宮野志保に幼馴染を用意してみた 作:コ哀推進派委員会
感想についても読ませて頂いております、ありがとうございます。
失踪したわけではありません、ストックがなくなっただけです(←それもアカンやろ)
「いらっしゃいませ。」
木製の扉が開き、常連の高木刑事が顔を見せる。バー『ジェームズ』の柔らかな照明の下、その表情は珍しく明るかった。
「バーテンダーさん、ご無沙汰してます!」
いつもなら仕事の疲れを引きずった仏頂面でカウンターに腰掛ける男が、今日はまるで別人のようだった。顔全体が喜びに満ちている。こちらから尋ねるまでもない。何かいいことがあったのだろう。
「来週の日曜日、この前ご一緒した佐藤さんと、またお邪魔しますね」
「ああ、なるほど。デート、ですね」
軽く微笑んで、いつもの酒を出す。高木さんはそれを一息で飲み干すと、ご機嫌な様子でグラスを差し出した。
「おかわり、もらってもいいですか?」
――ちょっとペース早すぎじゃないか?と心配になりながら、2杯目を注ぐ。
「やっぱりデートですよね!女性と二人で遊園地なんて、もう浮かれすぎですよ!」
気が緩みきった顔に思わず笑いが漏れる。だが、その幸せそうな様子は、こちらの気分まで明るくしてくれる。
「浮かれすぎて、来週までにヘマしてデート中止とか……ならないでくださいよ」
「そ、そんなことしませんよっ!」
グラスの中の酒をまた一気に流し込む。だからその飲み方が危ないって……。
「ところで、バーテンダーさんはどうなんですか?僕と違って余裕ありそうだし、モテるでしょ?浮いた話も多いんじゃないですか?」
「とんでもない。僕は、ずっと片想い中ですよ」
「え!?バーテンダーさんに好きな人、いるんですか!?」
ふと、脳裏に浮かぶ面影がある。赤みがかった茶髪。真っ白な白衣。そして……小さな体を赤いフードで包み、何かに怯えたように震えていた少女の姿。
どうしてだろう。志保ちゃんの記憶と、あの彼女の姿が重なる。
「バーテンダーさん?黙って逃げようとしても、僕は許しませんよっ!」
唐突に高木さんがグラスをテーブルに打ちつけた。ちょっと酔いが回ってきたようだ。
「逃げてるわけじゃないですよ。ただ……少し、傷心中というか」
「へぇ、なんでですか?」
「その子とは、子供の頃からの知り合いでね。でも、最近彼女のそばに――別の男の影が見えてしまって」
「バーテンダーさんぐらいイケメンでも振られること、あるんですね……しかも幼なじみに!」
「やっぱりフラれたんですか!?幼なじみでそんなに長い時間一緒にいて、今さら別の男を?」
「……な、なんだと……」
思わず、手にしていた洗いかけのグラスを落としそうになる。いや、落ちたかもしれない。動揺するこちらを前に、高木さんがあれこれフォローを入れてくれた気がするが、まるで耳に入ってこなかった。
気を取り直して、大きく一つ咳払いをする。いつもの自分に戻ったつもりで、言葉を紡いだ。
「ま、とにかく。高木さんのデートがうまくいくことを願ってます。くれぐれも厄介な事件に巻き込まれて、休日返上――なんてことにならないように」
「あはは、そんな縁起でもないこと言わないでくださいよ」
ーーーーーー
買い出しのついでに街に出た――たったそれだけのはずだった。
ところが、まさか爆破テロに巻き込まれかけるとは。冗談のような話だが、この街ではそれが現実になる。
爆発音の余韻がまだ耳に残る中、視界の先で倒れている男を見つける。血まみれで地面に崩れ落ちているのは、白鳥刑事だった。右の側頭部からは鮮血が流れ、左手足の反応が鈍い。微かに震える指先だけが、まだ彼の命がつながっている証だ。
――右側頭部の損傷、左の手足の麻痺。
考えるまでもない。急性硬膜下血腫。放置すれば死に至る、即時手術が必要な状態。
白鳥刑事は目暮警部とともに、何度もうちの店を訪れてくれた大切な常連客だ。ここで失うわけにはいかない。
迷わずスマートフォンを取り出し、救急車を呼ぶ。
「白鳥くんっ!!」
呼吸を乱しながら駆けつけてきたのは、高木刑事、佐藤刑事――そして、コナンくん。やはりというか、案の定というか……高木さん、あれほど言ったのに。見事に事件に巻き込まれている。
白鳥さんは震える手でポケットから一枚の紙を取り出し、佐藤刑事へと手渡す。佐藤刑事がその内容を読んだ瞬間、表情が鋭く引き締まった。どうやら、ただの負傷ではなさそうだ。犯人からのメッセージか、あるいは――。
「ねぇ、マスターさん、何してるの?」
不意に、背後から声をかけられた。顔よりも低い位置から聞こえるその声には、どこか芝居がかった幼さが混じっている。
振り返ると、案の定、貼りつけたような笑顔を浮かべた江戸川コナンが立っていた。
「あの救急車、呼んでくれたのマスターさんだよね?」
「……どうしてそう思うのかな?」
「僕の友達が見てたんだ。僕たちが白鳥刑事のところに着く前に、マスターさんが電話してたって」
「へぇ、そりゃ随分と目ざとい友達だ」
「うん。その友達、なんかマスターさんのことが気になるみたい」
「それって、例の赤ずきんちゃんのことかい?」
「そう。バスジャックのとき、助けてくれた子」
「……元気になった?」
「うん。マスターさんのおかげでね」
その瞬間、コナンくんの目が鋭くなる。先ほどまでの無邪気さは影を潜め、底知れない観察者の眼差しがこちらを貫いた。
「……それでね、その友達、マスターさんのことがとっても気になるみたいなんだよ。マスターさん、どこかで彼女と会ってたりしない?」
「うーん……どうだろう。会ったような気もするけど、まだちゃんと顔を見てないからね」
「ふーん……そっか」
この子は俺に探りを入れている――そう確信した。
まるで、俺が“組織”と関わりがあることを見透かされているような、嫌な感覚。
公安やFBIに追われ続けた日々の中で培われた勘が、目の前の少年に“同じ匂い”を感じ取っていた。
この少年……只者じゃない。
「ねぇ、マスターさん。犯人探し、手伝ってよ」
「は?」
「ほら、早くしないと佐藤刑事の車、出発しちゃうよ」
そう言って、俺の手を引きながら、彼は一気に車へと走り出す。
「コナン君と、バーテンダーさんっ!?」
「すいません、コナンくんに連れられて仕方なく……。」
「僕たちで、爆弾犯の暗号解くから。」
「それは私たち警察の仕事よ。あなた達は安全な場所に避難しなさい。」
「マスターさんと僕が協力したら暗号なんてすぐに解けるから、ね?」
いや、俺は協力するなんて一言も言ってないんだけど……。
ーーーーーー
「俺は剛球豪打のメジャーリーガーさあ延長戦の始まりだ……試合開始の合図は明日正午終了は午後3時……出来のいいストッパーを用意しても無駄だ……最後は俺が逆転する..…試合を中止したくば俺の元へ来い……血塗られたマウンドに貴様ら警察が登るのを鋼のバッターボックスで待っている……。」
暗号は、取り止めもない文章で構成されている。意味は繋がっていそうで繋がっていない、そんな支離滅裂な文章だ。
「延長線ということは……、3年前の事件で爆弾が仕掛けられたのは秋定町の大観覧車と米花中央病院、それらが面している道の延長線上で交差する場所にある駅が南杯戸駅。」
「なるほど、じゃあストッパーてのは踏切のことか。」
流石コナン君、ストッパーから即座に踏切を連想する推理力は確かなものだ。
最後の鋼のバッターボックスと、血塗られたマウンドに登る……つまり、
「「赤い車体の東都線の上り電車だ!!」」
コナン君と言葉が被りお互いに見合わせてしまう。
この、協力して謎を解く感じ、似ている。
工藤新一とカフェで一緒に事件の推理をしていた時の感覚に。
「南杯戸駅から東京へ向かう東都線の車内ね。今すぐ爆発物処理班に連絡するわっ!」
佐藤刑事の声がファミレスの駐車場に響く。
――結局、俺はまたしてもコナンくんに引きずられる形で爆弾犯の暗号解読に付き合わされている。
もっとも、暗号自体は複雑なものではなかった。三年前に起きた同一犯による犯行データが残っていたおかげで、傾向と手口を把握しやすかったのもある。
「……結局付き合っちゃってるけど、いいのかなぁ」
思わずため息を漏らす俺に、隣から声が飛ぶ。
「流石だね、マスター。僕が気づく前にどんどん解いちゃうし……本当は探偵だったりして?」
「やめてくれよ。俺はただのバーテンダーさ。今日はたまたま頭が冴えてるだけ」
軽くいなすように笑うと、ちょうど電話を終えた佐藤さんが戻ってきた。
「電車から見つかった爆弾……偽物だったわ」
ーーーーーー
その後も俺とコナンくんは、ひとつひとつ暗号を読み解き、想定される爆弾の設置場所を割り出していく。けれど、いくら回っても出てくるのはすべて偽物ばかり。本物の爆弾だけが、依然として見つからない。
そうこうするうちに、東の空が白み始める。予告された爆破時刻――正午まで、あと5時間。
警視庁との通信を続ける佐藤さんの声にも、次第に焦りと疲れがにじみ始めていた。
いったんファミレスの駐車場に車を止めて休憩することになり、別行動していた高木さんの車と合流する。
「……あれ?高木さんの車に、歩美ちゃんたちが乗ってる?」
「マスターこそ、どうして佐藤さんの車に?」
「俺は……コナンくんに連れられて、仕方なく」
「僕も気づいたら子供たちが後部座席にいて……仕方なく、です」
どこか他人とは思えない、自分と同じ“巻き込まれ体質”を感じて、つい高木さんに同情してしまう。
「とにかく!これ以上あの子たちを振り回すわけにはいかないわ。夜通し走り回って、ろくに寝てないんでしょう?」
佐藤さんがきっぱりと言い放ち、高木さんの車に目をやる。
「高木さんの車に、歩美ちゃんと元太くんと光彦くん……それに、もう一人女の子、いませんでしたか?」
「あぁ、いましたよ。妙に落ち着いた感じの子が……。えーっと……あれ、いないな?トイレにでも行ったかな」
高木さんが指差した先には、確かに少年探偵団のメンバーが眠そうな顔で朝食を取っていた。けれど、あの少女――“彼女”の姿だけが見えない。
どうやら、意地でも俺に会いたくないらしい。けれど、それだけ避けられると、ますます気になってしまう。あのバスの中で感じた、あの既視感の正体が。
「じゃあ私は捜査を続けるから、高木くんは子供たちを家に送り届けて。それが終わったら本庁へ戻って、目暮警部の手伝いをお願いね!」
「えっ、でも僕もこのまま……」
高木さんが未練たらたらに口を開くと、佐藤さんの鋭い指が、その鼻先をピシャリと突く。
「バカね。寝不足でふらついてる刑事なんて、現場じゃ足手まといになるだけよ!分かったわね?」
「……は、はい……」
高木さんが項垂れる。恋する男の弱みというか、佐藤さんの一言で完全に力関係が明白になってしまった。
かく言う俺も、人のことは言えないのだけれど。
佐藤さんが車のドアを開け、運転席に座る。だがその気迫に少し不安を覚えた俺は、無意識のうちに助手席へと乗り込んでいた。
「バーテンダーさん!? あなたも、もう帰っていいのよ。十分すぎるほど貢献してもらったし……」
「最後まで付き合いますよ。高木さんを危険な目に遭わせないためにもね」
「……バーテンダーさん、あなたには敵わないわね」
そうして俺は再び、爆弾の眠る東京の街へと、佐藤刑事と共に向かうのだった。