伊地知虹夏はやり直す 作:BB
「やっぱり、虹夏ちゃんもそうなんですね……」
私はぼっちちゃんが私と同じ状況だと知ってすごく嬉しかった。……けど、ぼっちちゃんはそうじゃないみたい。声には抑揚がなくて、表情は悲哀に満ちていた。
「それで……また私を捨てるんですか?」
「ぼっちちゃん……あの――」
私が言葉を挟む間も無く、ぼっちちゃんは続ける。
「また、前みたいに私を捨てるんですよね!? 実力が違いすぎる、付いていけない、ソロでやった方が結果を残せる。みんなからも、ネットでも口々に言われて、私もこんな性格だから、ノーとは言えなくて……
ほんとは解散なんてしたくなかった! Starryで定期的にライブさせてもらってたのも、喜多ちゃん以外のマネージャーをずっと断ってたのも、リョウさんにだけ作曲を頼んだのだって、全部みんながもう一回バンドやろうって言ってくれるんじゃないかって期待して……
自分から言い出せない私が一番悪いのは分かってるんです。でも、言ってほしかった。虹夏ちゃんに、喜多ちゃんに、リョウさんに、もう一回バンドやろうって……!」
ぼっちちゃんが紡ぐ想いに、私は何かを口にすることなんて到底できなかった。なにか声をかけないと、そう思っても何を言っていいのか分からない。
「私、ほんとはチヤホヤされたくて音楽始めたんです。
結束バンドでやってた時は、チヤホヤされなくても、下手くそだって言われても楽しかったんですよ。
ソロデビューしてからはいくらチヤホヤされても、褒められても、一緒にみんながいなかったから、ただただ虚しかったんです。
どうせ失うならこんな楽しいこと、知らない方が良かったです……きっと私は誘われたら、嬉しくなって断れないから、喜多ちゃんにギターを教えてそもそもバックれないようにしたのに、虹夏ちゃんは結局私を誘ってくれて、久々にやったバンドとしての演奏はチグハグなものでもやっぱり楽しくて……今度は捨てられたくなかったから、オーディションではできるだけ自分を消しました。
サポートに徹して、皆……特に喜多ちゃんを目立たせるように……そしたら個性がない、もっと個性を出してって。でも、個性を出したら捨てられる。ただずっと無作為に演奏しててもいつか切られる。それならいっそライブで暴走して捨てられるように仕向けようとしたんです。でもやっぱり私は捨てられたくないです、ずっと結束バンドでみんなと楽しくやりたいです……! 暴走したのは謝ります、だから、虹夏ちゃん、捨てないで……」
最後の最後、消え入りそうな声で「捨てないで」と、ぼっちちゃんはそう言った。正直嬉しい、ぼっちちゃんがこれだけ私のことを、私たちのことを想ってくれていたなんて。
それだけに前は申し訳ないことをしたと後悔している。自分たちでも想っていたことをマイノリティな意見とはいえ、ネットで言われて、きっとぼっちちゃんも言えないだけでそう思ってるなんて思い込んで、勝手に解散した。勝手に満足して。最低だ、私って。
ぼっちちゃんのためだなんてみんなには言ったけど、結局私のエゴで、彼女を傷つけた。
それに彼女が何より望んでた結束バンドの復活、それが彼女の死によって叶ったんだからなんで皮肉なことなんだろう。
「……捨てないよ! 前だって捨てたつもりなんて……いや、ぼっちちゃんからしたら捨てられたも同然なんだよね……ただ、ぼっちちゃんひとりなら実力をフルで出せて、もっと上までいけるんだろうなって……でも、ただの私のエゴだった。ギターヒーローには、ぼっちちゃんにはもっと上まで行って欲しいっていう私のエゴ。ぼっちちゃんのためだなんて言い訳して、勝手に決めて本当にごめん……! でも、今度はしっかりと着いてくから、諦めないから! 改めて、私と、わたしたちとバンド組もう!」
「虹夏ちゃん……今度は捨てないでくださいね。私も、こうやって自分で言えたらよかった……私からも、もう一度バンドやりましょう!」
少し涙ぐみながらも、ぼっちちゃんが浮かべた笑みは、きっと今までにみた何よりも綺麗だった。
「ぼっちちゃん!」
こんな健気で可愛くて一途な女の子を前にしてしまった私が、思わずぼっちちゃんを抱きしめてしまったのを誰が咎められるだろう。こんなのを前にしたら、きっと誰だって抱きしめてしまうから。
◇
「あ、その……虹夏ちゃんは大丈夫として……リョウさんと喜多ちゃんは大丈夫でしょうか……?」
「……あの二人はきっと戻ってきてないだろうから、今日ので心折れてたり……」
ぼっちちゃんがあの二人の前であそこまでの演奏をしたのは今回が初めてだ。正直今日ぼっちちゃんが披露したギターは、始めたばかりの喜多ちゃんはもちろんのこと、私やリョウと比較しても次元が違う。違う楽器で比べられるものかは分からないけど、少なくとも現状は釣り合ってないとしか言えない。
「に、虹夏ちゃん、わ、私やっぱり追い出されたり!?」
追い出される未来を幻視したんだろうか。久々にぼっちちゃんの発狂してる姿を見た。本当に悪いことしたな……
「ぼ、ぼっちちゃん! リョウと喜多ちゃんは上手いこと説得するから大丈夫! 今度こそ四人でやるって決めたんだから、追い出したりなんてしな――」
「ぼっち」
なんとかぼっちちゃんを諌めようとしていた私の言葉を、よく通る声が唐突に遮った。そこにはさっきまで話題に出てた、リョウの姿があった。その後ろには喜多ちゃんもいる。
「あ、う、そ、その……」
「ぼっち、今日のギターすごかった」
「後藤さん、本当にカッコよかったわ!」
「あ、あの……私のこと追い出したり……」
恐る恐る、と言った感じでボッチちゃんが問いかける。ぼっちちゃんは実力に差異があるというのは解散の原因になりかねない、そう思ってるからやっぱり怖いんだろう。リョウと喜多ちゃんの顔を見れば、追い出そうなんて微塵も考えてないことは分かるけど、それでも怖いんだ。
「……実はさっきの会話、少しだけ聞こえたんだ。確かに今日のぼっちはわたしたち三人と比べて、頭ひとつどころか膝下まで抜けてるような演奏だったと思う。でも、そんなことは私たちがぼっちに追いつけばなんの問題にもならない。むしろこれからもぼっちと一緒に演れるのはこっちとしても願ってもないことだから」
「え、あ……うへへへ」
おお……ぼっちちゃんがすごい情けない顔してる。普段金貸せ金貸せと言ってくるリョウにこんなこと言われてギャップにやられちゃったかな……
「まだ私は後藤さんの足元にも及ばないけど……いつか、何年かかっても絶対追いついてみせるから! だから、これからもギター教えてね、後藤さん! ……ううん、ひとりちゃん!」
「えっ、あ、その……い、郁代ちゃんって呼んだ方がいいですか……?」
「うっ……いやでもひとりちゃんになら……うん、名前で呼んでもらえたら嬉しいかも」
「えへへ、郁代ちゃん……郁代ちゃん……うへへ」
にやにやしながら喜多ちゃんの名前を嬉しそうに呟くぼっちちゃんを、喜多ちゃんが思わず抱きしめる。やっぱ可愛いよねぼっちちゃんは。
「ぼっちちゃん、私たちはどれだけレベルの違いを感じたってもう離れないからね。ぼっちちゃんが嫌だって言っても離さないよ!」
「あ、は、はい! わ、私ももう離れません! 何を言われたって……!」
「そっか、そうだね。それじゃあ今度は世間に見せつけてやろう、私たちのロック!」
「「「「結束ロックを!」」」」
とりあえずキリのいいところまではきたので、一旦これで終わりになります。また気が向いたら続き出るかもなので良ければその時は読んでやってください。