ルドルフ
「どうなんの?」
マグ
「それ言ったらネタバレになるじゃん」
マグとルドルフの絡みも面白くて好きなんですよね。あのテンポ感は二人にしか出せない。
と、長話は置いておいて。拙作ではありますが、ぜひ読んでいただければ幸いです。
/1
関東某所——プロダクション体育館事務所だった。n度目の睡眠をキめ、起き上がってきたマグは、一瞬我が目を疑った。
その理由は、今目の前に立っている赤鼻のシロクマ型のケモノ……ルドルフの手元にあった。
コーヒーカップが、浮いている。マグは一瞬、『上から糸でも吊るしてるでしょ』と考えたが、糸らしきものは見えないので、無情にもその予想は打ち砕かれた。
「お、おはようマグっぺ!」
マグの困惑なんて気にもせずに、ルドルフはいつもの調子で挨拶をする。普段ならゆるく挨拶を返すところだが、それよりも突っ込むべきところがある。だから——
「いや、どういうこと!!????」
普段よりも大きな声で、挨拶がわりに叫んでみた。
/2
「……で、物が浮かせることができたってワケ」
(何もわからないんだけど……?)
マグはオレンジジュースを喉に流しつつ、ルドルフの話を聴いていた。結論から言うと、やはり何もわからない。これまでのルドルフの話を要約すると、こうだ。
『朝起きたらできるようになってた』
『物体が浮く速さと落ちる速さを操作できる』
『けどなんでこうなったかはわからない』
『すごいでしょマグ』
と、ルドルフも原因についてはわかっていないようだ。不明は多いが、それはそれとしてマグは、ルドルフの『超能力』に興味が湧いている。某電磁砲や某アカデミアで出てくる能力者が、そのまま現実に出力されてきたようなものだからだ。
「それって、重いものも浮かせられんの?」
マグは興味本位で訊いてみる。
「ん〜どうだろ。わかんないけど、試してみる? 冷蔵庫とかもいけるんじゃない!?」
ウキウキを隠すつもりをないのか、ノリノリでルドルフはマグの興味に乗ってきた。
——というわけで、マグとルドルフは事務所の冷蔵庫の前へ移動した。
「やっぱ重いものって言ったら冷蔵庫でしょ!」
「冷蔵庫は無理じゃない? あと中のモノ散らかったりしない?」
「大丈夫でしょ!」
「こいつ……」
ルドルフの猪突猛進さに、マグは頭を抱えそうになった。が、提案したのは元々マグだ。責めるのはお門違い……なんて考える。
「じゃやるから、ルーのことちゃんと見ててよ!」
「おう」
「いくよ。3,2,1……」
ルドルフは手で数字を作りながらカウントダウンする。
(カウント式なんだ……)
「ゼロ!」
カウントダウン終了と共に、ルドルフは思いっきり右手を振り上げる。すると、それと呼応するように——冷蔵庫が浮いた。
「え、マジで浮いてるじゃん!?」
これにはさすがに驚きを隠せない。冷蔵庫をそんな易々と浮かしてしまうとか。マグは頬をつねってみる。
(痛い。夢じゃないの?)
再確認。どうやらこれは現実らしい。
「ほらみてマグ! すごくない!? 冷蔵庫浮いてるんだよ!?」
ルドルフもルドルフでテンションが上がっている。いやまぁ確かに、超能力は男のロマンだ。マグには、ルドルフがはしゃぐことも理解できる。
「ルドルフほんとに超能力者になっちゃったんだ……」
驚き半分、これからどうしようの不安半分。モヤモヤを抱えながらも、マグははしゃぐルドルフを見守ることにした。
/3
超能力には、往々として活用例がたくさん存在する。例え単純な能力でも、使い手次第で如何様にも化ける。
……例として、ルドルフの『物を浮かせる能力』はケモノにも作用させることができる。
——そして、今二人は、都内の遥か上空にいた。マグとルドルフの足元には、東京都の街並みが広がっている。スカイツリーよりも高い高度。超能力がなければおよそ楽しむことができないであろう景色を、二人は満喫していた。
(スカイツリーよりも高い場所に来てしまった……)
マグはスカイツリーを見下ろしながら、そんなことを考える。
「すっごいね超能力って! 浮遊サイコー!」
ルドルフは相変わらずはしゃいでいる。この状況を一番楽しんでいるんじゃないか? ……とはいえ、せっかくこんな場所に来て黙っているだけでは勿体無い。そう考えたマグは、ルドルフに話を振ることにした。
「そういえば、ネムスとはどうなの?」
「ネムスとはね〜、最近一緒にダンスの練習してるの」
「ダンスの練習か〜。なんて曲で踊るの?」
「それね〜、僕知らなかったんだけど、ネムスが勧めてくれてさ。『思い出をかけぬけて』って曲」
「『思い出をかけぬけて』? 知らない曲だな……」
「そ! 聴いてみる?」
ルドルフは徐ろにスマホを取り出し、イヤホンの片っ端をマグに差し出す。マグはそれを受け取って、左耳にはめる。
すると少し大きめの音で、音楽が流れてきた。マグはその音楽を聴いて、あるケモノのことを思い出す。
「そういえば、ろっ太元気にしてんのかな」
ろっ太。プロダクション体育館最初のユニット『PRIME』に所属していたケモノの名前。つい最近、諸事情で脱退することになったのだが……。
「元気にしてるんじゃない? 活動は続けるって言ってたし。体育館からはいなくなるかも知れないけど、この世界からいなくなるワケじゃないんだしさ」
「それはそうだけど……やっぱりメンバーがいなくなると、悲しいなぁ」
「だね。一緒にいろいろやってきた『仲間』だし」
大事な何かが欠けて……もう戻らない気がして寂しい。マグの目に、哀愁が映る。
「けどさ」
マグがルドルフの方へ目を向ける。さっきとは違って、声に活気がこもっている。
「きっとまた会えるよ!」
ルドルフのセリフと、イヤホンから流れてくる音楽が重なる。
ルドルフの言葉を受けて、マグは考える。あの日、ろっ太が僕たちに言ったのはさよならじゃない気がする。『きっとまあ会おうね』……そんな約束だった気がしてきて。マグは少しだけ、笑みをこぼす。
「ん、どうしたのマグ?」
「いや、なんでも」
元々欠けてなんてなかったんだと——その安心からきた笑みだったことは、口にはしなかった。
「それよりオレお腹空いてきた。昼飯食べたい」
「そっか! もうそんな時間!? あんまりお腹空いちゃうとピリピリしちゃうよね!?」
「言わなくていいってそれ……」
「ちなみに何食べたいとかあるの?」
「ラーメン」
「不健康!」
「現状は健康だよ」
「将来的には?」
「考えないようにしてる」
「ダメじゃん!」
そんな掛け合いをしばらく続けながら、二人は某所のラーメン屋さんで昼食を済ませるのだった。
/4
その日の夜。マグはというと、n度目の睡眠をキめていた。熟睡中のマグの元へ、ダダダダダッ! と足音を立てながら走っていくケモノが一人。
そして、マグの自室の扉が開かれる——
「マグ〜〜!! 聴いて〜〜〜っ!!」
足音の主は当然、赤鼻シロクマのルドルフだった。大きな声だったので、反射的にマグは飛び起きる。
「なに、どうしたの!?」
「超能力使えなくなっちゃった!!」
「えっ、そうなの?」
ルドルフの言葉に、マグはショックを受ける。超能力という男のロマンが失われたなんて、信じられない。
——と、確認のためにマグはルドルフと一緒にテーブルへと向かった。今朝軽々しく浮かせられたコップも、もはやテーブルとくっついているかのように離れない。
もちろん冷蔵庫も浮かせることはできない。
「ルー、もう少し超能力で遊びたかったなぁ」
ルドルフの気分は見るからに落ち込んでいる。多分一番テンションが上がっていただろうし。
「まぁ、いい思い出になったんじゃない?」
正直オレも能力で遊びたかった……と言う気持ちは抑えつつ、マグはルドルフを宥める。「オレンジジュースでも飲もうぜ」と、マグは冷蔵庫を開ける。
「あ」
開けると、中のモノが雪崩のように落ちてきた。
「ルドルフーーー!!!!」
食材や調味料に溺れながら、マグは叫ぶ。その後、ちょうどよく帰ってきたあお丸Pにお叱りを受けたことは言うまでもない。
マグ
「だからオレ言ったじゃん! 中のモノ大丈夫? って!」
ルドルフ
「ごめんなさい……ペコリ」