魔装融合士は黒き少女たちとダンジョン最深層を潜る ――異能装備で挑む“ダンジョン”の深淵――   作:藍紫

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1-12 特殊スキル:魔装融合

 

 俺の武器は剣でも魔法でもない。

 戦うために、俺はただ“魔法具を融合する”。

 装備を繋ぎ直し、命を守る力に変える。

 

 それこそが──俺の特殊スキル【魔装融合】だ。

 

 スキルとは、ハンターなら、誰もが持つ基本能力。

 炎魔法、身体強化、剣術など多種多様だが、同じスキルを持つ者は数多い。

 

 だが、「特殊スキル」は違う。

 発現条件は謎に包まれ、選ばれた者にしか授からない。

 唯一無二の力。

 誠司のスキルは、その希少例だった。

 

 

 

 土曜日の午後、俺は地下の保管整備室へと降りた。  

 ここは俺の私室も兼ねた整備スペースで、戦闘に必要な装備──武具や魔法具の点検には最適の場所だ。  

 床には静音の防振マットが敷かれ、壁には複数のラック。そこに並ぶのは、ダンジョンで得た素材と、いくつもの装備たち。

 いろはも当然のようについてきて、いつもの椅子に座り、本を読んでいる。

 

 整備台に置かれているのは、俺の愛用銃。

 魔法具名はアクアバレット、通称──『水鉄砲』。

 名づけた当時のイメージが子供のころに遊んだ水鉄砲そのものだったからだな。

 

 水属性に特化した中距離型の魔法銃で、Bランク魔法具ながらも安定した威力と精度を兼ね備えた一挺だ。  

 小型自動拳銃のようなフォルムは、瞬時の抜き撃ちにも対応できるように設計されている。

 

 だが──そのままでは終わらない。

 俺には、他のハンターにはない特殊スキルがある。

 

 ──特殊スキル【魔装融合《ギア・ユナイト》】。

 

 このスキルを持つハンターは、現状、世界に俺一人しかいない。  

 魔法具の本質に干渉できる能力は、【魔装融合】だけだ。

 

 通常、魔法具はダンジョンで得られる完成品か、あるいは【魔法具製造】や【魔法具製作】といった通常のスキルで造られるものだ。

 整備や修理はできても、内部構造に手を加えたり、性能そのものを改変したりすることは、基本的にできない。

 だが、俺のスキルはそこに干渉できる。  

 他の魔法具や魔力石、素材等を装備の核と魔術構造に融合させ、性能を根本から再構築する。

 

 当然、リスクもある。  

 一つ目は、融合に失敗すれば装備そのものが崩壊という、根本的な破損リスク。  

 二つ目は、素材同士の相性が悪いと、融合自体は成立しても、逆に性能が落ちた劣化品になる恐れがあること。  

 そして三つ目。高ランクの魔法具を融合すればするほど、スキルへの負荷が大きくなり、次の魔装融合が可能になるまでに時間を置かねばならない。

 

 しかし、それでも──

 

「……Bランク程度なら、失敗することはない」

 

 誠司は棚から、Bランク魔力石を五つと水魔鋼という水属性の魔力が込められた鉱物を一つを取り出す。

 そして、整備台の上に並べたアクアバレットの周りを囲うように置いた。

 

「──特殊スキル発動。【魔装融合《ギア・ユナイト》】」

 

 静かな呟きとともに、指先から淡い青光が放たれる。  

 魔力の糸が銃と素材を包み込んだ瞬間、かすかに空間が歪んだ。

 融合工程は、感覚に近い。  

 魔力の流れを読み、接合点を探し出し、魔術構造がぶつかり合わないように圧を調整する。銃が軋み、魔力石がわずかに揺らめく。

 冷却機構に一つ、発射補助に一つ、圧縮部に三つ、水魔鋼は全体に浸透。

 全てが適切に重なったとき、銃身の水晶装飾が淡い光を放ち、反応が安定した。

 

「……よし」

 

 アクアバレットから、静かに光が消えていく。外見はほとんど変わっていない。

 だが、内部には新たな魔力回路が形成されている。

 最大射程の向上。

 発射時の魔力損失の低減。

 装填後のチャージ時間の短縮。

 どれも、ランクC+としての誠司の実戦において、決定的な差を生む改良だった。

 

 重ねた魔力石は、一般サラリーマンの年収に相当する。

 ただ、組み合わせ融合する──それだけで装備の性能はまるで変わる。

(……俺のスキルは、派手じゃない。だけど、確実に──力になる)

 そう心の中で呟き、アクアバレットをホルスターに収めた。

 俺の準備は整った。

 

 彼女が本を読みながら、時折こちらを見ていることに、気づいてはいた。

 だが、そのことについては、あえて触れなかった。

 いろはがどんな思いでページをめくっているのか、それを邪魔したくなかった。

 

 ──それが、彼女の居場所の一つであることを、俺は知っている。

 けれど。

 

「いろは。……ブレスレットを貸してくれ。魔法具の確認と、魔力の充填をしておこう」

 

 その言葉に、読んでいた本が静かに閉じられる音がした。椅子を引く音、足音。ゆっくりと近づいてくる。

 

「……はい……誠司様」

 

 無機質とも思えるその声に、わずかな温度が宿っていた。

 

 

 

 いろはの左手に常に着けている銀のブレスレット。

 それは──俺が特殊スキル【魔装融合】を使用して与えた渾身の一品にして彼女専用の

 防御魔法具──護魂の腕環《ソウルガーディリア》。

 

 細身の作りで、表面には蔓草と鈴蘭の彫刻──三つの宝珠がはめ込まれている。

 赤は物理、青は魔法、紫は精神。攻撃の種類に応じて、それぞれの宝珠が防御機能を発揮する。

 三つすべての宝珠に魔力が満充填のときに限り、一度だけ──即死級の一撃すら無効化する。

 代わりに、内部の魔力はすべて失われて空になるが、それでも命が残るなら安いものだという設計思想だ。

 

 これは、俺が以前、初めていろはに渡した魔法具だ。

 Aランク相当のミスリルブレスレット、物理防御具、魔法防御具、精神防御具──それら四つの魔法具を素材に、【魔装融合】で仕上げたものだ。

 

 ──あの時。

 いろはが初めてダンジョンに挑むと言ったとき、俺が何より優先したのは、彼女のことを“守る”ことだった。

 どんな武器よりも、まず命を守る手段が必要だった。だからこそ、この腕輪を最初に作った。

 

 俺が彼女にできることは、戦う力じゃない。守るための装備を作ることだけだ。

 ……それでも、いろはがこうして今も無事でいるのなら。

 この腕輪には、十分すぎる価値があったはずだ。

 

 受け取った腕輪の表面は、ほとんど傷がない。

 外装を手入れしている形跡はなかったが、雑に扱った形跡もなかった。いろはなりに──大切にしてくれているのがわかる。

 視線を感じた。視界の端で、彼女がこちらを見ていた。

 

「さてと……魔力量は……やはり、紫の宝珠がだいぶ減ってるな」

 

 赤と青の宝珠は、九割以上の魔力を保っている。だが、精神防御に対応する紫の宝珠だけは、半分以下の容量まで落ち込んでいた。

 ──彼女の特殊スキルの使用による消耗だろう。やはり、あの魔法は、精神への負荷が大きい。

 

「……じゃあ、魔力を充填するか」

 

 魔法具に魔力がなければ、起動すらできない。

 

 魔力の充填方法は三つある。

 ハンター自身の魔力を注ぐ、魔力石を使う、そして──俺だけが使える三つ目の方法。

 魔装融合による魔力融合充填。

 

 魔法具と魔力石を直接融合させ、100%効率で魔力を転送し、同時に強化まで可能にする。  

 ただし、融合に失敗すれば魔法具が劣化し、魔力石も一発で消滅する。

 それでも俺には見える。

 素材の相性、成功率。

 感覚的な読みが立つ。

 

 加えて、この腕輪は俺自身が融合したもの。

 追加融合の成功率は格段に高い。

 

「……赤と青にはDランクの魔力石を。紫にはBランクを使うか……」

 

 小さく息を整え、魔力石を取り出す。

 

 ──スキル発動。【魔装融合《ギア・ユナイト》】

 

 手のひらから放たれた微かな光が魔力石に触れた瞬間、淡い輝きが奔り、宝珠へと吸い込まれていく。

 赤、青、紫。それぞれが柔らかく光り始めた。

 充填完了。

 裏側の刻印を確認し、ソウルガーディリアを彼女に返す。

 

「大切に使っているようだな。ありがとうな」

 

「……誠司様から頂いた……大切な物ですから」

 

 感情の抑揚に乏しい声。けれど、ほんのわずかに頬が緩んだように見えた。  

 それだけで、十分だった。

 

 

 

 だが、……命を守るために選んだこの特殊スキルが、やがて別の意味を持つことになるなんて。

 このときの俺は、まだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 §  §  § 

 

 

 

 

 

 あの後、俺は実戦訓練のため、予定とおり、他のいろはの防具と魔法具の点検、それから魔力の再充填を済ませた。

 

 

 

「……さてと」

 

 軽く伸びをしながら、土日のこととか、明日からの実戦訓練のことを考えることをやめて、俺は今日の予定を思い返す。

 

「いろは。この前言ったとおり、今日の午後はハンター学院に行ってくる」

 

「……はい……ご一緒します」

 

「いや、だからさ……。お前も参加するダンジョン試験の“教官”の顔合わせに、生徒がついてきてどうする」

 

 いつものように淡々とした声ながら、いろはの目は一切ブレない。

 まるで、それが当然だとでも言うように、ただ「ご一緒します」と言い続ける。

 

「だめ……なんですか?」

 

「だめだよ」

 

「……わかりました。クラスで待機して……います」

 

「うん、そうしてくれ。……いや、違う。自分がしたいことをしてろ」

 

「……わかりました。ご一緒します」

 

「お前、今の会話、全部無視したな……」

 

 俺は小さくため息を吐いた。そして、もう抗うのを諦めてこう言う。

 

「わかったよ。じゃあ、学院までは一緒に行こう。打ち合わせの間、自分のクラスかどこかで待っててくれ」

 

「……はい、わかりました」

 

 返事を終えたいろはは、すぐに自分の部屋へと戻っていく。どうやら制服に着替えて準備する気らしい。

 

 

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