「あー……しっかし暑いなおい」
切札はあまり独り言などは呟かない人間だが、今日ばかりはここぞとばかりに呟いた。
季節は夏。
世間は今日から夏休み。
すれ違う学生も私服姿が多く、制服を着ている人間など、数えるほどしかいない。
とは言え数えられる程度にはいるという事で、切札もその一人なわけだが。
(ん、あの制服、超電磁砲の……)
と、ふと切札の視線が一点で止まる。
ツインテールの小柄な中学生と、その先輩と思われる茶髪の中学生が着ている制服である。
何の変哲もない制服だが、しかし切札は微妙に思い入れのある制服。
そう、切札は実は制服フェチで特にベージュのサマーベストとプリーツが大好きであり、やべえあの制服たまんねえはぁはぁ、などと鼻の下を伸ばしている――というわけではもちろんなく、ただ、「そういやあの制服は超電磁砲がいるっていう常盤台の制服か」としみじみ眺めていただけなのである。
常盤台には、最強の電撃使い『超電磁砲(レールガン)』がいる――という話がある。
これは有名な話で、恐らく知らない者はいない。
星噛切札も電撃使いであり、その関係から、幾度となくその『超電磁砲』にまつわる話は聞かされてきた。
曰く、完全無欠の電撃姫。
曰く、レベル1からレベル5に成り上がった。
曰く、彼女のDNAを利用して軍事目的のクローンが作られている。
(まるで安っぽいSF映画みてえだ)
切札はそう断じ、切り捨てる。
若干自嘲も含まれていたかもしれない。
それに、思うところが無いわけではないが、たかが中学生に執着する気もないのだ。
いかに似通った能力とはいえ、電撃使いなんぞこの街ではざらにいるし、結局はお互いの顔も知らない、赤の他人なのだから。
もう一度、常盤台の中学生二人を一瞥すると、切札は踵を返して家路を急いだ。
昼間という時間帯にも関わらず、学生寮が多く存在するこの第七学区は人でごった返している。
ただでさえ暑いこの季節だというのに、学生たちの熱気も混ざって、オーブンで蒸し焼きにされている気分になる。
あまり長くいたい場所ではない。
切札は、制服の上から着ているライダースのジッパーを、下まで下ろし、少しでも風通しを良くしようとする。
「あー暑っちい」
意味はないと思うものの、そう呟かずにはいられない。
こういうときに空力使いがいてくれたら、そよ風程度は起こしてくれるんだろうなー、と切札はしみじみ思う。
そして、傍らにその空力使いがいない事が、とても残念である。
アイスでも買って帰ろうか。
取り敢えず冷たいものが欲しいところだ。
(冷たいもの、か)
そういえば、スキルアウトのアジトにある冷蔵庫は直ったのだろうか。
スキルアウトには機械に強く、手先が器用な奴もいるし、もしかしたら既に直っているかもしれない。
ひょっとしたら新しい冷蔵庫を『貰いに』行っているかもしれない。
まあそうじゃなかったら冷蔵庫の一つや二つ、買うぐらいの財力はあるし。
(いや、それより気になるのは…)
それをやったのが、電撃使いの仕業かもしれないと駒場は洩らしていた。
ただ冷蔵庫が壊れただけでは切札はここまで気にしたりしない。
電撃使いが関与している疑いがあるというのが、切札にとっての問題なのである。
自分がやったかもしれないと疑われる状況――それこそが、問題なのだ。
もちろん切札は無関係だが、ただでさえ無能力者集団(スキルアウト)の中に超能力者(LEVEL5)が混じっているのだ。
ともすれば、内部分裂を招きかねない。
それだけは避けなければ。
切札はコンビニのアイスコーナーをガン見しながら、思考を巡らせていたが、店員さんの怪しげな目線に気がつく。
苦笑いで誤魔化しつつ適当なアイスをごっそり見繕い、切札はそそくさとコンビニを後にする。