1-1 (初回)
―1―
古の神イシュタム
死を司る死神なり
人が宇宙で生計をなしても
その神話消ゆることなし
何故なら兵士を
ヤチュシャへ連れてゆくから也
いつの世も人が居る所
戦火が絶えた事なし
宇宙の中心たる
ヤチュシャの樹
その両翼は蒼き葉を繁らせ
戦士の御霊を宿らせる
その幹は虚ろにして
輪廻の人々の安らぎの場なり
ヤチュシャの虚ろにて
しばしの休息を持つ御霊
勇者に存外あり
海 宇宙よりも
深き業を持ちたる
ひときわ暗く
また 眩しき也
古き神 イシュタム
かの御霊と
鋼の剣を交えり
業たるもの
御霊の癖なり
自らの力で
血の気付きまで
女神戦われり
古き神 イシュタム
ただの一度
戦士の御霊を見逃さん
人の業
魂ゆさぶりて
死神の笑みを生む
その時 イシュタム
女神たらん
(U.C 0075~0076年 Dr.リナ・チノミ訳)
―2―
アマテラス・コロニーの居住区は静まり返っていた。
人が住む場所は様々な音が重なり、それが雑音という音楽になるのが筋であるはずだ。それなのに今のアマテラス・コロニーは驚くくらい静かだ。
『公園を利用する皆様へ。この公園は有事の際には避難所として使えるように作られています。公園を綺麗に使うことは自分の身を守ることでもあります。公園を綺麗に使いましょう』
そのような注意書きが書かれた看板が車道に吹き飛ばされ、車道に堂々と横たわっていた。
看板を避けるようにパトロールカーが公園内に入っていく。
その様子を見ていた警察官のマヴが急いで看板を持ち上げて歩道の邪魔にならない場所へと置きなおす。
公園の出入り口には立ち入り禁止になっており、その周囲を警察官が警邏し、アマテラス・コロニーの防衛隊から派遣された若手の将校達が警察官達と共に公園内を捜索している。
そんな光景をシュウジは遠巻きに眺めていた。
U.C.0085年10月24日、密閉式コロニー特有の中心部にある太陽の代替品の人工の光をシュウジは浴びる。
少し離れたところではシェルターから解放された避難者が各々帰路に着こうと歩き始め、エレカの駆動音が聞こえてくる。
数時間前に非常事態宣言が解除されたばかりで誰も現実味を感じていないような顔をしている。
シュウジは顔を上げる。
頭の上、遠くにある大地はつい先ほどまで大穴が開いていたが、応急修理材と防衛隊のモビルスーツの活躍で穴は完全に塞がっていた。
完全に塞がった穴の周囲をコロニー公社のモビルスーツが巡回し、穴の近くに設営されたレールの上を資材を乗せた貨物車が走っている。
アマテラス・コロニーのようにジオン公国に所属する密閉型コロニーにはレールを糸目のように設置されており、その上を走る電動機関車は平時であれば人員、貨物の輸送に使われている。
ジオン公国以外の各サイドが採用している開放型コロニーでは密閉型コロニーとは違って集光ミラーの光を入れる「河」があるため、密閉型のようにびっしりとしたレールの設置は出来ない。
シュウジが立っている場所の近くにもレールは敷設されており、侵入防止のために柵が設置されている。
柵に背を向けながらシュウジは再び、公園の方に目を向ける。
シュウジが見渡すと周囲は廃墟と瓦礫が四散していた。
ビル街のガラスは割られてアスファルトに叩きつけられ、コンクリートの破片が道路をでこぼこに作り直していた。
近くにあるコンビニエンスストアのクリスマスケーキの幕が塵まみれになっていた。
公園に植樹された木々も折れるか吹き飛ぶなりしており、綺麗に整った姿は見る影もない。
道路沿いに設けられた花壇の土は捲れ上がり、その近くにあった植木鉢は花ごと土が覆いかぶさっており、花々は見る影もない。
荒れ果てた花壇と植木鉢の花々だったが、シュウジはその中でも大きな枝を生やした白い花を見つけた。
土にまみれたその白い花にシュウジは見覚えがあった。
「ゲッコウビジン…」
「花言葉は儚い恋、あでやかな美人」
突然、ねっとりとした声がシュウジの耳元で囁く。
びくっとなりながらもシュウジは後ろを振り返る。
シュウジの後ろには虹色のマイクロビキニを着た女が腕組みをしながら微笑みを浮かべていた。
微笑みを崩さないまま、虹色の水着の女は花壇へと足を運ぶ。
「久しぶりね、橋の下で会った時以来かしら」
そう言いながら虹色の水着の女はシュウジが見ていたゲッコウビジンを手に取る。
シュウジは答えずに上着のポケットに入れている端末に手を伸ばそうとする。
「いくら吹き飛ばされても、僕らはまた花を植えるよって言ってた本人が花を吹き飛ばすなんて」
虹色の水着の女はゲッコウビジンを手に取る。
ゲッコウビジンは根本から折れており、折れた枝が辛うじて土から顔を出しているだけだった。
「…あの羽の生えたガンダム、お姉さんの仲間?」
シュウジが立っていた場所はほんの数時間前まで戦場だった。
この場所でシュウジの盟友とモビルスーツが格闘戦を繰り広げていた。
格闘戦の結果がこの有様だ。
「逆、私たちの本業はああいうのをこの宇宙から消すことなのだから」
「お姉さんはナガラ衆、ジョンの言ってた通り…」
盟友がかつて話していたことを思い出し、シュウジは顔を眉間に眉を顰める。
シュウジの目の前にいる女はその服装を除いても普通の人間ではない。
常人じゃない人間の集まりである「ナガラ衆」に盟友と自身を含めた周囲が散々振り回されてきたことをシュウジは身に染みるくらいよく知っている。
目の前にいる虹色の水着の女はシュウジにとって敵でしかない。
「ジョンをどこへ連れて行った?」
羽の生えたモビルスーツとの戦いを終えた盟友はその直後に姿を消してしまった。戦いの一部始終をシェルターのディスプレイに映るカメラの映像を介して見守っていたシュウジだが、盟友のその後は知らない。
画角の限られたカメラの映像は盟友の全てを映していないのだ。
「教えてあげるわ。まずはポケットから手を出すことね」
虹色の水着の女がそういうと、その手に持っていたゲッコウビジンの姿が変わった。
ゲッコウビジンが見る見るうちにブルパップのアサルトライフルへと姿を変えた。
虹色の水着の女が手に持っているものはM72A1、地球連邦軍が制式採用しているアサルトライフルだ。
手品のような光景にシュウジは思わず目を疑った。
「何も驚くことはないでしょう」
微笑みながら虹色の水着の女は片手に持ったM72A1の銃口をシュウジヘ向ける。
「スマホから手を離しなさい。シュウジ・イトウ」
ー3ー
U.C 0085年10月23日、ジオン公国の農耕コロニーの一基であるファームバンチ/アマテラス(通称:アマテラス・コロニー)内部で2機のモビルスーツによる戦闘が発生した。
巨人同士がコロニー内で取っ組み合いをした結果、大勢の負傷者と周囲に甚大を残して両機ともロストする被害を生み出してしまった。
更に戦闘の直後、ジオン公国軍に傷口に塩を塗るような事件が発生してしまう。
アマテラス・コロニーの宙域をたまたま航行していた強襲揚陸艦ソドンから防衛隊の支援のために出撃した最新鋭モビルスーツ、gMs-α「GQuuuuuuX」が消息を絶ってしまったのだ。
GQuuuuuuXはパイロットであるエグザベ・オリベ少尉をコックピットから追い出した後、自律行動を始め、2機のモビルスーツが開けた大穴から宇宙へと飛び出してしまったのだ。
ジオン公国は消息を絶ったGQuuuuuuXとロストした2機の追跡を始めるも、一晩経ってもその足取りを掴めずにいた。
大混乱となったアマテラス・コロニーの一夜をどうにか生き延びだ人々はシェルターから出た後に各々の生活に戻ろうとしていた。
一年戦争以来の非常事態宣言のおかげか、人命が失われるようなことは無かったが、それでも日常が戻るのは遠くなるような気配がコロニー内に滲みでていた。
そして2機の戦闘に巻き込まれたのはなにもアマテラス・コロニーの住民だけではない。
同日、巨人同士の戦いに居合わせてしまった他サイドの人達がいた。
「…分かったわ。早く戻ってきて頂戴」
端末の通話を終えてシイコはベッドの上に顔を向ける。
「おっちゃん、シュウジ君を連れてこっちに来るみたい。レールランナーを防衛隊が貸してくれるみたい…って」
ベッドの上には毛布を被ったニャアンが眠っていた。
つい先ほどまでは死んだような表情で部屋の窓を眺めていたが、疲れて眠ってしまったようだ。
だが、その眠りは安らかとは言いがたい。
ニャアンの寝顔は明らかに苦悶の表情を浮かべていた。
その様子をペットロボットであるコンチが心配そうにしながら、少しでも寝やすくするためにニャアンの枕の角度を変える。
「……ジャックぅぅぅ……私と……セックスしよ……」
呪詛のような寝言をニャアンはぶつぶつと呟く。
シイコは腕に抱いた坊やを撫でながらベッドサイドに座る。
ここが一介のビジネスホテルであることを考えれば特上といって良い寝心地を保証してからはマットレスだが、ニャアンには通じていない。
「ニャアンちゃんはどんな夢を見てるのかしら…」
シイコの言葉には何の感情も篭っていない。
静かにニャアンの寝姿を見つめていた。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ