ことねとプロデューサーのある日の何気ないやり取りです。ちょっとラブコメ要素あり。

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第1話

レッスンが終わり、帰り支度。

藤田ことねは、プロデューサーに挨拶をした。

「じゃあね、プロデューサー」

「はい。ではまた明日」

「あのぉ、夜、電話してもいいですかぁ?」

ことねが冗談っぽく甘えた声で問いかけると、Pはメガネのつるに指を触れながら答える。

「それは……なにかレッスンに対する相談事ですか?」

「え、いえいえ、ただちょっとおしゃべりしたいなぁって」

「……ダメです」

「え~、なんでですかぁ」

「寝る前の電話は、睡眠を浅くする可能性があります。睡眠が浅いとその日の振り返りも脳に定着せず、翌日の活動にもマイナスのリスクがありますので」

「ちぇ~」

まったく、この人は真面目というか融通が利かないんだからなぁ。

ことねはそう思いつつ、彼が一瞬ドキッとしていたのを見逃さなかった。

「ダメです」と答えるまで、1秒ほど間があったのだ。

機械みたいな分析人間のプロデューサーは、思ったことは即座に答えるタイプだ。

でも間があったということは。

まんざらでもないとか内心思ってたのかも?

はっきりと確かめる勇気はないけれど、もしそうだとすると結構うれしい。

もうちょっとだけ、からかいっていうか、アプローチしちゃおおっかなぁ。

そんな考えが頭の中にわいてくる。

「ねぇねぇプロデューサー」

「はい?」

「それだったらぁ、寝る前じゃなかったらいいんですかぁ?」

「え、まぁ、それは」

「じゃ、あたしがお風呂入ってる間とかどうですか? 最近スマホの防水カバー買ったんです。湯気とか全然入らない密着の」

「何言ってるんですか」

スパっと断られた。

ちっ。

こういうお色気っぽい冗談には動じないかぁ。

「そういうのは、ご家族とやってくださいね」

「はーい」

まぁ、チビどもと電話するかぁ。

「まったく」

やれやれとプロデューサーがため息をついた。

「あんまりここで時間をつぶしていると、日が暮れてしまいますよ?」

「あ、そうですね。そんじゃそろそろ帰りまーすって、プロデューサーは?」

「……少し残って、書類とかデータの整理をやりたいので」

「体壊さないようにしてくださいね、そっちこそ」

「その辺はちゃんと気を付けているつもりです」

ばいばーいと大げさに手を振って、ことねは帰路に就いた。

胸の奥が温かい。

プロデューサーが居残って調べ物をしているのは、きっとあたしのためだろう。

レッスンの精査とか、プロデュースの方向性とか、最新の流行の動向とかをチェックしてくれているのだ。

……まったく、あたしのこと好きすぎなんだから。

自然ににやけてしまう。

藤田ことねは、家では長女だ。

いつも妹たちの面倒を見て、頼られる側のポジションだった。

しかし、プロデューサーと出会ってからは、どうにも彼に甘えてしまう。

自分が妹になったような気分になる。

誰かに甘えたいとか、これまで考えたこともなかったんだけどなぁ。

むしろ、なんやかやと一人でできる自分が好きだったし、人に頼らずに生きているのが誇りですらあった。

それが、こんな気持ちになるなんて。

誰かに頼ることができるのが、こんなに心の安寧を産むだなんて。

想像したことも、無かったなぁ。

時々、この不思議な気持ちが何なのかよくわからなくなる。

プロデューサーのこと、あたしはどう思ってるんだろう。

お兄ちゃんみたいな人ができたから、嬉しい?

頼れる年上の人と出会えて、依存しちゃってる?

それとももしかして……恋、的な何かだったり?

わかんない、わかんない。

って、わかるわけないじゃん。

これまでぜんぜんそういうけ経験なかったし。

バイトとレッスンと家の事だけで手いっぱいだったもんなぁ。

いずれにせよ。

彼のことを考えると、心がホカホカと温かくなることだけは、間違いようがない事実だ。

「ま、いまはそれだけで、いいっしょ!」

つぶやいて、ステップを踏みながら歩いた。

いつの間にか自然に鼻歌を歌っていた。

 

その日の夜。

怒られるかなぁとか思いつつ、プロデューサーに通話をかけてみた。

彼はあきれた声をしつつ、「10分だけですよ」と、ちゃんとおしゃべりに付き合ってくれたのだった。

もぉ、どうのこうの言って甘いんだから。

やっぱりプロデューサー、あたしのこと好きすぎ♡

 









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