小さな天使と抜け身の剣   作:時空未知

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運命の死(1)

 

 

意識を失い拘束されたグラングの姿が、霧の向こうへ消えてゆく。

ソラはその背に何とか追いすがろうと走り続ける……が、

 

「きゃっ!?」

 

それは彼女が足を取られて躓いたことで、あえなく停止することとなった。灰色の地面に身体が打ち付けられ、肺から無理矢理空気が吐き出させられる。

 

「ぅ、ぐ……」

 

その傷みを堪えながら、ソラはなんとか立ち上がる。

何に躓いたのか見てみると、そこにはアスファルトに刻まれた一直線の裂断跡(獣の祈祷の痕跡)が残されていた。

それは宛ら、グラング自身に追うことを止められているようで……

 

「っ、そんなの、違う!」

 

一瞬脳裏を過った言葉を、ソラは己の妄言と断じる。

そんな訳がない、そんな筈がない。

自分はあの時、グラングの側にいると言った。大好きだと伝えた。

だから、今度は自分が助けなければ。グラングを、自分が……!

 

 

タン

 

 

「え?」

 

 

その時、正面から微かに聞こえた足音。

ソラは思わず音がした方向へと視線を向ける。

そこには……

 

「あ、ぁ……」

 

蒼白の幽霊、ユスティナ信徒。

いつの間に展開したのか、軽い中隊にも及ぶ数の彼らが立っていた。その銃口が向けられる先は、ソラただ一人。

たったそれだけで、彼女の足は竦んで動かなくなる。

 

「だめ、なの……?」

 

その声に答える者は、誰もいない。

ただ、向けられた銃器のトリガーが、ゆっくりと引き絞られ……

 

 

「危ない!!」

 

 

瞬間、何処からか声が聞こえてきたかと思うと、ユスティナ信徒の攻撃が始まる直前に、誰かが立ち竦むソラの身体を攫うと、そのまま路地裏に向けて一直線にかけてゆく。。

その誰かにも銃口を向ける幽霊らだったが、何故かその動作が鈍っているような素振りを見せていた。

 

何故……?

 

その疑問の答えが思いつく間もなく、ソラの視界の中にふわりと風に舞う白い髪が映った。

脳裏を過ぎるのは、危険を顧みず自分を抱いて走り続けてくれた人。たった今、自分のせいで連れ去られてしまった大切な後輩の姿。

……けれどそれは、結局の所幻想に過ぎなかった。

 

 

「ソラ、大丈夫!?」

「え、ぁ……?」

 

 

聞き覚えのある声……けれど、グラングではない。

足音に揺られながらゆるゆると視界を向けると、色濃い心配の映る薄く紫がかった瞳が、こちらを見つめていた。

直近の記憶は、成り行きで浜辺で遊んだ時の事。

名前は、確か……

 

「アズサ、さん……?」

「……!良かった、無事、で……」

 

ソラが反応を示したことに、安堵の表情を零すアズサ。けれどそれは、直ぐに暗く曇った。

……気がつけば、戦闘音は遠退きに聞こえるのみとなっている。

蒼白の幽霊の姿はもう見えない。

そんな中、アズサはゆっくりとソラの身体を地面に下ろす。

彼女は多少よろめいたようだったが、ある程度体調が回復していたのか直ぐに態勢を立て直すと、そのままアズサに恐るではあるが、向き直った。

 

「あ、ぁの、助けてもらって、その……」

「いや……大丈夫」

 

戸惑いながらではあるが、謝礼の言葉。

けれど、それをゆっくりと遮ったアズサの表情は、相変わらず暗いままだった。

 

「寧ろ、謝らなきゃいけない。

グラングのことを守り切れなかった。攫われたのは、私の責任」

「!そんなこと……!!」

 

そんなことはない。

 

詳しい状況はわからないが、何となく想像できる。

逃げようとしていたグラングをアズサが助けようとしてくれたこと。自分ができなかったことを、彼女がしようとしてくれたことを。

ソラは、そう声を上げようとした……が、

 

 

「あの4人は、私の仲間だったの」

「……ぇ?」

 

 

続くアズサの言葉に、硬直した。

呆けた声を発する少女に向けて、彼女は言葉を続ける。

 

「私は裏切り者。でも、結局私がここにいるから、みんな傷つけられた」

 

……何を言っているのか、理解できない。

 

アズサが、グラングを攫った人たちと仲間だった?

それを裏切って……それで?

 

「グラングだけじゃない……トリニティも、ゲヘナの人達も皆」

 

やはり、わからない。

アズサが抱えているもの、この事件の裏側。わかりたくもない。

 

……でも、これだけは言える。

この状況が生まれたのはアズサのせいじゃない……筈だ。

少なくとも……

 

「……そんなことない……ですよ」

 

気が付けば、ソラはそう口にしていた

 

そうだ。

少なくとも、グラングは……

 

「グラングは……私が、先生を助けてって言ったから。もうボロボロだってわかってたのにあんな事言ったから!!」

 

ほとんど悲鳴に近い声が、ソラの口から発せられる。

彼女の脳裏でぐるぐると、もうどうしようもないばかりが後悔が渦巻く。

 

信じてしまった。願ってしまった。

グラングならきっと何とかしてくれると。

先生を助け、すぐにでも戻ってきてくれると。

彼女自身の負担を考えることもせずに。

こんなことなら、先生を助けてなんて、言わなければ……!

 

 

じゃあ、先生はどうなるの?

 

 

「……ぁ」

 

 

廻る後悔の中に、そんな言葉が混じった。

 

じゃあ、先生を見捨ててもよかったの?

銃弾の一発で死んでしまいかねない先生を放って、逃げ出せばよかったの?

 

耳元で誰かにささやかれるような、そんな錯覚に陥る。

幻聴にも似た何かが、ソラの選択を責め立てる。

 

「ぁ、あ……ちが、ちがっ」

 

何が違うの?

そもそも先生が助かったという確証も何処にもないのに。

……もしかすると、結局先生は撃たれてしまったかもしれない。

そして、グラングまで攫われたのだ。

 

私が、判断を間違えたから。

 

お前()のせいだ

 

お前()のせいだ

 

お前()の……!!

 

 

「ソラ、しっかりして!!」

「ぁ……ぅ?」

 

 

その時。

ソラの意識は、急激に現実へと引き戻される。

ゆるゆると顔を上げると、少女を切羽詰まった表情で覗き込むアズサの姿がある。

……ソラにとっては、全て自分の脳内で起こった出来事。

しかし現実には、周囲に目に見えてわかるほど錯乱していたらしい。

故に、彼女が何故錯乱していたのかアズサが理解するには十分だったらしい。

アズサはゆっくりと息を付くと、目の前の茫然自失とした少女に向けて、声をかけた。

 

「大丈夫。先生は無事なはず」

「……ぇ?」

 

何を言っているかよくわからない、と言った様子のソラ。

そんな彼女を安心させるべく、アズサは言葉を続ける。

 

「サオリが……相手が戦闘中に、先生は取り逃がしたって口走ってた。

グラングは、ソラのお願いをちゃんと聞いてくれたんだと思う」

「……!」

 

その言葉で、漸くソラの表情が少しだけ晴れた。

……さて。

 

「いい?ソラ。あなたは何処か安全な場所まで逃げて。それこそ、シャーレとか……トリニティでもいい。先生なら、きっと何とかしてくれる」

 

アズサはそう言い聞かせるように言うと、ゆっくりと立ち上がる。

そんな彼女の姿に、ソラは一抹の不安を覚える。

グラングと別れる時に感じたものと、同じ……

 

「……アズサさん、は?」

「私は、あの人のヘイローを壊してくる」

「!?」

 

告げられた言葉は、ソラの想像を遥かに上回るものだった。

 

ヘイローを、壊す。

 

それは、人を殺すことと同義。

死が程遠いキヴォトスにおいては、途方もない重さを持つ言葉だった。

呆然とするソラに向けて、アズサは言葉を続ける。

 

「そうすれば全部終わる。この混乱の何もかも。グラングだって助けられる」

 

……その表情に宿るのは、悲壮な決意。そして、何れかへの諦観。

最後に一つ。アズサはソラへ顔を合わせると、悲しげに微笑みかけた。

 

「……ソラ、海で一緒に遊んでくれてありがとう」

 

ただそれだけ言い残すと、アズサはソラに背を向ける。

 

行ってしまう……!

 

彼女の脳裏を、そんな言葉が駆け抜ける。

気が付けば、ソラはその背に向けて手を伸ばしていた。

 

「ま、待っ……」

 

呼び止めて、それでどうする?

 

「……!」

 

脳裏に響いたその言葉に、その手が止まる。

その間にも、アズサの背は霧の向こうへと消えてゆく。

……声をかければ、立ち止まってくれるかもしれない。 

けれど、立ち止まってくれたとして、それでどうする?

 

助けたい。

グラングを、助けに行きたい。

けれど今の自分では、どうやっても足手まといにしかならないだろう。

万全だったとしても、まともな戦力になるかどうか。

 

……何とか踏ん張っていた脚の力が抜けてゆく。

気が付けば、ソラはその場に膝をついていた。

 

「約束、したのに……グラングと一緒にいるって、一人ぼっちにしないって……!」

 

言葉が掠れる。

既にアズサの姿は見えない。

どこに向かったかすらもうわからない。

手の中に握りしめた聖印と、グラングの宝物の感触。けれど今は、それすら曖昧に感じられる。

 

「ぅ、ぅあ、ああ……っ」

 

嗚咽が零れる。

目元から溢れ出したものが、頬をぽろぽろと伝ってゆく。

 

今はただ自分の無力が、どこまでもどこまでも、憎い。

 

 

「やだ……グラング……ぁ、あぁああああっ」

 

 

誰もいないトリニティ市街。

その中で少女は、ただ一人泣き崩れることしか出来なかった。

 

 

…………………

 

 

 

…………

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

[……しようのない義弟だ]

「……ぅえ?」

 

 

声が、聞こえた。

聞いたこともない、大人びた女性の声。

ソラは思わず辺りを見回す。

けれど、自分以外の誰かがいる様子はない。

 

気のせいだったのだろうか?

 

ソラの脳裏に、そんな言葉が思い浮かぶ。

……けれどそれは、幻聴などではなかった。

 

[少女、私はここだ]

「こ、こ……?」

 

先程よりも幾分かはっきりとした声が、再び響き渡る。

それは、脳内に直接響いているようにも感じられた。

ソラはもう一度キョロキョロと辺りを見回す。

そしてその末、自分の手の中にあるもの……グラングから受け取った金色のタリスマンを、目の前に掲げた。

 

「お守りが、喋った……?」

[……お守り、か。まあ、それでもいい]

 

……返答があったことから察するに、どうやら正解だったらしい。

 

これが、グラングが大切にしていたものの、正体なのだろうか?

 

ソラの脳裏に過る疑問。

その疑問に応えるように、タリスマンの声は語る。

 

[私は残滓だ。所縁のものにこびりついた、ちっぽけな残滓。本来なら、こうして意志を持ち、語りかけるだけの力も持っていない筈だったのだがな……]

 

そこで一度、タリスマンの声が途切れた。

それはまるで、ソラの姿を……グラングが誰かの面影があるといったその顔立ちを確認しているかのようだった。

 

[……まあ、そうだな」

 

その末に、その声の主は言う。

 

[ある者に似せた偶像に、それと似た思念が宿るというだろう?私の場合、あれがお前に対して抱いた虚像に触発されたというべきか]

「?」

 

言い回しの悉くが難しい。

グラングも似たような言い回しをするが、それはあくまで付き合いが長いため、声色や雰囲気から何となく言いたいことをソラが察することができているに過ぎない。

結果として、声の主が言わんとしていることをソラはうまく咀嚼することはできなかった。

……とはいえ、声の主もあくまで余談に過ぎない話をしていたのだろう。

 

わからなくてもいいさ

 

ただそれだけ言うと、1つ息を付いた。

……そうして、核心的な言葉を、ソラに向けて投げかける。

 

 

[して。お前はあれを……グラングを救いたいのだろう?]

「……!!」

 

 

グラングを救う。

その言葉に、ソラは確かな反応を示した。

 

グラングを助けたい?そんなこと当たり前だ。

当たり前、だが……。

 

「……ぁ、でも」

[どうした?]

 

けれど、その意志は瞬く間に窄んでゆく。

問いかける声に、ソラはぽつぽつと、途切れ途切れの返答を言葉を口にする。

 

「私じゃ、ダメですよ。グラングのこと……助けられない」

[お前に力がないから?]

「……そう、ですよ」

 

……わかっているのではないか。

 

声の主の言葉に、ソラは自嘲気味に心内で呟いた。

そう、ヒナやアズサ……シャーレの当番に来る生徒達のようには、自分は到底戦えない。グラングが来てくれて、祈祷も教えてもらって。でも結局、後ろに隠れてるばっかりで……

 

「足、引っ張っちゃうだけですよ。私なんて、私、なんて……」

 

どうしようもない無力感。

それが、ソラの意識を蝕む。

 

一瞬で己を強くする手段があるならば、たとえそれがどんなものであろうと飛びつくだろう。

けれどそんなもの、現実にある筈も……

 

 

[では、武器があればいい]

「……え?」

 

 

ソラの口らから、一拍置いて呆けた声が溢れた。

お守りの声が発した言葉は、当たり前の事であるかのような、至極淡々としたものだった。

呆然とするソラに向けて、声の主はもう一度言う。

 

[お前が無力だというのなら、その実力を埋めるだけの武器が、手段があればいい]

「そ、そんなもの何処に……」

[ここにある]

 

そんな武器など、何処に?

その言葉に対する答えもまた、至極単純なもの。

 

……ここにある。

 

その[ここ]、が示すものというのが、グラングから手渡され、今まさに会話を交わしているタリスマンそのものであると気がつくのに、ソラはしばらくの時間を要した。

……これが、武器?

けれど、グラングがそのような使い方をしている場面は見たことがない。しかし声の主は、これが武器であるという。

 

[……全く、あれほど手酷く捨てたのだ。恨むか、いっそ忘れてしまえばいいものを後生大事に……]

「あ、あの……?」

[なんでもない。独り言だ]

 

声の主は何事か呟いていたようだったが、生憎、ソラはそれを聞き取ることはできなかった。

声の主は何か考えているのか、しばらくの間黙りこくっていた。

そしてその末、提案を一つ。

 

[……そうだな、銃とかいうものを1つ。お前が使いやすいものでいい]

「銃、ですか……?」

 

銃……どういうことかは今一よくわからないが、一先ずそれを使うには銃がいるらしい。

しかしながら、元々持っていた銃は瓦礫に埋まった拍子に壊れてしまった。かといって、キヴォトスでは殆ど人気のない、要所豆鉄砲と言われるレベルで反動の小さい拳銃程度しか、自分がまともに扱える銃はなく……と、

 

「……あ」

 

その時、ソラの視界の端に、通りに立つ1つの店が目に入った。

……トリニティ地区の有名なガンショップ。

 

あそこならば、或いは……

 

ソラはよろめきながらも立ち上がると、誰もいないその店へと向かった。

 

 

………

 

 

結論から言うと、ソラが探していた目当ての銃は案外直ぐに見つかった。余程人気がなかったのか、入口近くの半額セール対処の棚に置かれていた。

それに加えて持てるだけの銃弾、そしてサプレッサーも拝借する。使ったことはないが、着けていて損はないだろう……多分。

……因みに、いつか見たアニメのように代金をカウンターに置いていければ良かったのだが、銀行でカードを作り直さないことには払えそうにない。

 

「……あとで、必ずお金、払いますから」

 

その事に罪悪感を覚えつつも、ソラは店を出る。

そうした所で、再び声の主が話しかけてきた。

 

[よし、用意できたな]

 

そう言うタリスマンは今、同じく店で拝借した包装用の紐で、首から下げられていた。

……手に持ったままだと、いつ落としてしまうか分かったものではない。

そんな中で、それは言葉を続ける。

 

[後は私がこれの砲弾に、私に宿る力を一時的に乗せてやる。それで十分だろう]

「宿る、力……?」

 

声の主が言うには、銃はあくまで出力の手段であると。

ソラの力を戦うまで押し上げるものは、タリスマンに宿っている力であるという。

先ず思い浮かんだのは、グラングのように素早く動けるようになる力……けれど、グラングのあれは、当人自身の身体能力にしか見えない。それに、声の主の言い方から察するにそのようなものとは違う気がする。

 

もっと、恐ろしげな、何か。

 

……ソラは、声の主に問いかける。

 

「グラングのお守り、さん……いったい、あなたには何が宿ってるん、ですか?」

[何、か。簡単なことだ]

 

その言葉に、やはり声の主は当たり前の事の様にそれを告げる。

それが宿っていることが、道理であると嘯く。

 

 

[死だ]

 

 

……それは、キヴォトスにおいて。余りにも異質な言葉であった。

 

_____________

 

 

上記の出来事から数時間後、トリニティ総合学園。

 

現在の臨時非常事態対応本部にて……

 

 

「先生が無事に戻ってきてくださって、本当に安心しました」

 

 

乱れた調度品。あちらこちらに散らばる書類、取り合えずどこかから持ってきたと思しき無数の通信機器。

エデン条約襲撃事件の混乱を如実に表す光景がそこには広がっているものの、そこで各種対応に当たる生徒たちは、ひとまずの落ち着きを見せていた。

そんな少女らの中に交じって、タブレットのような機器で作業を行っていた先生。

その背後から、声がかかった。

 

先生が視線を向けると、そこには桃色の髪の少女が一人立っていた。

 

「一先ず、トリニティ内部の混乱は収束しつつあります。ゲヘナとの協力もある程度目処がつきました。それもこれも……」

「"買いかぶり過ぎだよハナコ。私はただ、皆の所にちょっと顔を出しに行っただけだから。他の諸々のことはかなり頼らせてもらったし……"」

「……ふふふ、そのちょっとだけで、此程の効果があったんですよ?」

 

謙遜をする先生に、ハナコはそういって柔らかに微笑む。

けれどそれも少しの間の事。彼女はすぐに、表情をごく真面目なものへと切り替えた。

 

「それはともかく、アリウスに対する攻撃態勢は整いつつあります。ただ、問題を上げるとするなら……」

「"こちらの主戦力の損耗も大きい、だね"」

「……はい」

 

先生の言葉にハナコは頷くと、先の攻撃で受けた被害の報告を始めた。

 

「正義実現委員会、ゲヘナ風紀委員会共に、先制攻撃で大半の戦力を喪失。有数の戦力であるツルギさん、ハスミさん、ヒナさんも負傷で動けずにいる状況です。その状況で無尽蔵な戦力を有するユスティナ聖徒会を相手にするのは、正直難しいです」

 

そこでハナコは一度言葉を区切る。

そうして一拍の間を置くと、結論を告げた。

 

「戦力が完全に整うまでは、恐らく明日まではかかるかと」

「"うん、わかったよ"」

 

しかし先生は、ハナコの言葉にただしっかりと頷く。

……正直なところ、明日の時点で戦力が回復しきるめどが立っている所が流石キヴォトス屈指の戦力と言うべきか。

 

「"じゃあ後のことは私が引き継ぐから、今は休んで"」

「……あらあら、でしたら先生も一緒に、良ければ一緒のベッドで……」

 

先生が来て、ある程度心理的な余裕が生まれたからだろうか。

ハナコが冗談めかしてそんなことを口にする。

とはいえ、流石にまだそんな場合ではないと思ったのか、

そう言うわけにもいきませんね……と、改めた。

 

……その時、

 

 

連絡

 

 

ハナコのスマホと、先生のタブレットに同時に通知が届く。

……非常時のため臨時に開設した連絡用のグループチャット。

そのメンバーの中でも、要救助者の捜索に当たっているゲヘナの救急医学部からの連絡のようだった。

添付されていたのは、発見された生徒たちの名簿。

周囲では、その名簿を見ていた生徒たちが知り合いの名前を見て安堵を溢す中、

ハナコと先生の表情は曇ってゆく。

 

「……アズサちゃん、見つかってないみたいです。先生のお知り合いも」

「"……うん"」

 

ハナコの言葉に、先生はゆっくりと頷いた。

 

恐らく、今のこの状況に最も動揺しているであろうアズサ。

そして、先生が学園まで無事に退避する大きな一役を担ってくれたグラング、彼女が救い出せたと思しきソラの姿は、今だ見つかっていない。

一度戦力を引いて準備をしているのは相手も同じなのか、各地での戦闘は極散発的なものとなっている。その隙に負傷者の回収、捜索が行われているのであるが、その中に彼女らの姿はあったという報告は入っていない。

最後に分かれたあの場所にも、ただグラングの発動した祈祷の痕跡が色濃く残るのみ。

 

グラングのことだ。もしかすると、既にエンジェル24に戻っているのかもしれない。

……今はそう、信じるしかなかった。

 

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