伊地知虹夏はやり直す   作:BB

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一章 伊地知虹夏はやり直す。
ぼっちちゃんが死んだ。


 ――シンガーソングライターBOCCHIこと後藤ひとりさん(27) 逝去

 

 そのニュースは、日本を震撼させた。

 後藤ひとりことぼっちちゃんは私たちが組んでいた結束バンドが解散した後、シンガーソングライターHITORI BOCCHIとしてデビュー。解散理由は至極単純で、私たちがぼっちちゃんの成長曲線についていけなくなったからだった。

 私たち結束バンドが結構な人気を博したこともあって、数年もすれば日本を代表するようなスターになっていた。

 

 解散後、ぼっちちゃんと私たちの関係が切れたのかと言えばそうでもない。

 私、伊地知虹夏はお姉ちゃんから引き継いでStarryの店長として働いている。ぼっちちゃんはスケジュールの合間を縫ってStarryゲリラライブを開催してくれていた。正直ウチとしてはとても助かっている。ぼっちちゃん効果でウチはかなりの繁盛をしていた。

 

 リョウは作曲家として活動している。たまに……というよりぼっちちゃんの曲は基本的にリョウが作曲したものだ。あいつマージンとして売上の8割取ってたりしないだろうな……

 

 喜多ちゃんは彼女が所属してるレーベルに就職。元は結束バンドも所属していた所ということもあって半ばコネ入社みたいなものだろう。そしてぼっちちゃんのマネージャーをやってる。

 

「私じゃないとひとりちゃんのお世話は出来ませんから!」

 

 とは彼女の言葉だったか。実際溶けた人間の修復なんて私たちくらいしか出来ないんじゃないかな……

 兎にも角にも、私たちはぼっちちゃんとそれぞれの形で関わっていて、結構な頻度で四人で飲みに行ったりもしていた。

 なんなら一昨日だってぼっちちゃんはツアー終わりにStarryでゲリラライブをやってくれた。

 だから私は今日のニュースを信じられなかった。一昨日まで元気なぼっちちゃんを見て、他愛もない話をしてまた近いうちに四人で飲みに行こうって話してたのに……

 

 

「わ、私のお葬式があれば、ら、ライブでもやって盛大に送り出してください」

 

 いつかぼっちちゃんが言っていたこと。あの時はタチの悪い冗談はやめて、って軽く怒ったっけな。

 その後はいつも通りぼっちワールドを展開して「わ、私ごとき葬式なんて開くまでもありませんよね……へへ、」なんて言ってた。

 

 まさか本当にこんな早く死んじゃうなんて思わなかったよ……

 まあ流石にお葬式でライブなんて出来ないから別でライブを開くことにした。1日限りの結束バンド復活だ。

 リョウなんかは「葬式で開いたほうがロック。そのほうがぼっちもよろこぶ」とかなんとか言ってたけど無視だ。

 

 幸いなことに色んな人が協力してくれて、かなりの規模で結束バンドの復活が叶えられそう。

 あとはぼっちちゃんがいれば完璧なのになー……なんて、空を見て独りごちる。

 とりあえず今は全く動いてない結束バンドのアカウントで久々に投稿をする。

 

 ――ぼっちちゃん追悼ライブ! ○月×日○○でやります!――

 

 簡潔に一言だけ。それでも投稿直後からものすごい反響だった。それだけぼっちちゃんの影響力は凄かったんだろう。リプライもすぐに着いた。

 

 ――結束バンド復活楽しみにしてます――

 

 ――ぼっちさんを盛大に送り出してあげましょう!――

 

 ――世界の損失――

 

 こんな嬉しいコメントやぼっちちゃんの突然の訃報を嘆く声で溢れていた。

 

 ねえ、ぼっちちゃん。君はこれだけの人に愛されてたんだよ? いつも自己評価が低くて鈍感な君だけどこの沢山の想いに気付かないふりなんてさせてあげない。そっちまで届けるつもりだから覚悟しててね!

 私は涙ぐみながら拳を天へ掲げた。

 

 

 今回のライブでは、サポートを呼ぶことはしなかった。ぼっちちゃんの音源に合わせるように私たちか演奏する予定だ。ライブでそれをやるのがどれだけ大変かは練習をしてみて身をもって知った。

 

 SIDEROSの大槻ちゃんなんかもサポートとして入ってあげるわ、なんて言ってくれたけどお断りした。だってそこにいるのはぼっちちゃんじゃないとダメだから。

 

「今回のライブは私達だけでやりたい」

 

 なんて失礼な断り方だったけど大槻ちゃんは納得してくれて、いつものツンデレ具合はどこに行ったのやら「楽しみにしてる」なんて一言言ってくれた。

 大人気バンドのリーダーからの申し出を断ってまで大見えきったんだ。絶対にやり切らないといけない。

 もういざという時に助けてくれるヒーローは居ないんだ。ブランクなんて関係ない、私たちがしっかりしないと彼女も安心して旅立てないんじゃないだろうか。そう自分に言い聞かせて己を奮い立たせた。

 

 およそ一月後にライブを予定し、そこに向けて練習するためにリョウと喜多ちゃんと私とで、久々にStarryへ集まっていた。音源に合わせてライブで演奏するのはやってみると思っている以上にむずかしい。もちろん技術的にむずかしいのもあるが、もっとキツいのが精神面だ。

 

「……全然ダメ」

 

 一本通して演奏したあと、リョウが吐き捨てるように呟く。その目には涙が浮かんでいた。それは喜多ちゃんも、そして私も同様に。

 ぼっちちゃんのギターを、声を聞くにつれて涙が込み上げてきたんだ。きっと二人も一緒。

 

「ひとりちゃん……ほんとに居なくなっちゃったんですね……」

 

 ぼっちちゃんはもう居ない。頭では分かっていても、心がついていかないことはままあるだろう。今回の件もまさにそれだった。合わせて演奏するたびに彼女の生音が恋しくなる。また一緒に演奏したいのに、もう2度とそれは叶わないという事実が私たちの胸を締め付ける。

 

「虹夏、郁代、もう一回合わせよう」

 

 でも、それでもこのライブは成功させないといけない。リョウだって悲しい筈なのに、私と喜多ちゃんを引っ張ってくれている。ほんとは私が引っ張らないといけないのに……でも今は少しだけ甘えさせてもらおう。

 

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