高知と言う事で時代は違いますが、ハルウララにカメオ出演してもらいました。
私は、オグリキャップと同じレースを走った。
一度目は、勝ったけど不本意だった。
二度目は、いけるかもしれないと錯覚した。
三度目は、わかっていても、脚を止められなかった。
届かなかった。
どんなに風を切っても、どんなに鼓動を上げても。
あの白い背中は、ずっと遠くにいた。
でも私は、そのたびに確かにゴールを切っていた。
ビリじゃなかった。
それだけが、あの頃の私の誇りだった。
中央に上がってから、
私は一度も勝てなかった。
ゲートに入って、走って、
脚がちぎれるほど追って、
それでも画面の隅にも映らなかった。
実況が私の名前を言いかけて、
すぐに別の子に切り替えた。
観客が名前を呼ぶのは、
私じゃなかった。
「今日も、いいラップでしたよ」
あなたはそう言ってくれた。
でも私は、「いい子」になりたかったわけじゃない。
「速い子」になりたかった。
だけど、中央に
私の居場所はなかった。
高知の空は、
湿っていて、少しだけ塩の匂いがした。
風が近くて、土があたたかい。
観客は少なかったけれど、
ここには、私の脚音がちゃんと響いた。
ある日、控室でひとりの子が話しかけてきた。
「ねえねえ、あなた、もしかしてマーチさん? ウララ、ずっと走ってるの!」
彼女は、目をきらきらさせて笑っていた。
背は小さくて、耳もぴょこんと跳ねて、
でもその脚は絆創膏でいっぱいで、すり減った蹄鉄は彼女の走りを雄弁に語っていた。
「全然勝ててないんだよー、ウララ。でも走るの大好き!」
それを聞いて、私は言った。
「えらいじゃないか、負けても走ってるんだろ?」
そうしたら彼女は、すこし首を傾げてから笑った。
「うん、ウララが走らないと、コースが寂しがる気がして」
勝つために走るのでも、
誰かの目に映るためでもない。
その言葉を聞いたとき、
私の中にあった何かが、すとんと落ち着いた。
今、私は走っていない。
でも、走る子たちを見ている。
フォームを整えて、呼吸を合わせて、
風を感じて、誰にも見られていなくても、走る理由を探す子たち。
「腕、引きすぎだ。風を切るつもりで」
「目線を落とさない。そこに気持ちを置いて走れ」
教えているうちに、
私が教わっていたんだと気づく。
走る意味を、ウララや、あの子たちが思い出させてくれる。
ときどき、貴様のことを思い出す。
貴様があの日、私の肩に手を置いてくれたこと。
中央で一度も勝てなかった私に、
柄にも無く「お疲れさま」とだけ言ってくれたこと。
あれは、
私にとって最初の「勝ち」だったのかもしれない。
私は今日も、誰かのスタートを見送る。
芝でもなく、ダートでもなく、
この高知のコースで。
でも、時々、目を閉じると
オグリの白い背中が見える気がする。
そのすぐ後ろに、
必死についていく私がいて――
ああ、私は、
本当に、走ってきたんだなって思えるよ。
名前が残らなくても、
記録に映らなくても、
私の脚は、
確かに、風とともにあった。
そしてきっと、
誰かの夢の中で、
私の音は、まだ響いている。