スバルは虚ろな瞳で薄暗い部屋を見渡しながら、震える指先で自らの胸を押さえた。胸の鼓動が遠ざかり、現実がゆっくりと溶けていく感覚に身を委ねる。
「ああ……もういいんだ。死んで……死んで、楽になりてぇ……」
声はかすれ、諦めに塗れていた。幾度も繰り返した『死に戻り』の果てに、スバルの心はすり減り、もはや燃え尽きていた。
そんな彼を見下ろすラムの瞳は冷たい。けれど、その奥に隠された感情を、スバルは見逃さなかった。
「やっと死にたくなったの。バルス…」
白磁のような手が突き出され、鋭く、正確に、スバルの心臓を貫いた。焼けるような痛みと共に、スバルの意識が揺らぐ。
「ありがとう……ラム……俺を、憎んでくれて……救ってくれて……」
「勘違いしないで。ラムはあなたのことが、ずっと嫌いだったの。……でも、なぜかしらねラムの最愛の妹を奪った筈なのに、放っておけなかったのよ」
その呟きと同時に、ラムは自らの胸にも刃を突き立てた。白い衣に紅が咲く。
「一緒に堕ちてあげる、バルス」
二人の命が交錯するその刹那、スバルの目に映ったのは、微かに緩んだラムの口元。決して冷たいだけじゃない、寂しげな笑顔。
――視界が暗転し、浮遊感ののち、見慣れた天井が目に映る。
「おはようございます、スバルくん!」
元気いっぱいの声が鼓膜を打ち、スバルは反射的に身を起こした。そこには、青い髪が特徴的な少女――レムが立っていた。
「うぇっ……ここ、ロズワール邸……?」
「まったく寝坊助なんですから…もうお昼ですよ?待ちきれなくて皆さん食事を始めちゃいましたのでスバル君も早くいきましょう!」
「寝坊助って、おま……今どき聞かねーって……」
頭を押さえながらレムに導かれ、重たい足取りで廊下を進む。馴染んだはずの屋敷が、最近仲良くなれたら青髪のメイドがどこか懐かしくも思える。
食堂の扉を開けると、朝の柔らかな光が差し込み、そこにはエミリアとロズワールが座っていた。
「スバルっ!大丈夫なの?…酷く魘されてたって聞いたけど…」
「君が来ないから、エミリア様と二人で食べ始めてしまったよ。仕方ないよねぇ?」
「くっ……ロズっち、やりやがったな……!」
「スバル、もう…心配したんだからね」
エミリアの優しさに胸が締め付けられる。穏やかなこの光景が、どこか遠い幻のように感じられて仕方なかった。
「ごめん、ごめんってば! でも、怒ってるエミリアたんも超絶かわいい……!」
「調子のいい男ね、まったく……」
聞き慣れた毒舌と共に、食堂の隅に立つラムの姿が視界に入った。
「……ラム……」
ドクン、と心臓が跳ねる。その姿を見た瞬間、胸の奥に突き刺さるような痛みが蘇る。
「スバルくん、大丈夫ですか? なんだか顔色が……」
「平気、平気……ちょっと変な夢見ただけだってば」
嘘だ。わかってる。俺は――忘れてたんだ。
『また、死にたくなったの?』
ラムの声が、目の前で心の奥で確かに響いた。背筋を冷たいものが走る。
「……いや、もう逃げねぇ。絶対に……」
スバルは食卓に向き直り、椅子を引いて腰を下ろす。その手は微かに震えていたが、目に宿る光は決して消えていない。
「なぁラム…ありがとな」
何度繰り返しても、またここから始めればいい。
例えそれが、いくつもの地獄を越える旅でも。
それでも、俺は守るって決めたんだ。
愛する人たちの未来を。
「…良くわからないけれど…受け取っておくわ」
そして今日も、スバルはまた一歩を踏み出す。一からいや……ゼロから!!!
「…やっとまともな顔になったわね…バルス」
ハピエンもいいけどバドエンも捨てがたい…これがリゼロの魅力スバルくんの魅力なのだ