東方時空録   作:中津之麻

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改めまして本編です。


今回は日常のような非日常のような、そんな回です。


それでは


本編
秋のある一日


終わりを見せなかった夏もしだいに衰え、暑さもだんだんと弱まり涼しさを感じさせ始めた。空を遮る雲も少なく、暑さや日差しに辛さを覚えた夏も今となれば良き思い出となり、思い返すとふっと笑みがこぼれる。

空気も乾き始め、木々や虫、そんな自然たちも勢いを失い始める。そんな『秋』の季節になった今も、平穏な日常が続いていた...

 

 

 

 

「それじゃいくってくるね」

 

 

いつものように静かにお茶をすすっている霊夢に声をかける。式は縁側で梓さんから貰った下駄を履き、小さく振り向く。数秒の間二人の仲に沈黙が走り、カラカラと枯れた葉が風に吹かれる音が静寂の中に響く。

その後霊夢は小さく

 

 

「行ってらっしゃい」

 

 

と息を漏らすかのように言った。式はその返事に小さな喜びを感じ、笑みがこぼれる。式はそのままカランコロンと音を立てて鳥居を越える。

そこで式は振り向き神社に向き直った。

 

 

「行ってきます」

 

 

 

 

 

 

 

神社から飛び立った式は気分も乗っていたせいか、気がついたときには既に人里が見えていた。

人里の近くに降り、式は活気ある里の雰囲気に見はいりながらも道草を食うことなく一直線に寺子屋に向かった。

寺子屋に入ると、いつもはわいわいとにぎわっているこの職員室も今は何故か静かである。

その中に一人黙々と作業をしている人がいた。

 

上白沢慧音だ。

 

静かに慧音を見ていると、何かを感じたのか突然こっちに振り向いた。

 

 

「式か。どうした?今日は早いんだな」

 

 

「早いかな?いつもどうりのつもりだったんだけど...」

 

何をかくそう博麗神社には時計が無い。そのため式はいつも大体の時間でいつも博麗神社を出ているがここまで早いのは始めてだった。

 

 

「あと授業までどのくらい?」

 

 

「まあ30分くらいはあるが、式は何かすることはないのか?」

 

 

「ないんだよね」

 

 

式は授業の補助であり、誰かの授業で分からない生徒が居たときのお助け役だ。そのため基本誰かを手伝っているとき意外自分の準備はないのだ。

 

 

「そうか。なら授業までゆっくりしておいてくれ」

 

 

「うん。そうするよ」

 

 

式は慧音の言葉に甘え、椅子にゆっくりと腰を下ろした。そこで式は一つ物思いにふけることにした。

それはこの寺子屋が活動を復帰したときのことだ。

そうしていると、眠気がだんだんと大きくなりそして瞼もおちていってしまった。

 

 

寺子屋は一時休校状態だったが、里にたった一つの寺子屋と言うこともあり、たくさんの人のお声などや支援で、無事閉校することなく再開することができたのだった。

 

 

 

 

 

宴会の余韻すらもすっかり消え失せ、日差しや気温が酷な夏もやっと終盤を迎えたぐらいの時、博麗神社に一通の手紙が届いた。

 

 

「はあ、どうして人間って毎日ご飯を食べなきゃいけないのかしら...後片付けも面倒だし。初めてアリスとたちがうらやましいと思ったわ」

 

 

と愚痴をこぼしながら台所から用事を終えて居間に帰ってきたところで霊夢は縁側を正面に腰を下ろし一息ついた。ふうっ溜め息に近い物を吐き、瞼を開くと、先程までは何も無かったはずの縁側に封筒が置いてあるのを見つけた。

突如現れたそれを霊夢は少し奇妙に思いつつ近寄っていくと、その近くにあの烏天狗の新聞、『文々。新聞』があるのを見つけ、直ぐに納得した。

 

 

「文に伝えてもらうようなことあったっけ。あの烏天狗が式に宛てるようなこともないはずだけど...まさかまたよくないことが起こってるんじゃないでしょうね」

 

 

霊夢はいかにもだるいという風に体を持ち上げ新聞とその便箋を取った。注意深く宛名や送り元をみたところで霊夢はその予想が外れたことを理解する。

そもそも送り主が文ではなく、慧音が式宛送ったの手紙だったのだ。

霊夢は手紙に見入る。

式と慧音。その関係は重々知っていた。

慧音に式が寺子屋の教師にならないかと言われ、式はそれを了承した。要は二人とも寺子屋の教師ってことね。

ただそれだけのこと、慧音が式に伝えたいことがあったのだろう。

伝えたいこと...?

霊夢は自分の言葉に疑問を持った。なにせ霊夢は寺子屋での二人をよく知らなかった。だからその内容が少し気になってしまったのだ。

 

 

(誰も見てないわね?)

 

 

霊夢はあたりをぐるりと見回し、誰も居ないことを確認すると-そもそも博麗神社に人は滅多にいないのだが-ゆっくりと封筒をふさぐのりを慎重にはがしていく。中から便箋のような紙を取り出し、じっくりと目を通す。しかし、期待や不安と裏腹に特に気にかかる文章は無かった。半ば安心したような気持ちで読んでいったところで、折りたたもうと裏を向けたところで、ある一文が霊夢の目に止まった。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー...」

 

 

そして式の神社に帰宅してからの漏られた第二声が「疲れた...」である。それも無理は無い。

外はまさに『夏』と言う感じで、じりじりと聞こえてきそうなほどに日差しが強い。空が飛べるとは言うものの、上空は日を遮る物が何も無くむしろ暑い。日差しをもろに受け、汗を流し、霊力を消費していくほどに段々とばてていったのだ。

そもそも何故こんな幻想郷でも一二を争うような猛暑日に出かけていたかと言うと、霊夢に買い物を頼まれたからだ。

 

 

「それにしても重いなあ」

 

 

お賽銭箱はほとんど空なのにいったい何処からこんなにお金が湧いて来るんだろう。

あ、そうだ自分のお金だった。

少し溜め息をつきながら廊下を歩いていく。

 

 

「霊夢ー?帰ったよー?ちょっと来てくれない」

 

 

さすがに重いと思い、霊夢を助けに呼ぶが数十秒待っても返事はなかった。仕方なく持って台所に向かおうとすると居間からドタドタと騒がしい音が響いてくる。

 

 

「お、おかえり!」

 

 

いつもと違い、どこかあたふたしている霊夢をおかしく思ったが今はそんなこと気にしていられない。

たくさんの荷物を持っている両手が段々と痛みを感じ始めてきた。荷物を早く持ってもらいたい、と言う気持ちが膨れ上がって来る。

 

 

「ちょっと持ってくれないかな...」

 

 

男なら最後まで自分でやれ?

すみません腕がもたないんです許してください。

心の中のもう一人の自分に土下座で謝罪し自分を情けなく思い、かるく俯きながら霊夢に荷物を半分ほど突き出す。

霊夢は式の言葉の意味が分からなかったようで一瞬戸惑っていたが、はっ、と息を漏らし何故か荷物を全部奪うようにとって、台所の方に走っていった。

 

 

(どうしたんだろう)

 

 

少しあわて気味に走る霊夢のその姿が台所に隠れ、見えなくなるまで眺めながら式は思った。しかし重たい荷物から解き放たれた式はどことなく達成感を感じ、小さく鼻歌を歌い始めるとそんな思いも直ぐに忘れてしまった。居間に滑り込み、すこしくつろぎ始めたところで式は再び体に疲労感を感じ、つかれたー、と体を倒し腕を伸ばした。

すると不意に手に何か紙のようなものが触たようでさらっとした感触が腕に伝わると同時にカサッと音を立てた。

体を起こすと一緒に、手に当たった厚みのある何かを拾い上げる。

それを顔の前まで持ってくるとそれが何であるかが分かった。

 

 

「文の新聞かあ。そういえば最近読んでなかったっけな」

 

 

久しぶりに、とその『文々。新聞』を開くと、何かがパサリと落ちた。

 

 

「ん?」

 

 

 

式は反射的にそれを拾い上げた。

 

 

[宛先:七条 式様]

 

 

そう書かれた面があり、裏を見ると

 

 

[差出人:上白沢 慧音]

 

 

とあった。

慧音から?なんだろう。

式は何か考えることなくその封を開く。その封は思いのほかかなり弱く張られていて破くことなく開ける事が出来た。中から素朴な便箋を取り出し、封筒を新聞と一緒にちゃぶ台に置き、便箋に目を通す。

 

 

 

 

 

その内容は簡単な物で寺子屋の活動を再開するというものとその日時についてだった。そのことが一枚の便箋にしっかりと書かれていて、文字で隙間無く埋められている。そこからはやっぱり慧音という感じがする。

 

そのことにすこし微笑を浮かべながら式はその便箋を折りなおしてしまおうと裏を向けると、真っ白なその一面のその中央に黒く書かれた一文があった。

 

 

[追記:異変の前に言ったあの言葉はすまないが忘れてくれ...]

 

 

異変の前...

式はそれをほとんど覚えていなかった。

何か言ってたっけ...?

式は何か覚えていないことが失礼なような気がし、半ば必死に頭を回転させた。

しかし浮かばない。それに歯がゆく思ったが、最終的に諦める他無かった。

 

 

 

大人しく封筒に便箋を戻し、ちゃぶ台に置く。すると霊夢が居間に入ってきて、ちゃぶ台のそばに腰を下ろした。

その素振りにはさっきのようなあわてようは何処にも無かった。

 

 

「どうしたの?やけに遅かったね」

 

 

何気なく言ったその一言だったが、霊夢はびくっと肩を揺らした。

 

 

「お、思いのほか荷物が多くて疲れたわ」

 

 

「あれはたしかに重かったね。でも全部持たなくてよかったのになあ...まあ運んでくれてありがとう!」

 

 

霊夢に心から感謝し顔の前で手を合わせる。再び霊夢を見るとその挙動はどこかおかしく、何故かおどおどしていた。目線をそらし何かを見ているようだった。その視線を追うように霊夢の見ている物を探すと、どうやらさっきの手紙を見ているようだった。

 

 

「これがどうかした?」

 

 

式は霊夢に示すようにそれを手にとった。

 

 

「うぇ!?そんなことないわよ」

 

 

後半は平静を装っていたが、最初の挙動がどうもおかしい。

何かあったのかな?

式はまっすぐと霊夢を見ると、霊夢はあたふたと居間を出て行ってしまった。そのすこし後に奥から襖の閉じる音がしたので、霊夢は部屋に帰ったことが分かった。

 

 

 

 

そのまま霊夢と顔を合わせることなく、だんだんと日は下に落ちて来た。

それ綺麗な茜色は、点々と浮かぶ雲を真っ赤に染め、山を朱色と黒色の鮮やかなコントラストが覆う。

式は何を考えるわけでもなく、ただその景色を眺めていた。

外の世界ではあまり見れないこの景色でも、空気の澄んだ幻想郷ではごく日常の風景だ。

式は日が沈みかけたところで我に返る。

 

 

「ご飯作らないと」

 

 

すこし重くなった体を持ち上げ、台所へと向かう。

さて、何を作ろうかな。

今日買った食べ物をさぐりながら考える。

 

 

 

 

 

 

作っている間も霊夢は部屋から出てこなかったが、一応霊夢の分も作っておいた。

すると奥からキシキシと廊下を踏む音がし、美味しいにおいに誘われたのか-そうだと嬉しいが-霊夢がひょっこりと顔をのぞかせた。

それを見た式は思わず顔がほころんだ。

 

「食べる?」

 

 

式が笑顔でそういうと霊夢はそそくさとちゃぶ台に座った。

 

 

「...いただきます」

 

 

霊夢は静かにそう言うとカチャリと箸をとり、同じ物を食べているとは思えないほど美味しそうにそれをほおばった。

 

 

 

 

 

式が食器などの洗い物を片していると霊夢が話しかけてきた。

 

 

「式は...慧音と何かある?」

 

 

その言葉はすこし震えていたと思う。式はいきなり投げかけられたその質問に一瞬きょとんとしたが、すぐさまその意味を理解し、応答する。

 

 

「いや?なにもないよ。どうして?」

 

 

「いや、どうもしないけど...」

 

 

霊夢は小さく「そう...」と声を漏らし、少しばかり嬉しそうに戻って行った。

昼のこともあり、それを見た式も少し嬉しく感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....き .......しき .........しき!!」

 

 

揺すられながらそんな大声をかけられ、眠っていた式は言葉どうり飛び起きた。

 

 

「え...?何」

 

 

いそいで周りを見回すと、一度は何も見えなかったが、二度目は先程よりも下の位置に捉えることが出来た。

そこにいたのはチルノを含めた寺子屋の生徒達だった。

どうやら揺すっていたのはチルノちゃんらしく、服が少し冷えていた。

 

 

「どうしたの?」

 

 

すっかり目が覚めてしまった式は、少しあわてたようなみんなに聞いてみるがみんな一様に思い思いのことを話すので何を言っているかは分からない。

そんな中で引っ張られながら連れて行かれ、寺子屋の裏まで出たところでみんな同じ場所を指差し始めた。

その方向に視線を向けると、そこには生徒たちの影で一つのシルエットがあった。

式は生徒の上からのぞき込むようにする。

 

 

「ミャ-オ...」

 

 

それは猫だった。

しかもどこか怪我をしているようで近くに小さな赤い点がいくつかあった。

 

 

「かわいそうに...」

 

 

式はしゃがみながら、その猫に近づく。みんなも静かにその姿を見守っているが、そうしているだけ意味がないことを式は知っていた。

 

   

「この猫は自分が助けてもらいに行くから、みんなは寺子屋にかえってて」

 

 

式はそういいながら猫に触れると、その細い体からは物凄い熱量を感じ触るのを少し躊躇ったが、素早く優しく持ち上げるとやはりその体はとても熱かった。

熱でもあるのかな?

そう思った式は一層いそがねばと言う思いが増し、猫を抱きかかえて駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

「...もう大丈夫だと思うわ」

 

 

八意永琳は聴診器のような物を耳から外しながらそういった。

 

 

「ありがとうございます。大きな怪我とかは無かったですか?」

 

 

「大きなものは無かったわ。少し刺し傷みたいなのはあったけど、どうしてその傷を負ったかは分からないわ。それとどうしてかは分からないけれど、異様に体温が高いわね」

 

 

そうなのか。と思いつつ、永琳からゆっくりと猫を受け取る。するとその体からは汗をかくほどの熱が伝わって来た。あまり動かないのでどうしたのかと思ったら寝ているようだった。

 

 

「そうですか」

 

 

式は軽くお辞儀をしながら襖を開けてその部屋を後にした。

 

 

「大丈夫だったか?」

 

 

そう言って付いてきたのは慧音である。

竹林じゃ迷うだろうと送ってくれたのである。

 

 

「うん。まあ大丈夫みたい」

 

 

「そうか。それで、その猫はどうするんだ?」

 

 

「うーん、心配だし一度博麗神社に連れて行くことにするよ」

 

 

慧音は「そうか」と漏らしつつ、寝ているのを察したのか起こさないようにそっと撫でた。

猫はそれに反応したのか、寝ているにもかかわらず気持ちよさそうに「ウニャ~」と鳴いた。

二人はそれに思わず笑顔がこぼれた。

 

 

あれ、どこからか見られているような...?

 

 

 

 




いかがでしたか?楽しんでいただければ幸いです。

次回も間を空けずに出したい!


今回何故か本文が2回繰り返されていると言うミスがあったことを大変深く反省いたします。


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