夢の悪魔は異世界を嗤う   作:カカイリ

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皆様、投票の方ありがとうございます!
現時点では、書籍版が圧倒的でした。
web版ほどすぐ見れないので、少し更新が遅くなってしまうかもしれませんが……よろしくお願いします!
オーガ編から変えていこうと思ってます。

ではどうぞ!


11話 燃え尽きた夢の行き先

 

視界を埋め尽くすのは、狂った様に踊る赤。

 

空から降り注ぐのは、希望では無く、全てを焼き尽くす焼夷弾。

 

『HAHAHA!見てごらんよ、この燃え盛るキャンバスを!4歳の子供が握るには、お母さんの手はあまりにも軽くなりすぎちゃったね?』

 

シズの意識の底、暗い記憶の淵に、黄金の三角形が浮かんでいる。

ビル・サイファーは、彼女の凄惨な過去を特等席で眺めていた。

 

「……あ……ああ……」

 

幼い静江は、炎に囲まれ、絶望に立ち尽くしていた。

生きたい。その一念が、異世界の「声」を呼び寄せる。

 

だが、答えたのは天使でも神でもなく、一人の魔王だった。

 

召喚の光が収まった先。そこにいたのは、プラチナブロンドの髪をなびかせた、透き通るように美しい男。

 

魔王、レオン・クロムウェル。

 

「ああ……また、失敗だ」

 

『ひどい言い草だね! 命懸けで時空を越えてきた女の子を「失敗作」呼ばわりかい? レオン、君の美的センスは相変わらず極端すぎて笑えるよ!』

 

ビルが空中で嘲笑う。

 

レオンは死にかけてる静江をゴミと呼び、暇つぶしに炎の巨人(イフリート)を彼女の肉体に叩き込んだ。

 

それが彼女の呪縛(トラウマ)となり、同時に生きる糧となった。

皮肉な運命の始まりだ。

 

時は流れ、シズは「爆炎の支配者」と呼ばれる英雄となった。

魔王に捨てられ、勇者に救われ、仮面で素顔を隠しながら、彼女はこの世界のために戦い続けた。

 

彼女には二人の忘れられない弟子がいた。

 

一人は太陽の様に明るい少年、神楽坂優樹(ユウキ カグラザカ)

 

もう一人は、闇を抱えた天才少女、坂口日向(ヒナタ サカグチ)

 

『おやおや。ヒナタ・サカグチ! あの娘は最高にクールで、最高に壊れていたね! 君の強さを一ヶ月で追い越して、振り返りもせずに去っていく……。三次元の師弟愛なんて、才能という濁流の前では砂のお城も同然さ!』

 

「……ヒナタは、寂しい子だった。私に似ていたけれど、私よりもずっと、世界を拒絶していたわ」

 

そうして時が経ち、彼女は最後の旅をすることになった。

とても、とても明るいチームだった。

 

魔物に助けられ、連れてこられた不思議な町。

 

しかも、スライムが一番偉いときた。

 

そこで焼肉を食べて、談笑して——

 

そんな楽しい時間は、唐突に終わりを迎えた。

 

まだ……、ここでは迷惑に……

 

そんな意識を嘲笑うかのように、魔人は顕現する。

 

彼女の意識は暗転した。

 

 

 

 

『ああ、見てごらんよ。あの救いようのない三次元生物(バカ三人組)を!』

 

私は建て直されたテントの上で、足をブラブラと揺らしながらリムルとチェスをしていた。

視線の先には、回復薬でお肌ツルツルになったと騒ぐエレン、ガルムの試作品を「家宝にする」と拝んでいるカバル、そして牙狼の毛皮を執拗になで回しているギド。

 

三次元の連中っていうのは、本当に面白いくらい単純だ。

 

ついさっきまで死を覚悟し、「もうダメだ、俺の人生は終わりだ……」なんて絶望してた奴らが、ちょっとした魔法の薬と、光り輝くガラクタ——彼らにとっては至宝らしいが——を与えられただけでこれだ。

彼らの脳内では、既に恐怖の記憶はラッキーな報酬という記憶に塗り替えられている。

 

『リムル、君ってやつは本当にお人好しだね。貴重な粘鋼糸衣(スパイダーロープ)甲殻鱗鎧(スカイルメイル)をあんな連中に渡すなんて、蟻に金の冠を被せるようなものだよ?』

 

リムルはスライムの体をプルプルと揺らしながら、満足気に彼らを見送っている。

 

「いいんだよ、彼らには情報を伝えてもらうっていう大役があるんだから。それに、あんなに喜んでくれたんだ。悪い気はしないだろ?」

 

『悪い気はしない、ね。彼らに渡したあれらを売れば、田舎に豪華な別荘を建てられたはずだよ。……まあ、いいさ。私はこの世界の退屈な物理法則が、彼らの浅ましい喜びでどう歪むかを観察させてもらうとしよう』

 

カバルたちは「旦那! 旦那!」と、リムルを神か何かのように崇め奉りながら去っていった。あのマヌケな背中。三日も経てば、自分が死にかけた恐怖なんて酒の肴に変えて、「いやー、あの時は俺の剣が唸ってよぉ!」なんて吹聴するに決まっている。

 

恩義なんてものは、一週間も持てばいい方の記憶のゴミさ。

 

 

 

 

一週間が経った。

ついに、運命の時計の針が不吉な音を鳴らして動き出したんだ。

 

テントの中で、ずっと眠りについていたシズが目を覚ました。

彼女の魂は、すでに燃え尽きた紙屑の様にボロボロだった。

イフリートという強引な熱源を失い、かろうじて保っていた肉体の均衡が、砂時計の最後の砂のように崩れ始めている。

 

私はシズの枕元にゆっくりと降り立つと、彼女はぼんやりとした、しかし確かに警戒心を含んだ視線を私に向けてきた。

 

『やあ、爆炎の支配者。……いや、今はもう賞味期限切れの英雄さんかな?気分はどうだい?君の中に居座っていた炎がいなくなって、ずいぶん静かになったろ』

 

「……あなたは?夢の中で……見たような……」

 

『私かい?私の名前はビル・サイファー。夢の支配者であり、混沌(カオス)の演出家さ。ところで、君のその肉体の崩壊、中々見事なアートだね。三次元の生物が限界を迎える時の、その脆い美しさは嫌いじゃないよ』

 

「ビル、やめろ。……シズさん、こいつの言う事は気にしないでくれ」

 

リムルの静止を無視して、私は彼女の顔を覗き込む。

 

井沢静江(シズエ イザワ)、君、本当は気づいているんだろう?イフリートがいなくなったことで、君を繋ぎ止めていたモノは全てリムルの胃袋に収まってしまったってことに。今の君は、電池の切れたおもちゃと同じだ。秒読みは始まっているよ』

 

シズは力無く微笑んだ。私の無遠慮な言葉を、否定する気力すら残っていない様だった。

 

「ええ……、わかっているわ……。スライムさん、ごめんなさい……迷惑を……。夢を、見ていたよ……。懐かしい夢。もう戻れない……、町の」

 

「日本の事か?」

 

リムルの問いに、彼女はそっと頷いた。そして、核心に触れる。

 

「なあ、スライムさん。君の名前は、なんていうの?」

 

リムルは「リムルだ」と答えたが、彼女の視線はそれを許さない。魂の深淵に触れるような、死の間際にだけ許される鋭い直感。

 

「本当の名前は、教えてくれないのかい?」

 

リムルは一瞬、深い沈黙に沈んだ。だが、彼は決めたようだ。

 

「ふん。どうせ、貴方は長くない。教えよう、三上悟だ」

 

「やはり、日本人だったのか…。そうじゃないかと、思ったんだよ。雰囲気が…ね。」

 

「わたしの弟子達にも、聞いたんだ。綺麗な町になったんだって? あの、周りを見回しても、火の海だった、町が…?」

 

「ああ。何なら、見せてやるよ。」

 

「ああ……」

 

彼女の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

その涙は、彼女が長年抱えてきた「爆炎」を、ようやく冷やすための慈雨のようだった。

 

「……ねぇ、そこの、黄金の三角形さん」

 

『おやおやおや、私に御用かい?遺言なら、面白いのを頼むよ』

 

「あなたは……スライムさんの、味方なの?」

 

私は単眼を細め、ニヤリと笑った。

 

『味方?悪魔にそんな安い概念を求めないでほしいね。私はただの観客さ。だが、この三上悟……リムル=テンペストは、この世界で一番面白いショーを見せてくれそうだからね。今は彼の隣に座っているだけさ』

 

「そう……なら、安心ね」

 

シズはリムルに向き直った。そして、彼女の人生の最後にして最大のエゴイズムを口にする。

 

「ねえ、スライムさん…いや、悟さん。お願いがあるんだが、聞いてくれないかい?」

 

「なんだ?」

 

さあ、くるぞくるぞ!

何を望む?莫大な富か?それとも「もっと生きたい」っていう、いつものつまらない生存本能かな?

 

「私を、食べておくれ…!」

 

私は思わず杖を落としそうになった。

 

『……ほう?』

 

「私にかけられた呪いを、君が喰ってくれた……。嬉しかったよ。私はね……、この世界が、嫌いなんだ。それでも、この世界が憎めない……、まるで、あの男の様だよ……。だから、この世界に還元されたく、無いんだ」

 

「……」

 

「お願いだ。どうか、私を、食べておくれ……!」

 

ああ、最高だ。

なんで歪んでいて、なんて美しい愛と拒絶の形だろう。

 

彼女は死を受け入れる事で、この世界に還元される事なく、リムルという「個」の中で眠ろうとしているんだ。

 

『リムル、聞いたかい?彼女は君を墓場であり、「ゆりかご」に指名したんだよ。こんなに重たい贈り物、君に背負えるのかい? 彼女の記憶、彼女の業、彼女の未練……そのすべてが、君の胃袋の中で永遠に消化されずに残るんだよ』

 

リムルは沈黙していた。

だが、彼の纏う雰囲気が一変した。

静かな覚悟が立ち上がったんだ。

 

「いいよ。お前の憎しみは、俺が引き継ぐ。お前を苦しめた、男の名前は?」

 

彼女は火傷の痕が残る顔を引き攣らせ、涙を流しながら、その名を絞り出した。

 

「レオン・クロムウェル。最強の"魔王"の一人…。」

 

魔王、か。いいね。舞台が整ってきた。

物語ってやつは、敵役がいないと締まらない。

 

リムルは、彼女を安心させるように力強く宣言した。

 

「約束しよう! 三上悟…いや、リムル=テンペストの名に於いて!レオン・クロムウェルにきっちりと、貴方の憎しみをぶつけて、後悔させてやるよ。」

 

「ありがとう……」

 

シズは安らかな顔で目を閉じた。

彼女の呼吸が止まり、魂の重みが消えていく。

 

《ユニークスキル『捕食者』を使用しますか?YES/NO 》

 

リムルがYESと念じると、彼の体が広がり、シズの全てを優しく包み込んだ。

 

『ああ……いいね』

 

私はその光景をじっと見つめる。

 

『終わりと始まりが、こんなにも綺麗に重なるなんてさ』

 

リムルの中で、彼女は眠りにつく。

 

幸せな、幸せな夢を見ながら。

 




読んでいただきありがとうございました!

早くビルの戦闘を書きたい……でも攻撃手段をどうするか……。
そうだ!オリジナル技考えまくったろ!(バカ)

原作再現は勿論しますとも、ええ。
ただ、アニメではそんなに特別な技使ってなかったんですもの!

それではまた次回!
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