一勝千金億女   作:ぽぽちん

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通い妻ノゾミちゃん。


第十一話「教育」

 

 ──ドンドンドンドンッ!

 

 木製ドアに叩きつけられる拳。

 薄手のソレは何とも頼りなくたわみ、今にも壊れそうに見えた。

 

「承久! おい承久起きろ!」

 

 ドアを叩きながら声を張り上げるのは天馬希望である。

 彼女は何度連絡しても全く反応がない承久に痺れを切らし、わざわざ家まで迎えに来ていたのだった。

 

「……うるへ~……何だよ」

 

「何だよ、じゃねえだろ。お前飯奢れって私にタカっといて、自分から約束すっぽかすとかどういう了見だよ」

 

「あー……」

 

「あーじゃねえ。あと服着ろ」

 

 パンツ一丁で応対した承久を部屋に押し込むノゾミ。

 ここ最近になって、ノゾミの仕事が1つ増えた。

 1つはヴァルキュリアオーナーのお仕事。

 そして新たに増えたのが承久の世話である。

 何度でも言うが承久はワガママの極みである。

 言う事は基本聞かない。

 女関係はだらしない。

 その癖相手のダメ加減はずけずけと指摘する。

 ……と満貫レベルのダメダメ具合。

 仕方なく私生活まで介入するのもムリない話である。

 とはいえ、承久の私生活はそこまでだらしなくない。

 ああ見えて綺麗好きな彼女は、こまめに部屋の掃除や、自ら料理をする器用さも見受けられる。

 が、武術と私生活以外の力を抜きすぎて、やっぱり介入しないとダメであった。

 その堕落ぶりときたら、いい年こいて、何してんだよ!? とノゾミが何度も説教をかますくらい酷いものだった。

 

「お前なぁ……ブラとかショーツはちゃんと洗濯ネットに入れろよな」

 

「面倒臭い」

 

「腐っても女なんだからそれくらいしろよ……ったく」

 

 洗濯カゴを覗いてため息をついたノゾミ。

 仕方なく今日のお世話を始めた。

 郵便受けに詰まった書類を机にまとめ。

 散らかった服を畳み。

 コインランドリーに持ってく服を詰め込み。

 冷蔵庫の中をチェック。

 腐りかけのものを容赦なく捨て。

 ゴミ袋をまとめていく。

 それはそれはとても手際の良い動きだった。

 

「……はぁ~さっぱりした。あ。タオルどこやったっけ」

 

「そこの戸棚の下」

 

「おう」

 

 これではどちらが家主か分かったものではない。

 ノータイムで指摘できてしまった自分に、ノゾミはため息をついてしまう。

 さながら今の私は一人暮らしを始めた息子にダメ出しする母親。

 まだ子供どころか彼氏もいないんだがな……ブツクサ言っていると、着替え終わった承久が戻ってきた。

 

「助かるぜ天馬ママ♪」

 

「マジで気色悪いからやめろ……!」

 

 相も変わらずからかってくる承久の背を叩き、

 ノゾミ達二人は夜の街に繰り出していった。

 

 今日のお目当ては料亭である。

 承久の足取りはいつもよりも軽く。

 それだけで楽しみにしてるのが見て取れた。

 

 どちらかと言うと痩せ型の承久だが、こう見えてかなりの大食漢。

 体作りのために食事制限はしないとのことで、健啖家であるノゾミを上回る量をモリモリ食べる。

 さらに大食いの癖して味に五月蝿いという面倒くささもあり、量より質を重視する料亭でお代わりとか言い出さないよな……とノゾミは一抹の不安を覚えていた。

 

「創作料理も嫌いじゃないが、やっぱり定番がいいな。煮浸し、天ぷら、お吸い物。刺し身に煮付けに香の物。日本人たるもの和を堪能すべきだ」

 

「私はそういう格式高い料理苦手なんだよなぁ……あと味薄く感じるっつーか」

 

「お前が普段どんだけ刺激の強い物食ってるかっつーことだ。まず食生活見直せ」

 

「お前はその前に私生活見直せよ」

 

 軽口をたたき合って繁華街を進む二人。

 まだ日が暮れて間もないせいか、人通りはほどほど。

 そびえ立つビルや看板が自己主張するように光り、東京の夜はこれからだ、と張り切っているようにも思えた。

 

「えーっと……確か……ここだな」

 

「おぉ~」

 

 向かった先は浅草は隅田川沿岸。

 川沿いに佇む老舗料亭「月下庵(げっかあん)」である。

 イロハカエデの木に囲まれた敷地内は美しい庭園があり、いざ中に入ると初夏を感じさせる紫陽花や菖蒲が池の周囲を彩り、青々としたモミジが涼しげな影を作っていた。

 二人は女将に釣れられてヒノキの床張りを進むと『新月の間』に通される。それは黒を基調とした内装で、とても落ち着いた雰囲気の個室だった。

 

「……予約しといて何だが、落ち着かねえな」

 

「こういう所は始めてか? 力抜けよ」

 

「尻に手を回すな死ね」

 

 向かい合う形で座椅子に座り込むと、二人は早速飲み物を注文し始めた。

 頼んだのはビール。

 二人とも定番は外さないらしい。

 

「そういや天馬。俺ぁいつまであの滑稽なマスクつけなきゃならねえんだ? いい加減普通に出場させろ」

 

「仕方ないだろ? 交流会で壮絶なデビューしちまったんだ。今更変えたら客が驚くだろ。それに客にも受けてるぞ? あの謎の仮面は誰だ、ってな?」

 

「ケッ。あのだせえ仮面は御免だ。おまけに相手は弱いしなぁ。ひと撫でするだけで倒れような奴は出禁にしろ、出禁に」

 

「無茶言うなよ。お前ほどの実力者と拮抗する選手なんてそうそういるかよ。だから奢ってやったんだ、もう少し辛抱してくれ」

 

「はぁ~ぁ……やだねぇやだねぇ強すぎるのってのは。せめてあの中華娘とか、頭すっからかんのデカ女とか、あと姫奈とかいう嬢ちゃんとヤりたいぜ」

 

 承久は今の所大人しくヴァルキュリアで活躍している。

 

『闇から蘇りし謎の合気レスラー』

『即死ハンドの持ち主』

『ミス超能力者』

『百合の園に現れた毒の薔薇』

『全自動投げマシン』

 ……などなど。

 

 とにかく色んな異名を拝命して人気を博している。

 その試合は全てにおいて鎧袖一触。

 触れた瞬間相手を投げて気絶させるという、姫奈と同じワンパンマシーンになっている。

 もちろんオッズは低下傾向。

 片指に収まるほどの試合数でも、ガチガチの鉄板選手となりつつあった。

 

「柚巴や瀬名姉妹とのマッチは検討しておく。だが姫奈との対戦はもう少し待て。来るべき時に来るべき場所でマッチを組む」

 

「大物同士の対決……って銘打つってことか?」

 

「悪いがショーなんでな」

 

「まあ俺は別にいいが、アイツは関係なく仕掛けてきそうだぞ?」

 

「そこは私が手綱を握るさ。気付いてると思うが、姫奈の今の興味はお前だけだよ。着々と準備をしているようだぜ?」

 

 実際、怪我復帰してからの姫奈は絶好調。

 それどころか以前より仕上がっていると感じさせた。

 少し余裕のあった脂肪は引き絞った鎧のような筋肉に代わり。

 遊びのあった動きと技はキレにキレている。

 その御蔭で裏格闘で(しのぎ)を削って来た外様達は、悉く一発で沈み。

 姫奈の()()は留まることを知らなかった。

 

「ケケケ。偏執的過ぎてちょっとキモいが……武道家として好んでブチ当たりたいってんならシャンパン冷やして歓迎するヨ」

 

「……手加減してやれよ?」

 

「むしろ手加減しかしてねえよ。俺ぁ伸び代ある奴には折れない程度に手心加える主義でね」

 

 はぁ……と頭を抱えるノゾミ。

 サディスティックな承久だが、意外なことに気に入った相手には甘い。

 一度気に入ると弄り、構い倒し、それとなくサポートやテコ入れをしてくれる。

 飄々として口が悪く、いかにも利己主義ではあるが、身内に情を持つところはどこかチグハグ。しかしてそんな承久の人となりがノゾミはようやく分かってきた……気がした。

 

「そういや承久。お前コーチングとか興味ないのか?」

 

「コーチ? ベッドの上ならいーぞ」

 

「ウチの選手への武道的アドバイスだ。お前程の腕ならジャンルは違えど、何か言えることはあるだろ? 勿論、ギャラは別に出す」

 

「コイツ、無視が板についてきやがったな……金か。金はもう十分だ。今はやっぱ女だな。マヴい奴いねーのか?」

 

「マヴいってお前……今年がいつか知ってるか? ハナに教えて貰った店行けばいーだろ」

 

「アレも悪くねえが、俺としてはもうちょい……ん」

 

 ちら、と承久がふと襖を見た。

 すると奥から聞こえてくる足音。

 どうやら店員が食事を運んできたのだろう。

 待ってましたとノゾミが目を輝かせた瞬間、承久が風のように動いた。

 

 ばァんッ!!!!!

 

 途端に、漆塗りの立派な座卓が跳ね上がり。

 襖めがけて吹き飛んだ。

 

「──は?」

 

「ちィッ──!!!!!」

 

 襖を突き抜け通路まで吹き飛んだ座卓。

 すると同時に、承久でもノゾミでもない、別の女性の声が響いた。

 

「またお前か」

 

「──かぁああああぁぁああァアアッ!!!!」

 

 前傾姿勢かつ、両腕をだらりと下げたポーズで突貫する謎の女──いや少女?

 黒のおかっぱで黒パーカーに身を包み、頭や腕に包帯を巻いたその子は腕をしならせ、鞭として承久に振るう。

 承久が最小限の動きで避けると、その先にあった花瓶が代わりに粉々になった。

 

「は? は? はぁ? はああああッ!?」

 

「当たれッ、当たれッ、当たれよッ、このぉッ!!!!!」

 

「おーおー、まーたヒスってるよ」

 

 煽りに更にムキになったのか、少女は顔を真赤にして攻撃する。

 尋常ではない速度で襲いかかる腕は、さながら鉄の鞭。

 ただ空振りするだけでも、底冷えするような音が鳴り。

 障子は何の抵抗もなく引き裂かれ、バラバラになった。

 振るう。

 振るう!

 振るう!!

 無我夢中に、それこそ殺すつもりで振るう!

 禍々しい殺意を乗せて攻撃を繰り返す襲撃者の名は『東雲(しののめ)レイ』。

 姫奈激LOVE勢かつ同担拒否で、姫奈の注目を集める承久が目障りな、メンタルがアレな乙女である。

 

「おらどした、頑張れ頑張れ」

 

「──ッッ、はああぁああ──ッ!!!!」

 

 しかしそんな高速の鞭打を、承久は事も無げに(くぐ)り抜ける。

 思わず舌打ちするレイ。

 承久が誘うように庭に躍り込むと、レイは床を蹴って跳躍。

 全身を仰け反らせ、腕を大きく振りかぶり、先程以上に速度の乗った鞭打を上空から叩き込もうとする。

 双雷(そうらい)と呼ばれる技である。

 その名の通り大地を貫く雷となった両腕は、承久をガードごと叩き伏せる……予定だった。

 

(ッ!?)

 

 技を振り終えた時には相手は消えており。

 レイが目を見開いた瞬間、急速に地面に引き寄せられ、勢いよく叩きつけられていた。 

 

「ぎゃッ!!! こ、の──ッ、ぐぶ!」

 

()()()()()()()()

 

 うつ伏せからすぐに起き上がろうとするレイだが、その前に承久の革靴が後頭部に落ち、その顔を土に押し付けていた。

 そこに手加減は全く感じ取れない。

 相手が子供だから、女だから。

 そんな無意識に行う加減を、承久はあえてしていないのだ。

 ノゾミがようやく現状を理解すると、たまらず承久に詰め寄っていた。

 

「お、おい!? 誰だよコイツ!?」

 

「んー? 知らね。姫奈の友人か何かじゃねえのか?」

 

「姫奈の友人……?」

 

「何かよー分からんが姫奈に執着してるらしくてな。俺から姫奈を守ろうとしてるらしいぜ?」

 

 底意地の悪い笑みを浮かべながら頭を踏み続ける承久。

 一方のレイの戦意はまだ失われていないようで、足の下で土を()みながら藻掻いていた。

 

「ど、けええぇえぇ──ッ!!」

 

「っと」

 

 全身のバネを使って承久を跳ね除けるレイ。

 その表情は今にも憤死しそうな程壮絶で、怒りのまま振るわれる鉄腕にはどす黒い殺意で溢れているのが見て取れた。

 

「死ねッ、死ねッ……死ねッ、死ねッ、死ねッ、死ね──ッ!!!!」

 

「学習しねー奴だな」

 

 四方八方から唸りをあげて襲いかかる腕。

 脱力を巧みに使い、体の重さを上手く乗せたそれは、クリーンヒットすればスイカすら粉々にする威力を持つ。例え受けても、その受けた部位がおしゃかになるという恐ろしい攻撃。

 しかしそれも。

 当たりさえすればの話だが。

 

(何でッ、何で破軍がッ、六道破軍(りくどうはぐん)が当たらないのよッ!?)

 

 レイにとって、この技は心の拠り所だ。

 姫奈と同じ「星の子供達」である彼女。

 与えられた使命を元に『神の軍勢』に入信した彼女は、12歳の頃にこの技に出会った。

 六道破軍。

 六道という系統のうち、空手の動きをベースに作られたモノを指す。

 脱力と重心移動をもって腕の重さを打撃に乗せる事を得意とし、高段者レベルならば大型獣の骨を断つことも可能だという。

 『破軍は猛攻にして鉄壁』。

 指先から肩口まで高レベルの部位鍛錬で鍛えた鞭打は、レイに敵対した相手を尽く殺し尽くしていた。

 それは誰であろうと関係ない。

 例えば相手が承久だろうとこの技の下にひれ伏す──

 

「もうそれはいいっつーの」

 

 ──はずだったのに。

 

 超高速で放たれる両手首が、正面からいとも簡単に捕らえられ。

 レイの顔は引きつった。

 

「ぎゃうッ!?」

 

 直後、視界いっぱいに飛ぶ星々。

 思考が揺らぎ、レイはもんどり打って倒れた。

 チョーパン(頭突き)である。

 承久は自分のおでこを軽く撫でながら、レイを見下ろした。

 

「お前、挑むのはまだしも何で同じ手札ばっか使うんだ?」

 

「……うる、さい」

 

「仮にも武道家なら工夫しろよ。おら、隠し玉出せ」

 

「うるさい……うるさいうるさいうるさいうるさい──ッ!!!!」

 

 最早悲鳴にも近い叫び。

 ゾッとする程の気迫が更に深く、黒くなっていくとレイの全身に異変が起き始めた。

 上半身の筋肉が波打ちボコン!と隆起し。

 だらんと下げられた腕は、明らかに()()()()()

 

 六道破軍 - 東雲。

 

 レイが編み出した六道破軍の完成形である。

 

「またそれかよ……」

 

 承久の呆れ声を無視し、その場でギュルンと回転したレイは、伸びた腕をもって体重+遠心力を乗せた一撃を放つ!

 

(──速いッ!?)

 

 それは見守っていたノゾミをして驚くスピードだ。

 腕の関節を意図的に緩めることで振りそのものが大きくなり、その分加速させる距離が伸びて最終到達速度が上昇したのだ。

 最早その拳速は人間離れし、縦横無尽に、それこそ嵐となって承久を襲う……!

 

「横からいきなり出てきて何のつもりッ!? アンタは、アンタは邪魔なのッ!!!! 星の子供でもないくせに、私の姫奈ちゃんを盗らないでよッ!!!! 姫奈ちゃんを殺せるのは私だけッ!!!! 姫奈ちゃんを殺すのは私だけなのッ!!!! だからここで死んでよッ!!!! 死ねッ、死んじゃえよおおぉぉ──ッ!!!!!」

 

 レイの両腕の関節は、今や脱臼寸前まで緩められていた。

 それはもはや腕ではなく鞭そのもの。

 先端速度は既に人間では目に終えないレベルとなり。

 悲鳴のような風切り音がかき鳴らされていた。

 

 そんなレイの致命的な一撃が。

 とうとう承久を貫いていた。

 

「──ぐ、がっ……!?!?!?」

 

「先端は速いが、鞭の類は手元に行くほど速度が落ちる。それが分からん訳でもあるまい」

 

 ……いや、違う。

 貫いたのは承久の残像──!

 そして当の本人は既に反撃を終えていた。

 飛び後ろ回し蹴り。

 深々と腹部に突き刺さったソレは、レイを吐血させていた。

 

「っとっとっと……まだ倒れるのははえー」

 

 何とかダウンを避けたレイだが、その手は承久に掴まれている。

 ヒュッ、と彼女の腕が振られた瞬間、レイの全身はぐるんと回転。

 うつ伏せで地面に叩きつけられていた。

 

「──ぎゃうッ!!!!」

 

 無様に転がるレイ。

 しかしそんな彼女を承久はまだ放さない。

 再び手首を翻すと、まるで自分から動いたかのように勢いよく回転し。

 仰向けの体勢で再び地を舐める事になった。

 

「──ぐぎッ?!?!?」

 

 そして再び投げる。

 

「がひゅッ──!!!!!」

 

 投げる。

 

「うぼぇッ……!!!」

 

 投げる。

 

「あがあぁッ……あ!」

 

 投げる。

 

「……オッ、ぉ………」

 

 既に勝負はついてると言っても良いのに、執拗に投げ続ける承久。

 その回数が8回を超えた所で「ぼきっ」と野太い音が響いた。

 

「──ひがっ!? ギャアアアァァァーッ!?!?!?!?」

 

「あーあ。受け身も満足に取らんから折れちまうんだ。ま。取りにくいように投げてるんだけどね」

 

「お、おい承久! その辺にしておけよ!」

 

 最早これ以上は拷問だ!

 腕を抑えてのたうち回るレイを、見てノゾミが堪らず止める。

 すると承久はノゾミをギロリと睨み始めた。

 

「天馬。こいつはニ度手合わせしたにも関わらず、無策でフっかけて来たんだぞ?」

 

「いや、そうかもしれないが……」

 

「一度手合わせして相手の器量を測りもせず、なんの『貯金』もせず再び突っ込むようなアホ武道家はな、いっぺん死ぬ目に遭うべきだ」

 

 その目に宿す冷徹さは、同年代とは思えぬ程。

 ノゾミは承久の価値観の違いに背筋を冷やした。

 

「流石にここで人殺しちゃ不味いだろ……!」

 

「うるせー。大体殺しに来たのはあっちだろうが!」

 

「だとしてもやり過ぎなんだよ……! ったく、とんだ夕飯になっちまった……おい、お前大丈夫か? 立てるか?」

 

「ぅーッ…うぅぅーッ……!!! えっえっ……えうぅー…ッ、うぅ~~~ッ……!!!!」

 

 ノゾミが近寄ると、レイは顔を土、血、涙、その他諸々でグシャグシャにして、しゃくり上げながら嗚咽していた。

 その様子は年頃の少女そのもの。

 先程まで感じていた化け物のイメージは、どこにもない。

 診た所、命に別状はないが全身のあちこちが折れており、すぐに救急車を呼ばなければいけない状態だった。

 店員も今頃になってわらわらと集まってきており、こりゃ今後この店は使えないな、とノゾミが考えていると、レイの元へ向かった承久が、ニヤニヤと笑い始めた。

 

「あン? お前なに負けてベソかいてんだ? バ~~~~カ!」

 

「おい承久……ッ!!!!」

 

 流石に性格が悪すぎるぞ! 

 咎めようとするノゾミ。

 しかし彼女が見ている中、承久の雰囲気が一変した。

 全方向に唾吐く生意気な女から。

 若造を見極める老獪な達人へ。

 

「その涙は俺への悔しさか自分への悔し涙か。どっちかでお前の価値は決まる」

 

 遠巻きに聞こえる救急車の音が、徐々に近づきつつあった。

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