魔装融合士は黒き少女たちとダンジョン最深層を潜る ――異能装備で挑む“ダンジョン”の深淵―― 作:藍紫
「……次に、特別クラスの成績上位者、先ほどの3名について、米谷教官、報告を頼みます」
須藤が軽く促すと、米谷は姿勢を正し、手元の端末をタップした。
「了解しました。それでは、順に共有させていただきます。最初は──月城紗夜(つきしろさよ)、ですね」
プロジェクターに映し出されたのは、白銀の髪に水色の瞳を持つ、一人の少女の写真だった。
(アルビノか……いや、違うな。遺伝的な特徴というより、これは……)
誠司は映像を見て、静かに考察する。
「彼女は特別クラスの筆頭候補とされています。学業・戦闘共に圧倒的な成績で、模擬戦の勝率は90%。すでにチーム及びソロでも20層突破済みです。
武器はマークスマンライフル型魔法銃、スキルは本人報告では《闇魔法》および《銃撃術》となっています。
マークスマンライフルを使用する中距離戦のハンターですが20層を単独で突破しているのは学生としては驚愕に値するでしょう」
会議室に一瞬、どよめきが走る。
「……闇魔法のスキル持ちで、マークスマン。かなり珍しい組み合わせですね」
誠司が呟くように言った。
「はい。使用弾丸は闇属性の浸食系魔弾で、ヒット後に遅延ダメージが継続する構造のようです。反応速度も高く、狙撃の精度だけでなく、動体視力と判断力にも優れています。
おそらく、実戦での生存率は現時点でもB級ハンターと遜色ないでしょう」
米谷の口調には、わずかに敬意が混じっていた。
「ただし、交友関係は広いようですが、性格面では非常に静かで、協調性に乏しいとの報告もあります。ただの孤高タイプというより……あえて他人と距離を置いている印象です」
「……つまり、“自分のやり方を貫くタイプ”か」
島田が低く呟いた。
「そう解釈しています。ただ、月城家の出自を考えれば、表には出さずとも多くの圧力と期待を受けて育ってきたのは間違いありません。月城財閥の直系にして、当学院理事長の姪──立場上も“特別な配慮”が必要な生徒です」
「実力だけでなく、背景もまた厄介ということだな……」
須藤が腕を組み、静かに視線を落とした。
島田は腕を組んだまま、目を細める。
「ふん……次行け、米谷」
「はい、次は──九条綾音(くじょうあやね)です」
米谷が画面をスライドさせながら続けた。
移されたのは黒色のポニーテール髪で、純日本人の風貌をした少女だ。
(この子が……おそらくは武義の姪か……)
誠司はそう判断した。
「彼女の実技成績、ちょっと異常なくらいなんです。戦闘訓練ではすでにBランクハンターを超えるレベルの動きを見せていて、身体能力もずば抜けており、スキルは《刀術》。スキルのとおり、こと剣術スキル分類での訓練に関しては、現在、学院で彼女の相手ができるのは……須藤教官と後述する橘いろはのみとなっております」
その場にいた教官たちの視線が自然と須藤に集まる。
「模擬戦の勝率もトップです。あの月城を抑えて、堂々の一位。そして、ダンジョンの実地訓練でも、すでに二十三層に到達したという報告が届いています。学院内の生徒たちは『九条の剣姫』と異名をつけています」
「使用武器は日本刀型魔法具。風属性魔法との組み合わせで、高速戦闘に特化しています」
「ただし、性格面での評価が分かれています。“感情起伏が激しい”“衝動的”“他者との距離感が極端”といった指摘もあり、扱いにはやや難がある生徒です」
「……まあ、言ってみりゃ、あいつは“戦闘狂”だな。正直、この攻略階層の報告も信用していない。……恐らくは25層も単独で討伐済みだろう」
須藤が苦笑交じりに呟く。
「……それは学院教官として如何なものですか?」
佐々木は冷静に問う。
須藤は苦笑しながら言う。
「命を預けるにはまだ危ういが、近接戦闘員としては一級品だ」
「まあ、制御の難しい爆弾みたいなもんだな。うまく扱えりゃ派手だが、ミスればこっちが吹き飛ぶ。うまく制御するしかないのさ」
(九条綾音。おそらくは武義が言っていた剣の才能がある子だろう。須藤さんが戦闘狂と言っているあたり、すでにその片鱗が見えてしまった)
誠司が苦く笑うと、島田も小さく鼻を鳴らした。
「それが若さってもんだろ。次だ」
「……最後は、橘いろは(たちばないろは)です」
米谷が指先をやや迷わせながら、資料のページをめくった。
最後に移されたのはいろはの顔。桃色のミディアムヘアで、水色の瞳をもつ無表情でいつもとおりの表情だ。こうして写真で見ると改めて日本人の風貌と異なるなと誠司は感じる。
「彼女に関しては……正直なところ、戦闘データが極端に少ないです。ですが、実技評価では何らかの不可視系の攻撃で勝利を収めています。模擬戦では、相手が何もできずに倒されるケースがほとんどです」
「不可視……?」佐々木さんが片眉を上げる。
「ええ。加えて、確認されているのが“モルヴ”と呼ばれる黒猫のぬいぐるみ型の魔法具です。模擬戦中、そのぬいぐるみが突如動き出し、相手を一方的に薙ぎ払います。指示を出している様子もなく、魔力の発動反応も観測できていません」
「なお、その“モルヴ”が互角に渡り合う相手が──九条綾音です。模擬戦で、九条相手に五分の勝負を繰り広げました」
米谷が追加情報を報告する。
「──九条と互角だったのが、“ぬいぐるみ”か」
島田は目を細める。
教官たちの視線が誠司にも向く。彼は苦笑しながら肩をすくめた。
「モルヴの実力は承知しているが……教官側の認識としては、“不可視な攻撃”、“ぬいぐるみの戦闘行動” という認識で一致してるということでしょうか?」
誠司が問う。それに米谷が答える。
「そのとおりです。不可視の攻撃と九条と互角に渡り合うぬいぐるみ型の魔法具、情景としてはややシュールではありますが、すでに、単独で二十層まで到達済みとの報告もあります」
「……問題は、能力ではない」
島田が低く言った。
「精神面です」
米谷が深く頷いた。
「座学・筆記ともに満点。ですが、他者との会話はほぼ皆無。挨拶をしても反応は薄く、授業中も必要最低限の返答のみ。教室では“透明な生徒”として扱われているような状況です」
「いじめのような状況では……?」
佐々木が慎重な声で訊ねる。
「いえ、それは確認済みです。ですが、生徒たちは“怖い”と口を揃えています。“何か憑いてる”とか、“目が合うと背筋が寒くなる”とか……。正直、教師としても接しづらいのが本音です」
「……対人関係における極端な乖離。性格的な問題の可能性も否定できないな」
須藤が腕を組む。
「この状態で試験に参加させるには、リスクが高い。スキルも正確には把握できず、我々との会話にも応じない……」
そう言って、須藤は視線を佐々木へ向ける。
「可能な範囲で構いません。何か、補足できる情報はありませんか?」
佐々木は、一瞬だけ視線を落とし、丁寧な口調で答えた。
「申し訳ありません。それはできません」
「できない……ですか」
米谷の声には、ほんの少し苛立ちがにじんでいた。
「いろはさんのスキルは、協会および理事長の判断で“機密指定”となっております。試験関係者といえども、現段階では開示は許可されていません」
「だとしても、監督する側に何の情報もないというのは……現場判断に不安が残ります」
須藤の声がやや強くなるが、佐々木は誠実に応じた。
「当然のご懸念です。ですが、情報というのは“知って制御できる”とは限りません。橘さんの場合、何よりも安定した精神状態を維持することが最優先であり、今回私たちが個の顔合わせをしているのもその一環です」
「……監視役か」
誠司が静かに言葉を差し挟んだ。
「個人的な立場を明かせば、私は橘いろはを“監視”しているつもりはありません。ただ、何かが起こったときに“止める人間”として、ここにいます。それが、協会と私の取り決めです」
その口調はあくまで平静だったが、そこに漂う責任感は重かった。
その言葉には、余計な感情はなかった。ただ、一つの“決意”だけがにじんでいた。
沈黙の中、それを破ったのは島田だった。
「……現時点では、それでいいだろう」
彼は深く頷いた。
「理想論では、全情報を把握してから指導すべきだ。だが、特異な事例においては、情報統制が最も有効に働く場合もある。今回は、例外として扱おう」
「……了解しました」
須藤が苦笑を浮かべて肩をすくめる。
そして、米谷も──渋々ながら、うなずいた。
「……せめて、彼女が何か被害を起こすようなうことがあったら、確実に止めてくださいよ」
「ああ、それだけは約束します」
誠司の言葉は、静かに、だが確かな重みをもって響いた。