それでも俺には未来があった   作:悲劇厨

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2:現状把握と機能理解

 

 

 

 五時を知らせる町のチャイムの音で俺は目が覚めた。

 

 背中に鋭い痛みを全身に鈍い痛みを感じる、無理もない、もう血は流れていないが背中をナイフで切りつけられた上に、あんな勢いで吹き飛ばされたのだ、むしろ何で俺は生きているのだろう。俺は全身に力を入れ重たい身体を無理やり起こす。

 

 ……やはり、これは夢じゃなかった。あの地獄のような光景こそが、現実らしい。

 

 今、俺は何をすべきだ? 傷の治療が、拠点の確保か、食料の調達か、あの武器の正体か、それともこの世界そのものの情報か。

 

 ――まずは現状の把握だ。そう考えてスマホを取り出し、慣れた手つきでSNSで情報を探る。

 

 幸い、まだインターネットは繋がっていた。しかし、やはりというべきか、どのプラットフォームも突然現れた“化け物”の話題で溢れていた。

 

 「これは人類が環境を汚しすぎたことへの天罰だから、黙って受け入れるべきだ」と狂気に染まった者。

 ただただ絶望を綴る者。

 バズを狙って化け物に挑み、配信中に命を落とした者。

 これは某国による陰謀だと陰謀論に染まった者――SNSはまさに魑魅魍魎の巣窟と化していた。

 

 その中で、ひときわ気になる投稿を見つけた。

 

 曰く、「人類はそれぞれ特別な武器を与えられており、念じることで手元に現れる」と。

 さらに、「念じれば空中にメニュー画面が出現し、そこにはステータスやストレージ、モンスター図鑑などの項目が表示される」とも記されていた。

 

 信じがたい話だったが、俺には“実体験”があった。

 ……そうだ。武器を念じたとき、俺の手には確かにショットガンが現れた。あの黒光りした見た目に、冷たい触感、ずしりとくる重みに肩が外れるような反動――身体は今でも覚えている。

 

 もう一度、同じように強く武器を念じる。

 

 すると、記憶通りの外見と重さを持ったショットガンが、何もない空間から忽然と姿を現した。

 

 なら、なぜあの牛頭の化け物に吹き飛ばされた時には出現しなかったのか? ひょっとすると、ダメージを受けると一時的に使用不能になる仕様なのかもしれない。

 ……わからないことはまだ多い。

 

 続けて、「メニュー」と念じてみた。

 

 すると、本当に現れた。

 空中にふわりと浮かぶ、透き通った長方形のパネル。まるでホログラムのように、微かに揺れながら光を放っている。指で触れると、かすかに質感さえ感じた。

 

 俺は試しに〈ステータス〉の項目をタップしてみる。

 画面に表示されたのは、ゲーム好きな俺には馴染み深いステータス画面だった。

 

名前:夢乃 未来

レベル:2

筋力:1

耐久:1

器用:1

素早さ:1

魔力:1

スキル:なし

残りステータスポイント:6

 

 ふっ、こんなものが存在するなんてゲームか現実かわからなくなりそうだな。 

 

 あのゴブリンを倒したおかげだろうか、俺のレベルは2になっていた。

 もしかすると、あの牛頭の化け物の攻撃に耐えられたのも、このステータスが関係しているのかもしれない。

 

 そして、問題はステータスポイントの振り分けだ。どう割り振るのが“正解”なのか?

 ゲームなら「筋力全振り」が俺のテンプレだが、ここは現実だ。生き延びるためには慎重に考えるべきだ。

 

 まず、「素早さ」は外せない。脚が速ければ、逃げやすくなるし、移動効率も良くなる。

 

 次に、「耐久」も必要だ。どれだけ速くても、攻撃を受けることは避けられない。相手によっては一撃で死ぬ可能性だってある。

 

 あとは……「魔力」? ひょっとすると魔法のような概念が存在するかもしれないが、現時点では使い道が見えない。今は保留だ。

 

 「器用」も今のところ活かせそうにない。

 

 「筋力」――これは少し迷ったが、やはり必要だ。ショットガンを撃った時、俺は反動をまったく制御できなかった。

 

 あの時のような状況では、もう少し踏ん張れる力が欲しい。

 

 悩んだ末、俺は“生き延びるとこ”を最優先に据えることにした。今はまだ、逃げるだけで精一杯だ。攻撃より、生存。それが俺の結論だった。

 

素早さ:+3

耐久:+2

筋力:+1

 

 ……これで何か変わったのだろうか?

 座ったままでは、正直実感が湧かないな。

 

 まあ、切り替えて別の項目を確認しよう。次はスキルについてだ。

 

 ふむ、スキルポイントもステータスポイントと同じく6ポイントあるらしい。そして、スキル欄は……どれどれ。ん? どうやらスキルは「汎用スキル」と「武器スキル」に分かれているみたいだ。それぞれでポイントも別々に管理されており、武器スキル用のポイントは1ポイントだけあるらしい。

 

 武器スキルは、いわゆるスキルツリー形式。段階的にスキルが解放されていく仕組みだ。対して汎用スキルのほうは――

 

「うわっ、なんだこれ……」

 

 画面にズラリと並んだスキルのリストは、スクロールしても終わりが見えないほどだった。

 

【汎用スキル一覧】

[自然治癒] [病気耐性] [麻痺耐性] [毒耐性] [睡眠耐性] [状態異常耐性] [火耐性] [水耐性] [風耐性] [土耐性] [闇耐性] [光耐性] [魔法耐性] [殴打耐性] [斬撃耐性] [刺突耐性] [物理耐性] [スタビライズ] [姿勢制御] [鉄の胃袋] [小食] [雑食] [危機感知] [鷹の目] [夜目] [地獄耳] [素材収集] [宝収集] [宝箱探知] [気配遮断] [静穏移動] [影潜り] [魔力制御] [調理技術] [加工技術] [分解] [クイックステップ] [集中] [ノーガード] [筋力強化] [素早さ強化] [耐久強化] [器用強化] [魔力回復] [鑑定] [戦場の心得] …etc.

 

 その数は膨大だった。試しに[自然治癒]に触れるとこんな表示が現れた

 

 “[自然治癒]:自然治癒力を高め、より速い速度で傷が治癒するようになる”

 

 他にも、気配を消すスキルや一時的にステータスを強化するものに、素材の取得料が上がるものや免疫力を高めるもの、戦闘中のメンタル維持に役立つものまで、実に多彩だ。

 

「さて、どれを取るべきか……」

 

 まず、[自然治癒]は今の俺に必須だ。耐久を上げたがまだ全身がズキズキと痛む。どうやらこのスキルの最大レベルは3らしく、ここは贅沢に3ポイント消費して即座にレベル3まで上げることにした。

 

 次に注目したのは[戦場の心得]。このスキルは、戦場において冷静さを保ち、恐怖に飲まれずに行動する力を与えてくれるという。今の俺には、まさに必要なものだ。ひとまず1レベル分取得する。

 

 残るスキルポイントは2。

 

 生き抜くことを優先するなら、[気配遮断]や[危機感知]のような、敵を察知・回避する能力は極めて有用だ。それらは戦闘においても先手を取るために活躍するはず。

 

 だが他にも魅力的なスキルは多い。戦闘を重視するなら[スタビライズ]はショットガンの強烈な反動を抑えるのにぴったりだし、[姿勢制御]もまた、移動や戦闘中にバランスを崩さず動くために有効そうだ。

 

 それに、魔力を消費して短時間ステータスを強化するような「強化系スキル」も後々は必須になるかもしれない。

 

「うう……多い、選択肢が多すぎる……」

 

 悩みに悩んだ末、俺は最終的に[気配遮断]と[危機感知]をそれぞれ1レベルずつ取得することに決めた。これでスキルポイントはすべて使い切った。

 

 次は武器スキルの確認だ。スキルツリーの最初に表示されたのは一つのスキル――[強撃]。

 

 その効果は、「魔力を消費して、通常よりも高威力の射撃を行う」というシンプルなもの。クールタイムは1分。瞬間火力を高めるには十分な性能だ。

 

 魔力――そういえば、さっきは不要だと判断して振らなかった。だがこうしてスキルの多くが魔力を消費する仕様である以上、この世界における魔力の重要性は思っていた以上に高いのかもしれない。

 

 ……まだまだ、知らなければならないことは山ほどある。

 

 次は、固有武器について確認してみるか――。

 

 いくつかの機能を順に確認していくと、徐々に全体像が見えてきた。どうやらこの「固有武器」というものは、全人類が一つずつ所持している特別な武器らしい。意識を向けると手元に現れ、その形状は人によって大きく異なる。

 

 また、固有武器には「攻撃力」と「耐久力」が設定されており、耐久力がゼロになると一定時間(およそ一時間)使用できなくなるらしい。さらに、モンスターから得た素材を経験値に変換して武器のレベルを上げる「通常強化」、そして特定の素材を集めることで新たなスキルを付与する「スキル付与」といった強化システムも備わっているようだ。ちなみにこのスキル付与で得られるスキルには攻撃力の強化や持ち主へのバフ等多彩なスキルがあるみたいだ。

 

 ……え、なんでそんなことまで知ってるのかって? それは、ちゃんと説明機能が用意されていたからさ。何から何まで至れり尽くせりな設計だ。まるでゲームのチュートリアルだな。

 

 そして、現時点での俺の固有武器のステータスは以下の通りだった。

 

名前:なし

攻撃力:15

耐久力:50/50

スキル:[リロード] [強撃]

付与スキル:なし

 

 [リロード]は最初から持っていたスキルで、魔力を消費して弾を補充する機能を持つ。つまり、この武器は実弾ではなく、魔力によって弾を生成しているというわけか。

 

 でも、どの程度の魔力量で何発補充できるのか、そこまではわからない。せめてMP表記くらいしてくれればいいのに……こういう肝心なところで説明不足なんだよな。メニューの説明は丁寧なくせに、ほんと不親切な仕様だ。

 

 それから「名前:なし」とあるのは、どうやら使用者自身が好きなように命名できる仕組みのようだ。今の俺には名前をつけるほどの愛着もないし、妙案も浮かばない。これはもう少し使い込んでからでいいだろう。

 

 次に確認したのは「モンスター図鑑」。これは今まで対峙したモンスターの情報が記録される機能らしい。現在登録されているのは、「ゴブリン」「グール」、そして「ミノタウロス」の3種類。試しにミノタウロスの説明を確認すると。

 

 “ミノタウロス:牛の頭と人間の身体を持つ巨大な魔物。どこでも住み着くことがあり、縄張り意識が非常に強い。怪力を活かした突進と棍棒による一撃は、並の人間では即死も免れない。知性は低いが、単純な罠や誘導にはかかりにくく、感知能力と持久力に優れるため、逃走も容易ではない。”

 

 と遭遇しただけでは、説明文だけが出される。しかし、一度討伐経験のあるゴブリンの説明を確認するとすると。

 

“ゴブリン:人間の子供ほどの小柄な体躯を持つ亜人型モンスター。知能は低いが、集団行動と奇襲を得意とするため、油断は禁物。ちゃんとした武器を扱う個体も存在し、数にものを言わせた襲撃を行う傾向がある。

弱点:火属性・光属性に対する抵抗が低い。頭部や喉元への攻撃が有効。”

 

 と説明文に加え弱点も開示されている。どうやら、何度も討伐を繰り返すと更に詳細な情報が解放されるみたいだ。

 

 さらに「ストレージ」機能も確認してみた。これは入手したアイテムを自動で収納しておけるという夢のようなシステムだ。ただし、収納可能なのは魔力由来の素材や一部アイテムに限られていて、もともと地球に存在していたものは対象外のようだ。

 

 俺のストレージには、ゴブリンの耳と粗末なナイフが入っていた。おそらく、俺が倒したゴブリンからドロップしたアイテムが、自動的に送られたのだろう。いちいち拾う手間が省けるのはありがたい。

 

 とはいえ、ナイフの扱いには少し困った。鞘がないため、抜き身のままでは扱いにくいし、ストレージから取り出すにはメニュー操作が必要だ。緊急時にそんな余裕があるとも思えない。多少リスキーではあるが、抜き身のままポケットに突っ込んでおくことにした。

 

 よし、これでひととおり機能の確認は終わった。体の痛みもだいぶ引いてきたし、そろそろ立ち上がるか――。

 

 俺は地面からすっと立ち上がり、ぐっと体を伸ばす。軽く肩を回し、ストレッチをしながら体の調子を確認した。ステータスが実際の身体能力にどれほど影響しているのか、それを確かめるべく、俺は地面を蹴って軽く走り出す。

 

 ――おお、速い!

 

 ほんの数歩走っただけで、以前の全力疾走をあっさりと超えるスピードが出ているのがわかる。身体が明らかに軽い。筋肉のキレも、バランスの取りやすさも、以前の俺とは段違いだ。

 

「ははっ、すごいな……。まさか俺がこんなに速く走れるなんて!」

 

 と、そのとき――視界の端に動く影を捉えた。

 

 ゴブリンだ。どうやら群れからはぐれたのか、一人で行動しているらしい。ゴブリンは何かに向かい、ナイフを何度も振り下ろしている。遠目からでも、その相手がもう動かない「誰か」だということはわかった。

 

 幸い、こちらにはまだ気づいていないようだ。今なら、先手が取れる――。

 

 問題は、どう対処するか。ここは河川敷。身を隠すような障害物は少ない。あいつが振り返れば、すぐにこちらを見つけてしまう。早めに処理しなければならない。

 

 だが、ショットガンを撃てば銃声が響く。ほかのモンスターを呼び寄せるリスクもある。ならば――相手に気付かれずに近接で仕留めるしかない。

 

 ……本当に、それができるのか? 俺に、直接、この手で命を奪うことが。

 

 けれど、迷っている暇はない。気づかれれば、仲間を呼ばれる可能性だってある。

 

 やるしかないんだ、俺。できる。やれる。今までもそうやって乗り越えてきた。自分を信じろ――いつものように、盲目的に。

 

 俺は深く息を吸い、息を殺して足音を立てずにゴブリンへと近づく。気配を断つように動いていたが、[気配遮断]のスキルが効果を発揮しているのかもしれない。

 

 ……それにしても、妙だな。ここまで冷静に思考できているのは、俺が賢くなったから? それとも、これもステータスの影響なのか? まるで、頭の回転が数倍になったような感覚だ。

 

 数秒の接近の間も、ゴブリンは殺した人間の死体にナイフを突き立て続けていた。よほど楽しいのか、周囲への警戒などまったくしていない。

 

 今しかない。

 

 俺は本来撃つための武器であるショットガンを両手で構え、銃床を高く掲げ――ゴブリンの頭めがけて、全力で振り下ろした。 

 

 ぐちゃっ

 

 銃床が頭蓋を砕き、嫌な手応えが腕を通じて全身に響く。鉄と血の混じった、鉄錆のような匂いが鼻をついた。手のひらには、骨の砕ける鈍い感触と、柔らかい肉が裂ける感覚が残っていた。

 

 ゴブリンは、自分が殺した誰かの上に、ずるりと崩れ落ちた。いまだ少しピクリピクリと動いており、生々しさが現実を強調してくる。

 

 ――これが、生き物を殺すという感触か。

 

 できれば、一生知らずに済ませたかった。でも、もうそんな贅沢は言えない。俺が生き延びるためには、これを受け入れるしかないんだ。

 

「……ごめん。俺がもっと早く来ていれば、君は死なずに済んだかもしれないのに」

 

 名も知らない青少年に対して、詫びながら、俺はそっと手を合わせた。そして、血に濡れたショットガンを引きずるようにして、その場を後にする。

 

 [戦場の心得]の効果なのか、体にこれといった不調は現れない。けれど、それが逆に気持ち悪かった。恐怖も悲しみも怒りも、まるで透明なフィルムの向こう側にあるようだった。心は動揺を感じながらも、体は依然として平常を保っている――それが、怖かった。

 

 やがて、歩き続けていた俺は、元いた橋の下へと戻ってきた。

 

 空はすっかり闇に包まれ、夜の冷たい風が吹き抜けていた。

 

「……少し、目を閉じよう」

 

 ほんの少しだけ眠れば、少しは気分もマシになるかもしれない。

 

 ――お腹、空いたな。

 

 今は我慢だ。明日、置いていった荷物も気がかりだし、ショピングモールで何か食べられるものを探しにいこう。

 

 そう思いながら、俺はゆっくりと目を閉じた。現実よりもやさしい夢の中へ、再び落ちていった。

 

 夢の中では、俺は勉強に苦しみながら、それなりに充実した大学生活を送っていた。何も壊れていない、いつもの日常がそこにあった。

 

 ――でも、もうそれは現実ではない。

 

 




ステータス
名前:夢乃 未来
レベル:2
力:2
耐久:3
器用:1
素早さ:4
魔力:1
スキル:[自然治癒Lv3][戦場の心得Lv1][危機感知Lv1][気配遮断Lv1]
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