ようこそ"反"実力至上主義の教室へ   作:宗谷

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弱さに気づく者こそ、真の勇者である ―ニーチェ(意訳)


弱さに気づく者こそ、真の勇者である

3日目、そして4日目。無人島での生活は、驚くほど穏やかに進行した。

Bクラスの連携の高さもあるのだろう。水も食糧も、はっきり言って余るくらい確保できていた。Dにわけることができるほどに。

逆にDも魚や果物をに渡しているのでお互い様だろうか。

 

同盟の方も順調だ、

基本的な流れは朝の点呼後、頃合いを見てどちらかのキャンプで簡単に情報交換。

簡単にやり取りをして解散。夕方ごろにもう一回集合してまた情報交換。

この間、金田と伊吹はほかの生徒(Bクラスのほうは一之瀬が選んだ数人がやっていた)が見張りをしていた。

 

 

この二日間に関しては、順調と言っていいと思う。

 

 

気になったのは、二つ。

『金田も伊吹も妙に大人しいこと』。

そして、『スポットがいくつかCクラスに占有されていたこと』。

 

龍園という男が、勝負を捨てるとは考えられない。

必ず、何かを計画している。

 

そして向こうも、たぶんDとBの関係には気が付いているだろう。

現状、A対C対B&Dという構図が見えているはずだ。

 

そうなると、Aクラスの孤立が目立つ。

葛城は『制御』と言っていたが、その通りに行動しているからだろうか。スポットの多くはAに占有されていた。

 

仮にAのリーダーを当てれば無効化できるが、そうなるとAの得点は-100がほぼ確定する。葛城がそれを警戒しないわけがない。

葛城相手に出し抜けるかといわれれば、はっきり言ってリスクが高い。

それこそ、油断している隙でも突くか、内部から瓦解でもしない限りは難しいか……?

 

だが、龍園側も黙ってみているほどお人よしでもない。

 

 

「……何があったんだ?」

「九条君……そっか、九条君は確定シロか……」

 

五日目。Dクラスのキャンプ。

 

 

「実は……」

 

 

本格的に、事態が動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「下着泥棒?」

「うん、軽井沢さんが……」

 

篠原が言うにはこうだ。

 

今日の朝、つまり数時間前に、軽井沢の下着が無くなっていることが発覚。

探しても見つからない、ということから男子に疑いがかかり、先ほど調査をした。

ところが男子サイドでも発見できず、疑惑をかけられた男子サイドも女子に不満。

 

そこに、俺たちがやってきた。

俺は、Bクラスにいたからアリバイがほぼ成立しており、シロ扱い……か。

 

「その軽井沢は?」

「今は、櫛田さんたちが慰めてる。正直、今合わせるのは無理……平田君なら別だけど」

 

現在、男女間の対立が始まっている。

女子は男子を避け、男子は女子を睨む。

事件が事件なだけにそうなるのはわかるが、どうもきな臭い。

 

「私、神崎君に話を聞いてくるね!」

 

一之瀬はそう言って、男子テントの方に駆け出した。

 

「ねえ、九条君。どう思う?」

「……あくまでも、仮説だけど」

 

 

正直な話、犯人候補は実質一人だけだ。

 

犯行の動機。求めているであろう結果。何より、犯行発覚のリスクの低さ。

 

これをすべて満たすのは――伊吹。

彼女しかいない。

 

……ただし、『証拠がない』という一点だけが、それを許してはくれない。

 

あくまでも、「一番怪しい」でしかなく、明確な証拠……盗まれた下着が伊吹の所持品から見つかった、とかがないと無理だ。

 

「……ってことで、俺は伊吹が怪しいと思ってる」

「伊吹さん?でも、女子だし……」

 

当然の反論だ。誰だってそう思う。

女子が、同性の下着を盗む、なんてありえるのか?と。

だが、『下着が目的ではない』としたら、その主張は通らなくなる。

 

「クラス内で揉め事を起こして瓦解させて自滅を狙う。その隙にリーダーを発見できればよし。

万が一があっても逃げればいいし、誰かが濡れ衣着せられても影響はない。

むしろ、伊吹以上に怪しい候補は思いつかない」

 

 

犯人が誰であれ、必ず理由がある。

 

今の状況だけで見るなら、結果は『Dクラスの不和』。

これを目的にする人間がクラス内の人間だとは考えにくい。

『単純な性欲による犯行』という線もあるが、こっちははっきり言ってリスクの塊だ。

 

今は『五日目』。

もう五日目。『まだ』五日目。

試験が終わるまであと二日、さらに帰りの船が数日。

単純に、一週間近く『犯人捜し』の時間があるということ。

衝動でやったなら、もっと露骨にことが大きくなっているはず。

犯人にしても、一週間以上捜査をかいくぐる必要があるなら、こんな状況でやらない。

男女の認識もあるかもしれないが、リスクが大きすぎる。少なくとも今やるようなものじゃない。

 

そうなると、『下着泥棒』は手段でしかなく、目的が別にあったということになる。 

 

事件が起きて、出てきた結果は『クラス内男女間の不和』。

それを起こして得をするのは限られる。

このクラスに影響を受けない人間……神崎か伊吹しかいない。

 

さらに言うなら、神崎が犯人ならBとの同盟の致命傷になるから、自分からそうする可能性は低い。

『一之瀬の腹心』がそんな立場に気づかないわけがない。

 

よって、この一件で利益があり、リスクも少ないのは、Cクラスから追放されたらしい伊吹しかありえない。

消えた下着の行方だけは俺にもわからない。

 

「……九条君の考えはわかったよ。でも、少なくとも試験が終わるまでは距離を置かせてもらう」

「そうだな。それは仕方ない。軽井沢を頼む」

「まかせて」

 

そういって、篠原たちは去っていった。

次は、男子陣営の情報収集だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、男子側の事情聴取が終わった、

さすがにいらだっているようで、話を聞くのにも苦労する。

まあ、無実の罪で一方的に糾弾されるのに納得いかないのは当然だ。

 

ひっかかったのは、池。

話を聞いてると、やけに動揺していた。

ただ、「犯人に心当たりはあるか?」と聞いたら「自分じゃない」と反発した一方で、

「盗まれた下着はどこに行った?」という質問には「知らない」と動揺した。

 

疑ったお詫びに、今度飯をおごることになったが。

 

つまり、「犯人ではないが下着の所在を知っている」ということになる。

 

……話を聞けば聞くほど、伊吹が怪しくなってくる。

 

 

「……九条君」

「平田」

 

テントから少し離れた川辺。

 

「……大変なことになったね」

「ああ。今まで、どこかで油断してたのかもしれない」

 

そうだ。警戒するべきだった。

あの場にいなかった俺が何を言いても傲慢かもだけど、対策できたんじゃないか。

 

「君は、誰が犯人だと思うんだい?」

「伊吹。時点で池。ただ、池は犯人じゃないけど、関係者ではあるかも」

「……理由は?」

 

少し、平田の口調が強くなった気がする。

「仲間が疑われている」ということが、彼にとっては嫌悪することなのだろう。

 

俺は、篠原にも話したものと同じ内容を話した。

 

それだけでなく、池の反応も含めて。

 

 

「君は、池君を告発するつもりかい?」

「しない。少なくとも確証がない」

 

無実ではないかもしれないが、関係者。

「犯行の瞬間を見て脅迫された」とか、「誰かをかばっている」とか、いろいろあるが。

一方的に「犯人予備軍」にするのは違う。

 

「そう、か。もしも、もしも彼が犯人だったら?」

「謝罪はさせる。罰もあるかもしれない。でも、孤立はさせない」

 

許す、許さないの話ではない。

理由も知らないで終わらせるのは違和感しか残らない。

 

「…………」

 

平田は、少し間をおいてから、言った。

 

 

 

「ねえ、九条君。

 

 

 

 

 

 

――君は、どうしてそんなにも『強い』んだ?」

 

 

 

 

静かな問いだった。だが、その奥には言葉にできないほどの重みがあった。

 

「成績とかの話じゃない。

君はいつだって、『誰かのために』動いているように見える。

その『強さ』は、いったいどうやって手に入れたんだ?」

 

 

俺はすぐには答えられなかった。

川の水面に映った自分に目をやり、ゆっくりと息を吐く。

 

「強さ、か。

俺は、強くなんかないよ。

ただ、弱さを――見逃したくないだけだ」

 

そう言いながら、自分の胸の奥にある鈍い痛みに指を這わせるような感覚があった。

 

「人間は、大なり小なり『演じている』と思ってる。

仮面をかぶって、見栄を張って、声を荒げて。

 

でも、それは見えないところで傷ついているんじゃないか。

放っておいたら壊れて、取り返しのつかないことになるんじゃないか。

 

俺は、そうならないために動くって決めてる」

「……やっぱり、お姉さんの件でかい?」

 

頷きかけて、止まる。

 

 

――忘れてはいけない。姉さんだけじゃない。

もっと早く気づければ。

もっと強引に止められたら。

力でも、技でも、心でも。

もっと、もっと。

 

 

「それもある。それだけじゃないけどな」

「……お姉さんは。どんな人だった?」

 

少しの間、沈黙が続いた。

数日前の星之宮先生とは逆の、静かな踏み込み方。

これなら、落ち着いて答えられる。

 

「……優しい人だったよ。

いつも笑顔で、明るくて。

嫌なことがあっても全部自分で抱え込んでなんとかしようとする人だった。

どこかから野良の動物を拾ってきて、看病して里親探して。死んでしまったら墓を作って泣いた。

 

勉強や運動は苦手だったけど、毎日頑張ってる姿を見ていた。

今でも、尊敬してる。

 

……でも、壊れた。壊れてしまった。

 

誰にも助けを求めなかった。俺にも、『大丈夫だから』ってごまかされて。

きっと『そうすること』すら、悪いって思ってたんだと思う。

弱音を吐くことは、迷惑になるって」

 

 

だから。

 

 

「だから、誰かが気付くしかない。

壊れる前に気づいて、支えないといけない。

俺は、そうありたいと思ってる」

 

 

これは絶対に譲れない。崇拝、狂信と言われようと構わない。

悪いことはしない。誰かのためにやさしくある。

困ってる人に寄り添う。自分の不幸を誰かに押し付けない。

 

『そういう生き方』をしていた姉さんは、今でも大切な人だ。

 

 

 

 

 

「……やっぱり、君はすごいね」

 

少しだけ頬を緩めながら、平田が言う。

 

「やり方は違うけど、僕も同じだ。『みんなを守りたい』。

……僕の場合は、誰かを追い詰める『空気』が嫌いなだけかもしれないけどね」

 

それは、彼なりの戦い方なのだろう。

無理に声を上げず、誰も傷つけずに、全体を守ろうとするやり方。

 

 

そして、ぽつりと彼はつぶやいた。

 

「……僕も、演じているんだ。

誰とでもうまくやれて、争いを嫌って、明るくて頼れる――そんな人間を、ずっと演じてる。

 

でも……たまに思うんだ。本当の僕は、それほど強くないんじゃないかって」

 

 

 

俺は、そっと答えた。

 

 

「演じるのは、弱さじゃない。誰だって、自分を守るために何かしてる。

『演技を気づかれたら壊れる』って思い続けることが、本当に気を付けないといけないことだと思う。

 

……だから、今こうやって話せたなら、それだけで少しは違う。

少なくとも俺は、演技をしている平田のことも、そうじゃない平田のことも、同じだけ価値があると思う」

 

 

しばし沈黙。

 

やがて、平田は静かに笑った。

 

 

「九条君……ありがとう」

 

 

彼の言葉は、仮面の下の素顔から出たものだった。

そう、信じている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一之瀬さん!大変なの!キャンプで――」

 

でも、一度巻き上がった砂は、まだ落ちない。




難産……。

正直原作読み返して色々気になったんですが、それを言うにはまだ早いんですよね。本作の状態が。

オリジナル書きたい欲+久しぶりに読んだSAOとかの二次創作アイデア+リアル事情の大混戦で現在に至ります。
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