伊地知虹夏はやり直す 作:BB
「虹夏、話がある。とりあえず下来て」
結束バンドでの初ライブを数日後に控えた頃、リョウが神妙な面持ちで話しかけてきた。こいつがこんな真剣な顔してるの珍しいな……
先に部屋を出たリョウを追うように、私もStarryへ入る。するとそこには赤毛の陽キャが何故か土下座の姿勢で待っていた。そして彼女の横には多弦ベースが置いてある。……なんで?
「き、喜多ちゃん? とりあえず顔上げてもらっていいかな!? ちょっとリョウ、これどういうこと!?」
「どうもこうもない、見たまんま」
「いやその見たまんまでわかんないから聞いてるんだけど」
ダメだやっぱこいつ要領を得ない。まあ多分ギター弾けない件についてなんだろうけど……前こんなことあったっけ? 当日ばっくれたよね……?
「実は私ギター全く弾けなくて……その、どうぞ私をメチャクチャにして下さいっ!」
「誤解を生みそうな発言やめて!? それで、なんで嘘ついてまでウチのバンドに入ったの?」
「はい、実は……」
曰くリョウを見て一目惚れしたから勢いで入ったらしい。そのまま勢いでギターを買って練習したものの全く上手くならず、今日に至ると言うことらしい。まあ、前回と一緒だ。
「なんというか……ロックだね。でもなんで正直に?」
本来この子は当日バックれるはずだった。それで当日公園に行ったら野良ギターのぼっちちゃんが……ってあれ? これじゃ私ぼっちちゃんと出会えなくない!? 喜多ちゃん居るのにわざわざ新しいギター探し行ったらめっちゃ感じ悪いよね!? それが同じ学校のぼっちちゃんとか下手したら二人の関係が……!
「その、最近学校でお友達にギター教えてもらってるんですけど、やればやるほど難しくて申し訳なくなったというか……」
それ絶対ぼっちちゃんだよね!? それなら接点はあるしバンドには誘える……ならとりあえず初ライブは喜多ちゃんと私とリョウの三人でやるべきかな?
「そっか、どう? 当日には間に合いそう?」
あの成長速度がバグだった喜多ちゃんだ、きっと間に合わせるんだろうな。初ライブ、ぼっちちゃんとも演奏したかったけど仕方ない! また喜多ちゃんを通して声かければいいかな。
「あぅ……その、間に合うか間に合わないかもギリギリと言うか間に合う気がしないんですけど、他に問題がありまして……」
他に問題……? あー、思い出した。確かこの子ギターとベース間違えてたんだよね。
「わ、私が買ったのギターじゃなくてベースだったみたいです……」
まだローン残ってるのに……と倒れ込む喜多ちゃん。魂が抜けかけてる。なんかこれ前にも見たな……
「それ私が買い取ってあげる。と言うか欲しい。そして私のギターを貸してしんぜよう」
「リョウ先輩……!」
「それじゃあ5000円で――」
「売ります!」
「山田ァ! 足元見るな!」
全く油断も隙もない! 若干、と言うかかなりクズの片鱗を見せかけているリョウの毒牙から無事喜多ちゃんを守り抜く。結局割と相応の値段で買い取ることになって良かったよ。30回のローンを組んでるベースを5000円で売ろうとする喜多ちゃんも喜多ちゃんだけど。
「まあとりあえず明日一回合わせてみよっか!」
ライブまで数日あるんだ、当日即席で組んだバンドよりはまともな演奏をしないと。
◇
「や、やっぱり無理です! ごめんなさーい!」
「あ、あはは。まあ仕方ないよ! これから上手くなっていけばいいんだし!」
「ちゃんと申告して当日バックれなかっただけ偉い」
「うう……リョウ先輩、伊地知先輩……!」
何度合わせてもやっぱり上手くいかず、ついに喜多ちゃんが音を上げた。その首には『私は罪人です』のプラカード。実は結構余裕あるんじゃないかなこの子。私は前回ばっくれられた経験もあるので割と簡単に流せたがリョウは意外だった。正直怒ってると思ってたから。
まあ合わせられるかはともかく始めて一週間って考えればとんでもない上達速度だしその辺で評価が上がったのかな?
ともかく、ライブ当日でこれはまずい。ということで急遽私は野良ギターを探しに行った。野良と言うか目当てはもう決まってるんだけど。頼むから固定湧きであってくれ……! あれ、この言い方めっちゃ失礼じゃない? それはさておき私は思い出の公園へと一直線に向かっていった。
――居た! 前と同じところに、ピンクのジャージでギターを背負ってる女の子がいた。私にとってのヒーローが。あ、やばい……ちょっと涙ぐんできちゃった。
私は涙を必死に抑えて、後ろを向いてるぼっちちゃんに声をかける。
――あ、ギター! ねえ、ギター弾けるの!?
ぼっちちゃんまた一から始めよ? 今度は絶対一人にしないから……!