魔装融合士は黒き少女たちとダンジョン最深層を潜る ――異能装備で挑む“ダンジョン”の深淵――   作:藍紫

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1-4 報告と呼び出し

 17時過ぎ、渋谷ダンジョン出口──いつもの夕暮れの空気に、誠司はひとつ息をつく。

 

 本日の戦果は、キラードローンTypeⅠが12体、帰り際に出くわしたスプリットスネアが3体。

 そこから得られた『魔力石D』が14個と、『魔力基盤C』が1つ。

 基盤系アイテムは魔法具製造に欠かせない中核パーツで、1個でもそれなりの値がつく。

 

「この基盤なら……ん、軽く30万はいくな」

 

 ザックリ計算して、今日の稼ぎは45万円前後。26層‥‥‥Cランクに上がりたてのハンターの場合、ソロで、所要時間たったの2〜3時間なら、これは上等な数字だ。

 もっとも、普通なら装備のメンテや消耗備品のコストで、純益は15万いけば御の字ってところだが──。

 

「……俺と相性のいい、致命的な設計ミス持ちのドローン様様、ってことだな」

 

 苦笑しつつ、誠司はダンジョン協会・渋谷支部の自動扉をくぐる。

 内部は夕方の込み合う時間帯──とはいえ、目当ての3階はそうでもない。

 1〜2階の混雑と違って、ここはBランク以上の中堅以上が多く、数日から1ヶ月かけての探索や遠征に出ていることが多いため比較的空いている。

 受付列も、現在3窓稼働で各1〜2組程度。昼に初めて対応してくれた受付嬢・日向さんの列に並ぶと、彼女がこちらに気づいて、ふわっと笑顔を浮かべた。

 

 5分ほどで前の組の処理が終わり、誠司の番が回ってくる。

 

「お疲れ様です。買取のお願いで来ました」

 

「あっ、相馬さんでしたよね!? お疲れさまですっ。え、さっき出て行ったばかりなのに……は、早いですね!?」

 

 日向の驚きに、誠司は肩をすくめてみせる。

 

「今日はこのあと、支部長室に呼び出しが入っててね。散歩がてら、26層を少し流してきただけさ」

 

「に、26層!? 相馬さん、そこ……Cランクキラーが出るって有名な層じゃないですか! 本当に大丈夫だったんですか?」

 

 日向の反応は至極真っ当だ。誠司は苦笑を浮かべながら、軽く答える。

 

「まあ、俺にとってはそこまで苦戦する相手じゃないよ」

 

「えぇっ!? でも、Bランクハンターの方でも油断すれば危ないって話ですよ?」

 

 その声に少しだけ真面目な表情を返して、誠司は説明を始める。

 

「確かにね。あの階層のドローンもどきは、Cランク防具なら簡単に貫くチャージ弾を持ってるし、少しでももたつけば、すぐ応援を呼ばれて数の暴力で押してくる。だから、防具のランクが低ければ、Cランクどころか、Bランクハンターでも苦戦するかもしれないな。でも正直、数さえ集められなければさほどでもない。今日は時間も限られてたから、サクッと倒して切り上げたってだけ」

 

「……なるほど、そういうことなんですね。あ、そういえば相馬さんってC+でしたよね。特殊技能持ちだから、戦闘力的にはBランクを超えてるってことですか?」

 

「そんなところかな。ま、正確には“補正込みのランク”ってだけだけどね」

 

 話を切り上げるように、誠司は収穫品をバッグから出して机に置いた。

 

「ってことで、これが戦果。集計、よろしく」

 

「はい、承りました。えっと……魔力石Dが14個、魔力基盤Cが1個ですね。今から集計評価手続きに入ります」

 

「頼むよ。あ、ついでに聞きたいんだけど──佐々木さんって今、いる?」

 

「えっ? 私でも対応できるかと……?」

 

 誠司は穏やかな表情を浮かべながら、やや声を落とす。

 

「もちろん、日向さんでも大丈夫だと思うけどさ。ちょっと気になる話があるんだ。佐々木さんに、直接伝えたくてね」

 

「……わかりました。すこしお待ちください、お呼びしてきます」

 

 日向は深くうなずいて、奥の事務室へと向かっていった。

 

 数分後──現れたのは、視線を引きつけてやまない女だった。

 低めのヒールの足音が、室内の静寂に吸い込まれていく。

 シャープな目元と涼しげな涙袋。妖艶めいた微笑を纏う口元が、淡く空気を震わせる。

 耳元で軽く留められた茶髪が歩みと共にわずかに揺れ、肩越しに流れ落ちた毛先が艶やかに弧を描いた。

 そのたびに、階上の男たちの視線が、その動きに引き寄せられるように彼女──佐々木詩織

(ささきしおり))へと集まっていく。

 

「お疲れ様、誠司。そんなに私に会いたかったの?」

 

「会いたかったさ。癒しが欲しかったからね」

 

 即答した誠司の隣で、日向が「むむっ」と妙な目線を向けている。

 

「ふふ、あの子にまた、駄々こねられるわよ。……でも、あなたから呼ばれる時って、厄介事の匂いがするのよね」

 

 佐々木は片眉をあげて、軽くため息。

 そして誠司を鋭い目で射抜く。

 

「疫病神みたいに言わないでくれよ。俺、繊細な男なんだから。ガラスのハートが砕けちゃうよ」

 

「ふふ、あなた、18時に支部長室でしょ。手短にお願いね?」

 

「了解、時間制限付きなのが残念。じゃ、さっそく本題を──」

 

 誠司はスマホを取り出し、26層で撮った死体の写真を表示しながら、ギルドカードをテーブルに置いた。

 

 その瞬間、日向が視界の端でビクリと震える。

 

「ひっ……!」

 

「……あなたが殺ったの?」

 

 佐々木のストレートすぎる問いに、誠司は呆れたように眉をしかめた。

 

「んなわけあるか。現場は26層の行き止まり部だよ。誰もいなかった。ただ、異様な斬撃で死んでる死体があってな。俺はただ、証拠として状況写真とギルドカードだけ持ち帰っただけさ。ついでに位置情報と写真データも送るよ」

 

 佐々木はふぅっと小さく息をついた。

 それだけで絵になるのがズルい。

 

「了解、データをもらうわ。……26層でこの死に方、ね。調査班を出して確認させるわ」

 

「頼む。ゲート前の協会スタッフも、どこかぼかしてた感じだったからな。妙な違和感が残ってる」

 

 その言葉に、佐々木の目が一瞬だけ細まる。左右を軽く見渡し、誠司の近くまで身を寄せて、声を落とす。

 

「誠司。少し聞いてるかもしれないけど──これ、今週で3件目なの。斬殺死体が」

 

「……3件目?」

 

「被害は26~28階層。共通点は、『ソロハンター』が狙われてるってことよ」

 

 誠司は少しだけ眉根を寄せ、思案するように顎に手を当てた。

 

「……つまり、26層以降に、新種の斬撃系モンスターが出現したか。それとも……」

 

 言葉を濁したまま続きを口にしなかったが、その先を読んだように、佐々木が静かに告げる。

 

「……『人為的な闇討ち』の可能性が高いと、協会ではそう見ているわ。特に、26層はCランクに上がったハンターばかり。狙われているのでしょうね」

 

 なるほどね──誠司は軽く鼻で笑い、わざと挑発的な視線を佐々木へ向ける。

 

「そうなると、俺も被害者候補か‥‥‥いや、容疑者候補に入れておいたほうがいいんじゃないのか?」

 

 隣に立っていた日向が、一瞬だけ息を飲む。まるで本気で疑ってしまいそうな視線を誠司に向けた。だが、佐々木は冷ややかで、それでいてどこか艶を帯びた笑みを浮かべて返す。

 

「必要ないわ。私怨の可能性は捨てきれないけど……あなたなら、もっとスマートに処理するでしょうし」

 

 その声色には、明確な皮肉と一握りの信頼が混じっている。

 

「亡くなった方には申し訳ないけれど、Cランクなら──そうね、あなたなら証拠も死体も残さず、1人どころか複数チームぐらいの人数は綺麗に消すわよね。間違っても、あんな杜撰な放棄はしないでしょう?」

 

 誠司は肩をすくめ、飄々とした口調で返す。

 

「……まっ、当然だな」

 

 日向の背筋がピクリと震える。彼女の手元の書類が微かに揺れていた。

 

「……とにかく、25層を超えて初めて中堅と認められるわけだから、26層にはCランクのソロやチームが集中する。にもかかわらず、こうして目撃者ゼロのまま、死体だけが発見されている状況は──協会としても、さすがに放置できないわ」

 

 佐々木は真剣な眼差しで言葉を紡ぎながら、目元を引き締める。

 

「渋谷ダンジョンの30層周辺って、インフラや小道具に使う低ランク魔力石が採取しやすい重要なアーバンマイン層でもあるのよ。ダンジョン内上層部の治安が悪化すれば、都市機能に直結する問題になる」

 

「確かに。俺にとっても、26層は短時間で低ランク魔力石が回収しやすいスポットだからな。まあ常駐ってわけじゃないけど、次に潜る時も注意するわ」

 

「お願いね、誠司。……そろそろ時間のようね? 支部長室へは15分前から、ハンターカードでゲートが開くよう設定済みよ」

 

「了解。何か情報が入ったら、また教えてくれ。……あ、日向さん」

 

「は、はいっ!」

 

「今日の報酬、ギルドカードに貯金で頼む」

 

「承知致しました。集計機からの正式査定額は……本日の報酬、48万円となります。魔力基盤Cの評価が少し上乗せされております」

 

「ふむ、想定よりちょっといいな。了解、OKだ」

 

「入金処理……完了しました。ありがとうございました」

 

「助かるよ。じゃ、行ってくる」

 

 誠司はギルドカードを受け取り、ちらりと日向と佐々木の顔を見やりながら、軽い足取りでエレベーターへ向かった。その姿が視界から消えるまで、日向はじっと見送っていた。

 

 そして、ふと佐々木に問いかける。

 

「……あの、佐々木先輩。相馬さんって、C+の“特殊技能持ち”で、実質Bランクの方ですよね? いくらなんでも……Cランクの複数チームを証拠も残さず処理できるとか……冗談ですよね?」

 

 だが佐々木は、驚くでも、笑うでもなく、ごく自然な表情で言った。

 

「……あら、日向。上位ランクハンターにならば、わりとできるものよ。もちろん状況と準備にもよるけど。誠司はC+といっても、補正込みで『Cランクのスケール』とは根本的に別枠なの」

 

「べ、別枠……」

 

 その言葉をうまく消化しきれない日向が戸惑っていると、佐々木はふっと視線を逸らし、デスクにあったタブレットを片手に立ち上がった。

 

「さてと……私も会議があるから、26層の件で2階に顔を出して、そのまま離れるから。後はお願いね、日向」

 

「は、はいっ。お疲れさまです、佐々木先輩!」

 

 佐々木がスタスタと歩いてエスカレーターへ姿を消すと、日向は小さく肩をすくめて、ぽつりと呟いた。

 

「……C+ランクって、そこまでできるものなんだ……? 相馬さんって、もしかして、なにか隠してるすごい人……だったり?」

 

 

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