伊地知虹夏はやり直す 作:BB
「店長! ライブに出たいのでオーディションをして下さい!」
ぼっちちゃんが歌詞を作ってきてくれた少し後、リョウが曲を作り結束バンドにとって記念すべき第一作、ギターと孤独と蒼い惑星が完成した。曲が完成するとやっぱりライブで披露したくなるもので、みんなすっかりやる気になっていた。
「……てっきりライブに出せとか言ってくると思ったが……そういうことなら問題ないぞ。オーディションは一週間後、それまで練習しとけよ」
やっぱりいきなり「ライブに出して!」とか言わなければスムーズに事は運ぶみたいだ。
お姉ちゃんの言葉にみんな……特に喜多ちゃんがやる気を出して、早速ぼっちちゃんに教わりに行ってる。……て言うか待って? あの子ボーカルもできるの……?
「とりあえず一回通しでやってみますね?」
そう言ってぼっちちゃんは喜多ちゃんのパートを引きながら歌う。……上手い、それもカラオケ的な歌い方じゃなくてちゃんとライブ用の発声になってる。もうこの人一人で良くないですか……? なんて思わず思ってしまったほどだ。
「ぼっちちゃん……ソロでライブしない?」
「お姉ちゃん!?」
「は、はは……じょ、冗談だよ……」
絶対本気だった。ともかくぼっちちゃんの演奏はまるで何年もその曲をやってきたかのように完璧で、その場にいる全員を魅了するほどだった。
「……これ私が歌うより後藤さんが歌った方が……」
喜多ちゃんなんてぼっちちゃんの歌声を聞いてかなり自信を喪失してるように見える。やばい、なんとかフォローしないと……! なんと言葉をかけていいか迷っている間に、ぼっちちゃんが喜多ちゃんの言葉を真っ向から否定する。
「い、いえ、リードギターのパートを弾きながら歌うのは結構きついですし、何より……私喜多ちゃんの声が大好きなので、是非喜多ちゃんにボーカルやって欲しいです……!」
「後藤さん……私頑張るわ!」
喜多ちゃんはぼっちちゃんの励ましを聞いた途端、ぼっちちゃんの方へ一目散に駆け出して抱きついた。
恐ろしく上手いぼっちちゃんに言われたことで自信がついたんだろうね、でもそれは悪手だよ……
「あ……あうらばっ!!」
今回は見ないと思ったんだけどなあ、ぼっちちゃんの爆発。うん、やっぱこれじゃなきゃぼっちちゃんじゃない。
「ご、後藤さん!? 死んでる……新しいギタリスト探さないと……」
「喜多ちゃん切り替え早いね!?」
「郁代、ぼっちレベルのギタリストなんて滅多にいない」
「まあまあ、ここは私に任せて」
ぼっちちゃんの修復なんて割と久々だけどできるかな……と言うか前はみんな流れるように治してたのに、なんだか新鮮だ。
とりあえずヤスリとインパクトを持ってきてぼっちちゃんを治す。
改めて人間にやる所業じゃないよこれ……ってやばい、顎長くなっちゃった!?
やっちゃった……失敗して次回死にそうな感じにしちゃったよ……
「あ、ありがとうございます」
ぼっちちゃんも心なしかズーンとしてる。治してあげないと……!
「やっぱもうちょっと治すね!」
その後微調整をして無事いつも通りのぼっちちゃんに戻せた。良かった……
「リョウ先輩、なんか伊地知先輩ひとりちゃんの扱い慣れすぎてませんか!?」
「ふふふ、甘いよ郁代、虹夏はぼっちの正妻だから」
「きゃー! リョウ先輩と一緒に娘になって姉妹に!?」
「そこ! 変な妄想しない!」
全く何が正妻だ、まあ……悪い気はしないけどさ……それはそれとして喜多ちゃんはどうにかしないと……!
◇
「結束バンドです! ギターと孤独と蒼い惑星って曲やります!」
時が経つのは早いもので、いよいよオーディションの日がやってきた。私たちの前にはお姉ちゃんとPAさんが座り、わたしたちを品定めするかのような目で見ている。……なんか久々だなあ、オーディションしてもらう側になるのは。Starryの店長としてオーディションは何度も参加していた。審査する側でだけど。
「郁代、緊張しないでリラックスして。私たちがついてる。最悪ギターを投げ捨ててもぼっちがどうにかしてくれるから気負わずに」
「リョウ先輩……! 頑張ります!」
珍しいな……リョウが誰かをあんなに励ますなんて。それだけあいつも結束バンドに賭けてるってことだろうか。ここはなんとしても成功させないと……! もっとも、私たちは前回の同時期よりかなりレベルが高い状態だ。普段通りに演奏できればなんの問題もないと思う。
ふとぼっちちゃんの方を見る。彼女の表情はなんだか思い詰めたような……もしくは覚悟が決まったかのような、そんな表情だった。緊張……かな、しっかり声かけてあげないと。
「ぼっちちゃん、大丈夫?」
「あっ……虹夏ちゃん、その……頑張ります」
伏目がちなのはいつものことだけれど今日は何かが違う気がした。
「おーい、始めないのか?」
お姉ちゃんの言葉で我に帰る、気にはなるものの一旦ボッチちゃんについては考えるのをやめる。そして「始めるよ」と、みんなにアイコンタクトをとり、ドラムでカウントを始めた。
◇
演奏が始まる。喜多ちゃんがところどころ音程を外してたりするけどその辺はご愛嬌。あとはリョウが自分の世界に入りすぎるきらいがあるのは相変わらず……それでもすぐに戻ってきてくれるのでそこまで問題はない。
(ぼっちちゃん……?)
問題はぼっちちゃんだった。もちろん演奏自体は問題ない……というよりちゃんと正確なリズムで弾いてくれているのでこちらも合わせやすい。
ただ……本当にそれだけ、まるで機械のような演奏だった。普段のキレ、個性的な音はまるで鳴りを潜め、まるで教科書そのままのような、そんな演奏。リョウが嫌いだって言ってた個性のない音っていうのはこういうことを言うんだろう。
リョウの方を見るとそちらも少し怪訝な顔をしていた。
総じて言うと、ぼっちちゃんらしくない演奏だった。
オーディションは終わった。結局ぼっちちゃんは最後まで機械的な演奏をしていた。合わせやすいけど……なんだか寂しい演奏だったな……
「あ、ありがとうございました!」
お姉ちゃんは黙ってる。別にひどい演奏だった、と言うわけでもない……けどバンドとしてこの演奏でいいのかって言う思いは私の中にもあった。きっとお姉ちゃんも同じようなことを思ってるんだろう。
「……まずはギターボーカル、下向きすぎ。フロントマンなら前を見て演奏しな」
「は、はい……」
「そしてベース。自分の世界に入りすぎ」
「ドラムは……特に言うことないな」
「ちょっ、私にはアドバイスないの!?」
ダメだしすらされないなんて……言いたくないレベルで酷かったの!?
「まあちゃんと音まとめられてたんじゃないの」
「お姉ちゃん……!」
まさか褒められる側だったとは思いもしなかった。前は肩の力が入りすぎだとか注意されたけど……今回はどうやらうまく行ったみたい。
「そしてリードギター……引っ込みすぎだな、もうちょっと自分を出してもいいと思うぞ。少なくとも私はちゃんと見てるからな」
「あう……その、すみません……」
「まあ……合格だ。本番ではもっとバンドの色を見せてくれよ」
よかった、無事合格だ……!
お姉ちゃんの宣言を聞いた後、私と喜多ちゃんの口から歓声が飛び出る。喜多ちゃんはその勢いのままぼっちちゃんに抱きつく。この間爆発させたばかりだと言うのに、学ばないなこの子……! あれ? ぼっちちゃんが破裂しない……?
「後藤さん……?」
勢いのまま抱きついた喜多ちゃんも、反応がないぼっちちゃんに戸惑っていた。
「……あ、き、喜多さん……本番、頑張りましょう……」
やっぱりどこか元気がないように感じる。体調でも悪いのかな……?
◇
「ぼっち、今日のギター、どうしたの?」
「そ、その……どうしたっていうのは……?」
オーディションも無事終わり、少しゆっくりしていたら、気がつくとぼっちちゃんとリョウの姿が消えていた。これから打ち上げでもやろうと思ったのにどこ行ったんだあの二人……
二人を探して歩いていると、二人の声が聞こえ、私は思わず聞き耳を立てる。
「今日のぼっちのギターには個性がなかった。私たち……特に郁代を立てる為だったのはなんとなく分かったけど……ライブではもっとぼっちらしい演奏をして欲しい」
「あ、わ、分かりました……!」
「うん、私はぼっちのギター好きだからね」
「あ、ありがとうございます……」
あいつほんとにリョウか……? 素直すぎるしなんか色々おかしいような……ってそうだ打ち上げ! 私は急いでリョウを引き止めようと追いかけようとする。
「私が個性を出したらみんな…………に」
ぼっちちゃんがリョウには聞こえない声量呟く。私も全部は聞こえなかったけど、その目、表情は悲しみで満ちているように見えた。