桐藤ナギサと御稜ナグサの姉妹ごっこ   作:あばなたらたやた

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同じ話を投稿してましたので、改訂しました


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 百鬼夜行の祭りの喧騒が、夜の空気を揺らす。

 提灯の淡い光が揺れ、屋台の煙と笑い声が絡み合い、御稜ナグサは、その中心に立ちながら、どこか遠い目で群衆を見つめていた。

 

 かつて彼女が身を置いた百花繚乱紛争調停委員会。その不在を嘲笑うかのように、祭りは活気づき、仲間たちは元気に笑い合っていた。

 

「元気にみんな頑張っている」

 

 その事実に、ナグサの口元に薄い笑みが浮かぶ。自嘲か、あるいは安堵か。彼女の存在がなくとも、世界は回る。守るべき誰かがいるから弱いままなのか、それとも、守る者のいない場所でこそ、人は強くなるのか。

 

「百花繚乱紛争調停委員会がいなくても、世の中は回っていく。案外、守ってくれる存在がいないほうが、自立心が育てられて、強くなるのかもしれない」

 

 では、委員会の存在意義とは? ナグサの問いかけは、祭りの喧騒に飲み込まれ、答えのないまま宙を漂う。意義を求めること自体、彼女にはどこか空虚に響く。

 

「ははっ」

 

 短い笑い声が漏れる。自由だ。あまりにも自由で、笑うしかない。

 

「はは。焼き鳥食べよう。お祭りを部外者として楽しませてもらおう。平和な世界で、平和なお祭りで」

 

 祭りの熱に身を任せ、ナグサは叫ぶ。

 

「楽しい」

 

  その声は、まるで己の内なる虚無を塗り潰すかのように響く。予測不能な人生、計画も意義も束縛も、すべてを笑い飛ばしてしまえばいい。

 

「全く、人生何が起きるか分からない」

 

 だが、その笑顔の裏で、何かがひび割れる。

 

 「【ウソ】」

 

 一瞬、ナグサの瞳に影が差す。祭りの喧騒の中で、彼女の声は小さく、途切れる。

 

「今何か、頭の中に」

 

 言葉は夜に溶け、誰も拾うことはない。ナグサは再び笑みを浮かべ、焼き鳥の屋台へ足を向ける。だが、その背中には、名もなき重さがまとわりついているようだった。

 

 祭りの喧騒の中、焼き鳥の脂が鉄板で弾ける音が響く。御稜ナグサは串を手に、気ままに肉をかじりながら、百鬼夜行の熱気を眺めていた。自由だ。あまりにも自由で、彼女の胸には虚無と笑いが同居している。そんな時、背後から鋭い声が飛び込んできた。

 

「ナグサ先輩!」

 

ナグサは串を咥えたまま、ゆるりと振り返る。

 

「ユカリ? どうしたの?」

 

 勘解由小路ユカリ。後輩だ。いつも目を輝かせ、ナグサたちを尊敬のまなざしで見つめてくる。絡んでくるその熱意は、うざったくもあり、どこか憎めない。ナグサはそんなユカリを、半ば冷めた目で、半ば愛おしげに見つめた。

 

「どうしたの? ではないのですの! 解散令を出したのはどういうおつもりですの?」

 

 ユカリの声は、祭りの喧騒を切り裂くほど鋭い。ナグサは眉を上げ、焼き鳥を一口かじる。

 

「え、何それ知らない。こわいね」

「百花繚乱の解散令ですの! どうして?」

 

 その言葉に、ナグサの瞳が一瞬だけ曇る。だが、すぐにいつもの仏頂面に戻る。

 

「キキョウあたりかな。百花繚乱ガタガタになっちゃったから、仕方ない」

「そんな……ナグサ先輩にとって、百花繚乱はその程度のものでしたの?」

「アヤメいないなら意味ないよ。みんなことは好きだったけどね。潮時かもされない」

 

 その言葉は、どこか投げやりで、どこか本心を隠しているようだった。ユカリの瞳に、失望と怒りが混じる。彼女は一歩踏み出し、声を張り上げた。

 

「では、ナグサ先輩。継承戦をしてほしいですの」

 

 ナグサの動きが止まる。彼女はユカリをじっと見つめ、口元に薄い笑みを浮かべる。

 

「委員長の座が欲しいわけだね。いいね。そういうの。でも、私に勝てるのかな? 無理だと思うんだ。だからやめた方が良い」

「それでも……! 戦わないで納得するより、戦って納得したいですの!」

 

 ユカリの熱い言葉に、ナグサの目が一瞬だけ鋭く光る。彼女は焼き鳥の串を脇に置き、ゆっくりと立ち上がった。

 

「じゃあ、継承戦する前のテストをしよう」

「テスト、ですの?」

「ユカリが気絶する前に、私からこの百蓮を奪うこと」

 

 ナグサは百蓮――委員長の座の証である銃――を取り出し、ユカリの前に掲げる。その仕草は、挑戦的でありながら、どこかユカリを試すような冷ややかさを含んでいた。

 

「いいね? 今から攻撃するよ」

「ばっちこい、ですの!」

 

 祭りの喧騒が一瞬遠のき、二人の間に張り詰めた空気が流れる。ナグサの笑みは、自由と虚無の狭間で揺れ、ユカリの決意は、まるでその虚無を打ち砕くかのように燃え上がっていた。

 

 祭りの喧騒が一瞬だけ遠のき、ナグサとユカリの間に鋭い緊張が走る。提灯の光が揺れる中、ナグサの手にした百蓮が鈍く輝く。彼女の瞳には、挑戦を愉しむような光と、どこか底知れぬ冷たさが宿っていた。

 

「戦闘開始」

 

 ナグサの声が響いた瞬間、彼女の姿が揺らめく。まるで祭りの熱気そのものに溶け込むかのように、彼女の動きは迅く、予測不能だ。ユカリは気合いを込め、百蓮を奪うべく一歩踏み出す。だが、その刹那、ナグサの身体はすでにユカリの死角へと滑り込んでいた。

 

「速っ……!」

 

 ユカリが振り向くより早く、ナグサの掌が彼女の肩を軽く叩く。攻撃というより、まるで遊びの一撃。だが、その軽やかな動きの裏には、圧倒的な実力の差が潜んでいる。ユカリが反撃の拳を繰り出そうと身構えた瞬間、ナグサはすでに数歩後ろに下がり、焼き鳥の串を咥えて笑っている。

 

「ほら、ユカリ。気絶する前に百蓮、取ってみて」

 

 その声は軽快だが、どこか挑戦的で、ユカリの闘志を煽る。ユカリは歯を食いしばり、全力でナグサに飛びかかる。彼女の動きは鋭く、百花繚乱の後輩としての意地が込められていた。だが、ナグサはまるで風のようにその攻撃をかわし、ユカリの拳が空を切るたび、彼女の笑い声が祭りの喧騒に混じる。

 

「いいね。でも、ユカリ。気合いだけじゃ届かないよ」

 

 ナグサの言葉に、ユカリの瞳が燃える。彼女は再び突進し、百蓮を狙って手を伸ばす。だが、ナグサの手首が一瞬翻り、ユカリの腕を軽く払う。

 

 ナグサの手首が一瞬翻り、ユカリの腕を軽く絡め取る。次の瞬間、彼女の身体はまるで祭りの灯籠の影のように滑らかに動き、ユカリの攻撃を無効化した。

 

 ユカリの拳は空を切り、彼女の息は荒くなるが、ナグサは涼しい顔で焼き鳥の串を咥え、薄く笑う。百蓮――委員長の座の証である銃――はナグサの腰に静かに輝き、まるで彼女の圧倒的な存在感を象徴しているかのようだ。

 

 ユカリは再び飛びかかる。彼女の動きは鋭く、百花繚乱の後輩としての誇りが込められている。だが、ナグサの反応はあまりにも速い。ユカリの手が百蓮に触れる前に、ナグサは一歩後ろに滑るように退き、彼女の攻撃をまるで子供の遊びのようにかわす。

 

 祭りの喧騒の中、ナグサの動きは流れるような舞踏のようで、ユカリの努力を嘲笑うかのごとく軽やかだ。

 

「ユカリ。気絶する前に百蓮、取ってみて」

 

 ナグサの声は軽快だが、その底には挑戦的な冷たさが潜む。ユカリの瞳に燃える炎は揺らがない。彼女は歯を食いしばり、全力で突進する。だが、ナグサは風のように動く。

 ユカリの拳が空を切るたび、ナグサの笑い声が祭りの喧騒に溶け込む。彼女の動きには無駄がなく、まるで戦いそのものを楽しんでいるかのようだ。百蓮を手に持つ彼女の姿は、自由と力の化身そのものだ。

 

 ユカリが息を切らし、額に汗を浮かべながら一歩後退する。彼女の瞳には、悔しさと尊敬が混じる。ナグサの強さは、ユカリが想像していた以上に圧倒的だった。まるで、ナグサという存在そのものが、百花繚乱の歴史と重圧を体現しているかのようだ。

 

「流石、ナグサ先輩ですの」

 

 ユカリの声は、敗北を認めつつも、どこか清々しい響きを帯びている。彼女は肩で息をしながら、ナグサを見つめると、その視線には、憧れと、諦めきれぬ闘志が宿っていた。

 ナグサは百蓮を軽く掲げ、口元に微細な笑みを浮かべる。

 

「まぁ、こんなものかな。ユカリ、悪くなかったよ。でも、百蓮はまだ私のものだ」

 

 彼女は焼き鳥の串を手に、再び祭りの喧騒へと目を向ける。ユカリの熱い視線を感じながら、ナグサの胸には自由と虚無が交錯する。彼女の強さは、ただの技術ではない。それは、すべてを笑い飛ばし、束縛を拒む生き方そのものだった。

 

 だが、ユカリの言葉が、ナグサの心の奥に小さな波紋を残す。継承戦はまだ終わっていない。祭りの夜は、これからも続くのだから。

 

 彼女はユカリをその場に残し、祭りの雑踏へと足を向ける。自由だ。百花繚乱も、委員会も、すべてを置き去りにして、ナグサはただ祭りの熱気を味わう部外者として歩き出す。提灯の光が揺れる中、彼女の心には虚無と解放感が交錯していた。

 だが、その道すがら、静かな声がナグサを呼び止める。

 

「ナグサ……先輩」

 

 振り返ると、そこにはキキョウが立っていた。彼女の瞳には、複雑な感情が揺れている。ナグサは軽く手を上げ、いつもの調子で笑う。

 

「久しぶりだね。元気にしてた?」

 

キキョウの視線が鋭くなる。

 

「随分と元気そうね。百花繚乱を捨てた裏切り者の癖に」

「ごめんね」

「謝るくらいだったら、出ていかないでよ」

 

 キキョウの声には、怒りと寂しさが滲む。ナグサは目を伏せ、静かに繰り返す。

 

「……ごめん」

「はぁ、まぁいいや。お団子でも食べていく? お茶も出すよ」

「食べる」

 

 二人は百花繚乱の事務室へと向かう。祭りの喧騒から離れた静かな部屋で、窓の外には提灯の光が遠く揺れていた。ナグサとキキョウは、緑茶を啜りながら、かつての仲間たちが築いた時間の残響を眺める。

 

「キキョウは何かやりたいことを見つけられた?」

 

 ナグサの問いに、キキョウは湯呑みを手に小さく首を振る。

 

「まだ何も。百花繚乱は解散令を出したものの、閉じるまでには時間かかるし」

「そっか。整理する時間は必要だもんね」

「治安の悪化もないから、まぁ、百花繚乱は必要ないのかもね」

「あ、やっぱり思った? 凹むよね、必要無い存在だって示されるの」

 

 キキョウの声が低くなる。

 

「何のための時間だったんだろ」

「みんなと楽しく過ごせる時間だったよ。変わらないものはないし」

 

 キキョウの瞳に、過去への未練がちらつく。

 

「本当に過去なのね」

「過去だよ」

 

 ナグサの言葉は、まるで祭りの灯籠が消えるように静かだった。二人の間に沈黙が流れ、緑茶の湯気がゆらりと立ち上る。百花繚乱は過去となり、ナグサの自由は未来へと続く。だが、その自由の裏には、捨て去ったものへの、かすかな疼きが残っていた。

 

【ウソ】

 

 ずきん、と頭に痛みが走る。

 

「また頭痛……」

 

 

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