかった。

 

「隣にいるのは私じゃないかもしれない」

 

それでも、暗闇の中で私は前に進んだ。

 

「本当の私を拒絶されるかもしれない」

 

光に手をかざす。

 

「それでも、止まれないよね。分かるよ。私も結月のこと大好きだから」

 

それを手に握って全てを思い出す。

 

「でも、全部はあげないよ。これだけは紬だけの想いだから」

 

***

 

朝起きると、キッチンには睦ちゃんが立っていて、朝ごはんの準備が終わるところだった。

 

「おはよー睦ちゃん。俺めっちゃベストタイミングじゃん」

 

そんなことを言いながら食器棚に手を伸ばす。けど、棚に手が届く直前で服の袖を引っ張られて止まる。

 

「おはよう兄さん」

 

視線はキッチンに向いたまま。でも、一瞬だけこっちを見て。

 

「ううん、結月君」

 

呼び方が変わった。それは、睦ちゃんが睦ちゃんじゃなくなった合図でも……ん?

 

でも、最初は俺のこと兄さんって呼んでたし。

 

「睦ちゃんなんだよね?」

 

普通の人が聞いたら意味の分からない質問。俺にとっては大事な質問。

 

その質問に睦ちゃんは静かに頷いた。




今回のお話も読んでくれてありがとうございます。
久しぶりに書いたので少し飛び飛びな感じがするかもしれません。
また、書ける時に少しづつ書いていこうと思うのでよろしくお願いします。
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