買い出しと同時刻
駆逐艦〈ハレカゼ〉 艦内
さて、買い出し組が市街地でショッピングを楽しんでいる間、残りの乗組員達は思い思いの時間を過ごしていた。
「べこべこだね」
「修理できそう?」
「時間かかるけどね……」
応急員の面々は、今日も休まず艦の修理状況を確認していた。
アンドロメダとの逃亡劇の後だ。流石に装甲板は無傷ではなく、時間をかけて修理する必要があった。
「洗濯物、持って来たよー!」
「ありがとう!」
炊事員の杵崎姉妹は、普段艦内で干さなければならない洗濯物を、外で干していた。久しぶりに天日干しができるのだからこんなチャンスは逃せない。
「使えるものは流れてこないねー」
「トイレットペーパーとか流れてこないかなー」
水雷員の松永理都子と姫路果代子は、海に流れ着く物がないか宝探しの真っ最中だった。
流れ着くのは大体プラスチックゴミや空箱ばかりなので、甲板上に戦利品が散らばっている。
「機関長は?」
「機関室の方が落ち着くんだってー」
「えー、たまには太陽浴びないと!」
「流石機関長殿……」
一方、ハレカゼの船体で日向ぼっこをするのは機関科の面々だった。宇宙ではまず浴びられない生身の日光浴を楽しみつつ、そんな会話をしていた。
「平和って、いいね……」
「いい……」
「今日の晩ご飯、何かなー」
「カレーが、いい……」
「今日は金曜じゃないよ……」
艦橋では鈴と志摩が、そんな他愛もない会話を繰り広げていた。相変わらず志摩はカレーが好きなようで、炊事員特製ハレカゼカレーのことを全く飽きてないようだった。
「ちょっと、トイレ行って来る……」
「?」
と、同じく艦橋で艦長代理として時間を過ごしていたましろは、そう言って何かを抱え込みながら、そそくさと艦橋を出て行った。
彼女はエアロックから艦外に出ると、誰にも見つからないアンテナの後ろに隠れ、艦長帽を被った。
「ふふっ……」
艦長になれた自分を想像して、試しに敬礼をしてみる。それが面白くて、左手でも敬礼をして、嬉しくてくるくると回ってみた。
そんなことをしていると、ましろが隠れているところに誰かが上がってきた。
「うわぁっ!?」
「宗谷さん?」
出てきたのは黒木だった。びっくりして思わず帽子を落としそうになるが、慌ててキャッチする。
「宗谷さん、すごく似合ってるじゃない!」
「えっ……?」
「私は、宗谷さんに艦長になって欲しかった」
黒木はそんなことを言って、ましろを持ち上げる。そんなことを言われて少し戸惑い恥ずかしさが出てきたのか、ましろは話題を逸らした。
「あ、ありがとう……え、えっと……何か?」
「用があるのは儂じゃよ」
と、そう言って出てきたのはミーナだった。どうやら用事があるのはミーナの方だったようだ。
「ミーナさんが艦内を案内して欲しいんだって」
「よろしく頼むぞ」
「あ、うん……」
確かに今は艦長代理として、ミーナの案内を任されるべき立場だ。ましろは素直にそれに応じ、ミーナを案内することにした。
「はぁ……学校に帰ったら、私達怒られちゃうのかな……」
「まさか停学とか退学になったりしないよね……?」
一方そのころ、甲板の修理や日向ぼっこを終えた艦外の面々が集まってお菓子を食べていた。ポテトチップスやチョコレートに加え、炊事員の作った杏仁豆腐もあった。
そんなお菓子やスイーツに舌鼓しつつ、機関科の面々は今後どうなるか、不安そうな言葉を口々に話す。
「防衛軍に捕まって軍法会議とか?」
「ないない。私たち、まだ正式には軍属じゃないし。それに──」
噂好きの機関科、若狭麗緒は言葉を続ける。
「宗谷さん、あの校長の娘さんらしいよ」
「えっ、本当!?」
その言葉には、皆が驚嘆の声を上げた。まさか自分たちの学校の校長に娘がいて、しかもその子が自分たちと同じクラスに通っているとは、偶然にしては出来すぎている。
「確かに、校長も苗字は宗谷だ!」
「でも、なんでそんな子がハレカゼなんかに?」
「っ…………」
そんな噂話を、艦内を案内していたましろ達は偶然耳にしてしまった。その言葉を聞いて、ましろは少し俯く。
その言葉を聞き、黒木はましろのために注意するべきだと思って動こうとしたが、彼女が動く前にミーナが動いた。
「お前達、人のいない所で噂話とは、感心せんな。地球の船乗り達は皆こうなのか?」
「げっ……!」
ミーナが率先してそう言うので、黒木も続けて前に出る。
「ミーナさんの言う通りよ。まだ修理する箇所があるでしょう?サボってないでさっさと戻る!」
『は、はいぃぃぃ!!』
そう言って噂好きの面々は、艦内の方へ戻っていった。黒木はミーナに感謝を述べる。
「ミーナさん、ありがとね」
「なに、気にすることではない」
ミーナが率先して前に出てくれたおかげで、黒木も自然と注意することができた。ミーナに関しては黒木も若干思うところがあったが、これを気に考えを改めようと思えた。
「宗谷さんも、気にしないでね」
「うん……」
続けてましろにもフォローを入れておく。彼女はあまり深くは喋らなかったが、明らか気にしている様子だった。
そんなことをしている間にも、水雷員達はお宝を探し求めて海を漂う物体に対し、猟具を突きつけていた。
「えいっ」
長く伸びた鎌の先をその物体に当てると、かなり硬い物質でできているのか、引っ掛からなかった。代わりに突起の方に向けて鎌を引っ掛け、それを引き上げた。
「あー!突入カプセルだー!」
「国連時代のものかなー?」
海から引き上げられたのは、簡単な施錠がしてあるだけの突入カプセルだった。どうやら宇宙の方から流れ着いたものらしい。
「頑丈なカプセルって事は、中にお宝が入ってたりして……」
施錠をペンチで破壊して、中身を開けてみる。しかし中に入っていたのは、何かのゲージらしき物体と、動き回るネズミだった。
「あれ?」
『ちゅー!』
「きゃっ!?」
ネズミが外に飛び出す。理都子は思わず尻餅をつき、飛び出して行ったネズミを目で追いかけることしかできなかった。
「ムフッ!!」
だが、艦外で日向ぼっこをしていたデブ猫の五十六は、ただ見ているだけではなかった。一目散にネズミめがけて駆け出し、猫特有の身体能力を発揮して追いかける。
「フンフンフフフフン!フーン!!」
「うわぁっ!?」
そんな最中、ネズミを追いかけて来た五十六がましろにぶつかった。ましろは猫が苦手なので、その場で尻餅をつく。
「宗谷さん、大丈夫!?」
「うぅ……全く、猫なんか乗せるから……!」
この猫をハレカゼに乗せた誰かさんを思い浮かべながら、恨めしそうにましろはそう言った。
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