伊地知虹夏はやり直す   作:BB

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ぼっちちゃんもそうなんでしょ?

「後藤さんの家、楽しみですね!」

 

「……疲れた、虹夏、おぶって」

 

「ぼっちちゃんち、この辺だって言ってたよね。あと少しで着くはずだから頑張ってよ……」

 

 私たちは今、ぼっちちゃんの家を目指して歩いているわけだけど……背中に鬱陶しいのがついてまわってる。駅を出て数分でもうこの状態。先が思いやられるよ……

 

「それにしても珍しいね、リョウがこういうの来るなんて。n回目のおばあちゃんの峠とか言うと思ってた」

 

「……ぼっちの家に行くのに私が来ないはずがない」

 

「皆さんで来れて嬉しいです! たくさん遊びましょう!」

 

「喜多ちゃん、私たちバンドTシャツのデザイン考えに来たんだよね!?」

 

 全く……本当に前途多難だ。

 

「あ、ここじゃないで……ここじゃないみたいですね」

 

「ぷぷ、ぼっちやっぱり面白い」

 

 ああ、やっぱりあるんだ。結束バンド御一行様の横断幕。バンドTのデザイン考えに来たんだよね……?

 

「待って喜多ちゃん! ここだからどっか行こうとしないで!?」

 

「あ、やっぱりここなんですね、旅館か何か……?」

 

「ま、まあとりあえず行こうよ……」

 

 きっと玄関を開けたらアレが来るんだろうな……

 

「いっいえぇぇぇい!! ウェウェウェルカーム!!」

 

 数回にわたる破裂音と共に、ぼっちちゃんの声が響き渡った。

 喜多ちゃんもリョウもポカンとしている。……ああ、そっか。なんか今のぼっちちゃんは奇行が少ない……と言うよりほとんどないから二人にとっては新鮮なんだ。

 

「ご、後藤さん……霊媒師の人呼んでくるわね!?」

 

「あ、その……私は正常なので辞めてください……」

 

「あ、そうなの……?」

 

 

 結局家庭訪問は特に問題なく終わり、バンドTのデザインも前回同様、シンプルなデザインのものになった。ぼっちちゃんがデスメタル風のデザインを出してきたり、喜多ちゃんがロックというにはあまりにも可愛すぎるのを出してきたり、山田が寿司とカレーをプリントしようとしてたり、割と問題もあった気はするけどひとまず割愛だ。

 

 そしていよいよ今日は待ちに待ったライブ! ……なんだけど案の定あいにくの天気になってしまった。

 

「私のお友達、みんな来られないみたいです……」

 

「私の方も全滅だって……」

 

「右に同じ」

 

 揃いも揃って全滅だ。……私はこうなること知っててチケット買ってもらったからなあ……あとで返金しないと……

 

「あ、ひとりちゃーん!」

 

「あ、お二人とも……来てくれたんですね……!」

 

 私もぼっちちゃんと一緒に路上ライブでもすればよかったかな……こんな台風の中でも来てくれるようなファンがいるぼっちちゃんが少し羨ましく感じてしまう。

 私たちを……と言うよりぼっちちゃんを見にきたお客さんは結局二人だけ……他にもいた路上ライブの観客は皆来なかったみたいだ。

 他にも数人いるお客さんは雨宿りだったり、他のバンド目当てだったり。

 

「最初の、結束バンドってとこ知ってるー?」

 

「知らなーい、知るわけないし。聞いとくのたるいねー」

 

 ……要するにほとんどアウェイってことだ。私やぼっちちゃんはともかく、喜多ちゃん大丈夫かな……

 

「ま、まあ結成したてのバンドな訳だし知られてないのは無理ないから! むしろ圧倒してファンにするくらいの気概で行こう! 緊張せずにね!」

 

「は、はい!」

 

「私は問題ない」

 

「その割には足ガクガクじゃん?」

 

 全く……まあなんとかなるよね、私がリズムを保てれば最低限は聞こえるはず……!

 

「ぼっちちゃんも頑張ろうね!」

 

 そう言えばさっきからずっと黙りこくってるな……緊張してるのかな?

 

「ぼっちちゃん?」

 

「……あ、は、はい……頑張ります……」

 

 緊張してる……ようには見えないし、何か考え事?

 

『結束バンドさーん』

 

 どうやら出番みたいだ、それにぼっちちゃんが考えてることは、私の予想通りならきっと……

 

 

 MCがいつも通りダダ滑りしたところで、私たちは演奏を始める。曲名は『ギターと孤独と青い惑星』前回、初めてのライブではみんなガチガチになってしまい、大コケだった曲だ。

 今回は私がまとめないと。そんなことを思っていた時だった。

 まるで雷鳴のような感覚が場を支配する。その音の発生源はぼっちちゃんのギターだった。

 ただ、暴走しているのかと言われればそう言うわけでもない。リズムは恐ろしいほど正確だった。

 先走って下手に聞こえるなんてこともなく、むしろ喜多ちゃん、リョウ共に、ぼっちちゃんに合わせて演奏としては綺麗になっていたのではないだろうか。

 オーディションで聞いたその音とは正反対のそれ、私にはどこか聞き覚えがあった。

 

 ――BOCCHIだ。解散後、ソロで活動してたぼっちちゃんが紡ぐ音に限りなく酷似していた。

 

 音に強い負の感情を乗せるそのスタイルは、まさにシンガーソングライター、HITORI BOCCHIのそれだった。

 負の感情を乗せて作ったとかつての彼女が言っていたこの曲は、きっとBOCCHIの演奏スタイルと限りなくマッチしたんだろう。いつしかスマホを見ていた観客の目はステージに釘付けになり、一曲目が終わる頃には歓声に溢れていた。

 

 ただ、これは結束バンドに向けられたものじゃない。BOCCHIに向けられたものだと、感覚的に理解していた。

 

 さっきの音圧をもろに受けていた観客たちは、二曲目に入る頃には、ボルテージが最高潮まで上がっていた。

 二曲目になると、さっきまでの雷鳴はすっかり鳴りを潜め、結束バンドのぼっちちゃんとしての演奏だった。

 自分で言うのもなんだが、私のリズムはかなり正確だと思う。そこにぼっちちゃんのギターが加わって、リズム隊二人が正確に演奏していれば残りもちゃんと問題なくついてくる。

 まだ少し未熟ではあったものの、結果としては会場のボルテージを下げることもなく、ライブは大成功だったと言えるだろう。

 

 

 ライブも終わり、私たちはみんな集まって打ち上げをしていた。そんな中私は一人、前にぼっちちゃんと話した自販機の前に来ていた。きっと彼女は来てくれる。私の考えてる通りでも、そうじゃなくても。

 

 ほら、遠くからひたひたと足音が聞こえる。やっぱり来てくれた。

 近くまで来たぼっちちゃんに、私は声をかける。

 

「ねえ、ぼっちちゃん。これから私が言うこと、もし違うんだったら変なこと言ってるなあって流して欲しいんだけどさ、話してもいい?」

 

「あ、は、はい」

 

 足音の正体は、やっぱりぼっちちゃんだった。ぼっちちゃんの返事ももらったことだし、私はゆっくりと口を開く。多分……いや、間違いなくそうだと思うから。

 

「ぼっちちゃんさ、君も何年か先の未来から来たんでしょ?」

 

 私のその言葉にぼっちちゃんは目を見開く。ただ、私と同じくどこかで私もそうだと思っていたらしく

 

「……やっぱり虹夏ちゃんもなんですね……」

 

 抑揚のない声でそう呟いた。

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