伊地知虹夏はやり直す 作:BB
その日は、春みたいに暖かくて。
でも、空は雲ひとつないくせに、どこまでも冷たかった。
四人揃ってStarryに集まるのは久々だった。集まった理由だって、なんとなく分かってた。
でも、どこかで「違う話かもしれない」なんて、期待してた。
「……ひとりちゃん。今、どこまで考えてる?」
最初に口を開いたのは、喜多ちゃんだった。
いつもの明るい声じゃなくて、優しいけど、遠い声だった。
そんな優しい声音が、私の心を締め付ける。私の疑念が、確信に変わっていく。なんで集まったのか、そうであって欲しくなかった理由が、より現実味を帯びていった。
「ソロデビューの話、海外の話……いろいろ来てるんだよね?」
その言葉に、口をついて出る言葉は何一つなかった。ソロでデビューする気なんてさらさらない、まだみんなと一緒にやっていたい。言うべきことはたくさんあったはずなのに。
ただ、頷くことしかできなかった。
口が乾いて、何か言葉を出そうとしても、うまく息ができなかった。
「……実は私もね、お姉ちゃんから言われてるんだ。店を継がないかって。だから、そろそろ……」
虹夏ちゃんのその言葉に、私はまるで心臓を鷲掴みにされたかのような痛みに襲われた。
何かが、胸の奥で崩れる音を聞いたんだ。
『いや、でも……!』
そんな声を必死に絞り出そうとした。
でも、何も出なかった。私にできたのは、ただ手を震わせることだけ。
「ひとりちゃんの才能は、私たちが閉じ込めていいものじゃないのよ。きっとソロでもやって行けるわ」
「私も……悔しいけど、分かってる。最近のぼっちを見て、追いつけないって、そう思ってた」
喜多ちゃんの泣きそうな笑顔が、リョウさんの悔しげな沈黙が、何より胸に刺さった。
「ぼっちちゃん、結束バンドは無くなるかもしれないけどさ、きっと音楽は続けるんでしょ? たまにでいいからStarryでも弾いてもらえると嬉しいな。私、ぼっちちゃんのギター好きだから!」
虹夏ちゃんの笑顔が、何より残酷だった。
そんな虹夏ちゃんへ私は本来言わないといけないことを押し込んで、笑って「うん」って、ただ一言だけ返した。
ほんとは、言いたかった。
私はみんなとまだ音楽がしたいって。私に取ってはこのバンドが、結束バンドが全てなんだって。
でも、あのときの私は、言えなかった。
みんなそれぞれやりたいことがあって
言ったら、ワガママだと思われそうで、
言ったら、嫌われそうで――
何よりも、怖かったんだ。
解散の報告は、レーベルの公式から出されて、すぐにSNSのトレンドをひとしきり埋めることになった。
『結束バンド、解散』
『ぼっちソロ専念』
『ギターヒーロー、次のステージへ』
ネットは、様々な声があふれていた。
――やっぱぼっちはソロが合ってる――
――これで正解。正直釣り合ってなかったと思うわ――
――ボーカルが微妙だったから解散してくれて助かる――
――ぼっち、最初からソロデビューするために、バンド組んだ説あるな――
何も知らないくせに……
結束バンドを否定するその声全てに、言葉にできない怒りを抱えていた。悔しくて仕方がなかった。
――結束バンド、好きだったのにな……――
――泣いた。また一つの青春が終わった――
――ぼっちの演奏からバンド愛が消えそうで怖い――
結束バンドを惜しむ声に、私自身も全力で共感した。
でも、私にはバンドの解散を止めることなんてできなくて、音楽を止めることもできなかった。
……結局、私の声はどこにも届かないんだ。
◇
誰もいない静かな夜、私は一人部屋の中でアンプをつける。
ギターを抱えて、音を出してみる。
でも、誰の音も重ならないその世界は、あまりにも寂しくて。
私は、床にうずくまって――
独り音を奏でて改めて思う。
解散なんて、したくなかった。
結束バンド、終わらせたくなかった。
まだ、みんなで演奏したかった。
ずっと四人離れず、頂点まで登りたかった。
仮にチヤホヤされたって、そこにみんながいないと意味ないよ……!
そんな心の内を言えなかった私は、やっぱり“ひとりぼっち”なんだ。
――もし、やり直せたなら。そう願う声が、心の奥で静かにこだましていた。
ループ後のぼっち視点と需要あれば描くかも……