伊地知虹夏はやり直す   作:BB

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伊地知虹夏はやり直す

 

 始めの数日こそ、ぼっちちゃんの演奏に合わせようとするたびに三人揃って泣きじゃくり、まともな練習にならなかったが、流石に数日も続けてれば泣きじゃくって練習にならない、なんていうことはなかった。

 私もまだ涙ぐむことはあるし、喜多ちゃんはたまに声が震えてるけど、それでもなんとか形にはできてる。リョウはなんとか平静を装ってるけどたまに涙を目に溜めているところを見ている。本人は隠せてるつもりなんだろうけど……

 ともかく、下地は整った。

 

「……あはは、通しで聞いてみるとほんとにひどいね……」

 

「すみません、ひとりちゃんの事を思い出すと声が震えちゃって……」

 

「郁代だけじゃない、私も虹夏もぼっちの音源に合わせようとするあまりグダついてる」

 

 でも本当に最低限だ。一回通してやってみたら本当に酷かった。それこそ私たち四人でやった初ライブの一曲目より少しマシ程度。こりゃいよいよ缶詰でやらないと間に合わないかな……

 

「ねえ、このまま普通にやってるようじゃ間に合わないと思うしさ、一ヶ月泊まり込みで練習できない?」

 

 私やリョウはともかく、喜多ちゃんは普通に働いてる社会人だ。この提案はかなり厳しいだろうとは思いつつも言ってみないと何も始まらない。

 

「いいですね! やりましょう!」

 

 意外にも喜多ちゃんが真っ先に反応し、肯定してくれた。それになんか目もキラキラしてるような……高校生の頃を思い出す。ぼっちちゃんと私たち四人でバンドをやって、ダメだ、思い出すとまた悲しくなる。

 でも、私たちが必死に食らいついてバンドを続けてたら、こんな未来は無かったんじゃないかって、どうしても心の片隅にそんな思考が引っかかってしまう。

 それはひとまず置いといて喜多ちゃんは仕事とか大丈夫なのかな?

 

「言い出した私がいうのもなんだけど、仕事は大丈夫なの? ほら、リョウはどうせ暇だろうからいいけどさ」

 

「虹夏、それは心外」

 

「え、違うの?」

 

「まあ、合ってる……」

 

 うん、やっぱりリョウは大丈夫だ。問題は喜多ちゃんだけど……

 

「私もライブまで休暇取ったので問題ありませんよ! ひとりちゃんの追悼ライブだって話したら特別休暇貰えました! 虹夏先輩こそStarryは大丈夫なんですか?」

 

「うん、私はお姉ちゃんが一ヶ月くらいはどうにかしてくれるって。流石に営業時間中はスタレン無理だけどそれ以外は使えるし。ただし他に使いたいバンドがあったらその時は退く事!」

 

「虹夏、営業時間外はいいとして、営業中はどうするの? 結構長いと思うけど」

 

「んー……いっそライブでもやる?」

 

 思いつきで言ってみたけどリョウも喜多ちゃんも意外といい反応を見せてくれた。

 

「いいですね、久々だと人前で歌えるか少し不安なので人前で歌える機会があるならありがたいです!」

 

「郁代もこう言ってるし私的にもありだと思う……けどいいの?」

 

「ま、まあ私店長だし? 一応お姉ちゃん……マネージャーの許可は貰わないとダメだけどさ。まあダメならダメで私の部屋でやろっか」

 

 普通にOKもらえた。ただしチケットノルマはちゃんとあるみたい……名目上はライブだけど実質ただの練習なんだよな……人来てくれるかな……

 

 

「今日は来てくれてありがとう!」

 

 一ヶ月のStarry合宿を経ていよいよライブ本番。会場には大量のファンが集まってくれた。まさかの満員御礼だ。

 この一ヶ月、死に物狂いで練習をした。ライブの方もかなりの人が見に来てくれて当時組んでた頃の水準までは戻せたと思う。こと今回に至っては当時以上、つまりぼっちちゃんについていけるレベルまで仕上げたつもりだ。

 だから見ててね、ぼっちちゃん……!

 

「知っての通り一ヶ月前、ぼっちちゃんこと後藤ひとりちゃんが亡くなりました……悲しいし、まだまだ一緒にいたかった、そんな気持ちはやっぱりあるけど、もうそれは叶わない。ならせめて盛大に送り出してやろうと今回のライブを企画しました。もしみんなも同じ気持ちでいてくれるなら、今日はいっぱい盛りあがろう!」

 

 いつもはスベってた私のMCだけど、どうやら今日は好評みたいだ。微妙な空気にならず、みんな盛り上がってくれる。

 

 ――ぼっちちゃん、見てる? やっぱり君はみんなに愛されてるんだよ。

 

「それじゃあ一曲目いきます! 『忘れてやらない』!」

 

『わ、私のことなんて忘れてください……へへ』

 

 きっとぼっちちゃんはこんな事を言うと思う。でも私も、リョウも、喜多ちゃんもみんな、ぼっちちゃんのことは忘れない。ファンのみんなだってきっとそう。仮に違ったとしても今日のライブで刻み込んでやるんだから。このライブを、ぼっちちゃんを形としてちゃんと残す。思い出になんてさせるもんか。忘れてなんてやるもんか!

 

 そんな想いを込めて音をかき鳴らす。ぼっちちゃんの音源を中心として、喜多ちゃんの力強い歌声。それを私とリョウで支える。ぼっちちゃん一人では絶対できない演奏をして、君はBOCCHIじゃない、結束バンドの後藤ひとりだってみんなに認めさせてやるから……! 一回は君から逃げ出した私だけどもう逃げない。正々堂々、正面から向き合ってやる!

 

 

「みんな、長い間ありがとう。いよいよこれで最後になります。これでぼっちちゃんとはお別れだけど、みんなの心に今日の演奏が少しでも形として残ってくれればぼっちちゃんも喜ぶと思います! それじゃあ最後、私たちが始まった曲で締めようとおもいます。『ギターと孤独と蒼い惑星』!」

 

 結束バンドとして初めて作ったこの曲、初ライブの時は酷い出来だったけどなんだかんだ人気曲だった。

 コンプレックスを元に書いたって言ってたけど今の君はこれだけの人に愛されてる。けど作った時はもうひとりぼっちじゃ無かったし、ある意味では過去の自分との決別だったのかなとも思う。

 私の勝手な考えだけど、その意味を込めて最後にさせてもらったよ。

 ぼっちちゃん、お別れだね。

 

 ああ、なんとか我慢してたのに……涙が溢れて止まんないや。喜多ちゃんも声震えてるし……リョウも抑えきれないくらい涙流してるし。酷い出来だよほんと……でもぼっちちゃんの音が私たちを引っ張ってくれて最低限形にはなってるよ。最後まで助けられちゃうなんて、やっぱり君は私のヒーローだよ……会いたいよ……会いたいけどもうお別れ。

 

 演奏も終わり、ファンのみんなに視線を向けてみると、皆一様に涙を流していた。最前列にいた1号さんと2号さんなんて大声でぼっちちゃんの名前を呼びながら泣いてた。

 喜多ちゃんもリョウも必死に涙を押し殺してる。やめてよ……せっかく我慢してるのに、また涙が出てきちゃう……

 

「みんな……今日はありがとう。1日限りの結束バンド復活、楽しんでもらえてたら幸いです! ぼっちちゃんが作った歌はずっと残るから、結束バンド共々、思い出になんかせずにたくさん聞いてもらえると嬉しいです……! ありがとうございました!」

 

 ――ぼっちちゃん、ありがとう。またね!

 

 

「虹夏、いつまで寝てるんだよ。今日から高校生だろ?」

 

 朝、お姉ちゃんの声で目が覚める。いつもは逆なのに……ってあれ? 高校生……?

 

「お姉ちゃん……何言ってるの? 私もう二十歳どころかアラサーなんだけど……」

 

「アラサーは悪口じゃ――って何言ってんの? せっかく起こしてやったのに私を馬鹿にしてんのか?」

 

 あれ……お姉ちゃんがなんか若い? もしかして……!

 

 ある一つの可能性を私は思いついた。眉唾物で本来はありえないけど……急いでスマホを探し出して日付を見る。

 

 ――戻ってる……!

 

 理屈はわからないし、どうでもいいけれどどうやら私は、記憶をそのままに高校の頃に戻ってきてしまったらしい。

 普通なら混乱するだろうけど私にとってこれはチャンスでしかない。今度こそぼっちちゃんに食らいついてやるんだ……! 絶対BOCCHIになんてさせてやるもんか!

 降って湧いたこのチャンス、何としてもモノにしてやる!

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