魔装融合士は黒き少女たちとダンジョン最深層を潜る ――異能装備で挑む“ダンジョン”の深淵――   作:藍紫

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 25/06/09 誤字及び改行変更をかけました。


1-19 渋谷支部受付

 

 9時──。

 朝食を済ませ、留守にする1週間の間に家を空けるため、片付け整理を終行った誠司といろはは、新宿駅を経由して日本ダンジョン協会・渋谷支部へと向かった。

 

 10時前に支部のエントランスを抜け、エスカレーターで3階へと上がる。

 1階と2階は連休の影響か、人の波でごった返していた。

 

 3階に上がると、やや空気が変わった。

 受付フロアのそこかしこに、見慣れない顔ぶれのハンターやチームが散見される。

 

(見たことがない……遠征組か?)

 

 誠司は一瞥しただけで、なんとなく状況を察した。

 だが、すぐに自分たちに向けられる別の視線が気になった。

 

 それは誠司ではなく、彼の隣にいる──いろはに向けられたものだった。

 周囲の喧騒が、ふと、止まったような気がした。

 

 柔らかな桃色の髪が風に揺れ、鮮やかな水色の瞳が静かにきらめく。

 赤と紺を基調とした可憐な装いに、深紅のリボン、そして背でなびく真っ白なケープ

 

 ──その姿は、

 ──まるで、舞台に紛れ込んだガラス細工の人形。

 

 周囲の視線が集まるのに時間はかからなかった。ざわつき、ざわめき、囁き声が連鎖していく。

 

(……そりゃ目立つわな)

 

 連れているのが、普通すぎる見た目の20代後半男性──つまり誠司であることもあって、周囲のハンターたちの視線とヒソヒソ話が絶えなかった。

 

「おいおい、あんな可愛い子見たことないぞ。Bランクなのか?」

「いやいや、隣のフツメンと釣り合わなすぎだろ」

「あの子、連れてこられたんじゃないか?」

 

 そして極めつけは、いろはが誠司の左手をぎゅっと握ったまま、無言でぴったりとついて歩いていることだった。

 誠司は気づいて、そっと手を放そうとする。

 

「……いろは」

 

 だが、いろはは視線をまっすぐ誠司に向けたまま、手を放そうとしない。

 それどころか、もう片方の手で誠司の左腕にしがみついてくる。

 

 表情は変わらない。

 言葉も発しない。

 ただ、その行動すべてが──「絶対に離れない」という強い意思を示していた。

 一部のハンターはそのいろはの様子に少し引き、眉をひそめたが、大半は別の方向でざわつき始めた。

 

「ちくしょー、あいつ、ロリコンか?」

「なんであんな男にあの可愛い子が懐いてんだよ」

「いや、絶対どこかの金持ちに雇われた護衛だろ」

 

 コソコソ話のつもりだろうが、意外と声は通っていた。

 誠司はため息をひとつついた。

 

 その瞬間、フロアの奥──事務所のガラス窓越しに姿が見えたのは、佐々木詩織だった。

 彼女は受付カウンター横に立ち、新人受付嬢・日向の隣で、まるで“おいでおいで”と手招きをしている。

 

(……助かった)

 

 誠司はいろはに小声で言った。

 

「行くぞ」

 

 いろはは無言で頷き、腕を離さぬまま歩き出す。

 

 佐々木の前に着くと、彼女は椅子に腰掛け、目の前のプレートを手でくるりと裏返す。

『受付中』の文字が表示された瞬間、誠司たちの後ろに二組のハンターたちが素早く並んだ。

 結果、日向の受付列は今対応している一人だけに。

 

 佐々木の列に並ぼうとした何人かのハンターは、プレートの文字を確認して足を止めた。

『受付中』の表示を見てすぐに列に並び直そうとしたが、すでに後ろには数組が並んでいたため、諦めて日向や他の受付の列に戻っていった。

 誠司は日向に会釈をしてみてが、日向は少しだけ苦笑いのような表情で会釈を返してきた。

 

 その間も、いろはは腕を離さなかった。

 静かに──誠司の左腕に寄り添っていた。

 

 

 

 

 

§  §  §

 

 

 

 

 

「おはよう、佐々木さん」

 

 俺が先に声をかけると、それに倣うように隣のいろはも口を開く。

 

「……おはよう……しおり」

 

 いつもの淡々とした声音。けれど、それが“いろはなりの挨拶”だと、佐々木さんは

ちゃんと分かっている。

 

「ふふ、おはよう、いろはさん。ついでに誠司も」  さらりと笑みを浮かべながら、

 

 佐々木さんはいつものように事務的な口調で声をかけた。……少なくとも、言葉の表面上は。だが、視線の奥に潜む光は、それが完全な職務でないことを雄弁に物語っていた。

 

「今日も可愛いわね、いろはちゃん。赤のリボンとシャツに、濃紺のスカート……そしてその白いケープが映えること。うん、今日のコーディネートも文句なしに完璧ね!」

 

 いや、これ明らかに仕事モードじゃないよな。 (気にしたら負けだ……)  そう判断した俺は、本題に入る。

 

「40層までゲートを使って、そこから潜る。予定はおおよそ4日から6日間だ」

 

「ふふ、了解。では、チームメンバー分のカードを提出してちょうだい」

 

 俺といろははそれぞれ、違う色のカードを取り出し、受付台に差し出した。

 ……案の定、背後から刺さるような視線が飛んでくる。

 視線の主たち──つまり、後ろに並んでいる他のハンターたちは、明らかに俺たちに害意かとまどいを持っていた。

 

 カードの色は、ハンターのランクと強さ、そしてダンジョンの到達点を物語る。

 

 

 Aランク──金色に煌き輝くそのカードは一流ハンターの証。

 

 Bランク──銀色に磨かれたそのカードはベテランハンターの証。 

 

 Cランク──銅色の素朴なそのカードは一人前ハンターの証。

 

 Dランク──黒色のそのカードは独り立ちしたハンターの証。

 

 Eランク──白色のそのカードは初心者ハンターやハンター学院生の証。  

 

 

 なお、Sランクのハンターカードは世間一般に見ることがない。

 世界にわずか数十枚しかないのだから、当然の話だが……。

 

 ちなみに、今の俺が持つC+カードは、日本のローカールランクカードで、月城会長が公認した者のみが登録されたランクのため、Sランクハンターカードよりレアだ。

 まぁ、世界各国でローカルランクは存在するし、C+は会長公認の訳ありランクだから、自慢できる話ではない。

 見た目は赤銅色でCランクカードと見た目の差は微妙だ。

 

 そして今、受付の台に並ぶのは──いろはの白色、俺の赤銅色。

 

(……まぁ、周囲から見りゃ、場違いに見えるわな)

 

 Bランク以上のハンターが集うこのフロア。

 彼らが持つカードのほとんどがシルバー製。

 そんな中、目の前で受付を済ませようとする俺たちの存在は、確かに浮いている。

 

 それでも、佐々木さんは涼しい顔で端末操作を終え、カードを返却してきた。

 

「登録完了。気をつけて行ってらっしゃい」

 

 渡されたカードを受け取りながら、俺は周囲の視線を受け流すように、静かにいろはとともにその場を離れた。

 

 背後から聞こえてくるヒソヒソ声が、風に紛れて消えていく。

 

(……気にするなよ。俺たちは、俺たちのやるべきことをやるだけだ)

 

 

 

 誠司はいろはを連れて、後ろから見ているハンターたちの視線を無視して

3階から降りて行った。

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