負けられねえんだわ
「察しの良い少年だ」
俺の前に立ついかにも怪しい風貌の男こと、ジェントルがそう呟く。その声に焦りはもう無く、目の前の敵を退けようとする覚悟だけが篭っていた。
(土曜日の朝...当たり前だが人通りはない......)
雄英高校近辺に事務所はほとんどない。故に加勢は期待できねぇ。店の人に通報してもらいてえが......その間に確実に逃げられる。
逃げられたら終わりだ。ならここで......
「仕留める!!」
「ラブラバ!!予定変更だ!!
「勿論よジェントル!!」
俺が動き出すと同時に、向こうも動き出した。外套に手をかけ、それを剥ぎ取るように脱ぎ捨てる。すると、紳士服の様な姿を身に纏ったジェントルの全貌が明らかになった。
「リスナー諸君!!これより始まる怪傑浪漫!、目眩からず見届けよ!!私は救世たる義賊の紳士!!ジェントル・クリミナル!!予定がズレた!只今いつもの窮地にて、手短に行こう!!今回は...『雄英!!入ってみた!!』」
長いし訳わかんねえし俗っぽい!!んなモンに付き合ってられるか!!
「させると思うか!!(黄金狂!!)
俺がジェントルに一歩踏み込み、右腕に顕現させた「貪欲の王」の武器、「黄金狂」を振おうとするが.......
俺の拳はジェントルに届く事なく、何も無いはずの空中で押し返され始めた。
「なっ....!?」
「外套脱衣のついでに「張らせて」もらった。リスナーならば承知のはずだが?私の個性は...」
ジェントルの個性は、「触れたものに弾性を付与する」個性。
そう、それがたとえ空気であろうとも...
「暴力的解決は好みじゃ無い」
「ぎっ!?」
ゴムに弾き飛ばされたかの様に、俺は地面をバウンドしながら吹き飛んでいく。めちゃくちゃだ......!空気まで柔らかく出来るなんて...!!
「エグいくらい暴力的よジェントル......」
「私も驚きと混乱の最中さラブラバ......すなわちそれ程のスピードとパワー!見かけによらず恐ろしい!申し訳ない少年!!私は征く!!」
俺から視線を外し、踵を返して走り出すジェルトル。相変わらず逃げ足だけは速いらしいな......!!逃さねえって言っただろうが!!
「謝るくらいならウチに手ェ出すんじゃねえよ!!」
「そいつは出来ぬ相談!『ジェントリートランポリン』!」
「んなっ!?」
ジェントルが地面に手を突くと同時に、俺の体が空中に投げ出される。地面を柔らかくしたのか......!!ヤロウ......!!
「学生の頃は...私も学業に勤しんだよ。君も懸けるおもいあがあるのだろうが、私のこのヒゲと魂に及びはしまい。この案件は伝説への大いなる一歩......邪魔はしないで貰いたい!!さらば青春の煌めきよ!!」
そう言い残し、空中を足場に雄英の方角へ飛んでいくジェントルとラブラバ。
俺の想いが、お前に及びはしないだと?舐めた事を言ってくれる.....約束したんだよ、エリちゃんと、耳郎たちと!!
アイツら全員、この文化祭に全部賭けてる。それを台無しにされてたまるか!!!
「ジェントル・クリミナル!!」
空を駆けるジェントルを捉え、逃さぬように狙いを定める。ここで引くべきは会心の一芸......俺に応えろ!!俺の個性!!
俺の心に呼応して回転を始める右眼、数秒の間を開けて停止する。引いた能力は......
「......大当たりだ」
瞬間、俺の右眼が紫に閃き、次いで俺の腕が有りえないほど「伸びる」。蛇のようにうねり、ジェントルに殺到する俺の腕は、見事ジェントルの背中に命中した。
「ぐはぁっ!?」
俺が引いた能力は、「巳腕」、文字通り「蛇」の様にうねり伸びる腕を手に入れる。間合いが広がり、変幻自在の攻撃が出来る様になる。
まぁそれ以外にも、「呪毒」っつー解毒不可能な毒も使えるが......対人じゃほぼ使えないからぶっちゃけ役に立たねえ。
巳腕による攻撃をモロにくらい、苦悶の声を上げるジェントル。俺はそれに構わず、尚も逃走しようとするジェントルに、巳腕の待つ伸縮性を利用し、俺をジェントルに向けて「引っ張る」要領で飛びかかった。
「懸ける想いは同じだ......お前も、俺達も!!」
「そいつは失敬!!」
勢いを利用し、そのまま建築途中の鉄骨にジェントル諸共突っ込む。空中じゃ部が悪い、ここに追い込んで確実に仕留める!!
「ってぇ...!!」
勢いに巻き込まれた鉄の棒が体に当たる。だがこの程度なんの問題もない!!が......今の能力である巳腕、言ってしまえば腕が伸びるだけの能力。故に、それ自体に攻撃力はない。だから攻撃は「黄金狂」頼りになるが...「黄金狂」は使えば使うほど自制が効かなくなってくる。
だからここで仕留めておきてえんだが......くそっ...土煙が邪魔だ...一体何処に....!?
「まさしくコレは不足の事態、しかし私は同時ない!!」
「!!」
声は背後から!!俺は咄嗟に背後を振り返ると....鉄骨に服が引っかかり、宙ぶらりんになっているジェントルの姿があった。
「なんでそんな感じで居られるんだてめぇ!!」
宙ぶらりんだと言うのに尚も自信満々な様子のジェントルに思わずツッコミを入れてしまう。
いやいや、そんなことしてる暇じゃねえ。早くこいつ捕まえて警察に突き出さねえと......出し物に間に合わなくなる。
「大人しく捕まってくれるとありがてえんだけど、諦めてくれないかな」
「そいつは無理な願いだと言ったはずだ少年。必ず企画を成功させる!!その覚悟がある!!紳士は動じたりしないのさ!!」
覚悟......ふざけちゃいるが目は本気だ。こりゃ諦めさせるのは無理か......
「紳士なものか、雄英にちょっかいかけるつもりなんだろう......何が目的だ」
「フッ......目的か.....」
俺の目の前で宙ぶらりんのまま勿体振り、目を伏せるジェルトル。
奴の目的は何か......それが分かれば、ある程度これからの動きも決められる......そう考えた矢先、ジェントルから聞こえてきたのは......
「いや本当ヴィラン連合の様な輩と一緒くたに考えないでいただきたい。攫ったり刺したりしようなどとはさ考えちゃいないのだただ私は君たちの文化祭に侵入するという企画をやりたいだけ...見逃したまえ少年」
なんとも長ったらしく情けない命乞いだった。んなもん聞くわけ無いだろ。
「警戒態勢で臨んでるんだ、わかるだろ。侵入する前に、アンタみたいな輩が見つかった時点で警報は鳴らされる。どっちにせよ、アンタは侵入した時点で逃げ場はないんだ。諦めろ!」
「それならば心配はない。我が相棒が警報のセンサーを無効化する算段だ。中止にもならない、私たちも企画成功、ウィンウィンじゃァないか!」
「それで「はいそうですか」なんて言うと思うか?そもそもそれこそ大問題だろうが」
「確かに!!」
アホかこいつ!?俺に論破されて納得してしまうジェントル。俺はそのまま捕えようと、ジリジリと距離を詰めていく。
「そう......それがまさに私の企画。面倒な事になる前にそろそろ向かいたいのだが」
「......もう通報してある。ヒーローか警察が到着するまで、ここで大人しくしててもらうぞ」
このハッタリで諦めてくれりゃ良いが.....
「平行線だ。紅茶の余韻が残る間に眠ってもらおう雄英生!!」
やっぱダメか......仕方ねぇ、実力行使だ。
ジェントルが空中を跳ねると同時に、俺もジェントル目掛けて腕を伸ばす。がしかし、ジェントルは柔らかくなった鉄骨を足場に、更に別の鉄骨へと飛んでいく。
しなる鉄骨、縦横無尽に駆け回るジェントル。コレじゃあ捕えられねえ.....!!
「チッ...!!」
目で追えない!!速すぎる!!だがよく見りゃ動きは直前的だ......やりようは十分ににある!!
俺はジェントルが通過するであろう場所に腕を伸ばした。予測と勘頼りの無作為な攻撃。ちょっとでも引っかかりゃこっちのもんだ!!
そう考えた次の瞬間
「がっ!?」
俺が伸ばした巳腕が空中を屈折し、自分に返ってくる。咄嗟に腕を戻しながら状況を把握する。ジェントルは今目の前を跳んでいる。ならどうやって俺に干渉した?触れてすら無いのに....
俺が未知の攻撃に狼狽えていると、ジェントルが自ら種明かしをし始めた。
「君の腕は厄介だ。空気の膜でお返しさせて頂く」
「っ......そう言うことかよ.......」
どうやら、ジェントルが空中に設置した空気の膜に反射され、俺の腕を跳ね返した。という事らしい。本当に厄介な個性だな......!!
そう考えたその時
「ジェントル!!悲しいけれどもうここは退いた方が......!!」
「いいやラブラバ、まだだ」
ジェントルと一緒にいた背の低いヴィラン......ラブラバがどこからともなく現れた。
いつの間に......いや、むしろ好都合。ここで二人まとめて.....!!
そう考え、俺が走り出した瞬間、尋常じゃなく弾んでいる鉄骨の上から、ジェントルが声を掛けてきた。
「おっと、君は私の話を聞かねばならないよ」
「何.....?」
「私の個性は私の意思では解除出来ない。徐々に元の性質に戻っていくんだ。尋常では無い弾みを残しながら、「硬さを取り戻していく」鉄骨...そして今、私が立っているココのボルトを全て外した」
「......!!」
奴の言っている事がもし本当ならば......あの鉄骨は......!!
「崩れる......!!」
「そう、このままでは鉄骨が崩れてしまう。実に危険だ」
そう呟きながら、ジェントルが下を指差す。それに釣られて下を見ると、そこには一人の老人がこちらを見上げている姿があった。
まずい.....!!このままじゃあの人に!!
そう考えた直後、俺は瞬間移動を使い、鉄骨目掛けて巳腕を伸ばす。そしてどうやら、ジェントルの狙いはそれだった様で......
「君は雄英生。崩れる鉄骨を無視はできない」
軽く飛び立つと同時に、鉄骨が大きな音を立てて崩れ始める。間に合え.....!!
咄嗟に腕を伸ばし、鉄骨を絡めとる。瞬間、俺の右腕にズシンと重さが伝わってくる。落ちない様に、落とさない様に踏ん張るので精一杯だ......一歩も動けねえ....!!
「っ...!!下の人に落とそうとしたのか...!?」
「いいや?君を巻きたかった。元より落ちないよう跳ね返すつもりだったからね」
始めからそのつもりだったのか......!!クソッ......!嵌められた......!!
「下に向かうかと思ったが......いやはや改めて恐ろしいスピードだ。大変心苦しいことだが、そこで耐え忍んでくれたまえ。私が企画を終える頃には誰かが気付いてくれるだろう。掴まれラブラバ」
俺を置いて、近くにあったクレーンのアームに触れる。するとグニャリと大きくしなり、ギチギチと音を立て始める。多分、あのまま学校まで飛んで行く気だろう。
瞬間、俺の頭に先ほどのジェントルの言葉が過ぎる。センサーの無効化、文化祭への侵入......このままではそれを許してしまう。
(ダメだ.....!行かせてたまるか......!!)
「予定は狂ったがラブラバ!!警戒されて尚侵入を許したとなれば私はより一層深く世に知れ渡るだろう!!偉業を成した男として!!」
反動を利用して飛び出すジェントル。そのままぐんぐん加速していき、どんどん雄英へ向かっていく。
ダメだ......!ここで逃したら.....俺達の、アイツらの努力が......!!ダメだ逃すな!!
空いている右腕を伸ばす。しかし、その腕はジェントルに届かず、空を切る。瞬間移動をしようにも、鉄骨を置いて瞬間移動を行えば鉄骨が下に落ちていく。
鉄骨と一緒に瞬間移動をしようにも、これは「俺の物」じゃないから重量制限に引っかかる...!!万事休すか...!!
「クソッ......!届け......!!届けェ......!!」
不便なことに、巳腕は片腕にしか出せず、出せたとしてもこの距離は射程外だ。「無敵」のヒーローが聞いて呆れる。この程度の窮地も脱出できないなんて...
「力が....足りない.....!!もっと....!!何処までも届く力を......!!」
貪欲で、強欲で、満たされることのない渇望。
そんな俺の願いに応えるように、左手に輝く「黄金狂」がさらに輝きを増していく。それと同時に、俺の中で何かが湧き上がってくるのを感じる。
「この感覚は....!」
右腕にかかる重さも忘れ、内から湧き上がる力に意識を向ける。この感覚は、治崎と戦った時以来に感じる感覚だ。
もし、もしあの時と同じような事が起こるのであれば....
「この状況を打開出来るかもしれない....!!」
俺はその一心で、左腕を振りかぶった。
距離を離されたジェントルに対し、俺の拳が届くという確信はなかったが、自信はあった。拳を振り上げた瞬間、何故か心に生まれたんだ。「絶対に当たる」って言う自信が....
「外しはしない...!!」
拳を振るうその時、俺の頭に言葉が浮かぶ。
心が叫ぶ、消えろ!死ね! と。しかし、欲望は永遠を望んでいた。深く、永久に続く永遠を望んでいた!
瞬間、俺の目の前に黄金色の魔法陣が現れる。そしてそれと同じ形のものが、ジェントルの背後に出現した。
俺はそのまま魔法陣めがけて拳を振るった。すると、俺の拳は魔法陣の中に消え、ジェントルの背後の魔法陣から出現、「黄金狂」がジェントルの背中を殴りつけた。
「がはっ!?」
「ジェントル!!」
「捕えたぞ...!!」
殴りつけた瞬間にジェントルの背中を掴み、人が居なくなったのを確認してから、右腕で吊るしていた鉄骨を勢いをつけて安全な場所へ投げ捨てる。そしてそのまま、魔法陣の中へ飛び込んだ。瞬間、ジェントルの背後に飛ぶ。
「追い付いたぞ!!エセ紳士!!」
「しつこいな君も!!」
突如背後に現れた俺に対し、個性を使用して弾き飛ばそうとするジェントル。しかし、俺はそれをされる前に巳腕でジェントルを拘束、そのまま黄金狂で殴りつける。
雄英下の森へと落下していくジェントル。それを追いかけるように、俺も空中を踏み、ジェントルが落下したであろう場所へ降りる。
「っ.....本当にしぶといな君は....」
「そりゃお互い様だろ」
土埃をはらいながら立ち上がるジェントルに、「ウェーブがかかった白く長い髪」を揺らしながら話しかける俺、頬には「ダイヤ」のマークが浮かび上がっている。
「....この土壇場で新たな力に目覚めたと言うのかね」
「そういうことだ」
ジェントルの問いに答えつつ、俺はジェントルを捕えるべく歩みを進める。すると....
「諦めるつもりはないのね、ジェントルも、あの子も...」
「ラブラバ....まさか...」
「ええ、使いましょう。私の個性を」
何やら小声で会話を始めた。声が小さすぎて聞き取れないが、作戦会議でもしているのだろう。そんなこと、させるわけないだろう。
俺は会話をしている二人めがけて大きく踏み込み、その左腕を振り下ろす。
「「っ!!」」
「逃さねえっつったろ!!」
俺の攻撃を咄嗟に回避し、空中に跳ぶ二人。しかし、空中に留まる二人めがけて、俺は右腕の巳腕を伸ばし、拘束する。
そのまま地面に叩きつけ、さらにキツく締め上げる。これで...
「詰みだ。もう諦めてくれ」
ようやく捕まえた。このまま警察に...と、そう思ったその時
「愛してるわ、ジェントル」
「ありがとう、ラブラバ」
二人が愛の言葉を呟く。何故この状況で...そう思った矢先、拘束しているジェントルのパワーが急激に上昇し始めた。
「何だ......!?」
そういう個性か!?まずい!!巳腕が破られ....
「悪いな少年」
「!?」
力を増していくジェントルに対し、逃さぬように更に巳腕に力を込めるが、どうやら一瞬遅かったらしく、いとも容易く拘束から抜け出されてしまった、
「力ずくで解決するのは好みじゃないから、こういうところはいつもカットしているんだ....しばらく眠っていてくれたまえ」
その言葉と同時に、ジェントルが俺の首に手刀を落とし、俺の意識を刈り取ろうとする。
「ごめんね回能彩目くん、必ず最後に、愛は勝つのよ」
そう言い残し、二人はその場を去ろうとする。
が、しかし....
「愛が最後に勝つだぁ...?なら...最後に勝つのは俺だ....」
「なっ...!!」
確実に意識を刈り取ったはず。そう言いたそうな表情で俺を見る二人。この程度で、「無敵」のヒーローが折れるわけねえだろ。
「俺は...アイツらへの愛なら誰にも負けねえって思ってる。世界で一番、あいつらを愛していると、胸を張って言える」
俺が思い浮かべるのは、こんな俺を愛してくれると言った二人の女の子。この文化祭で、特に気合が入っていた、俺の大切な彼女達。
「アイツらの為なら、俺は命だって「賭けられる」......それだけ、アイツらを愛してる......!!」
心の内側からドロドロとした力が溢れ出る。絶対に逃すなと、望む結末を手に入れるため、その力を振るえと心が叫ぶ。
「さっきも言ったがなァ...これは俺だけの思いじゃねえ...アイツらの思いを背負ってんだ...!!こんな所でくたばれるかよ!!」
「っ...!!」
俺が叫ぶと、内から溢れ出る力が解放される。白く長い髪は逆立ち、ユラユラと炎のように揺れ始め、目が黒く、瞳が緑色に変化した。
「さぁ...第二ラウンド開始だ!!」
「貪欲の王」が目覚める。欲するものを手に入れる為、それを邪魔するものを排除すべく、その力は、主人に力を与えた。
愛対愛の戦いが、今始まる。
あとがき
みなさんどうも猫耳の人です。
今回も楽しんでいただけたでしょうか?楽しんでいただけたのでしたら幸いです。
さて、次回いよいよジェントル戦決着となります。どんな結末になるか、ぜひお楽しみに。
そして同時に執筆をしている「ワケアリ少女の進む道」の方も読んでいただけると嬉しいです。
そして、願わくば二つの小説にお気に入り登録、評価、感想をしていただけるとモチベーションに繋がります。どうかこれからも私の小説をよろしくお願いいたします。
次回もお楽しみに
回能彩目は
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攻め
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受け