私の後輩、なんかおかしくない?
しかし周りは首を傾げるばかりで…
続きません。
私の後輩は奇妙だ。
どう奇妙なのかと聞かれると、まず容姿からして若干おかしい。そして、普段からの言動や行動もおかしい。そして何より…ここまで奇妙な人間を、私以外は誰も気にせず普通に接しているというのが特におかしい。
初めはそんな人間もいるか…で済ましていた私だったが、長く関わっていると彼女の構成要素の一つ一つが目につく。しかし、それを本人に尋ねてみても首を傾げるばかり。周りに同意を求めてみても、これまたズレた返答が帰ってくる。
『イオリは考えすぎ』
『少し休んだ方が良いのではないですか?』
『別に普通の方だと思いますが…』
銀鏡イオリは考える。
あの後輩の謎は私が解明するべきでは、と。
確かにおかしなところはあるが、性格は至って真面目な好人物である。そのままにしていても何の問題もない。しかし結局それは理解することを諦めているだけ、いわゆる"逃げ"なのではないかという考えが自分の中のプライドを刺激する。
ならば、私があの後輩の正体を暴いてやろうではないか。故にこそ、今日も私は人知れず奇妙な後輩の腹の中を探るのだ。…別に意固地になっているわけではない。断じてない。
「クヌギ。今日の昼飯一緒に行かない?」
「はイ、イオリ先輩。ご一緒しまス」
私の食事の誘いに対して、片言のような、あるいは何処か発音が狂った調子の返事が返ってくる。
彼女の名前は"
頭には、先端が二股に分かれた一本角。
腰には、硬い甲殻と一対になった薄い羽。
そう、この特徴を聞いて何となく予想がついた人も多いだろう。…彼女の身体的特徴、あからさまにカブトムシなのだ。ちなみに目も何処か無機質でちょっと怖い。私も慣れるまで少々時間が掛かった。
「何か食べたいものはある?私は何でも良いけど」
「そうですネ…甘いもので良ろしけれバ…」
これも暫く教育係として過ごしてきて分かったことだが、彼女は甘いものが好きだ。特にフルーツ系が好みであるところに彼女のカブトムシ要素が垣間見える。いや、これに関しては個人の好みもあるのでどうとも言えないが。
「じゃあ、店を探すか」
「………いエ」
「え?何だ知ってる店でもあるのか?」
「甘い匂いがしますのデ、あちらニ」
ふらふらと人混みに紛れるように歩き去っていくクヌギをポカンと見つめ、慌てて後を追い掛ける。人混みを掻き分けて進む私とは違い、何故か彼女が歩いている場所には必ず人一人分の隙間が空いていくので、みるみるうちに距離が離されてしまう。
「ちょ、それ何!?どうやってるの!?」
「慣れでス」
「嘘つけぇ!」
明らかに適当に答えた後輩に怒号を飛ばす。この後輩はちょっと人に言い難いことや説明し辛いことは適当なことを言って誤魔化すところがある。あまり信用し過ぎるのは良くない。
「着きましたヨ、パンケーキのお店だったみたいですネ」
「はぁ…はぁ…なるほど。…結構な距離歩いて来たけど、本当に匂いなんかしてたのか?」
「ははハ。勿論でス」
「胡散臭いなぁ~」
結局、謎を探るつもりが謎を増やす結果になってしまった。なお、辿り着いた店のパンケーキは非常に美味しかったので今後も近くに寄ることがあれば利用しようと思った私である。
「美味しかったですネ」
「そうだな。…その割には無表情で黙々と食べてなかった?」
「失礼ナ。表情筋が他の人より固いだけでス」
「本当に~?ピクリともしてなかったけど…」
「そういうイオリ先輩は尻尾がフリフリしてて分かりやすかったでス」
「なっ!?」
「可愛かったですヨ。ほラ」
「いつの間に動画なんか撮ったの!?え、消してとかそういうのより先に怖っ!?」
スマホなんて取り出してる様子なんてなかったのに。え、私が目を離した瞬間に取り出して撮ったってこと?手際良すぎない?
「相変わらず謎だよお前は…」
「家宝にしまス」
「消せ」
さらっと流されそうになった
『ゲヘナD地区にて暴動が発生!至急、付近の風紀委員は現場に急行願います!』
「…面倒だけど、腹ごなしのつもりで鎮圧するか」
「そうですネ。ちゃちゃっと片付けましょウ」
隣を見ると、既にショットガンを手に臨戦態勢になっているクヌギの姿があった。コイツはこう見えて風紀委員の職務には忠実で真面目に仕事をこなすタイプだ。こういうところは素直に信頼出来るんだけどなぁ。
「私は正面から行く」
「分かりましタ。では回り込みまス」
アイツの実力は私も知っている。仮に私が取り逃がした場合でも上手く捕縛してくれるだろう。私は暴動が起こっている中心地に向かって真正面から足を運んだ。
「動くな規則違反者共!風紀委員だ!」
「ゲッ、風紀委員だ!」
「昼飯時だから来ないって言ってた奴誰だよ!」
「昼飯程度で来ない風紀委員がいるかぁ!」
それどころか昼飯を食べずに仕事に打ち込んでいる風紀委員のまぁ多いこと多いこと…。一時期チナツが効率が悪くなるので食事はキチンと摂りましょうと促したところ、食事を栄養バーで済ませる生徒が増えたのは記憶に新しい。
「諦めて投降しろ!」
「捕まれと言われて捕まる奴が何処にいる!」
「こうなりゃ自棄だ!無茶苦茶にしてやる!」
「その思いきりの良さはもっと別のところに活用しろ!?」
クラックショットを一人一人の脳天に撃ち込んで無力化していくが、思っていたよりも数が多い。物量で攻められると少し厄介だ。
「良く見たら一人しか居ないじゃないか」
「全員集めて押しきれば勝てるんじゃね?」
(まずい…!)
流石に全員の相手なんてしてらんないぞ…!他の風紀委員の到着はまだか!?焦りながらリロードを済ませていると、連中の背後に影が差した。私は彼女らの真後ろに立っているクヌギと彼女が振り下ろそうとしている物を見て驚愕する。
「あ?」
「何だ、急に暗く…」
「「「は?」」」
それは大きなコンテナだった。底面だけが開かれたそれは暴動を起こしていた不良連中をスッポリと覆い、彼女達を内部に閉じ込める。その後、暫く中から騒ぎ声やら銃声やらが聞こえていたが、やがて出られないことを悟ったのか何も聞こえなくなった。
「遅くなりましタ」
「おい、何だこのコンテナは…」
「コンテナトラックが停まってましたのデ、無理を言ってお借りしましタ」
「いや、どうやってあれを持ち上げたのかを聞いてるんだけど…」
「力持ちなのデ」
「あのサイズだと3~4tはするよな?」
「力持ちなのデ」
「ごり押し!?」
結局、今日も今日とて彼女の特異性に振り回される私なのだった。なお、捕縛した不良連中を連れていく際に再度コンテナを持ち上げていたクヌギだったが、それに対して疑問を持つ生徒は一人としていなかったことをここに記しておく。何だ?私がおかしいのか?
「…やはり一人だけ効きが悪いですネ?」
ゲヘナ学園の寮の一室。精密機器で埋め尽くされた部屋の真ん中で、一人の少女がモニターを見つめている。そこに映し出されているのは、銀髪に褐色肌が特徴的な一人の生徒の姿だった。
「…調律し直せば不具合が解消されるかも知れませんガ、そのままにしておきましょウ」
そう呟くと、彼女は部屋の明かりを消す。暗闇の中でぼんやりとしたモニターの光だけが彼女を照らしていた。
「おやすみなさい。イオリ先輩」