「――次に、最近若者の間で流通している、『幻想御手(レベルアッパー)』と呼ばれるプログラムについてですが――」
ピタリ。
世界が停止したように思えた。
コンビニを出た切札の目線は、ギギギ、と油が切れたロボットみたいな動きで、そのニュースを流している大液晶に釘付けになる。
「先ほど入りましたニュースによりますと、『連続虚空爆破事件』の犯人であるとされる少年が、『幻想御手』を使用していたのではないか、という疑いが持たれています。『幻想御手』とは近頃ネット上で話題になっているプログラムの名称で、学生のレベルを上げる効果があると――」
「『幻想御手』……はん。随分と今更じゃねえか」
切札は唇を噛み締めた。
流通し始めたのは最近、と言われているが、切札はそうではないことを知っている。
何故なら、『つい二週間ほど前に、切札自身がそれを使っている』からである。
そして、『幻想御手』の効果がただレベルを上げるだけではないことも知っている。
何故なら、『幻想御手』を使用した他のスキルアウトが皆、意識不明になって緊急搬送されているからである。
だが切札だけは、未だに意識不明に陥っていない。
それは何故か?
相性が良かった、能力のおかげ、意識不明になることと『幻想御手』は関係ない、など色々考えられるが、答えは未だに分からない。
まるで、真っ暗な部屋の中で懐中電灯を探しているような気分である。
「科学者って奴は、答えが分かっているみてえだがな」
大液晶を睨みつけた。
ちょうど、見覚えのある科学者が、私見を述べているところであった。
あの顔には見覚えがある。
『幻想御手』を使用した翌日、それまでLEVEL2だった切札のレベルが上がり、調子に乗って能力を使いまくっていた時のことだ。
強力なAIM拡散力場が検知されたとかどうとか理由をつけて、明らかにカタギではない種類の人間が、ピンポイントで切札の自宅までやって来た。
話を聞く限りは、極秘裏に能力検査をしたいとのことで、怪しいところはあったが、大した疑いもなく、ただ戦々恐々と彼らの車に乗った。
確かその時にあの科学者の顔を見たような気がする。
あの目の下にある濃い隈は忘れようがない。
そう、その後に、どこかの実験施設まで連れて行かれ、テストしたところ――判定はLEVEL5。
新たな能力名を与えられ、喜び勇んで帰宅したところで、スキルアウトの仲間たちが次々と意識不明の重体で、病院に搬送されたと知る。
その運ばれた仲間と『幻想御手』を使った仲間はピタリと一致。
ただ一人、星噛切札を除いて。
今にして思えば、彼らは最初から分かっていたのではないだろうか。
切札が新たなLEVEL5になり得る可能性を、そして、『幻想御手』を使ったものがどうなるかという悲惨な末路を。
「くそったれ。俺もいずれはそうなるって事じゃねえか」
半ば諦観したような面持ちで切札はそう呟き、再び歩み始めた。
突然手にした強大な能力と、いつタイムリミットが訪れるか分からないギリギリの綱渡り、そして暫定とはいえLEVEL5でありながらスキルアウトに所属するという矛盾。
大体その三つが、星噛切札の特徴であると言えよう。